三番瀬埋め立てにかかわる

 江戸川左岸流域下水道計画に対する疑問と提案

千葉県自然保護連合事務局



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 千葉県は、今年2月、自然保護団体のたびかさなる意見や計画策定懇談会で出された疑問などを無視したまま、三番瀬埋め立て計画案を県環境会議に報告しました。
 また、私たち千葉県自然保護連合や千葉の干潟を守る会などは、昨年、2回にわたり、県が三番瀬を埋め立てて終末処理場を建設しようとしている江戸川左岸流域下水道計画について再検討するよう求めましたが、この要望も受け入れられていません。
 しかし、三番瀬埋め立てによる下水処理場建設は、単に必要性に疑問があるだけでなく、つくってはいけない施設です。
 そこで、あらためて、この流域下水道計画にかんする問題点を提示し、私たちの提案を紹介します。


● 疑 問 点


1.事業費はどれくらいに? 完成時期はいつになる?

 江戸川左岸流域下水道計画はすでに約2200億円余が投入されている。もし、三番瀬を埋め立てて第一終末処理場を建設するなど、このまま計画を進めた場合、総事業費はどれくらいに膨れあがるのか。また、実際の完成時期はどれくらいになるのか。



《コメント》
 江戸川左岸流域下水道計画は、1999年4月1日時点で、計画目標年度は2010年度(平成22年度)、処理面積は2万1036ヘクタール、処理人口は175万6000人、総事業費は2960億円となっています。これに対して、進捗状況は、処理面積が6648ヘクタール(進捗率31.6%)、処理人口が70万1200人、事業費は2222億円(同75.1%)です。目標年度まであと10年しかないのに、処理面積の進捗率はいまだに3割でしかありません。しかし、事業費は7割を超えています。
 その後、計画の見直しが進められ、見直し計画案では、計画人口が175万6000人から143万人へ、1人1日最大処理水量が720リットルから480リットルへ、それぞれ下方修正されました。
 ところで、計画では、2010年度に事業完了となっていますが、それは絶対に無理で、このままいけばあと50年以上はかかる、というのが大方の見方です。事業費についてみても、全体計画の総事業費は2960億円となっていますが、実際には5000億円以上になる。そして、もし三番瀬の埋め立て予定地に処理場をつくれば、金が余計にかかって、総事業費はさらに膨らむといわれています。





2.埋め立て地での処理場建設を急ぐ必要はない

 現在、第二終末処理場が稼働し、増設工事中である。この処理場の能力と実際の流入水量を考慮すれば、あと20年以上は第二終末処理場で十分に対応できると聞く。
 また、工事がはじまっている連絡幹線を利用して江戸川左岸の水を印旛沼流域下水道に送って処理する、そして、既設の処理場(市川市の菅野処理場、松戸の金ヶ作・新松戸両処理場)を存続させる、さらに、区域人口の伸びが頭打ちになっていることや、1人当たりの使用水量の実績が340〜390リットルであることなどどを考慮すれば、三番瀬埋め立て予定地での第一終末処理場建設を急ぐ必要はまったくなく、下水道計画を根本的に見直すべきである。



《コメント》
 江戸川第二終末処理場は現在、増設工事中で、2002年度には二次処理で日最大46万4000トン(日平均36万9000トン)の処理が可能になり、また2010年頃には高度処理で同等の処理(二次処理では日最大57万トン)が可能になると聞いています。これに対して、江戸川左岸流域下水道の現在の処理水量は日平均23万7020トンでしかありません。
 今後の汚水流入量の見込みをみても、例えば、幹線管渠のうち松戸幹線と市川幹線は、あわせて約20万トンの下水処理が見込まれていますが、その全線完成はかなり先になり、少なくとも10年以上はかかるといわれています。
 こうしたことを考えると、江戸川左岸流域下水道の下水処理は、現在の第二終末処理場だけでも20年以上は十分に処理が可能と言われています。
 このように期間に余裕があるので、三番瀬埋め立てによる処理場建設は見送り、下水道計画の根本的な見直しを進めるべきと考えます。





3.軟弱地盤での建設は防災上からも問題

 三番瀬付近の地盤が軟弱なことはよく知られていて、そこに施設を建設するのは“豆腐の上にモノを乗せるようなもの”と言われている。こうした軟弱地盤の埋め立て地に、重要なライフラインである下水処理場を造るのは防災上からも問題がある。



《コメント》
 阪神・淡路大震災はさまざまな教訓をもたらしました。その一つは、埋め立て地が液状化の危険にさらされやすいことです。現に、埋め立て地に建設された神戸市の下水処理場は甚大な被害を受けました。この点について、楡井久・茨城大学教授(元千葉県職員)はこう述べている。
 「下水道では、管渠(下水管)と処理場において大きな被害がありました。(中略)下水道システムの基幹施設である終末処理場は下流端に位置するので埋立地など軟弱な地盤に建設されることが多く、それだけ被害を受けやすくなっています。兵庫県南部地震では、管渠のほかに、神戸市最大の処理場である東灘処理場(処理能力22万5000トン/日)が埋立地盤の液状化による側方流動の影響を受け、沈殿池の目地の開口、流入幹線管渠の移動など多くの被害をこうむりました」(『検証・房総の地震』千葉日報社)
 こうした教訓からみても、水道、電気、ガスなどと並び重要なライフラインである下水道の処理場を軟弱地盤の埋め立て地に建設するのは、再検討すべきです。
 なお、『決定版東京ディズニーランド裏技BOOK PART2』(双葉社)によれば、浦安市の埋め立て地につくられたディズニーランドでは、地盤が「予想よりも大幅に沈み込み、あちこちで土地の不整地化がおこっている」とのことです。





4.処理水排出で三番瀬と東京湾に大きな影響

 三番瀬の埋め立て地に大規模な下水処理場をつくれば、窒素とリンの豊富な淡水が三番瀬に大量に流れ込むことになり、三番瀬や東京湾の水質や生態系に甚大な影響を与えることが懸念されている。また、最近、下水処理水の放流はノリのバリカン病を引き起こすことが問題になっている。



《コメント》
 かつて、第二終末処理場の処理水は、猫実川を通じて三番瀬に放流されていました。この放流によって猫実川河口域の水質が悪化し、また、バリカン病が発生したために、ノリ漁は大きな被害を受けました。漁協から強い苦情や改善要請があったため、その後、県は第二処理場の放流先を旧江戸川へ変更しました。この点について、ルポライターの永尾俊彦氏は、『週刊金曜日』の今年3月10日号でこう書いています。
 「赤腐れ以上に海苔漁師たちが恐れているのが、『バリカン病』だ。まるでバリカンで丸坊主にしたかのように、海苔が芽だけを残してそっくり網から脱落してしまう奇病だ。この原因だと漁師たちが思っているのが、市川市福栄にある千葉県の下水道第二終末処理場から猫実川を通って三番瀬に排水される処理水だ。81年に処理場が稼働し始めたが、それからバリカン病が出始めた。たまりかねた漁師たちは県にかけあって91年からは旧江戸川に処理水を流すようにしてもらった。するとバリカン病発生の回数が目に見えて減ったという。しかし、それでも大雨などで旧江戸川に排水できなくなると、年に数回、今も猫実川に排水している。それで千葉県は行徳、南行徳の両漁協と緊急時の排水を許可してもらう協定を結び、91年から5年ごとに約1億円の『協力金』をそれぞれの漁協に支払っている。」
 このようなバリカン病は仙台や明石など各地で発生していますが、「発生場所は、ほとんどが下水処理場に隣接し、これが稼働し始めてから被害が発生するという共通点」があると指摘されています(鷲尾圭司「下水処理場と海苔養殖漁場の共存への歩み」、『水情報』1999年9月号所収)。
 また、下水処理水を三番瀬に放流すれば、窒素とリンの豊富な淡水が大量に流れ込むことになり、三番瀬や東京湾の水質に甚大な影響を与えることが危惧されます。この点について、たとえば、中国新聞社のホームページ(「下水道神話−海の富栄養化招く」)は、広島、山口両県と広島市がつくった「広島湾高度処理基本計画検討委員会」のシュミレーション結果を紹介し、次のように述べています。
 「下水道ができると海はきれいになる。そんな『常識』を覆すようなシミュレーション結果が広島湾をモデルに導き出された。想定年次は2015(平成27)年度。陸から流入する窒素の総量は、今のペースで下水道整備を進める方が何もしないよりも増えるというのである。」
 「一方、富栄養化がさらに進んでいる大阪湾では、下水処理水が最大の汚染源になっている。」
 以上のような実態をみれば、三番瀬に下水処理場をつくって処理水を放流すれば、三番瀬や東京湾の水質に甚大な影響を与えることは必至だと思われます。
 つまり、三番瀬における下水処理場建設は、13万人分の生活排水浄化力に相当するほどの“天然の下水処理場”をつぶすと同時に、二重の環境破壊を起こすことになるのです。





5.「新しい下水道のあり方」に逆行

 建設省は現在、「下水道政策研究委員会」を設置し、下水道の新しいあり方を検討中である。そこでは、「流域全体を捉えた水管理」や「健全な水循環・良好な水環境」「環境への負荷抑制」などが検討されている。また、千葉県都市部も昨年3月、「ちば水環境下水道」という名の新しい下水道長期ビジョンを発表し、基本方針として、下水処理水の河川還元など「新たな水環境の創造」や、「災害時に被害を最小限に抑える都市構造・システムを有する安全なまちづくり」に貢献する下水道をめざす、としている。
  こうした「新しい下水道のあり方」に照らし合わせれば、広大な区域の下水を軟弱地盤の埋め立て地に建設する終末処理場に集めて処理し、東京湾に捨てるという方式は、見直すべきである。



《コメント》
建設省のインターネットホームページには、都市計画中央審議会基本政策部会の「水・緑・環境小委員会議事概要」が掲載されています。
 そこでは、下水処理のあり方として次の5点が掲げられています。

  1. 水がきれいであればという前提で、積極的に「漏らす=地中へ還元(以下「地中還元」)する」下水道も考えられるのでは。
  2. 水処理システムのランニングコストを低く抑えるため、発生源対策を規制部局がしっ かりとやるようにすべきである。
  3. 流域下水道方式は下流部で一括して処理・放流を行うが、これからはローカルに、あるいはリージョナルな単位で小規模化して処理をすべきでないか。
  4. 下水処理をローカルにするべき(簡易浄化)。下流で処理し上流へポンプアップするのは無駄である。
  5. 分流式下水道の雨水管渠は地中還元することを原則とすべき。
  6. わが国の下水道整備の中で環境への目配りがまだ十分でない点がある。

 こうした提言を受けて、建設省は現在、新しい下水道のあり方を検討中です。例えば、建設省下水道部下水道企画課が同省広報誌『建設月報』1999年12月号に掲載した「新しい視点からの下水道〜下水道研究委員会からの審議から〜」では、「近年、水循環・水環境への貢献、資源・施設の有効利用、地球温暖化・環境ホルモン等の新たな環境問題への対応等、これまで想定していなかった多様かつ複雑な役割が下水道に求められるようになっている」とし、「安全でおいしい水の確保や渇水対策、あるいは多様な生態系の保全や身近な水辺の創出など、水をめぐる様々な課題にも総合的に取り組んでいく必要がある」「下水処理水の上流還元など積極的な対応が必要である」などと述べています。
 私たちは昨年、江戸川左岸流域下水道計画について、「たとえば計画を3分割し、上流、中流、下流域にコンパクトな終末処理場を建設するなど、水循環再生の考え方で見直しを」などと要望しました。こうした要望内容は、まさに、建設省などが検討している「新しい下水道のあり方」に沿うものです。
 したがって、千葉県も、水循環など新しい視点から下水道計画を根本的に見直し、埋め立て地に処理場を造るという旧態依然とした方式はやめるべきと考えます。





● 私たちの提案



  1. 第二終末処理場の能力や実際の流入水量、区域人口の伸びの鈍化、1人当たりの使用水量の実績などを考慮すれば、急いで第一終末処理場を建設する必要はまったくない。
     したがって、三番瀬埋め立て地への第一終末処理場建設は見送り、今後、精度の高い人口予測などを行い、適正な下水道計画の策定と適正規模の処理場の計画を立てるべきである。

  2. 第一処理場用地として都市計画決定されている地区は、地権者や住民の反対で用地取得が困難になったと聞いている。しかし現在は、その場所に現在「行徳富士」と呼ばれる残土の山ができてしまい、近隣住民も困っているとのことである。したがって、住民や地権者の考え方も大きく変化している可能性があるので、用地の取得についてもう一度、努力すべきである。
     なお、終末処理場の規模を小さくすれば、この地区での用地の取得も十分可能と思われる。とくに同地区の北側半分は約20ヘクタールもの土地が更地同様になっているが、これは三番瀬につくろうとしているのと同面積である。

  3. 建設省が「新しい下水道のあり方」の検討を進めているように、いま、下水道計画は根本的見直しがさけばれている。つまり、水循環の再生が今後の下水道計画には欠かせないコンセプトになろうとしているのである。千葉県都市部が「ちば水環境下水道」という名で発表した新しい下水道長期ビジョンも、こうした視点にもとづくものだと思われる。
     こうした視点から、江戸川左岸流域下水道計画は根本的に見直すことが必要である。
     なお、見直しにあたっては、次のような方策も考慮することを提案する。

    • すでに埋設した下水道管は生かしつつ、たとえば計画を3分割し、上流、中流、下流域にコンパクトな終末処理場を建設するなど、できる限り地域に水を戻して河川水の減少を防ぎ、三番瀬に負担をかけないような計画に変更する。

    • 既設の処理場(市川市の菅野処理場、松戸の金ヶ作・新松戸両処理場)を存続させる。

    • 江戸川左岸流域下水道と印旛沼流域下水道の連絡幹線を利用して、江戸川左岸の下水の一部を印旛沼流域下水道の花見川終末下水処理場で処理する。また、江戸川左岸と手賀沼流域下水道の連絡幹線を整備し、関宿町や野田市で収集した下水を手賀沼流域下水道の終末処理場で処理するなど、合理的な方策を講じる。


  4. 以上は現在の流域下水道方式を前提にしての提案だが、流域下水道計画そのものを抜本的に見直すことが必要となっており、次のような事項も検討すべきと考える。

    @小地域でリサイクルすること
     流域下水道方式の今後の推進は根本的に見直し、人口密度の高い都市部では小規模の公共下水道あるいは簡易下水道、コミュニティプラント(集合住宅の汚水処理施設)で、逆に人口密度の低いところでは各戸に合併浄化槽をつけるというように、地域の条件に応じたさまざま方式を採用する。これは、前述の建設省の「水・緑・環境小委員会」の検討内容と合致するものである。

    A自然が持つ浄化力を最大限に利用すること
     自然がもつ浄化力を最大限に利用する。例えば、里山や森、水田(特に休耕田)、小川、池、干潟などが持っている浄化力を活かし、これらと組み合わせた下水道づくりを進める。

    B三番瀬の強大な浄化能力を活用すること
     三番瀬は、下水処理場に換算すると、13万人分の生活排水浄化力に相当するほどの、“天然の下水処理場”となっている。このように強大な浄化能力を持つ三番瀬を全面的に残してしっかり管理し、三番瀬の浄化機能と遊水池などを利用した浄化を組み合わせれば、費用も安くなり、水質もより浄化される。また水循環という点からも理にかなっている。

  5. 最後に、市民、研究者、行政などがいっしょになって新しい下水処理のあり方を検討する場を設置するよう強く求める。

(2000年3月)










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