自然再生型公共事業と三番瀬

千葉県自然保護連合事務局



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◆明石市の陥没事故は人工砂浜で起きた
  〜人工海浜は維持管理が困難〜

 (2001年)12月30日、兵庫県明石市の大蔵海岸で父親と散歩していた美帆ちゃん(4歳)が生き埋めになり重体となりました。美帆ちゃんの足元の砂浜が突然陥没したため砂に埋まったものです。
 この事故で注目してほしいのは、ここが人工海浜(砂浜)であるということです。砂浜の陥没は、海水の浸食で地下に空洞ができたためとみられています。
 実は、ここの海岸では陥没のおそれが以前から指摘されていました。それで市が昨年6月、防波堤の所有者の国土交通省に早急に抜本的改修をするよう申し入れていました。しかし同省の姫路工事事務所は補修工事をしませんでした。その後、同事務所と明石市が砂浜を改めて点検した結果、陥没危険箇所が新たに10カ所見つかったため、砂浜全域を立ち入り禁止にしました。
 このように、人工海浜は維持管理が非常にむずかしいのです。また、事故の危険性も高いのです。つまり、自然は人間の思いどおりにはならないということです。
 それなのに国土交通省などは、「自然再生型公共事業」の目玉の一つとして、三番瀬での人工干潟(海浜)造成に乗り出そうとしています。


◆「“自然再生”の実態はブラックユーモア」
  〜自然再生事業は新たな造園業〜

 「公共事業を取り巻く情勢は八方ふさがりで、本格的な『冬の時代』を迎えた観がある」(読売、12月26日)といわれています。こうしたなかで国土交通省などは、なんとか公共土木事業費を従来どおり確保していくために、「自然再生型公共事業」に活路をみいだそうとしています。新聞も、「『自然再生』を旗印にして予算が削られるのを抑えたいというのが本音」と関係省庁の担当者が漏らしていることを紹介しています(朝日、10月8日)。また、「自然修復型の公共事業は、地方自治体レベルでは一部で始まっているが、国の段階では本格的に取り組んでこなかった」「三番瀬などで、(国土交通省などは)こうした新しい取り組みを始めたい考え」「これで規模の大きな公共工事にも広がる可能性が出た」(日経、12月15日)などと報じています。
 この点は、「公共事業チェック議員の会」会長の中村敦夫参院議員が次のように批判しています。
 「(自然再生の)スローガンはいいが、実態はブラックユーモアに近い。本当に自然を再生するなら、まずダムを壊すなどこれ以上の環境破壊を止めることから手をつけるべきだ」(朝日、10月8日)
 また、田中康夫・長野県知事も、田原総一朗氏との共著『脱「ダメ日本』宣言」(アスキー)のなかで、次のように注意をうながしています。
 「いま、国土交通省がやろうとしている近自然工法、これは気をつけないと。河川局のなかの守旧派のいいように使われちゃうおそれがあるわけですよ。つまり新たな造園業なんですよ。へたをすると、金額が記されていない請求書を押しつけられかねない。環境学者に保全学者と造園学者の2パターンがあるように」
 海での「自然再生公共事業」を担当するのは同省の港湾局ですが、この点は河川局とまったく同じようです。


◆円卓会議の委員に人工干潟造成派が多数

 こうした国土交通省と、三番瀬での「里海再生」にこだわる堂本知事の思惑は完全に一致しているといわれています。
 堂本知事は、1月28日にスタートする三番瀬円卓会議「三番瀬再生計画検討会議(仮称)」を、三番瀬で「自然再生」という名の公共土木事業を進めるための円卓会議として位置づけているようです。
 それは、次の点に示されています。
  1. 名称を「保全」ではなく「再生」としている。
  2. 「東京湾にわずかに残された干潟や浅瀬はこれ以上つぶすべきでない」と強く主張している県内環境保護団体のメンバーは、委員24人中わずか1人しか選ばない意向である。反対に、101ヘクタールの埋め立て計画に賛成しつづけ、今も人工干潟の造成を強く主張している団体からは数多く委員に選ぶ。
  3. 堂本知事は、「里海の再生」を実現するために、「自然再生型公共事業」の推進を国土交通省に働きかけ続けてきた。その結果、国の来年度予算案に同公共事業の調査費が計上された。三番瀬は、箇所づけ(実施場所の決定)はされていないが、その有力候補にあげられている。同省は、三番瀬円卓会議で「自然再生型公共事業」に沿った計画(人工干潟造成計画)が策定されれば、ただちに事業にのりだすとしている。じっさいに、同省の関係者はこのことを明言している。

◇                 ◇

 とにかく今年も、三番瀬の保全をめぐってはげしい攻防が避けられないと思います。
 ルポライターの永尾俊彦さんは、月刊環境情報誌『グローバルネット』12月号への寄稿文「三番瀬の埋め立て計画白紙撤回、その先は」で、次のように書いています。
「千葉県は12月現在、三番瀬の再生計画策定のための検討組織のあり方を公開の場で議論している。この点の民主性は先進的だ。ただ、その先進的な検討組織で『先進的』埋め立てが結論されないよう願っている」
 これは的確な指摘だと思っています。

(2002年1月)



 


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