「三番瀬は自然のまま残してほしい」
〜計画案の慎重検討の必要性を示す〜
デルマー・ブラスコ事務局長
(2001年)9月2日、ラムサール条約のデルマー・ブラスコ事務局長が三番瀬と行徳野鳥保護区、谷津干潟を視察しました。
ブラスコ氏の視察は、湿地保護運動をつづけている「日本湿地ネットワーク」(JAWAN)が橋渡し役になって実現したもので、「千葉の干潟を守る会」などのメンバーが案内しました。
ブラスコ氏はまず、三番瀬の市川側(猫実川河口域)を視察。この区域を埋め立てる計画があることや、地元の市川市や漁協などが人工干潟の造成などを主張していること、しかし底生生物や魚などがたくさん生息しており、生物多様性に富んだ海域であることなどの説明に熱心に耳を傾けました。説明を聞いたり、双眼鏡で野鳥などをチェックしたブラスコ氏は、「ここを埋め立てて人工干潟や公園などをつくろうというのなら、それが多くの市民の要求にもとづいたものであるのかどうか。また、その必要性が本当にあるのかどうかなどを十分に検討すべきだ」と述べました。
つぎは、行徳野鳥観察舎へ移動。観察舎では、三番瀬の保全運動をつづけている市民団体が、東京湾の埋め立ての歴史や、三番瀬の海岸線の変遷、埋め立て計画をめぐる経過と内容などについて説明。NPO法人「行徳野鳥観察舎友の会」が、市川臨海部の埋め立て地をかつての原風景(湿地)にもどす「市川の海と海辺のまちづくり」の提案を説明すると、ブラスコ氏はこの提案に大きな関心を示し、次のような点をアドバイスしました。
- 日本政府は、経済活性化を目的として公共事業に膨大な投資をつづけているが、そのあり方が大きな問題になっていると聞いている。たとえば、高速道路などの建設は、必要性をあまり考慮せずに進められているようだ。こうしたなか、みなさんの湿地復元提案は、自然回復の視点だけでなく、新しい公共事業のあり方としても提起した方がよいのではないか。
- この点では、ヨーロッパなどで盛んに進められている環境復元事業の情報をたくさん集めることも必要だ。埋め立て地をかつての湿地にもどすというみなさんの提案について行政(市川市など)が理解を示さないということだが、ヨーロッパ各国では、環境復元の事業に多額の金が投資されている。みなさんが提案していることは、地球上のあちこちですでにおこなわれていることでもある。それをもっと強調する必要がある。
- 経済学者などの意見を聞きながら、この提案の経済的効果を検討し、提示していくことが必要だ。
同公園前では、三番瀬の自然観察会が開かれており、約70人の熱烈な歓迎を受けました。船橋漁協の漁民らと懇談したあと、潮が引いた干潟を見学、アサリやヤドカリを捕まえている親子に気軽に話しかけたりしました。
このあとは、1993年にラムサール条約の登録湿地となった谷津干潟(習志野市)を視察。長谷川昭仁・谷津干潟自然観察センター所長や荒木勇・習志野市長、大浜清・千葉の干潟を守る会代表などの案内で、同干潟の歴史や現状などを熱心に勉強しました。また、谷津干潟が一望できる同センターの観察コーナーで、双眼鏡で水鳥をのぞいたり、案内者に質問するなどし、“都会のオアシス”となっている姿に感動していました。
同干潟について感想を求められたブラスコ氏は、次のように述べました。
「都市化や開発が進んだ場所の真ん中にあるにもかかわらず、自然の大事な部分がきちんと維持されていることにたいへん感激した。これはけっしてお世辞ではない。ラムサール条約の基本理念に沿い、環境教育にたいへん力を入れておられる。また、市民にも積極的に活用されている。これまでいろいろなビジターセンターをみてきたが、このようにきめこまかな運営がされているところははじめてみた。職員のほかに100人以上のボランティアが運営に参加し、観察指導案内などをおこなっているとのことだが、これらの方々に感謝したい。本当にすばらし仕事だ」この感想をうけて、荒木勇習志野市長は、「習志野市は“都市と自然の共生”をテーマにかかげて谷津干潟の保全や活用に力を入れている。この干潟は市民にとっても大切な宝となっており、ラムサール条約に登録されたことを非常によろこんでいる」と述べました。
谷津干潟の視察を終えたあと、同センターで記者会見がおこなわれました。ブラスコ氏は、三番瀬についてつぎのような見解を述べました。
- 三番瀬は現状のままでも登録の条件を十分そなえている。改修して自然環境がさらによくなるなら好ましいが、改修計画などは十分に検討することが必要だ。
- 私見では、三番瀬はできるだけ自然のままの今の状態で残すべきだと思う。
- 三番瀬の保全や開発を計画するにあたっては、行政や専門家、市民などの多くの関係者の参加を得て十分に慎重に検討してほしい。
- 9月3日(翌日)、国連大学で堂本千葉県知事と会見する。その際、ラムサールの基本理念に沿って三番瀬を自然のまま残すことを示唆するとともに、計画の作成にあたっては関係者の意見を聞き慎重に検討してほしいということを申し上げたい。
- 三番瀬は、東京湾の奥部に残された最後の自然というふうにとらえている。これがなくなってしまえば、まわりに住んでいる人たちにとって非常に残念なことだ。
- 三番瀬は自然豊かな今の形で残すべきだと思う。貴重な自然にはなるべく手を加えないでほしい。湿地復元の努力はすでに埋め立てられたところですべきと思う。
- 三番瀬に関係するすべての人たちが、ここをどうしていくかを真剣に考え、合意形成をはかることが必要だ。よりよい利用形態を実現するために金を投資するのであれば、それが莫大な額であっても意味がある。
- よりよい利用形態という点では、たとえば、地元(船橋)の漁民の方から「マイアミビーチのようなものにはしないでほしい」という意見をいただいたが、こうした点は十分配慮すべきだ。
- 市民団体は堂本知事に対し、「2年間は何もやらないで、その間、関係者の意見などを十分に聞いて保全策をしっかり検討してほしい」という提言をしたらよいと思う。
市川市塩浜の直立護岸から、三番瀬の市川側(猫実川河口域)を視察するブラスコ事務局長。(右から2人目がブラスコ氏)
行徳野鳥観察舎で三番瀬保全団体の説明を受けた。
三番瀬の船橋側の干潟を視察し、干潟で遊ぶ子どもからアサリやヤドカリを見せてもらった。
干潟を見学したブラスコ氏は、「これだけ開発が進んだ地域で立派な自然環境が維持されていることはすばらしい」と感想を述べた。
マスコミのインタビューに応じる
船橋側11ヘクタールの埋め立て予定地も見学した。
谷津干潟自然観察センターで、干潟を一望。
谷津干潟自然観察センターのレクチャールームで、ビデオの上映をみる。前列左がブラスコ氏。右は荒木勇・習志野市長。後列左は「千葉の干潟を守る会」の大浜清さん。
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