〜三番瀬円卓会議の第1回「海域小委員会」〜
(2002年)4月26日、三番瀬「海域小委員会」の初会合が船橋市青少年会館で開かれました。この小委員会は「三番瀬再生計画検討会議」(通称・三番瀬円卓会議)の下部組織として設けられたもので、市民も約60人が参加しました。
議題は、(1)委員会の運営要領や、進行をまとめるコーディネーターなどの選出、新規委員の選考方法、(2)今年度実施する調査、(3)三番瀬海域において実施予定の事業、です。
●コーディネーターなどを選出
運営要領などについては、事務局(県)が作成した案をもとに議論した結果、次のようなことが決まりました。
- 「海域小委員会」の所掌事務は、海域に関する再生計画案の検討に関することや、円卓会議から委任された事項などとする。
- 委員は15人以内とする。
- 委員構成は、次のとおりとする。
- 円卓会議の委員(学識経験者を除く)のうち、円卓会議において小委員会への参加について承認を得た者。
- 小委員会として参加を認め、円卓会議会長が承認した者。
- 円卓会議の学識経験者はオブザーバーとして参加する。(議決権はない)
- 円卓会議の委員(学識経験者を除く)のうち、円卓会議において小委員会への参加について承認を得た者。
- 小委員会にコーディネーターとサブコーディネーター、アドヴァイザーをおく。選出結果は次のとおり。
- コーディネーター………小埜尾精一(三番瀬研究会)
- サブコーディネーター…松岡好美(円卓会議公募委員)
- アドヴァイザー…………望月賢二(千葉県立中央博物館副館長)
- コーディネーター………小埜尾精一(三番瀬研究会)
- 新規の委員を募集する。応募方法は、住所、氏名、年齢、職業、電話番号と、三番瀬への思いなどを400字以内で書いたものを添付し、同会議事務局へ郵送かFAX、電子メールで提出する。締め切りは5月10日。応募者が募集人員を超えた場合は、円卓会議の会長や小委員会のコーディネーターなどが選考して決定する。
●海生生物などの調査を実施
事務局(県)から、再生計画の検討にあたって必要な基礎的調査ということで、今年度実施予定の調査の内容について説明がありました。
調査項目は、海生生物の現況調査、鳥類調査、環境修復に係る流況シミュレーション調査、海岸線検討調査などです。環境省から1億5800万円の補助金をもらってこれらの調査を実施します。議論の結果、県から提案された調査内容と、環境省への補助金申請を大筋として了承しました。
●覆砂について議論
三番瀬海域において実施予定の事業について、県から説明がありました。
一つは、市川航路の浚渫です。船舶航行の安全確保のために必要ということで、6月から3カ月間、浚渫工事をおこないます。浚渫土量は約2万立方メートルで、その土は習志野市茜浜沖の深掘部に埋めるとのことです。
もう一つは、船橋漁協(船橋市漁業協同組合)が計画している覆砂です。アサリ漁場の改善を目的とし、木更津市の小櫃川河口干潟(盤洲干潟)の浚渫土砂1500立方メートルを運び入れて船橋沖の三番瀬にまきます。覆砂面積は0.3ヘクタールです。県はこの覆砂事業に対し、船橋市への間接補助という形で県費をつぎこみます。
この覆砂については、前回の円卓会議で移入種「サキグロタマツメタガイ」が持ち込まれる恐れが指摘されたことから、県から調査結果が報告されました。
報告内容は、4月15日に千葉県水産研究センター富津研究所が小櫃川河口干潟を調査した結果、30調査地点のうち5調査点でサキグロタマツメタガイの分布が確認された。個体数は6個体であった。しかし、干潟域や河口流路内岸側では確認されなかった。また、サキグロタマツメタガイによるアサリ食害はほとんど確認されなかった。さらに、4月22日に宮城県万石浦(石巻市)の現地調査もおこなったが、そこでは、サキグロタマツメタガイの生息や再生産が確認されたものの、実質的な食害量は少なく、漁業被害とはほとんど考えられていない──というものです。
この報告について、疑問や、覆砂の慎重検討を求める意見が出されました。一方、漁協委員からは慎重検討を求める意見に対して強い批判がだされました。やりとりはつぎのとおりです。
▼吉田正人委員(日本自然保護協会常務理事)
「県の説明は“問題がない”というものだが、本当にそうだろうか。この程度の調査でよいのだろうか。地元環境保護団体のメンバーが調査したところ、小櫃川河口干潟に35ミリくらいの大きさのサキグロタマツメタガイがたくさん発見されたとのことで、私も実物をみせてもらった。県の調査結果では漁業への影響はないとのことだが、今まで生息していなかったものを持ち込むのだから、三番瀬の生態系には影響がでる。もし、サキグロタマツメタガイが増えたり広がったりしたら、とりかえしのつかないことになる。そんな危険をおかしてまで、小櫃川河口から砂を持ってくる必要があるのか。市川航路を浚渫するというのなら、どうしてその土を使おうとしないのか」
▼風呂田利夫氏(オブザーバー、東邦大学教授)
「県は、宮城県万石浦では『実質的な食害量が少なく、漁業被害とはほとんど考えられていない』としているが、これは誤りである。私がこの問題に関わっている研究者に直接確かめた結果、サキグロタマツメタガイの定着が深刻な問題になっており、毎日のように駆除対策をおこなっているとのことだった」
▼滝口嘉一委員(船橋漁協組合長)
「どうして“悪くなる”ことばかりを言うのか。“悪くなる恐れがある”などと言ったら、何もできなくなる」
▼風呂田利夫氏
「滝口委員の気持ちはよく分かる。しかし、覆砂事業に使われる金は公費(税金)である。だから、みんなが納得できるようにしたほうがよい」
▼吉田正人委員
「私たちも海や漁業を大切に思っている。だからこそ、移入種を持ってくることについては事前に慎重に検討すべきだと思う」
▼滝口嘉一委員
「漁業権漁場においてどういう事業をおこなうかは漁協が決めるものであって、円卓会議で決める問題ではない。もし覆砂によって悪い結果がでたら、船橋漁協が責任をとる」
▼望月賢二氏(オブザーバー、千葉県立中央博物館副館長)
「安全な砂が近くにあるに、なぜ危険性のあるところから砂を持ってくるのか。この点を県の水産部局に聞きたい。また、サキグロタマツメタガイに関する今回の調査結果はお粗末といわざるをえない。たとえば、これを三番瀬に持ち込んだ場合にどういう結果がでるのかという学術的な検討はまったくされていない」
▼滝口嘉一委員
「やってみなければどういう結果がでるかわからないのに、なぜやってみることがダメなのか。みなさんが言われていることはまったく理解できない。いろいろと検討した結果、緊急事業として覆砂を実施することになった。代わりに市川航路の浚渫土を使ったりすることは時間的に間に合わない」
▼岡島成行氏(円卓会議会長、大妻女子大学教授)
「知事から付託された円卓会議では覆砂も議論することになっている。同じ知事が漁業権の免許もおろしているし、覆砂事業へも予算をつけている。だから、タイムリミットまでにできるだけ努力してこの問題を検討するようにしよう。それでも決裂するのならやむを得ないが」
議論の結果、次回の小委員会で再び市川航路の浚渫や覆砂事業を議論することになりました。その際、三番瀬と小櫃川河口干潟の砂質の違いや、なぜ市川航路の浚渫土を覆砂に使うことができないのかなどについて、くわしいデータを提出するよう県に求めました。
なお、風呂田利夫氏から「三番瀬の再生計画を検討するうえでは、小櫃川河口干潟が良いモデルになる。したがって、ここの干潟についてもっと理解を深める必要がある」という意見が出されました。
◇ ◇
予定時間を超えたため、会場からの発言はわずかしか時間がとれず、市川航路の浚渫、円卓会議議事録の早期公開、新規委員の募集方法などについて3人だけが発言しました。
最後に次回小委員会を5月15日(水)に開くことが決まりました。
第1回三番瀬「海域小委員会」
《千葉県水産研究センターによる調査結果》
サキグロタマツメタガイについて
平成14年4月26日
千葉県水産研究センター富津研究所
1.生態等
(1) 浮遊幼生期間を経ることなく、ふ化後すぐ着底する。
ふ化直後は大きさ0.3mm程度、1年で5mmに成長する。3〜4cmの貝で生後数年た
っている。
(2) タニシに似た巻き貝、殻高5cm、殻径3cm程度で、水深5〜20mの泥底に生息し、
二枚貝を捕らえ、貝穀に穴をあげて捕食する。自分の体よりも大きい貝は捕食でき
ないと考えられる。
(3) 分布は中国本土沿岸、瀬戸内海、有明海等
2.宮城県の状況
(1) 平成14年4月22日に現地調査を実施
(2) 調査結果
@ 万石浦(宮城県石巻市)では、潮干狩場を中心にサキグロタマツメタガイの生
息及び再生産が確認されている。サキグロタマツメタガイは外国産(中国、朝鮮
半島)のアサリの移植放流に伴って万石浦に移入されたと考えられる。(石巻専
修大学)
A 万石浦同様にアサリ放流を行っている近隣の松島湾では、サキグロタマツメタ
ガイによるアサリ食害は確認されていない。
また、万石浦に比べて外国産アサリの放流歴が長く、放流量が多い他県のアサ
リ産地ではサキグ口夕マツメタガイの被害が報告されていないことを考えると、
万石浦にはサキグロタマツメタガイの定着に通した環境があったようだが、それ
は何かはわかっていない。(石巻専修大学、宮城県水産研究開発セン夕ー)
B 万石浦では漁場内で食害孔のあるアサリの死貝が観察されるため、漁業者や漁
協にはアサリが食害されているという認識はある。しかし、実質的な食害量が少
なく、漁業被害とはほとんど考えられていない。(石巻湾漁協)
C 従って、漁業者として組織的な駆除対策は行っておらず、潮干狩場の入場者が
採捕したサキグロタマツメタガイを買い取っている程度である。これによる採捕
量は多いときで1日当たり数十個である。(石巻湾漁協)
3.小櫃川河口域における分布状況等調査の概要
(1) 調査日 :平成14年4月15日
(2) 調査区域:浚渫予定区域を含む小櫃川河口及び周辺の干潟域(アサリ漁場)
(岸沖方向1200m×汀線方向800〜1000m)
(3) 調査方法:まき力ゴによる底質枠取り(1調査点あたり1u)
(4) 調査点数:30調査点(うち浚渫予定区域内4調査点)
(5) 調査内容:
@サキグロタマツメタガイの分布調査
Aサキグロタマツメタガイを含むタマガイ類によるアサリ食害調査
Bアサリ分布調査等
(6) 調査結果
@サキグロタマツメタガイの分布状況
30調査点のうち河口流路内の5調査点で6個体の分布が確認された。
(調査点 9、10、11、17、18)
このうち浚渫予定区域内は3調査点で3個体であった。
干潟域及び河口流路内岸側では分布は確認されなかった。
Aアサリ食害調査
タマガイ類に捕食されたと思われる穿孔のあるアサリ死殻の分布は少なく、
全域でほとんど確認されなかった。
Bアサリ分布調査等
サキグロタマツメタガイの分布は、アサリ漁場ではない小櫃川河口流路内
の沖側部分が中心で、アサリ分布量の多い干潟漁場では認められなかった。
このため、地元漁協ではサキグロタマツメタガイがアサリ資源に悪影響を
与えているとは考えていない。
4.駆除
(1) 小櫃川河口域における駆除
地元の漁協が浚渫前に、浚渫区域全域で、巻貝捕獲用の小型ビームトロー
ル(ニシ曳き網)あるいは腰まき、大まきにより駆除を行う。
(2) 覆砂区域周辺における駆除
覆砂直後、同様の方法で覆砂区域全域でサキグロタマツメ夕ガイの駆除を
行う。
なお、アサリ資源のモニタリング調査時にサキグロタマツメ夕ガイの調査
も行い、存在が確認された場合には、その都度駆除を行う。
(注)調査点図、生息状況調査結果表、サキグロタマツメタガイの写真は省略
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