三番瀬のラムサール条約登録を求める

〜千葉県弁護士会が意見書〜




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 千葉県県弁護士会は(2005年)5月2日、三番瀬をラムサール条約に登録するよう求める意見書を堂本暁子知事と環境省あてに提出しました。以下は、意見書の内容です。




 

千葉県弁護士会の意見書





三番瀬をラムサール条約の登録湿地にすることを求める意見書


2005年(平成17年)4月27日

千葉県弁護士会 会長 廣瀬理夫



意見の趣旨

 2005年(平成17年)11月にウガンダで開催が予定されている第9回ラムサール条約締約国会議までに、
 国・環境省に対しては、鳥獣保護法に基づく国指定鳥獣保護区特別保護地区とする等の必要な保全措置を講ずる等をして、三番瀬をラムサール条約上の湿地に登録すること
 千葉県に対しては、国・環境省が三番瀬を同条約上の湿地として登録する手続きをなし、その保全措置をさらに進めるように積極的に働きかけること
 をそれぞれ求める。


意見の理由


1.新規登録の必要性

 ラムサール条約をめぐっては、1999年(平成11年)の第7回コスタリカ会議で、2005年(平成17年)の第9回締約国会議までに、登録湿地を2000箇所へとほぼ倍増することが決議された。
 日本は、当時11箇所を登録湿地としていたことから、新規に11箇所以上を選定し登録する責務を負った。その後、藤前干潟(愛知県)及び宮島沼(北海道)の2箇所が追加登録されたことから、現在、残る9箇所以上の選定・登録手続き作業が精力的に行われている。


2.新規登録の基準

 国・環境省では、昨年7月、ラムサール条約湿地検討会の第1回会合を開き、その後同検討会を中心に継続的に検討が加えられているところである。
 環境省が作成した登録候補湿地の検討手順によると、環境省が「日本の重要湿地500選」として既に選定している湿地の中から、第7回コスタリカ会議で決議されたクライテリアに基づく「8つの基準」を設定して重要度・優先度等を検討し、選定することとしている。あわせて、国指定鳥獣保護区特別保護地区、国立公園等、法令による自然環境保全のための保護地域であること(法令等によるいわゆる「保全の担保」の存在)を考慮することとしている。


3.三番瀬の重要性

 三番瀬は、東京湾最奥部、千葉県の船橋市、市川市、浦安市の埋立地に囲まれた、泥質及び砂泥質の干潟(140ヘクタール)と、水深5メートル以下の浅瀬を含む約1650ヘクタールの海域である。

 これまで、千葉県における補足調査専門委員会による調査をはじめとした詳細な科学的調査・研究によって、生物の多様性・水質浄化機能・渡り鳥の飛来地・人間生活との結びつき等多角的側面から検討が加えられ、その重要性が明らかにされている。

 前記検討会に配布された環境省作成資料によると、三番瀬は、環境省が登録湿地の選定基準として設定した「基準1〜8」のうち、
(1) 基準1(各生物地理区内において代表的な湿地)
(2) 基準5(水鳥2万羽を定期的に支える湿地)
(3) 基準6(水鳥の個体数の1%を定期的に支える湿地)
(4) 基準7(固有な魚類の種等で湿地の価値を代表する個体群の相当な割合を維持)
(5) 基準8(魚類の産卵場、稚魚の生育場、漁業資源が依存する回遊経路等)
 の5つの基準を充足するとされている。
 6つの基準以上を充足する湿地はなく、5つの基準を充たす湿地としては、濤沸湖(北海道)、風蓮湖(同)、有明海(大授搦=佐賀県)、そして三番瀬のわずか4箇所しか見当たらない。とりわけ、基準5のうち「環境省ガン・カモ類生息調査において、過去5年間のガン・力モ類の渡来数」によると、三番瀬は2001年及び2002年にはいずれも10万羽を超え、群を抜いて最大数となっている。

 これらの事実からみても、三番瀬が日本における最重要湿地の一つであり、最優先に新規登録されるべき価値を有する湿地の一つであることは、多言を要しないところである。
 また、湿地を類型別にみても、「干潟」でこれまで登録されているのは、谷津干潟(千葉県)、藤前干潟(愛知県)の2箇所しかなく、干潟である三番瀬を新規の登録することは、できるだけ多様な類型の湿地の登録を促すというコスタリカ会議の趣旨にも合致するところである。
 さらに、地域的多様性の面からみても、既登録湿地13箇所のうち、北海道が6箇所を占めているのに対し、関東一円では谷津干潟の1箇所にすぎず、この面からも三番瀬を新規に登録する必要性が高い。


4.自然環境保全のための保護地域について

 一方、「自然環境保全のための保護地域の有無」(いわゆる「担保措置」の有無)についてであるが、そもそも選定基準として、かかる「要件」を設定しているのは日本だけともいわれている。選定の基準とすること自体疑問であり、少なくとも、あまりに厳格に運用されるべきではない。
 三番瀬については、現在までのところ保全のための「法的な担保措置」こそ講じられていないものの、従来の埋立計画は「白紙撤回」されており、具体的な埋立・開発計画はない。
 ちなみに、前記ラムサール条約湿地検討会での環境省作成資料では、「国指定鳥獣保護区(計画)」とされている。これによって、「担保措置」としては十分であると考えるべきである。仮にそうでないとすれば、至急国指定鳥獣保護区特別保護地区等に指定すべきである。

 いずれにしても、三番瀬がもつ重要な価値からして、「担保措置」が不十分であることを理由に、同条約登録湿地とすることに消極的であってはならないと考える。


5.登録することについての障害の不存在

 三番瀬が日本における最も貴重な干潟であり、同条約の登録湿地とするにふさわしい重要な価値を有することについては、各界に全く異論がないといってよい。
 しかるに、国・環境省も千葉県も登録湿地とすることに、必ずしも積極的ではないと伝えられている。その大きな理由は、地元千葉県が漁業活動への影響についての配慮から、必ずしも積極的ではないことにあるといわれている。

 翻って考えれば、ラムサール条約の基本的理念は「賢明な利用(Wise Use)」にあり、「締約国は、登録簿に掲げられている湿地の保全を推進し及びその領域内の湿地をできる限り適正に利用することを促進するため、計画を作成し、実施する」(3条1項)と規定されている。
 また、この「賢明な利用」については、第3回締約国会議(1987年)において、「生態系の自然財産を維持し得るような方法で、人類の利益のために湿地を持続的に利用することである」と定義した。さらに、第6回締約国会議(1996年)で採択された戦略計画では、「賢明な利用」を「持続可能な利用」と同一のものとみなしている。

 すなわち、同条約に登録すれば漁業活動が制約され、支障をきたすかのような見解は誤りであり、曲解にすぎない。
 先のラムサール条約湿地検討会・第1回会合では、委員から「ラムサール条約湿地になると何もできなくなるという誤解が多い。ラムサール条約は地域にとっても役に立つ道具になり得るというブラス面を積極的に伝えていくことが必要」との指摘があり、これに対して、環境省側が三番瀬を個別的に取りあげて、「環境省としてもご意見については十分に認識しているつもりである。

 例えば三番瀬の場合は厚岸湖を例に出して、ラムサール条約湿地に登録されても漁業活動に今までと何ら変わらないということを伝えている」(同会合・議事概要)と答弁していることからも明らかである。このように、漁業活動への支障・制約を、登録湿地とすることに対する消極理由とすることは明らかに誤りというほかない。


6.「三番瀬再生計画案」等でも登録促進を打ち出す

 2004年(平成16年)1月22日、千葉県の要綱に基づき設置された機関である「三番瀬再生計画検討会議」(円卓会議:岡島成行会長)は、「三番瀬再生計画案」を取りまとめた。
 同計画案では、「再生・保全・利用のための制度及びラムサール条約への登録促進」を明確に打ち出している。すなわち、「目標」として「三番瀬及び後背湿地は、国際的に重要な湿地であり、ラムサール条約が湿地の賢明な利用を原則としていることから、豊かな生態系を未来の世代にまで残すために、関係者の合意の下で、ラムサール条約への登録を行い、再生・保全・利用を進めることをめざします」としている。

 そして、「アクションプラン」として、「ラムサール条約への登録は基本的には国の事務ですが、県、関係市、市民としても、国に働きかけを行っていく必要があります。登録に向けた取組みを進めるためには、当然のことながら、漁業関係者等の利害関係のある人との調整を行う必要があります。したがって、市民生活や漁業活動との調和をはかりつつ、ラムサール条約の登録に向けて早期に関係者の合意を形成していきます」としているところである。

 その後の同年3月26日、三番瀬海域の漁業の中心である船橋市では、市議会において「三番瀬のラムサール条約登録湿地指定地促進に関する決議」を全会一致で採択した。
 それによると、「本市議会は、第9回ラムサール条約締約国会議において三番瀬が登録湿地に指定されるよう、市において最善の努力を尽くすことを強く求めるものである」とされている。三番瀬漁業を支える地元市議会の決議は、極めて重要な意義を有している。


7.日弁連及び当弁護士会の取組み

 日弁連(日本弁護士連合会)では、1999年(平成11年)12月17日、環境庁(当時)に対して、三番瀬をラムサール条約上の登録湿地手続きをなすべきことを、千葉県に対しては同条約上の登録湿地としてその保全をはかるよう政府に働きかけることを各求める意見書を取りまとめ、国及び千葉県に対し、その実現を求めたところである。

 また、当弁護士会においても、これまで公害対策・環境保全委員会において、現地調査をはじめとして、三番瀬の保全と復元を目指して調査・研究を行ってきたところである。


8.結語

 以上に照らし、本年11月に開催が予定されている第9回ラムサール条約締約国会議(ウガンダ会議)は、三番瀬を同条約上の湿地に登録し、その保全をいっそう進めるための絶好の機会である。よって、意見の趣旨どおりの措置を求めるものである。

以上






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