★三番瀬を未来に残そう


三番瀬埋め立て計画と保全運動

写真:田久保晴孝/藤森 泰




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船橋海浜公園前の三番瀬。藤森泰さんが撮影。




●三番瀬は“いのちを育む海のゆりかご”

 三番瀬は、船橋市と市川市の沖に広がる干潟と浅瀬で、東京湾奥に残された最後の干潟でもあります。干潮時は水深1メートル以内の浅海底が沖合に3キロ以上広がります。渡り鳥のシギ、チドリなどの水鳥、カニや貝など多様な生物が生息しており、潮干狩りなどレクリェーションの場にもなっています。
 昨年(1998年)5月27日、千葉県環境会議の提言を受け、三番瀬の生態系を調査してきた補足調査専門委員会が中間報告をおこないました。それによれば、鳥類89種、動植物プランクトン302種、ゴカイやカニなどの底生生物155種、魚類101種の系647種の生物の生息が確認されました。
 また、同年9月28日には、同委員会が2年9カ月に及んだ環境補足調査の最終報告を公表しました。それによれば、下水処理場の処理人数に換算すると13万人分に相当する下水処理能力を持ち、鳥類は「ラムサール条約」の基準を超える20種類が生息し、渡り鳥などの重要な餌場(えさば)、漁業を含む豊かな食物連鎖のあることが明らかにされています。1998年10月20日付けの毎日新聞の社説も述べているように、三番瀬は東京湾にも例のない「生命の源泉」となっているのです。まさに、三番瀬は“いのちを育む海のゆりかご”でもあります。
 





●県は三番瀬を埋め立てようとしている

 千葉県は、こうした貴重な干潟・浅瀬「三番瀬」を埋め立てようとしています。船橋市の沖を「京葉港2期計画」という名で県土木部が、市川市の沖を「市川2期計画」という名で県企業庁がそれぞれ事業主体となって埋め立てようとしているのです。埋め立てがおこなわれると、三番瀬の3分の2が消滅し、壊滅状態になります。
 埋め立て計画の事業費は、1992〜93年の計画策定時で、市川2期が約6500億円、京葉港2期が約2200億円、合計約9000億円です。
 「三番瀬を残せ」の世論が盛り上がる中、千葉県は昨年、埋め立て事業規模の縮小を検討しだしました。そして、「計画策定懇談会」(策定懇)を設置し、10月19日に初会合を開きました。県は今年1月に埋め立て計画の環境影響評価を示し、5月には第3回策定懇を計画しており、面積を縮小して埋め立て計画を強行しようとしています。







●三番瀬を守る運動が大きく広がっている

 県が三番瀬の埋め立て計画を強行しようとしている中、数多くの市民団体や県民が、「貴重な干潟を守れ」「埋め立て反対」などの声をあげて運動を進めています。
 昨年(1998年)は、たとえば「三番瀬を守る署名ネットワーク」や「三番瀬を守る会」などが3月に「第二の諫早にするな みんなの干潟・三番瀬−98東京湾三番瀬・春の大集会」を開きました。また、11月8日には、500人の参加で「三番瀬・海辺のつどい」を現地で開きました。
 「三番瀬を守る署名ネットワーク」は、「三番瀬埋め立て計画の撤回を求める署名」をとりくんでおり、昨年(1998年)4月14日の干潟の日に、12万人分を県に提出、また、10月に2万5000人分の署名を追加提出しました。
 「三番瀬を残せ」という世論が大きく広がっている中、今年(1999年)もさまざまな取り組みが予定されています。

(1999年2月) 







日本湿地ネットワークの要請書
(1998年4月14日提出)

三番瀬の保全に関する要請


 千葉県知事 沼 田 武 様 

日本湿地ネットワーク
代表委員 山下弘文
代表委員 辻 淳夫


 日本湿地ネットワークは、1993年、釧路において開かれた「特に水鳥の生息地としての湿地の保護に関する条約(ラムサール条約)」第5回締約国会議を前に1991年に設立されました。私たちは各地の湿地保護や回復運動の強化、全国レベルの湿地保護運動、国際的な湿地保護運動の支援を行うことを目的とした全国各地の湿地保護団体のネットワークです。
 私たちは日本の最重要な干潟である諫早干潟が締め切られたこの日を干潟を守る日と定め、東京湾の三番瀬干潟の保全に関して、以下の理由で計画中の三番瀬の埋め立て計画を撤回していただくよう要請いたします。

  1.  三番瀬はラムサール条約登録地である谷津干潟とともに条約の重要な干潟の基準を満たし、日本の政府と国民すべてがその保全を図るべき責任を有する湿地であること。
       1997年9月に環境庁が発表した「シギ・チドリ類渡来湿地目録」において、船橋海浜公園および塩浜と表現される三番瀬を含む東京湾はラムサール条約登録地の条件を満たすシギ・チドリ類重要渡来地域であるとされています。特に三番瀬は、谷津干潟と一体であり、三番瀬が埋め立てられてしまえば、ラムサール登録地の谷津干潟だけではこれまで谷津干潟に来ているシギ・チドリ類も支えきれません。ラムサール条約第4条第1項に「各条約国は、湿地が登録簿に掲げられているかどうかに関わらず、湿地に自然保護区を設けることにより湿地及び水鳥の保全を促進し、かつ、その自然保護区の監視を十分に行う」、また第4項に「締約国は、湿地の管理により適当な湿地における水鳥の数を増加させるよう努める」とあるように、日本は、登録湿地であるか否かにかかわらずすべての湿地を保護管理しなければなりません。三番瀬という重要湿地を保護区にせず、埋め立てによって破壊することは条約に違反する行為です。

  2.  日本が基準を満たす重要な湿地を破壊することは、ラムサール条約の信用を傷つけることであり、国際世論に対する重大な裏切りであること。
       日本は1993年釧路、1996年ブリスベンと2つのラムサール条約締約国会議に主要な役割を果たしてきました。条約を経済的にも支えている日本が、開発の名の下に重要な湿地を破壊できるという実例を示すことは、条約自体の信頼性、有効性を失わせ、影響力を低下させる行為です。和白干潟、諫早湾干潟の破壊が既に進行していることを知っている世界の自然保護団体が、条約事務局、また日本と2カ国渡り鳥条約を結んでいる国々は、1999年の第7回締約国会議を前に、藤前干潟、三番瀬をはじめとする開発計画をもった日本の干潟の行方に重大な関心を持っています。ラムサール条約をはじめとする環境保護の取り決めを通して地球を守ろうとする世界の動きを経済の面だけでなく、今ある残された大切な湿地である三番瀬を守る行為を通して支えることが重要です。

  3.  大都市に近接した豊かな自然である三番瀬は、都市の住民すべてに豊かな心をもたらす重要な場所であること。
       思春期にある子どもたちの心痛む行動と自然の破壊とは決して直接に結び付く事柄ではありません。しかし、豊富な電子的な情報だけでなく、自然の豊かな包容力に触れる機会が今ほど子どもたちに要求されている時はありません。その意味で大都会の中に、潮干狩りや、釣り、のり養殖と、まさに賢明な利用がなされている湿地、三番瀬があり、都市の子どもたちが接することができることは大きな意味があります。ぜひこのまま保全されなくてはなりません。

 補足調査実施とその延長という千葉県の決断は、これまでのアセスメントを越え、新しい法律の意図を先取りする先進的な取り組みでした。新しい環境影響評価法の実施を来年に控え、賢明な判断をしてください。

 事業計画に合わせて環境アセスメントを利用するアワスメントだとの批判をのりこえるべく作られたのが新しい環境影響評価法です。現行法制度の下で、環境会議を設置し、その結論に基づいて補足調査を行い、さらに十分な調査のために期間の延長を行った千葉県の決断は、実態を正確に把握し、その結果に基づいて結論を出す意志を示したという意味で、高く評価されるべきものです。補足調査の結果にもかかわらず埋め立て事業によってこの重要な干潟を壊すというような残念な結果を千葉県が出されれば、国際的な顰蹙(ひんしゅく)を買うことになります。私たちが子孫と共有している地球を、私たちの子孫にとって住みやすいものとしていくために、行政、市民が一体になって、ささやかでも努力を続けることができるよう、埋め立て事業の撤回という、勇気ある、そして栄誉ある判断を貴職がなされるよう要請いたします。




 
千葉県自然保護連合の要望書
(1998年4月14日提出)
 
三番瀬埋め立て計画の中止を求める要望書
   
千葉県知事 沼 田 武 様
 
千葉県自然保護連合
代表 岩田好宏


 遠浅で豊かな漁場として知られた東京湾では、港湾整備、臨海工業地帯の造成、住宅供給の名のもとに急速に埋め立てが進行し、現在、干潟と呼べる自然環境はほとんどなくなってしまいました。そのような東京湾の現状の中で、三番瀬は、東京湾奥部に残された貴重な干潟の自然です。近年の調査研究により、ヨシ原、干潟、湿地などのウェットランドの重要性が認識されるようになり、千葉県民も多数の方々が、東京湾奥部に残された最後の干潟「三番瀬」を保全することを望んでいます。
 千葉県がこれまで自然保護のためにご尽力されてきたことに対して敬意を表しながら、その姿勢を今後も変えることなく維持し、三番瀬を保全されることを強く望みます。そのために、京葉港2期埋め立て計画および市川2期埋め立て計画をすみやかに中止してください。
 また、さらに一歩踏み込んで、埋め立て計画の中止のみならず、現状の三番瀬の環境改善をめざして研究調査し、三番瀬の生物相、生態系の多様性と複雑さを一層向上させる施策を実行し、この地を永久的に保全されるよう要望致します。




 
三番瀬を守る署名ネットワークの要望書
(1998年6月2日提出)
 
三番瀬埋め立て計画の根本的見直しを求める要望書
 

 千葉県知事 沼 田 武 様

三番瀬を守る署名ネットワーク
代表 大浜 清


 5月25日およびそれに続く新聞報道によれば、このたび千葉県は三番瀬埋立計画の一部縮小方針を出される由です。
 私たちは、東京湾をこれ以上傷つけず、その病根を癒す形で子孫に譲り渡すため、三番瀬埋立計画の白紙撤回をお願いし、去る4月14日、12万人の署名を知事宛に提出いたしました。
 今回の新聞報道を私たちは、これまで県民との話し合いを拒み、埋立て開発にこだわり続けた県が初めて私たちの願いに対して一歩踏み出したものと受け取りたいと思います。
 しかしその発表の仕方には大きな疑問があり、また内容においても今後さらに根本的徹底的な検討をくわえていただきたく、以下に改めて要望を提出いたします。


  1. 「縮小」とはいいながら500ヘクタールの埋立ては全国最大規模の埋立計画であって、三番瀬の受ける影響ははかり知れません。私たちはもう一度根本から埋立計画の見直しを求めます。

  2. これまで県は、「計画は環境会議の審議に委ねている」ことを理由に、「補足調査最終報告提出までは一切計画内容についての話し合いはできない」と私たちに対して口をつぐみ、環境会議の審議や補足調査データについても秘密主義をとってきました。今回の新聞報道は私たちにとってはまことに唐突です。しかもコンテナ埠頭以外の部分についてはあくまでも埋立てを行いたいとしているとの報道が事実ならば、これは環境会議・補足調査委員会をまったく無視したやり方です。厳重に抗議いたします。

  3. 環境への影響に関する判断や取り扱いは急いで事を運ぶことなく、まず補足調査を公開し、市民の意見や研究者の批判・助言を受け入れつつ、環境会議の厳正な審議を期してください。また環境会議提言に含まれていない諸問題についても逐次検討しその内容を公開することを求めます。

  4. 土地利用計画について
    •  港湾計画について
         コンテナ埠頭計画の取りやめと専用埠頭の転用はかねてより私たちの主張してきたところです。さらに一歩を進め、京葉港は現状の輪郭の中で再利用再開発を考えてください。また川鉄地区の新港湾計画についても、その必要性・妥当性、環境問題などについての慎重な検討が当然なされるべきです。
    •  他の土地利用計画について
         いずれの土地利用計画についても、その必要性・妥当性、環境への影響などについてはまだまったく明らかではありません。計画をいったん中止し、今の時点で本当に必要な施設なのかを根本から考え直し、他の方法に転換する可能性を検討することを求めます。また仮に必要性があっても三番瀬を埋め立てることなく行う方法があるか、その可能性を追求してください。
    •  三番瀬埋立計画は巨額の費用を要し、将来にわたって巨額の債務を抱えることになります。造成した用地が不良資産になれば県の財政を圧迫し財政危機に陥る危険性を有しています。公共事業の根本的な見直しが求められている現在、県財政の面からも埋立計画の抜本的再検討を求めます。
    •  土地利用計画については専門委員会を設けて検討するとのことですが、その構成・運営については公正を期し、関連資料を含め専門委員会での審議・検討内容の情報公開を徹底するよう求めます。
 結び

 現在の国や県の財政危機、そして自然環境の危機、いずれの面から見ても三番瀬埋立計画は負の遺産を子孫に残すことが必至です。
 またコスタリカ会議を明年にひかえ、渡り鳥の重要湿地であり重要な漁業基盤をも形成する三番瀬を埋め立てることはラムサール条約締約国をはじめ、国際世論からの批判も一段と高まることになるでしょう。それは日本と各国との渡り鳥条約や生物多様性条約にも背く行為でもあります。先に提出した12万人の署名の後にも全国から「三番瀬を埋立から守れ」の署名が次つぎ寄せられており、海外からも200を越える署名が寄せられています。
 21世紀は地球環境の破壊からの回復が人類の最大の課題となります。その21世紀を前にして、20世紀の「置き土産」のような自然破壊、三番瀬の埋立てを行うことは許されません。
 私たちは、知事が今回報道されている「計画の縮小」をさらに進めて、東京湾、三番瀬の完全な保全計画を打ち出されることを切に要望いたします。



 

東京湾三番瀬を守る船橋アピール 98年秋


 私たちの目の前に広がる、この美しい海を見よ!
 ここは東京湾奥、最後の浅瀬、最後の干潟、その名は三番瀬。
 ここは海の生き物たちの、いのちのゆりかご。
 その砂の中からアサリが、マメコブシガニが、タマシキゴカイが数限り無く湧き出でる魔法の海。 
 その浅瀬は、イシガレイやマハゼの稚魚を育てる、海中の保育所。相模湾のイシガレイは、三番瀬小学校の卒業生だ。
 この豊かな餌場を求めて、春にはオーストラリアから、秋にはシベリアからシギ、チドリ、そしてカモの大群がやってくる。
 もちろん私たち人間も、この豊かな海で生かされている。今でも漁師たちは江戸前の海の幸を漁(すなどり)し、人々の食卓をにぎわしている。
 この海は、大切なレクリェーションの場所。春の浜辺は、県内各地から、東京・埼玉から押し寄せる潮干狩り客で埋め尽くされる。
 この海はまた、巨大な天然の浄水機、天然エアコンディショナー。夏には涼風(すずかぜ)を送り、冬には寒気を和らげる。
 この海を絶対に埋めてはならない!
 ここ船橋市に三たび集まった私たちは、くりかえし強く要求する。
 −−千葉県は三番瀬の埋め立て計画を撤回せよ!−−

 1998年11月15日

98東京湾三番瀬を残そう 海辺のつどい




 
「いま…干潟を守るシンポジウム」 アピール
 
 
その昔、お菜浦(さいうら)として江戸前の海を誇った 三番瀬
今なお、ビルの群の中にあって海の幸をもたらす 三番瀬
光あふれる浅瀬は生きものが湧く 三番瀬
潮風にのり渡ってくる鳥たちの国際空港 三番瀬
訪れる人の心を和ませ豊かにさせる 三番瀬

三番瀬は傷つけられた東京湾で健気に生きる干潟と浅瀬
いのち湧く三番瀬をこれ以上埋め立ててはならない
埋め立ては生きものたちの生きる場を奪うものであり
生きものとしての人間の生活の場を奪うものである
一坪たりとも三番瀬を埋め立ててはならない
人は失ってからその価値の大きさに気づく
海からの恩恵を未来に譲り渡そう

今日、ここに三番瀬を守る人たちが集まった
日本の干潟・湿地を守る人たちが集まった
湿地は全生命の源泉(みなもと)
水を求めている生きものたちに閉められた水門を開けよう
藤前干潟につづいて三番瀬を守ろう
日本の湿地を守って、コスタリカ会議に笑顔と誇りをもって参加しよう

 1999年2月20日
「諫早、藤前、三番瀬 いま…干潟を守るシンポジウム」参加者一同
  

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