埋め立て案は撤回を

〜1999年3月8日付け朝日新聞の社説〜




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 東京湾に残る干潟、三番瀬の埋め立て計画について、千葉県が近く見直し案を示す。
 「貴重な干潟を消滅させてはならない」という市民運動や世論の盛り上がりに押されてのことだ。
 県が2月上旬に示した「たたき台」には具体的な数字が盛り込まれず、内容が不十分だった。埋め立て自体は必要との立場も崩していない。計画は白紙に戻し、保全に力点を置く姿勢に転換すべきである。

 当初、水深5メートル以下の1650ヘクタールのうち740ヘクタールを埋め立てる計画だった。
 財政難や反対運動の高まりで縮小を余儀なくされた県は、事業見直しのための計画策定懇談会を昨年10月に発足させた。年度内に具体案を示す予定だったが、「たたき台」への批判が強く、計画策定が遅れるのは必至だ。

 「たたき台」の骨子はこうだ。
◇ 住宅・企業用地とレクリェーション用地は縮小し、産業廃棄物処分場の建設は取りやめを検討する。
◇ 移転工場の受け皿となる都市再開発用地、港湾関連用地、交流拠点用地などは必要性とからめて規模を検討する。
◇ 下水処理場と第二湾岸道路の建設用地は必要である。

 懇談会で、委員から詳しい説明を求められながら、県当局は「検討中」としか答えられなかった。県自ら埋め立て面積の大幅縮小を示唆したにもかかわらず、数字についてはこれまた「検討中」である。
 規模は縮小するにしても、埋め立てが必要というのなら、説得力に富んだデータの開示が欠かせない。抽象的な説明しかできないのは、事業の必要性そのものが低いことを示してはいないか。
 県が埋め立てにこだわるのは、下水処理場と第二湾岸道路の建設用地を確保したいという気持ちが強いからだ。これらが必要かどうかはもとより、代替地や工法の変更など埋め立て以外の選択股をどこまで真剣に検討したかが問われる。

 埋め立てによって失われるものの大きさは、県が自ら依頼した環境影響調査の結果によって明らかである。
 シギ、チドリ、力モ類など89種もの鳥類のえさ場や休憩場所がなくなり、貝類や稚魚の生育場が失われる。13万人分の下水処理に匹敵する水質浄化の能力も損なわれる−−
 財政事情を考えても、当初で1兆円、計画を縮小しても数千億円かかる事業に着手する緊急性があるとは思えない。
 県がほかの場所で埋め立てた土地は、企業用地、住宅用地とも売れ残っている。高度成長期の「負の遺産」ともいえる発想から抜け出すべきときだ。

 開発から保全へ。計画を180度転換させなければならない。
 国際的に貴重な湿地を保護するラムサール条約の指定地をめざしてはどうか。首都圏にあって多くの水鳥が飛来し、海生生物も豊富な三番瀬は十分資格がある。
 工場や住宅用地を確保するには、埋め立ては手っ取り早い方法だった。そんな開発優先の考え方によって、東京湾の干潟は9割が失われてしまった。そのことへの反省がようやく芽生えはじめている。
 埋め立てによるマイナスより、干潟を保全することによってもたらされる利益の方がいかに大きいか。
 多くの国民がいま求めるのは、豊かな環境に触れあえる自然空間である。


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