三番瀬埋め立て計画と流域下水道

〜江戸川左岸流域下水道計画の見直しを県に要請し、代案を提示 〜

千葉県自然保護連合事務局



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 千葉県自然保護連合、千葉の干潟を守る会、市川緑の市民フォーラム、三番瀬を守る署名ネットワークの4団体は(1999年)4月16日、三番瀬埋め立て問題に関して要請書を県に提出しました。要請書の内容は、江戸川左岸流域下水道計画の見直し要請と代案の提示です。




●「三番瀬」は、下水処理場の用地確保が焦点に

 建設省は3月10日、「第二東京湾岸道路(第二湾岸)の用地確保はルート変更やトンネルなどでも可能であり、(三番瀬の)埋め立ては必要としない」との考えを明らかにしました。このことによって、三番瀬の埋め立て問題は、流域下水道終末処理場の用地確保をどうするかが焦点となってきました。
 当連合や千葉の干潟を守る会などは、終末処理場の建設が三番瀬埋め立ての目的となっていることから、この間、江戸川左岸流域下水道について学習などをすすめてきました。昨年7月は、宇井純・沖縄大学教授を招いて講演会「宇井純と語ろう−流域下水道と市川三番瀬」を開きました。今年3月には、「三番瀬埋め立て計画と流域下水道」というテーマで勉強会を開き、下水道専門家に話を聞きました。


●流域下水道は全国各地で破綻

 こうした勉強会や調査によって、流域下水道計画は全国各地で完全に破綻していることが明らかになりました。
 高度成長期、「大きいことはいいことだ。大きくすればきっとうまくゆく」という「規模の利益」の考え方にもとづき、全国のいたるところで流域下水道計画が進められました。
 この流域下水道については、強い批判もありました。批判点の一つは、金がかかりすぎるということです。自然流下を原則としてつくられる下水道では、規模が大きくなるほど太い管を深く埋めなければなりません。しかも、この下水管は、住宅が少ない農村部などにも延々と敷設されます。処理場にしても、低地の地盤のやわらかいところに重量何十万トンという大規模な構造物をつくらねばならないため、基礎工事の費用がどんどんかさみます。ちなみに、このように「金がかかる」ということから、流域下水道はゼネコンなど土建業者の格好の儲け口になっていることも問題点として指摘されています。
 金がかかりすぎるという点では、実際にそのとおりになっています。全国各地の流域下水道は、完成のめどが立たないのに費用だけがうなぎのぼりになっています。維持管理費についてみても、永久に赤字が累積していくことが分かって青息吐息という自治体がほとんどです。こうして、全国の流域下水道はほとんどがゆきづまっていて、“現代の万里の長城”とまでよばれるまでになっています。 批判点のもう一つは、河川の流量をいちじるしく減少させることです。流域下水道は、広大な区域の下水をとりこみ、巨大な管渠(下水管)によってそれを低地の終末処理場へ運び、海などへ放流します。つまり、新たな人工河川をつくるのと同じです。これは既存河川の流量を大きく減少させ、水資源の枯渇や河川の汚染増大をもたらします。実際に、流域下水道の整備が進むにつれて河川維持流量が確保できなくなり、水資源の確保などで危機的な状況になっているところも増えています。流域下水道は水循環に大きな影響をおよぼしているのです。
 要するに、流域下水道は、金食い虫というだけでなく、環境という点からも大きな問題をかかえており、その見直しが強くさけばれるようになっているのです。


●千葉の流域下水道もゆきづまり

 流域下水道計画のゆきづまりという点では、千葉県も同じです。県が三番瀬を埋め立てて終末処理場を建設しようとしている江戸川左岸流域下水道についてみると、全体計画では、計画目標年度は2010年度(平成22年度)、処理面積は2万1036ヘクタール、処理人口は175万6000人、総事業費は2960億円となっています。これに対して、現況は、処理面積が6172ヘクタール(進捗率29%)、処理人口が66万8300人、事業費は2115億円(同71%)です。目標年度まであと10年余しかないのに、処理面積の進捗率はいまだに3割です。しかし、事業費は7割に達しています。
 これらは県が公表している数値ですが、実際には、事業の完了は、2010年度は絶対に無理で、このままいけばあと50年以上はかかる、というのが関係者の見方です。事業費についてみても、全体計画の総事業費は2960億円となっていますが、実際には6000億円以上になる、そして、もし三番瀬の埋め立て予定地に55ヘクタールもの処理場をつくれば、金が余計にかかって、総事業費は7000億円以上になるだろうといわれています。


●江戸川左岸流域下水道は過大計画

 そもそも、江戸川左岸流域下水道計画はたいへん過大なものとなっています。
 まず、将来人口予測です。千葉県の3つの流域下水道(江戸川左岸、印旛沼、手賀沼)の予測人口の合計は約462万人(このうち江戸川左岸は175万6000人)となっていますが、現在の3区域の人口は約315万人(江戸川左岸は120万人)でしかありません。3区域で今後146万人も増えるという計算ですが、千葉県の人口の伸びは鈍化しています。県が最近発表した「長期ビジョン」でさえも、県全体の人口は2020年に668万人でピークになり、それ以降は減り続けるとしています。現在の県の人口総数は589万人ですから、ピーク時でも約80万人しか増えないという計算です。県全体で80万人しか増えないのに、3区域だけで146万人も増えるという予測は明らかに過大です。しかも現実をみると、江戸川左岸流域下水道に関連する8市1町は、人口の伸びが頭打ちになっています。8市1町の総人口は、1995年から1998年までの3年間でわずか1.2%しか増えていないのです。
 つぎに、同計画の算定基礎となっている1人あたりの下水使用量は、1日あたり720リットルとなっています。しかし、これはバブル期に算定されたもので、印旛沼流域下水道や手賀沼下水道の計画よりも2割アップした数値となっています。しかも現在は、節水意識がかなり高まっており、1日平均の使用量は375リットルでしかありません。下水道計画は、平均ではなく最大使用量を算定基礎としていますが、それにしても1日720リットルというのは過大で、おおめにみても450リットルぐらいでよい、というのが専門家の見方です。
 こうしたことから、現行の江戸川左岸流域下水道計画は根本的な見直しが必要となっています。三番瀬を埋め立てて、そこに55ヘクタールもの終末処理場をつくる必要はまったくないのです。新しい処理場(第一処理場)は、せいぜい10〜15ヘクタールあれば十分というのが、専門家や関係者の見方です。  ちなみに、現在稼働中の第二終末処理場はまだ余裕があって、少なくともあと10年は大丈夫と言われています。ですから、見直しの期間は十分あります。


●三番瀬埋め立てによる下水処理場建設は愚挙

 県は、三番瀬埋め立ての目的として江戸川左岸流域下水道の第一終末処理場建設をかかげていますが、これは愚挙としかいいようがありません。
 第1に、金がかかりすぎます。もともと埋立地は地盤が軟弱です。三番瀬付近はとりわけ地盤が軟弱で、そこに施設を建設するのは“豆腐の上に重いモノを乗せるようなもの”と言われており、基礎杭を60メートル以上も打つ必要があります。したがって、建設費は莫大なものになります。
 第2は、防災上からも大きな問題があります。阪神・淡路大震災はさまざまな教訓をもたらしました。その一つは、埋立地が液状化の危険にさらされやすいことです。現に、埋立地に建設された神戸市の下水処理場は甚大な被害を受けました。この点について、楡井久・茨城大学教授(元千葉県職員)はこう述べています。
 「下水道では、管渠(下水管)と処理場において大きな被害がありました。(中略)下水道システムの基幹施設である終末処理場は下流端に位置するので埋立地など軟弱な地盤に建設されることが多く、それだけ被害を受けやすくなっています。兵庫県南部地震では、管渠のほかに、神戸市最大の処理場である東灘処理場(処理能力225,000立方メートル/日)が埋立地盤の液状化による側方流動の影響を受け、沈殿池の目地の開口、流入幹線管渠の移動など多くの被害をこうむりました」(『検証・房総の地震』千葉日報社)
 こうした教訓からみても、重要なライフラインである下水処理場を軟弱地盤の埋立地に建設するのは暴挙としかいいようがありません。
 そして第3は、“水循環再生”の流れに逆行することです。後述するように、今は建設省さえもが、下水処理水を河川にもどすという「水循環再生」を強調しはじめています。環境庁の中央環境審議会も、河川や地下水の汚染と枯渇を防ぎ、水循環の機能を回復するための政策大綱を今年の夏をめどに策定するとしています。広大な区域の下水をかきあつめて埋立地の大規模な処理場で処理し、その処理水をいっきょに海へ放流するという県の計画は、こうした水循環再生の動きに逆行するものです。埋め立てによる干潟の喪失とあわせて、二重の自然破壊でもあります。


●“水循環再生”が時代の流れ

 前述のように全国の流域下水道計画がゆきづまっている中、風当たりが強くなったので、建設省は、かなり前から、目立たないように計画を縮小したり、「水循環の再生」などをいいだしはじめました。そして同省は、1995年から都市における適正な水循環再生のためのマニュアルづくりに着手し、全国5つの地域を「水循環再生モデル地域」に指定しました。その一つは、船橋市の海老川です。
 たとえば、建設省都市局が編集協力している月刊誌『新都市』(都市計画協会発行)の1998年10月号は、「都市における水循環の再生」を特集としてとりあげていて、水循環再生の必要性を説いた論文を数多く載せています。その中には、船橋市下水道計画課主任技師の高橋潤弐氏も「船橋市海老川流域における水循環再生構想について」という名の論文を書いています。高橋氏は、「下水道の整備に伴い、既存の人口系流出の殆どが流域外の処理場へ運ばれることにより、河川流量が減少してしまうことや、下水管へ地下水が進入することによる地下水位の低下等が懸念されています」とし、「下水処理水を河川維持用水に利用する」、あるいは「処理場で浄化し、再び自然にかえす」という下水道のシステムが水循環再生において重要な役割を担うとしています。そして、こうした観点から、船橋市は「海老川流域水循環再生構想」を進めていると書いています。
 つまり、広大な区域の下水を収集し、巨大な下水管によって処理場へ運び、その処理水を海へ放流する流域下水道は、まったく時代遅れとなったのです。時代の流れは、小規模地域による水循環再生なのです。


●県に代案を提示

 こうした中で、私たちは、県に対して同計画の根本的な見直しを要請するとともに、次の点を代案として提示しました。

(1)計画を3分割し、上流、中流、下流域にコンパクトな終末処理場を建設するなど、水循環再生の考え方で見直しを

 江戸川左岸流域下水道は関宿から市川にいたる大規模な下水道計画で、その結果、関宿、野田、柏、松戸、市川など各市を流れる河川の水量の減少が心配されています。また、最下流でのみ下水を処理するために、東京湾奥部の海域に常時窒素NとリンPの豊富な淡水が大量に流れ込むことによる三番瀬への影響も懸念されます。一方、前述のように水循環の再生が今後の街づくりには欠かせないコンセプトになろうとしています。
 こうしたことから、他県で行われているような流域下水道計画の根本的な見直し、つまり、すでに埋設した下水道管は生かしつつ、たとえば計画を3分割し、上流、中流、下流域にコンパクトな終末処理場を建設するなど、できる限り地域に水を戻して河川水の減少を防ぎ、三番瀬に負担をかけないような計画に変更するよう求めます。
 たとえば、市川市の菅野処理場などを再整備し、将来にわたって活用することもできると思います。そうすれば、広大な用地も必要としないので、終末処理場の建設について埋め立てを前提に考えずにすむはずです。

(2)時間をかけて計画の根本的見直しを

 第二終末処理場の能力を考えると、しばらくの間は第一終末処理場を建設しなくとも間に合います。期間に余裕があるので、今後、精度の高い人口予測などを行い、時間をかけて適正な下水道計画の策定と適正規模の処理場の計画を立てるよう求めます。
 したがって、すでに都市計画決定した地区もあることから、とりあえず市川二期埋め立て計画の中に第一終末処理場の用地を確保することは見送るべきです。

(3)第一終末処理場として都市計画決定されている地区での用地取得に再度努力を

 第一終末処理場として都市計画決定されている地区は、地権者や住民の反対で用地取得が困難になったいう経過があります。しかし現在は、その場所に「行徳富士」と呼ばれる残土の山ができてしまい、近隣住民は困っています。したがって、住民や地権者の考え方も大きく変化している可能性があるので、用地の取得についてもう一度働きかけることを求めます。
その際、処理場の規模を過大なものでなく実態にあわせて小さくできれば、この地区での用地の取得も十分可能と思われます。


●見直し要請と代案提示に大きな反響

 本来は、下水処理は流域下水道によるべきではありません。人口密度の高い都市部では小規模の公共下水道あるいは簡易下水道で、逆に人口密度が小さいところでは各戸に合併浄化槽をつけるというように、地域の条件に応じてさまざまなものが地元の責任でつくられるのがよいのです。しかし、江戸川左岸流域下水道計画はすでに26年前に工事がはじまり、下水道管や終末処理場の整備も進んでいます。
 こうした中、私たちは、現実的な代案として前述のような提案を提示しました。この代案は、マスコミがとりあげるととともに、各界から注目されています。県職員からも「現実的で、的を射た提案だ」などという声が寄せられています。
 私たちは、今回の要請に対する県の回答を受けて、さらに代案などの検討を深め、県交渉などを進めていくことにしています。本稿をご覧のみなさんが意見を寄せてくださるようお願いします。



要請書



1999年4月16日

 千葉県知事 沼田 武 様

千葉県自然保護連合
千葉の干潟を守る会
市川緑の市民フォーラム
三番瀬を守る署名ネットワ−ク


江戸川左岸流域下水道計画についての質問及び要望

 千葉県の発展のために日頃よりご尽力いただき、ありがとうございます。
 さて、三番瀬埋立て計画について、現在、千葉県は縮小案を検討しています。当初予定されていた京葉港二期については先送りのような状態となり、当面、市川二期埋立て計画が焦点になっているのではないかと考えております。しかし、この市川二期埋立て計画も、ゴミ処分場予定地については、藤前干潟が保全される経緯の中で消え去り、第2湾岸道路も建設省が埋立てを前提としないことを公にしたので、縮小案を検討するにあたり、江戸川左岸流域下水道計画の終末処理場の問題がもっとも大きな問題であると考えています。
 この流域下水道計画は、阪神大震災以降、延長100kmにも及ぶことがある流域下水道計画そのものが、あるいは下水道本管の最下流部に巨大な終末処理場を建設することが必ずしも今後の都市基盤整備に好ましい形ではないということが明らかになってきました。一方、都市化の中で失われつつある自然な水循環を地域に回復することの大切さが指摘されきています。このような状況の中で、建設省はすでに流域下水道計画の推進については大きく方向転換していますし、国内には当初の流域下水道計画を分割し、すでに建設された下水道本管は生かしながら、規模の小さな終末処理場を複数建設するなど、計画を大きく軌道修正している地域も出てきています。
 そこで、三番瀬埋立て計画にも関連する江戸川左岸流域下水道計画について、私たちは貴職に対して次のような質問と要望を持っています。質問に対しては文書でお答え下さい。また、要望については十分検討され、第3回の計画策定懇談会が開催される前にどう検討されたかをお知らせ下さい。よろしくお願いいたします。


質 問

  1. 江戸川左岸流域下水道計画はすでに約2200億円が投入されていますが、もしこのまま計画通りに建設をした場合、あと何億円の資金の投入が必要になるのでしょうか?

  2. 第一終末処理場の規模については、過大な人口予測と過大な水道水消費量をもとに、非常に大規模な計画になっているようです。その点いかがお考えですか?

  3. 第2終末処理場が現在稼働しておりますが、この処理場の能力と流入水量から考えたとき、あと10年以上は第2終末処理場で十分に対応できると思うのですが、その点についてはいかがですか?

  4. 連絡幹線を利用し、江戸川左岸の水を印旛沼流域下水道に送り処理すれば、さらに時間的な余裕があると思いますが、いかがですか?


要 望


  1. かつて第1処理場として都市計画決定した地区は地権者や住民の反対で用地取得が困難になったと聞いております。しかし、その場所に現在「行徳富士」と呼ばれる残土の山ができてしまい、近隣住民も困っているようです。したがって、住民や地権者の考え方も大きく変化している可能性がありますので、用地の取得についてもう一度、ご尽力下さい。(終末処理場の規模を小さくできれば、この地区での用地の取得も十分可能と思います)。

  2. 江戸川左岸流域下水道は関宿から市川に至る大規模な下水道計画で、その結果関宿、野田、柏、松戸、市川など各市を流れる河川の水量の減少が心配されます。また、最下流でのみ下水を処理するために東京湾奥部の海域に常時窒素NとリンPが豊富な淡水が大量に流れ込むことによる三番瀬への影響も懸念されます。
     一方、水循環の再生が今後の街づくりには欠かせないコンセプトになろうとしています。そう考えると、他地域で行われているような流域下水道計画の根本的な見直し、つまり、すでに埋設した下水道管は生かしつつ、たとえば計画を3分割し、上流、中流、下流域にコンパクトな終末処理場を建設するなど、できる限り地域に水を戻して河川水の減少を防ぎ、三番瀬に負担をかけないような計画に変更できないでしょうか?
     たとえば、市川市の菅野処理場等を再整備し、将来にわたって活用することもできると思います。そうすれば、広大な用地も必要としないので、終末処理場の建設について埋立てを前提に考えずにすむのではないでしょうか?
     是非、そのような方向で計画を変更していただけるよう要望します。

  3. 第2終末処理場の能力を考えると、しばらくの間は第1終末処理場を建設しなくとも間に合うと考えています。したがって、今後、精度の高い人口予測等を行い、時間をかけて適正な下水道計画の策定と適正規模の処理場の計画を立てていただきたいと思います。したがって、すでに都市計画決定した地区もあることですから、とりあえず市川二期埋立て計画の中に第1終末処理場の用地を確保することを見送るべきであると考えます。


 なお、質問に対する回答は4月中に、要望に対する見解は第3回計画策定懇談会が行われる前にお願いいたします。



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