〜1999年1月12日付け朝日新聞の社説〜
東京湾の最奥部に残る干潟、三番瀬の埋め立て計画を、千葉県が進めている。
臨海開発の名の下に、東京湾では、すでに干潟の9割が埋め立てられてしまった。わずかに残った三番瀬は、この上なく貴重な存在である。
干潟は豊かな漁場であると同時に、渡り鳥のえさ場でもある。水質浄化の役割も果たす。何としても保全する必要がある。
江戸川の河口に広がる三番瀬は、船橋市と市川市にまたがる。県が1993年に発表した計画では、約1200ヘクタールのうち740ヘクタールを埋め立てることになっていた。
住宅、広域下水道の終末処理場、コンテナ港、産業廃棄物処分場、第二湾岸道路、人工海浜公園の用地造成が目的だ。1兆円を超える事業規模を見込んでいた。
ところが、財政難に加えて環境保全を訴える市民運動の高まりもあり、埋め立て面積を500ヘクタール程度に縮小せざるを得なくなっている。コンテナ港の建設取りやめを表明した県は、事業見直しのための「計画策定懇談会」を昨年10月に発足させた。
事業による環境への影響調査をもとに、昨年末までに見直し案を示す予定だったが、調査のとりまとめが遅れたため、結論はことしに持ち越された。
県は、事業の見直しには応じながらも、計画そのものの撤回は拒否している。計画は白紙に戻し、三番瀬を保全する手立てを積極的に検討すべきなのではないか。
そもそも事業自体の必要性に強い疑問がある。埋め立ての構想は、高度経済成長時代から何度もあった。93年にできた計画は開発優先の考え方の延長線上にあり、時代にそぐわなくなっている。
企業施設や住宅用地は余っている。下水道の終末処理場は、もともと別の場所につくるはずだった。土地も用意されている。第二湾岸道路の建設にしても、ルートや工法を見直す余地があるはずだ。
埋め立てで最も懸念されるのは、いうまでもなく環境への悪影響である。
稀少な水鳥や魚が生息しているうえ、シギやチドリの渡りの中継地である◆稚魚の生育地として価値が高い◆バクテリアなどの分解作用で、13万人分の下水処理場と同じぐらいの水質浄化能力がある−−
干潟を価値のない単なる浅瀬ととらえる時代は去った。名古屋港の藤前干潟でも、ごみの埋め立て処分場を建設する計画が撤回を余儀なくされようとしている。
いま千葉県がなすべきは、時代遅れの計画を推し進めることではあるまい。
「生命の揺りかご」といわれる干潟を保全する。さらには、自然が損なわれた海岸線で、干潟を復活させる事業に取り組むことこそ、その使命であろう。
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