〜1999年6月10日付け朝日新聞の社説〜
東京湾の干潟、三番瀬の埋め立てを計画している千葉県が、計画を縮小した見直し案を公表した。
三番瀬は日本有数の水鳥の飛来地として知られている。約740ヘクタールを埋め立てる当初計画では、渡り鳥のえさ場と休息場が失われ、貝などの生きものが半分になるなど、自然環境に与える影響の大きいことがはっきりしていた。
このため県は、商業用地、宅地、廃棄物処分場をやめるなどして、埋め立て面積を小さくした。
埋め立て面積を当初計画の7分の1以下、約101ヘクタールにする縮小案では、渡り鳥への影響はほとんどなく、生物への影響も1%にとどまる、と千葉県はいう。
だが、この案にも疑問点がある。
たとえば、「街づくり支援」で25ヘクタール、「公園緑地」で22ヘクタールを埋め立てることにしていることだ。
住宅地にある工場を移転させたい、という考え自体は理解できる。しかし、その用地を確保するために、貴重な干潟を埋め立てるというのは、いかがなものか。
公園緑地用地はさらにおかしい。自然のままの干潟と芝生を張った公園と、どちらの方が住民の憩いの場になるだろうか。
見直し案がなお問題なのは、「第二東京湾岸道路」の用地を、依然として埋め立てで確保しようとしていることだ。
東京都と千葉県との自動車交通量の増大を考えれば、第二湾岸道路は必要かもしれない。
見直し案は、当初計画よりルートを陸に寄せて、埋め立て地を走る部分が少なくなったが、ルートをさらに変えたり工法を工夫したりすれば、ことさら埋め立てなくてもよくなるのではないか。
自然の干潟をつぶす代わりに、人工干潟をつくる、という提案にも首をかしげたくなる。
人工干潟はすべてだめ、というのではない。コンクリート護岸がそそり立ち、海辺に出られない。そんな場所に砂浜を取り戻すのは悪くないだろう。
だが、人工干潟の生物相は、自然の干潟より劣っているという調査結果がある。代償措置の導入を、埋め立ての免罪符にするべきではあるまい。
三番瀬の埋め立て計画は、740ヘクタールの当初案以後、500ヘクタール、150ヘクタール案が伝えられ、今回は101ヘクタールである。
バナナのたたき売りのようなことになってきたのは、なぜそこを埋め立てなければならないか、の必然性や説得力に欠けるためではなかろうか。
千葉県の沼田武知事は「他地域で代替できないものに限る」としてきた。その考え方に沿えば、埋め立てにこだわる根拠は薄いといわざるを得ない。
この際、千葉県は埋め立て計画そのものを思い切って撤回すべきだと思う。そして、湿地保全の対象となるラムサール条約の登録地指定をめざしてはどうだろう。
中途半端な計画にこだわるより、環境保全の旗を掲げた方が、国内外の評価は高まるはずである。
千葉県は、三番瀬の現況と、埋め立てた場合の影響について、月日と労力をかけて調査報告書をまとめた。
役に立たないと思い込んできた干潟は、かけがえのない湿地だった。調査は私たちに、そんな発見をもたらしてくれた。
沼田知事の決断に期待したい。
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