〜1999年6月19日付け毎日新聞の社説〜
水鳥の飛来や潮干狩りで親しまれてきた干潟の価値を見直す機運が急速に高まっている。国内最大級の干潟を誇った長崎県・諫早湾の湾奥部が2年前に干拓事業で閉め切られたことがきっかけとなった。
今年1月には、日本一の渡り鳥の飛来地である名古屋港・藤前干潟の埋め立て計画が、環境庁の反対で名古屋市によって白紙撤回された。
東京湾最奥部に残された干潟「三番瀬」(千葉県市川市、船橋市沖)で千葉県が検討してきた埋め立て計画も大詰めを迎えている。
シギ、チドリ類の飛来地で知られる三番瀬の干潟1200ヘクタールのうち3分の2近い740ヘクタールを埋め立て、下水道終末処理場や廃棄物最終処分場の建設のほか、公共ふ頭整備を図るというのが当初の計画だった。
だが、千葉県は干潟保全の声の高まりと現在の経済情勢を考慮し、今月9日に埋め立て面積を7分の1の101ヘクタールに縮小すると発表した。この案が学識経験者らによる計画策定懇談会で19日に論議される。
千葉県は「これで三番瀬の主な干潟は保全できる」と自信を示す。一方で自然保護団体からは「縮小と言っても、藤前干潟で計画された埋め立て面積の2倍以上になる」と批判の声が上がる。
開発の波に乗って東京湾の干潟の9割は埋め立てられた。三番瀬も1期計画で327ヘクタールが埋め立てられ、現行の2期計画は1993年に示された。千葉県はその後、約3年かけて埋め立てによる影響を調査した報告書をまとめ、公開シンポジウムで住民の意見を聞いたりした。
住民と一緒に考え、柔軟に計画を見直す姿勢は評価できる。それでも縮小案は十分とは言えない。
縮小案では代替地確保が難しい下水処理湯、交通渋滞を緩和する第2東京湾岸道路、公園緑地などの用地に限るという。だが、これらの施設が今なぜ必要で、埋め立て地以外での建設は無理なのか、明確な根拠は示されていない。
第2東京湾岸道路については建設省は「埋め立てを前提としない」と言い始めたし、埋め立てて造る公園緑地よりも自然の干潟のほうがどう考えても優れているだろう。
縮小によって主な干潟は保全され、水鳥や底生生物への影響はほとんどなくなるというが、これも専門家による詳細な検討が欠かせない。
市川市沖に約60ヘクタールの人工干潟を造る計画も疑問である。確かに市川市側は直立護岸で市民が干潟で憩える状態ではないが、環境庁は「人工干潟で成功した例はない」と言う。
千葉県は縮小案を「議論のたたき台」と位置付ける。埋め立てはやめてどうしても必要な施設は別の場所に建設する決断も念頭に、専門家や住民と対話を続けてほしい。
5月に中米コスタリカで開かれたラムサール条約第7回締約国会議では、減少が著しい干潟の保全決議が採択された。三番瀬の数キロ先にはラムサール条約の登録地の谷津干潟がある。二つの干潟は水路で結ばれ、水鳥も行き来する。
三番瀬の埋め立ては谷津干潟にも影響を及ぼす。ここは三番瀬もラムサール条約に基づいて登録し、二つの兄弟干潟を守っていくことが千葉県、いや日本に課せられた責務ではないか。豊かな干潟を保全する流れを確かなものにしたい。
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