(財)日本自然保護協会が
千葉県知事に意見書を提出
(財)日本自然保護協会は、(1999年)6月17日、三番瀬埋め立て計画の見直し案を発表した県に対し、計画を再検討するよう求める意見書を提出しました。
意見書の内容は次のとおりです。
11日自然第31号
1999年6月17日
千葉県知事 沼 田 武 様
財団法人 日本自然保護協会
会 長 沼 田 眞
理事長 奥 富 清
三番瀬埋め立て計画(市川二期・京葉港二期)見直し案
に対する意見書
(財)日本自然保護協会は、これまで、三番瀬埋め立て計画は自然保護上大きな問題があることを指摘し、その保全を求め、意見を述べてまいりました。これは3通目の意見書となります。
当協会は、千葉県が、千葉県環境会議の提言に基づき三番瀬補足調査を実施するなど、計画段階での環境アセスメントに取り組むものとして、その県の姿勢を評価しています。
環境影響評価法が施行され、新しい環境アセスメントが始まった今、千葉県は環境への影響の回避を徹底的に追求し、三番瀬保全を全国の干潟・浅瀬保全及び環境アセスメントのモデルとするよう期待しています。以下に見直し案に対する評価及び意見を申し述べます。
T.見直し案についての評価
本年6月9日に千葉県から発表された三番瀬埋め立て計画の見直し案(以下見直し案)について、当協会は、自然保護の観点から以下のように検討、評価しました。
1.土地利用の必要性が十分検討されたとはいえない
見直し案は、縮小しても100haもの干潟・浅瀬を埋め立てる大規模事業であることに変わりなく、三番瀬及び東京湾の水環境、生態系へ与える影響は依然として大きい。
しかし、見直し案には、なぜ埋立地でなければならないかに関する具体的な説明がなく、埋め立て面積の算出根拠も明らかでない。埋め立てはもちろん、個々の建造物が与える環境への影響、需要の将来予測、目標に対する効果予測、財政措置等についての具体的な説明もなされていない。これでは、1995年に千葉県環境会議から出された提言「三番瀬の環境上の価値を損なわないよう、個々の土地利用の必要性について十分吟味すること」に、応えたものにはなっていない。
2.三番瀬の干潟・浅瀬生態系に影響が大きい
<市川側奥部の環境の評価>
三番瀬は、一連の多様な底質環境をもち、それに適応して多様な生物が生息しているのが特徴である。
補足調査結果からも明らかにされている通り、90haもの面積を埋め立てるとされた市川側奥部の干潟・浅瀬は、広い静穏な浅瀬の一角をなし、泥質の底質に適応した多様な底生生物(ヨコエビ類、ホトトギスガイ等)が生息している場所である。これら多様な餌生物の存在は多様な魚類の生息を支えている。なかでも稚魚にとっては、捕食される危険が少なく、さまざまな発育段階で利用できる重要な生育場となっている。
水質浄化の面においては、COD浄化量が大きく、脱窒の前段階にあたる有機物分解の二次処理的機能を果たし、三番瀬内の他の海域での脱窒に寄与している。さらに、スズガモによる採餌、底泥への堆積・不活性化は、他の海域よりも大きい値を示し、浄化に貢献している。
また、現在その堆積が問題となっているアオサも、分解されて底生生物の餌となるほか、春〜秋の成長期には水中の栄養塩を固定し、水質浄化に寄与していることから、水質改善策に取り入れて活用することも考えられる。
ここを埋め立てることは、一連の三番瀬の干潟・浅瀬の生態系及び物質循環を分断することであり、多様な環境と生物、アサリ漁業等の人間活動が微妙なバランスを保ちながら関係し合い成り立っている三番瀬全域の生態系に重大な影響を及ぼす恐れが強い。
この海域こそ、今ある自然の力を引き出し、三番瀬・東京湾の自然環境の回復に活用すべき場所である。
見直し案では、「環境への影響は非常に小さい」としているが、その科学的根拠は明らかにされていない。
3.人工干潟は自然の干潟・浅瀬に代わるものではない
自然の干潟・浅瀬を埋め立てて「海へのパブリック・アクセスを確保するための人工海浜(干潟)及び公園・緑地」を造成することは、干潟・浅瀬という貴重なオープンスペースの喪失、一連の干潟・浅瀬生態系の分断を招くことになる。干潟・浅瀬が果たしている水質浄化、気候調節、生物多様性保全等の機能を減衰させ、環境悪化を招く。
三番瀬の干潟・浅瀬の生態系は、その自然誌的な歴史性、浄化機能、生物多様性、人との関わり、景観などどれをとっても人工的な技術で代替できるものではない。人工干潟は、面積・地形等の維持、生物の現存量・多様性、シギ・チドリ類への餌生物供給能力、水質浄化能力、維持等にかかる費用など全ての面で自然の干潟に及ばず、これまでに人工干潟の成功例は報告されていない(人工干潟調査報告書、1999)。
4.東京湾の水環境・生態系への悪影響を加速する
東京湾は、現在激しい汚濁のため、その水質改善が大きな課題となっている。その解決には、多様な生物が関わりあって成り立つ自然の浄化機能をもった現存の干潟・浅瀬をこれ以上減らさないこと、すでに人工的に改変された海岸線を自然の干潟や浅瀬の環境に近づけ回復を図ることこそが必要である。
100haという見直し案の埋め立て面積は、現存する東京湾の干潟・浅瀬(約3000ha)の約3%に相当する。
この見直し案のまま三番瀬を埋め立て、これ以上東京湾から干潟・浅瀬を失うことは、東京湾の環境悪化を加速することであり、これまで各方面で実施されてきた東京湾の水環境・生態系回復の努力を無にすることにもつながりかねない。
5.鳥類、特に多国間を移動する渡り息への影響が懸念される
市川側奥部、京葉港の埋め立て予定地は、二枚貝類を主要な餌とするスズガモ等のカモ類(冬季)、カンムリカイツブリ等の魚食性の水鳥が多く利用していることが知られている。また、シギ・チドリ等渡り鳥にとって、干潟・浅瀬は、羽を休め、餌を探る大切な場である。干出状況によって使い分けることができるなど一体的に利用できる広がりをもった干潟・浅瀬の存在が重要である。
見直し案では、「影響はほとんどない」としているが、第二東京湾岸道路による谷津干潟、行徳野鳥保護区等との移動の阻害や、騒音・照明等の影響も含めてその影響が明らかにされた上での結論とは認め難い。
6.第二東京湾岸道路は、景観・人と自然との豊かな
触れ合い活動に与える影響も大きい
環境影響評価法による新しい環境アセスメントでは、新しく「人と自然との豊かな触れ合い」項目が入ることになった。
見直し案では、第二東京湾岸道路は、三番瀬の一部を橋脚用地として埋め立て、水際に沿って通過することになっている。水際は人が三番瀬の自然と触れ合う際に最もよく利用される場である。例えば船橋海浜公園は、自然観察会やバードウォッチング、子どもの水遊び、潮干狩り等豊かな触れ合い活動の場として利用されている。このような場を道路が通過することで、三番瀬の景観は著しく損なわれ、自然との触れ合いを楽しむ人に及ぼす精神的な影響は多大である。
見直し案は、これらの影響について全く評価していない。
以上、三番瀬に関しては、@三番瀬干潟・浅瀬生態系の維持、A東京湾の水環境・水質浄化機能の維持、G特に渡り鳥の利用環境の保全、C自然景観・人と自然との豊かな触れ合い活動の場の保全、が確保されなければならないことから考えると、この見直し案がこれらの点を十分考慮して作られたとは認められない。
U.見直し案に対する意見
当協会は、以上のような基本的な認識と評価に基づき、三番瀬埋め立て計画見直し案に対して、以下のとおり意見を述べます。
1.100haもの埋め立て計画は自然環境への影響が大きく、
見直したことにはならない。
埋め立てを伴わない代替案を検討すべきである。
環境影響評価法では、環境基本法の理念に基づき、環境への影響の回避を徹底させるために、複数案(ゼロ案も含む)の比較検討とその過程の合理的で明快な説明を求めている。
見直し案では、環境への影響を740haの埋め立て計画と比較して少ないものとしているが、埋め立てを伴わない計画との比較検討が必要である。
下水道終末処理場、公園・緑地などの機能は、三番瀬の干潟・浅瀬そのものが「環境サービス」として無償で行っている機能であり、埋め立てない案と見直し案を比較すれば、見直し案が環境に与える影響が大きいのは明らかである。
したがって、三番瀬の自然環境への影響を回避するために、埋め立て規模の違いだけでなく、埋め立てを伴わない代替案を含めて比較検討が行われなければならない。
2.「人工海浜(干潟)、公園・緑地」は、自然の干潟・浅瀬を
埋め立てて造成すべきではない
もともと人工海浜、人工干潟は、すでに自然が失われたような環境の質の低い場所において、その環境の質を高める目的で造成されるものであり、質の高い自然を壊して造るものではない。
三番瀬は価値の高い自然であり、現存するこのような干潟・浅瀬は、保全することが最優先されなければならない。
したがって、人工海浜・人工干潟が三番瀬を埋め立てるための代償措置、ましてや埋め立てによる土地利用そのものの目的になることはありえないことと言える。
3.三番瀬の環境の回復、健全な漁場・人々が三番瀬の自然と
触れ合う場の確保についての議論は、埋め立てを前提とせず
「海からの発想」で行うべきである。
三番瀬の環境を回復し、健全な漁業が営める場及び人々が三番瀬と触れあえる場を確保することは重要な課題である。
しかし、埋め立てを前提とした上での環境回復に関する議論は、開発の免罪符にしかなりえない。
三番瀬の環境回復を考えるには、まず将来にわたる三番瀬の保全と利用のあり方について、情報公開と市民参加を保障した上で十分議論することが必要である。そして、それに基づき陸上部の都市計画を見直すというように、これまでの「陸からの発想」から「海からの発想」へと切り替える必要がある。
以上
* 環境基本法は、その理念に「現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が維持されるように」と環境保全の必要性を説き、環境基本計画では、人間が多様な自然・生物と共に生き、環境への負荷の少ない持続可能な社会に変えていくための施策を定め、あらゆる場面においてそれが推進される必要性をうたっている。
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