三番瀬埋め立て見直し案で

 日本湿地ネットワークが

 千葉県知事などに意見書




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 全国的に干潟の保全運動を展開する市民団体「日本湿地ネットワーク」(山下弘文代表)は、三番瀬埋め立て計画の見直し案を発表した千葉県知事と県環境会議会長、計画策定懇談会座長あてに意見書を提出しました。
 意見書は、見直し案による埋め立て対象地は「漁業、生物多様性、海岸保全、レクリェーション、教育、水質に関して重大な経済的・環境的価値を持つ場所であり、保全の方向を追求すべき湿地」であり、ラムサール条約第7回締約国会議決議の各項目と仔細に照らし合わせて再検討の必要がある、などとしています。
 意見書の内容は、次のとおり。





1999年6月17日

 千葉県知事       沼田 武 様
 千葉県環境会議  会長 林雄二郎 様
 市川二期地区・京葉港二期地区
  計画策定懇談会 座長 黒川 洸 様

日本湿地ネットワーク
代表委員  山下弘文
代表委員  辻 淳夫


東京湾三番瀬の保全に関する見解

 日本湿地ネットワークは、1993年釧路において開かれた「特に水鳥の生息地としての湿地の保護に関する条約(ラムサール条約)」第5回締約国会議を前に1991年に設立された全国各地の湿地保護団体のネットワークです。私たちは今年初めに名古屋市が保全を決定した伊勢湾藤前干潟をはじめとした各地の湿地保護や回復運動の強化、全国レベルの湿地保護運動、国際的な湿地保護運動の支援を行うことを目的として活動しています。

 ご存知の通り、去る5月10日から18日まで中央アメリカのコスタリカの首都サン・ホセで湿地に関するラムサール条約第7回締約国会議が開かれました。日本湿地ネットワークからの代表も、決議権を持たないオブザーバーとして参加し、発言、非公式ワークショップなどの形でわずかながら会議に貢献してまいりました。会議では、1993年釧路での第5回締約国会議以来破壊の危機が報告されていた藤前干潟の保全決定を日本政府が報告して、開発計画が保全に転換されたことについて会場からの称賛を受けました。これに続けて、私たちはこの保全が政府、NGO、そして世界の人々との協力によるものであること、日本にはさらに三番瀬をはじめとする開発計画が続行中であることを伝え、保全の方向が確定するよう更なる協力を訴えましたが、大きな支持と共感の拍手を得ました。このことを通して、私たちは、日本における開発計画の行方が世界中のNGOのみならず各国政府の関心事であり、憂慮の的であることを実感してまいりました。

 この会議の結果を踏まえ、今回千葉県が発表された「市川二期・京葉港二期計画の見直し案」について、私たちの考えをお伝えいたします。策定懇談会、環境会議への提案に際し十分にご考慮いただくよう要請いたします。



1.当初計画面積の縮小は、環境保全という千葉県の
  姿勢を示すものとして歓迎します。

 補足調査の実施とその延長という千葉県の決断は、それまでの日本のアセスメント制度を越えた先進的な取り組みでした。当時の法制度の下で千葉県が設置した環境会議は、去る6月12日に施行された新しい環境影響評価法を先取りしたものでした。従って、その結論によって行った「補足調査の結果に基づいて、三番瀬の主要な干潟を保全」するとして計画を縮小したことは、三番瀬の環境を保全する千葉県の決意を示すものとして、その決意を評価したいと考えます。
 また、道路のルート変更により「環境への影響を減らし、また海へのパブリックアクセスを確保」することで「人の利用と環境への影響の緩和をめざ」す、という千葉県の意図は、ラムサール条約の湿地の「賢明な利用(持続可能な利用)」の精神とも通じているものと信じております。この見直し案は計画策定懇談会、環境会議へ提案され、意見を取りいれて修正がなされるものと考えておりますが、最終の決定がなされるまでの過程において、世界の多くの経験と知恵の結晶である、条約の「湿地の賢明な利用」という精神が生かされるよう心から願っております。



2.ラムサール条約締約国である日本には
  干潟の保全が求められています。

 ラムサール条約においては、第4条1項に、「各締約国は、湿地が登録簿に掲げられているかどうかに関わらず、湿地に自然保護区を設けることにより湿地…の保全を促進し、かつその自然保護区の監視を充分に行う。」と、登録地に関わらずすべての湿地の保護をうたっています。そして補足調査は、三番瀬が登録地である谷津干潟とともに条約の「国際的に重要な湿地」の基準を満たし、日本の政府と国民すべてがその保全を図るべき責任を有する干潟であることを明らかにしました。
 また今回採択された「潮間帯湿地の保全と賢明な利用の促進に関する決議」(資料。文書COP7.15.22)は、干潟を含む潮間帯湿地を保全し賢明な利用を促進するよう求めて、締約国に対し

    「過去の消失面積を記録し、現存する湿地の目録を作成し…第8回締約国会議に報告する」こと、
    「悪影響を与える…政策を見直しして変更し、…長期的保全策を導入するよう検討」すること、
    「より多くの数と面積の…特に干潟を国際的に重要な湿地として特定し登録すること」、
    「海岸湿地に有害な…活動の拡大や新規施設の設置や促進を、…環境的社会的な影響評価を通じて環境と地域住民と調和した持続可能な…システム…が見つかるまで停止する」こと、

 を求めています。

 見直された101ヘクタールの市川二期・京葉港二期工事計画の対象となっている部分もやはり三番瀬干潟に含まれ、漁業、生物多様性、海岸保全、レクリェーション、教育、水質に関して重大な経済的・環境的価値を持つ場所であり、保全の方向を追求すべき湿地です。従って、今回の見直し案に関しても、上記決議の各項目と仔細に照らし合わせて検討がなされる必要があります。




3.人工干潟は、現在ある自然を壊して作るべきものではありません。

 見直し案は、「豊かな東京湾の自然と接することができるようにするため、公園緑地と一体となった人工海浜(干潟)による海へのパブリック・アクセスを確保する」としています。確かに垂直護岸の解消は意味があることではありますが、その他に人工海浜を「整備する」とすれば、それは整備ではなく、現存する海岸湿地に手を加えて造成することであり、問題があるといわねばなりません。
 締約国会議の「決議:保全と賢明な利用のための国家計画の要素としての湿地の再生」(文書COP7DOC15.17)は、

「湿地の再生と造成は自然の湿地の消失に置き換えられるものではないのであるが、また湿地の消失を避けることが最優先であるのだが、湿地の再生が…持続可能であれば、自然湿地の保護と並行して追求されるとすれば湿地再生の国家計画が、人々と野生生物の双方にとって…有益性をもたらす」
 ことであるとしています。ここでは、まず自然の湿地の保全が第一であること、また、単独ではなく自然湿地の保護と合わせて追求すべきであることを説いています。そして、保全と、再生、造成は国家計画の要請として考えられるべきであるとしているのです。また、この決議の付属書を湿地の再生または回復のための指針として採用することを求めています。そこでは関係する全ての人々を含んだ検討と影響の評価、そしてモニタリングを要求しています。
 見直し案において「人工海浜(干潟)の整備後は、適宜モニタリングを行いながら、必要な対策を検討する」とされていることが、「整備」によって環境が破壊されることのないようにしたいとの意図であれば評価できることです。しかし採用の前に、それが整備であるか造成であるかについての影響の評価は、欠くことができません。補足調査はこの「整備」による影響については守備範囲の外にあります。いったん壊してしまった自然はそれ以上のものを人の手によって作ることができないのですから。「人工海浜(干潟)を整備」するとすれば、ぜひ事前に、関係するすべての人々を含んだ検討と影響の評価を行うべきです。モニタリングは、これが行なわれて初めて意味を持ちます。
 また今回の見直し案で人工海浜は重要な要素であるのに、その位置と面積を明確に示さないことは、提示した千葉県の姿勢に対する信頼を失わせるものであることも指摘しておきます。
 湿地の再生、造成は現在利用されていない、または利用の少ない埋め立て地を、失われた90%の東京湾の湿地を取り戻すために再生することをまず追求すべきです。現在ある自然の湿地を直ちに人工海浜で置き換えても決して現在の湿地を超えるものにはなり得ないことは既に世界の常識であり、この決議もまた指針も共にこの常識に基づいています。




4.ぜひ、できるだけ多くの、そして多岐にわたる
  関係者を組み込んで検討をしてください。

 法に定められていなかったにもかかわらず、独自に環境会議を設置し、また非政府団体(NGO)もメンバーに加えた計画策定懇談会を通して、計画についての意見を広く求めようとする干葉県の姿勢は大いに評価されるべきです。しかしそこでの話し合いに関わらず県の計画がそのまま通るのだとすれば、県のこの姿勢は単なるポ−ズであり、隠れみのであるとの判断が下されるでしょう。
 ラムサール条約は、1990年スイスのモントルーでの第4回、1994年釧路で開かれた第5回締約国会議以来、保全のための管理計画に地域住民を組み込むことで湿地保全が達成されることを主張してきました。今回の「決議:湿地の管理に地域住民、先住民の参加を確立し、強化するための指針」(COP7 DOC15.8)は締約国に対して、

 「ラムサール登録地およびその他の湿地の管理と、地域、水系単位、また国家レベルの賢明な利用の実施に、積極的かつ十分な情報提供を前提とした地域社会、先住民の参加を奨励するように指針を活用することを求め」、

 また付属文書の指針は、

 「地域住民と先住民を参加させ、賢明な利用をする二とが重要であり、最終的にはそのことよる利益を全員が受けることになる」、「利権保持者の間の信頼関係が大切である」

と説いています。
 千葉県が三番瀬の環境の保全とその賢明な利用を追求するということが単なる見せ掛けの姿勢でないとすれば、見直し案の検討にあたっても、できる限り広範囲の人々を含んで、できる限り賢明な利用ができるようにすべきであるし、また現在の計画策定懇談会、環境会議に関しても、できる限りその議論を公開することが参加の原則に従い、信頼形成に資するやり方です。
 自然海岸の90%が失われてしまった東京湾の最奥部にわずかに残った三番瀬の干潟を、人と自然が持続的に享受するよりよい利用の方法は、開発の推進をする人々も、埋立に反対の立場を表明する人々もすべてが協力して、参加と公開の原則に従って、共に追求する中から生まれます。見直し案に盛り込まれた各事業に関しても、この貴重な湿地の保全を第一として共に知恵を出しあうことによって、必ずや破壊を避ける方策を見出すことができると考えます。行政、市民が一体になって努力を続けることができるよう、ぜひ議論の公開と市民参加のための方解を推し進めていただくよう要請いたします。そして、埋め立てという後戻りのきかない利用方法を撤回するという、勇気ある、そして栄誉ある判断を貴職がなされるよう願っております。


「湿地と人間−いのちのつながり」

 これは、この度の締約国会議のテーマでした。三番瀬の生きた干潟と人間はつながっています。今、世界の人々から、日本政府、千葉県、市民、漁民、農民、商工業者、労働者、地域保護団体、そして市民保護団体(NGO)を含む私たち全てに求められていることは、自然の保全を優先させる「賢明な利用(持続可能な利用)」の実例です。私たちが子孫と共有している地球を、私たちの子孫にとって住みやすいものとしていくために、人類と、全てのいのちのつながりのために、耳を傾け合い、最も賢明な利用の方策を共に探りましょう。







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