三番瀬埋め立て問題で県と交渉
「三番瀬を守る署名ネットワーク」は(1999年)8月31日、三番瀬埋め立て問題で千葉県と交渉をおこないました。これは、署名ネットが6月16日に提出した意見書に対して県の回答を求めて行ったものです。
なぜ交渉が2カ月以上も遅れたかというと、県側が交渉参加者の人数や交渉時間についてきびしい条件をつけ、これをめぐって時間がかかったからです。
交渉には、署名ネットが10人、県側は、企業庁臨海建設課葛南地区計画室の岡野室長、同課の瀧 口主幹、都市部下水道計画課の長谷川主幹、土木部港湾建設課の細田主幹が出席しました。
最初に、岡野室長から意見書に対する回答がありました。
- (1)流域下水道処理場を三番瀬につくる理由
- 下流に処理場を2カ所つくることが効果的であり、地域整備の理由による。
- (2)都市再開発用地として25ヘクタール配置したことの理由
- 企業30社と住工混在地区にアンケートをとった結果による。
- (3)公園緑地(22ヘクタール)の必要性と影響
- 地元の要望で景観と海へのアクセスを考慮して計画した。
- (4)第二東京湾岸道路の必要性
- 渋滞を解消するために必要。浦安、習志野両市は、すでに用地が確保されている。なお、道路用地は、干潟への影響を考慮して内陸側にもってきた。
- (5)京葉港埋め立て予定地には、希少種のカンムリカイツブリ、天然記念物のコクガンがいて、鳥類への打撃が大きい。
- 平成9年の5月と8月に補足調査をした時には、カンムリカイツブリは認められたが、コクガンは認められなかった。
- (6)人工海浜(干潟)は曖昧な表現である。むしろ陸を削るべきで、60〜70ヘクタールの人工海浜(干潟)造成は環境への影響が大きい。
- 漁場環境の改善とパブリックアクセスである。勾配を120分の1にすると、60〜70ヘクタールは必要になる。
- (7)猫実川河口域90ヘクタールの埋め立ては、環境への影響が大きい。
- 有機物の流入とアオサの腐敗により猫実川河口域は底質の悪化が続いている。
- (8)底生動物の湿重量の減少を1%(個体数の減少は13%)とするなど、環境への影響を意図的に小さく描こうとしている。
- 個体数、湿重量とも、現在、検討している。
- (9)事業費に関する説明がなされていない。個々の事業費と財源を具体的に示すべきだ。
- 計画が確定した時点で事業の収支を行う。
- (10)見直し案に対する環境影響予測の調査を行わずに、計画案を決定すべきでない。資料を全面開示すべきだ。
- 影響予測調査は127ヘクタールでやっている。補足調査専門委員会の指導で資料を開示している。
以上が、岡野室長からの回答です。文書を見ながらの回答だったので、その文書をいただきたいと求めたら、「これはメモ的なもので」ということでした。瀧口氏は、「今回は話し合いということだったので、文書での回答はしない」と、なんとも杓子定規的な返事をしました。
◇ ◇
次に、県回答をめぐってやりとりをしましたが、時間がなく、一部の問題についてしか話し合いができませんでした。やりとりの一部を紹介します。
●下水処理場について
【県】 皆さんは下水処理場は上流域、中流域に建設すべきというが、処理場は最低20ヘクタール必要で、東葛地区には10ヘクタール以上の空地はない。下水処理場を上流にもってくることについては、住民の反対が強い。都市計画された第一処理場予定地(産廃投棄でできた「行徳富士」がある場所)は、地権者がいりくんでいて買収はできない。
【ネット】 防災上からもライフラインは分散すべきだ。下流に大規模なものをもってくるのは危険である。
【県】 防災面については、連絡幹線でネットワーク化している。
【ネット】 水循環の思想はどこへいったのか。
【県】 今は水循環よりも地域整備が第一だ。処理場を分散すれば、上水道に処理水が入ってしまう。分散のための処理用地があったら教えてもらいたい。
●再開発用地について
【ネット】 いつ、どこでおこなったアンケートの結果を使っているのか。
【県】 アンケートは県がおこなったものではなく、平成7年と9年に、市川塩浜地区都市再開発協議会が企業30社(市川、塩浜地区)、市川市(住工混在地区)が1459社を対象にそれぞれおこなったものである。そのアンケート結果からでてきたものは86ヘクタールである。現在、近傍の未利用地(浦安、市川、船橋)は47ヘクタールしかなく、39ヘクタールが不足することになる。しかし、今回の見直し案では25ヘクタールとした。
【ネット】 なぜ埋め立てなければならないのかの説明になっていない。相変わらず、陸側の要求を海に求めるものである。ラムサール条約の決議をどう考えているのか。
【県】 ラムサール条約のことを急に言われても困る。
(注) ここで、県がラムサール条約のことをまったく念頭においていない
ことが明らかになりました。情けなさと恥ずかしさがわきたち、そし
て、なんとか県にラムサール条約のことを分かってもらおうと、参加
者の多くが思いをぶちあげたために、会場は騒然としました。
【ネット】 ラムサール条約は埋め立てないことを前提としている。企業の声は聞くが、ラムサール条約や市民の声は無視するのか。未利用地もあるのに、陸地の用途をなぜ変えないのか。
【県】 用途変更は地域規制があってむずかしい。
【ネット】 それこそ、ラムサール条約よりも地域規制を上に置いているということではないか。
【県】 ラムサール条約を尊重したから、このような見直しになった。
【ネット】 県として、ラムサール条約にどうかかわろうとしているか、話し合いが必要だ。
●港湾用地について
【県】 3万トン級の船舶に対しては水深12メートルの岸壁が必要となる。
【ネット】 私は港湾に従事しているので、毎日入港状況を見ている。実態をみると、3万トン級の船に対応した岸壁をつくるほどには大型船は入っていない。
【県】 それはちがう。大型船も入港している。私は、送られてくるデータを見ている。
【ネット】 企業だったら、年に何回も入ってこない船のために巨額な投資はしない。
【県】 公共埠頭の場合は、そうはいかない。
【ネット】 3万トンでも、吃水量いっぱいの満船は、船橋には入ってこない。現実問題として、浚渫の必要はない。
【県】 途中の港で積み荷をおろしてくるから満船にならないのは分かっている。しかし、データでは3万トンが入ってくる。港として、そのための規格が大事である。
●第二湾岸道路用地について
【県】 第二湾岸道は、全部陸上も全部海の中(地下化)も考えている。しかし、地下化にすると、東京外郭環状道路とのジャンクションは開削でしかできない。東京湾横断道路の場合は地下14メートルのところを掘っているが、地盤を考えると三番瀬はもっと深くしなければならない。
【ネット】 そもそも、第二湾岸道は必要性があるのか。
◇ ◇
10項目のうち、半分にもみたないうちに定刻の午前12時を過ぎてしまいました。
今回の話し合いでは、第二湾岸道について地下化も少しにおわせたという点を除けば、目新しいものはでてきませんでした。でてきたものは、県への不信と、県民をバカにした態度です。たとえば、港湾埠頭についていえば、港湾の現場で入ってくる船を毎日見ている人の話をまったく信用せず、送られてくるデータのみ重視するという姿勢に終始しました。また、3万トン級の船が入るためには水深12メートル以上が必要だという建前だけを言います。さらに、港湾従事者に対して、「埠頭建設が不要だなんて、港湾従事者が自分の恥をさらしてもいいのか」という、脅しともとれる態度をみせました。
下水処理場の問題では、水循環の必要性を訴える啓蒙もしないで、「下水処理場を上流にもってくることについては、住民の反対が強い」という一方的な考え方を述べます。そもそも、これはまったくの屁理屈です。というのは、すでに、群馬県や埼玉県が下水処理水を利根川の上流に流している現実があるからです。それに、上水道取水口のすぐ上流に下水処理水を流すのはまずいというのなら、下水処理水をパイプで取水口の下流までもっていけばすむ話です。さらに、たとえば真間川の上流域に処理場を建設し、真間川に処理水を流せば、上水には影響がでません。東葛・葛南地区の内陸部での用地確保という点でも、その気になれば、20ヘクタールぐらいの土地は十分に確保できるといわれています。
そもそも、今は建設省さえもが、下水処理水を河川にもどすという「水循環再生」を強調しはじめています。環境庁の中央環境審議会も、河川や地下水の汚染と枯渇を防ぎ、水循環の機能を回復するための政策大綱を策定中です。また、県の都市部は、この3月、「ちば水環境下水道」という名の新しい下水道長期ビジョンを発表し、基本方針として、下水処理水の河川還元など「新たな水環境の創造」や、「災害時に被害を最小限に抑える都市構造・システムを有する安全なまちづくり」に貢献する下水道をめざす、としています。埋め立て地に下水処理場をつくることは、こうした流れや自らがつくった「水循環ビジョン」に矛盾しているのに、どうしてバカげたことを言うのでしょうか。
署名ネットは、三番瀬の埋め立てをやめさせるために、今後も、署名集めや交渉などの活動をねばりづよく進めていくことを確認しました。
(文責・牛野)
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