三番瀬での下水処理場建設は愚行

千葉県自然保護連合事務局 


トップページにもどります
「主張・報告」にもどります
「三番瀬と下水道」にもどります


■流域下水道は全国各地でゆきづまり

 千葉県自然保護連合や「千葉の干潟を守る会」などは、流域下水道処理場の用地確保が三番瀬埋め立ての一つの目的となっていることから、この間、流域下水道について学習などをすすめてきた。
 こうした勉強会や調査によって、流域下水道計画は全国各地で完全に破綻していることが明らかになった。金食い虫になっていることや、何年たっても完成しないこと、そして河川の流量をいちじるしく減少させていることなどである。
 流域下水道計画のゆきづまりという点では、千葉県も同じである。県が三番瀬を埋め立てて終末処理場を建設しようとしている江戸川左岸流域下水道についてみると、昨年4月時点で、全体計画では、計画目標年度は2010年度(平成22年度)、処理面積は2万1036ヘクタール、処理人口は175万6000人、総事業費は2960億円となっている。これに対して、現況は、処理面積が6172ヘクタール(進捗率29%)、処理人口が66万8300人、事業費は2115億円(同71%)である。目標年度まであと10年余しかないのに、処理面積の進捗率はいまだに3割でしかない。しかし、事業費は7割に達しているのである。
 これらは県の公表数値だが、実際には、事業の完了は、2010年度は絶対に無理で、このままいけばあと50年以上はかかる、というのが関係者の見方である。事業費についてみても、全体計画の総事業費は2960億円となっているが、実際には6000億円以上になる。そして、もし三番瀬の埋め立て予定地に処理場をつくれば、金が余計にかかって、総事業費は7000億円以上になるだろうといわれている。


■江戸川左岸流域下水道は過大計画

 そもそも、江戸川左岸流域下水道計画はたいへん過大なものとなっている。
 まず、将来人口予測である。処理区域の予測人口は約176万人となっているが、現在の人口は120万人でしかない。現実をみると、同流域下水道に関連する8市1町は、人口の伸びが頭打ちになっている。8市1町の総人口は、1995年から1998年までの3年間でわずか1.2%しか増えていないのである。
 つぎに、同計画の算定基礎となっている1人あたりの下水使用量は、1日あたり720リットルとなっている。しかし実際には、1日平均の使用量は375リットルでしかない。下水道計画は、平均ではなく最大使用量を算定基礎としているが、それにしても1日720リットルというのは過大で、おおめにみても450リットルぐらいでよい、というのが専門家の見方である。
 こうしたことから、同流域下水道計画は根本的な見直しが必要となっている。三番瀬を埋め立てて、そこに終末処理場をつくる必要はまったくないのである。
 ちなみに、現在稼働中の第二終末処理場はまだ余裕があって、少なくともあと10年は大丈夫と言われている。だから、見直しの期間は十分にある。


■埋め立てによる下水処理場建設は愚の骨頂

 三番瀬埋め立てによる下水処理場建設は愚の骨頂としかいいようがない。
 第1に、県の補足調査によれば、三番瀬の水質浄化能力は下水処理場に換算すると13万人分の生活排水浄化力に相当する。それをつぶして処理場をつくるのは、たいへんな環境破壊であり、ムダなことである。
 第2に、金がかかりすぎる。もともと埋め立て地は地盤が軟弱である。三番瀬付近はとりわけ地盤が軟弱で、そこに施設を建設するのは“豆腐の上にモノを乗せるようなもの”と言われており、基礎杭を60メートル以上も打つ必要がある。したがって、建設費は莫大なものになる。
 第3は、防災上からも大きな問題がある。阪神・淡路大震災はさまざまな教訓をもたらしたが、その一つは、埋立地が液状化の危険にさらされやすいことである。現に、埋立地に建設された神戸市の下水処理場は甚大な被害を受けた。この点について、楡井久・茨城大学教授(元千葉県職員)はこう述べている。
 「下水道では、管渠(下水管)と処理場において大きな被害がありました。(中略)下水道システムの基幹施設である終末処理場は下流端に位置するので埋立地など軟弱な地盤に建設されることが多く、それだけ被害を受けやすくなっています。兵庫県南部地震では、管渠のほかに、神戸市最大の処理場である東灘処理場(処理能力225,000/日)が埋立地盤の液状化による側方流動の影響を受け、沈殿池の目地の開口、流入幹線管渠の移動など多くの被害をこうむりました」(『検証・房総の地震』千葉日報社)
 こうした教訓からみても、重要なライフラインである下水処理場を軟弱地盤の埋立地に建設するのはばかげている。
 そして第4は、“水循環再生”の流れに逆行することである。今は建設省さえもが、下水処理水を河川にもどすという「水循環再生」を強調しはじめている。環境庁の中央環境審議会も、河川や地下水の汚染と枯渇を防ぎ、水循環の機能を回復するための政策大綱を今年の夏をめどに策定するとしている。広大な区域の下水をかきあつめて埋立地の大規模な処理場で処理し、その処理水をいっきょに海へ放流するという県の計画は、こうした水循環再生の動きに逆行するものである。埋め立てによる干潟の喪失とあわせて、二重の自然破壊でもある。


■流域下水道計画の見直しを要請し、代案を提示

 こうしたことから、私たちは今年4月、県に対して同計画の根本的な見直しを要請するとともに、次の点を代案として提示した。@計画を3分割し、上流、中流、下流域にコンパクトな終末処理場を建設するなど、水循環再生の考え方で見直しを。A時間をかけて計画の根本的見直しを。B第一終末処理場として都市計画決定されている地区での用地取得に再度努力を。
 本来は、下水処理は流域下水道によるべきではない。人口密度の高い都市部では小規模の公共下水道あるいは簡易下水道で、逆に人口密度が小さいところでは各戸に合併浄化槽をつけるというように、地域の条件に応じてさまざまなものが地元の責任でつくられるのがよい。しかし、江戸川左岸流域下水道計画はすでに26年前に工事がはじまり、下水道管や終末処理場の整備も進んでいる。
 したがって、私たちは、現実的な代案として前述のような提案を提示した。


■県が埋め立てと下水道計画を見直し

 こうした中で、千葉県は6月9日、三番瀬埋め立て計画を大幅に縮小する見直し案を発表した。当初計画の埋め立て面積740ヘクタールを7分の1以下の101ヘクタールにするというものである。下水処理場用地についていえば、当初は55ヘクタールを予定していたが、江戸川左岸流域下水道の計画処理人口を約176万人から143万人に下方修正し、処理場の規模を約20ヘクタールに縮小した。
 大幅に縮小したとはいえ、101ヘクタールもの干潟・浅瀬を埋め立てる大規模事業であることには変わりなく、三番瀬や東京湾の水環境、生態系に与える影響は依然として大きい。また、下水処理場も、三番瀬を埋め立ててまでつくる必要性はまったくない。
 こうしたことから、見直し案については、県自然保護連合や「三番瀬を守る署名ネットワーク」などの県内の自然保護団体をはじめ、日本野鳥の会と世界自然保護基金日本委員会(WWFジャパン)、日本自然保護協会の3団体も、「101ヘクタールの埋め立ては過大で、土地利用の必要性について徹底的に検討をつくしたうえで、できるだけ埋め立てを回避すべき」とする意見書を県知事あてに提出した。
 6月19日に開かれた「計画策定懇談会」(県が三番瀬埋め立て計画を見直すために設置したもの)でも、環境への影響や土地利用の必要性などを疑問視する意見が相次いだ。下水処理場については、修正した予測数値が適正なのかどうかや、現存の施設で処理が可能ではないか、などとする意見が出された。


■県の下水道長期ビジョンと矛盾

 県の都市部は、この3月、「ちば水環境下水道」という名の新しい下水道長期ビジョンを発表した。ビジョンでは、基本方針として、下水処理水の河川還元など「新たな水環境の創造」や、「災害時に被害を最小限に抑える都市構造・システムを有する安全なまちづくり」に貢献する下水道をめざす、としている。
 ところが、三番瀬埋め立て計画は、広大な区域の下水を軟弱地盤の埋め立て地に建設する終末処理場に集めて処理し、東京湾に捨てるという旧態依然としたものになっている。これが下水道の新長期ビジョンと矛盾することは明らかである。
 実は、三番瀬埋め立て地に処理場を建設することについては、「水循環下水道の構築」に方向転換しようとする建設省や県都市部と、三番瀬埋め立てを担当している県企業庁との間で、かなりのやりとりがあったといわれている。しかし、下水処理場の建設がなくなれば埋め立ての名目がくずれることから、処理場建設を強引に存続させたともいわれている。


■県の姿勢に強い怒り

 8月31日、「三番瀬を守る署名ネットワーク」が三番瀬埋め立て問題で千葉県と交渉をおこなった。交渉の席上、下水処理場は埋め立て地ではなく、内陸部に分散して設置すべきだとする意見について、県はこう答えた。
     「皆さんは下水処理場は上流域、中流域に建設すべきと言うが、処理場は最低20ヘクタール必要で、東葛地区には10ヘクタール以上の空地はない。下水処理場を上流にもってくることについては、住民の反対が強い。都市計画された第一処理場予定地は、地権者がいりくんでいて買収はできない」
 そして、「水循環の思想はどこへいったのか」という署名ネットの質問に対しては、こう答えた。
     「今は水循環よりも地域整備が第一だ。処理場を分散すれば、上水道に処理水が入ってしまう。分散のための処理用地があったら教えてもらいたい」
 これは、県民をバカにした回答としかいいようがない。「処理場を分散すれば、上水道に処理水が入ってしまう」などと言うが、実際には、すでに群馬県や埼玉県が下水処理水を利根川に流している。要するに、処理場分散そのものはまったく問題ないのである。それに、上水道取水口のすぐ上流に下水処理水を流すのはまずいというのなら、下水処理水をパイプで取水口の下流までもっていけはすむことである。
 さらに、たとえば真間川の上流域に処理場を建設し、真間川に処理水を流せば、上水にはまったく影響がでない。東葛・葛南地区の内陸部での用地確保という点でも、その気になれば、20ヘクタールぐらいの土地は十分に確保できるといわれている。つまり、方策はいくらでもあるのだ。
 そもそも、前述のように、今は建設省さえもが、水循環再生を強調しはじめている。県自身も、新しい下水道長期ビジョンを発表し、下水処理水の河川還元など「新たな水環境の創造」などをうたっている。こうしたことを知りながら、「今は水循環よりも地域整備が第一だ」などと言うのである。これほど、県民をバカにした話はないだろう。交渉参加者は、怒りや情けなさをつよく感じたというが、まったくである。
 三番瀬を埋め立てて下水処理場をつくることは、水循環の流れに反するし、金が余計にかかり、いつまでたっても流域下水道が完成しないことにもなる。このような、ムダ遣いで環境破壊の事業は絶対に許してはならない。

(1999年9月)








このページの頭にもどります
「主張・報告」にもどります
「下水道」にもどります

トップページ | 概 要 | ニュース | 主張・報告 | 行政訴訟 |
資 料 | 催し物 | 干潟を守る会 | 自然保護連合 | リンク集 |