NPO法は諸刃の剣

佐藤行雄


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 (2008年)2月9日の朝日新聞連載「変転経済─証言でたどる同時代史」はNPO法案でした。「NPO法」(特定非営利活動促進法)が10年前の1998年に成立したいきさつや関係者2人の証言を載せています。

 記事のトーンは、同法について手放し礼賛です。
 小見出しに「新しい時代が来る」を掲げています。また、証言者の松原明・シーズ事務局長は「社会システムの改革を促し、時代の転換点をつくりました」、辻元清美・衆院議員は「NPOの時代なんです」と、自画自賛やベタボメです。

 しかし、そんな手放し礼賛は一面的だと思います。というのは、NPO法は「諸刃(もろは)の剣」となっているからです。


■日本の世相はどんどん悪くなっている

 同法成立によって、日本のNPO法人は10年間で3万3000に増えました。しかし、それによって市民運動は活発になったのでしょうか? 世の中は良くなったのでしょうか?

 逆ではないでしょうか。たとえば、矢崎泰久氏(元『話の特集』編集長、フリージャーナリスト)は、『週刊金曜日』(2月8日号)の「編集後記」でこう嘆いています。
    《やりきれない日々が続いている。ま、本誌の読者のほとんどの方は、同じ気持だろう。ひとことで言えば悪政の故(ゆえ)だが、どんどん悪くなるのだからたまらない。》

    《とにもかくにも世の中まっくら。内閣をポイ捨てしたアベが復活する無責任に呆然とするが、何でもありの悪政の中で一発逆転はないものか。》
 私も同感です。
 要するに、NPO法人の急増は、「社会システムの改革」とか「時代の転換」には結びついていないのです。むしろ逆に、NPO法人の急増と比例するように世相が悪化していると言っても過言ではないと思っています。


■「公の支配に属する」活動なら援助してかまわない

 それは、多くのNPO法人が行政の下請け化しているからです。NPO法は市民団体の“囲い込み”あるいは“体制翼賛化”に役立っているといってもいいと思います。

 この点では、朝日新聞社編著『豊かさの中で』(朝日文庫)の記述が印象的です。
 憲法89条は、「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と規定しています。
 この条項について同書はこう記しています。
    《マッカーサー草案は、民間団体がことごとく国の支配下に入った戦前の反省に立って、アメリカのように自由な市民の活動が花開くことを期待した。ところが、国は「公の支配に属する」活動なら援助してかまわない、と解釈した。民間団体の助成へのハードルが高く、一方でひとたび助成を受けると、行政の下請け機関のようになってしまうのは、そのせいだという指摘である。》
 そのとおりだと思います。たとえば、アメリカでは、NPO法人が行政から事業を受託しても、NPOが行政の下請け化することはないといわれています。
    《NPOへの補助金増大とともにいくつかの批判が出たが、日本のような下請け化のような批判はおこっていない。サラモンは政府がNPOに補助金を出す際に、政府が主導権を握るというよりもNPOが主導権を握るかたちで勧められたと指摘しているが、補助金以外の政府支援に着目してみると、その姿勢がより鮮明に見えてくる。》(田中弥生『NPOが自立する日─行政の下請け化に未来はない』日本評論社)
 しかし日本では、行政からの業務委託や助成金を得るために、多くのNPO法人が行政のいいなりになっています。そうしないとカネをもらえないからです。

 一方、悪政に異議申し立てをしているNPO法人はわずかしかありません。

 そんな“負の側面”をまったく無視した先の記事は視野が狭いといわざるをえません。どうでしょうか。

(2008年2月)






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