作家・椎名誠氏の発言
●東京湾の三番瀬はみんなの問題なんですよ
〜「朝日新聞」1996年2月21日付け夕刊より〜
僕は東京の生まれですが、小学校へ上がる前に千葉の幕張に越したものですから、東京湾のすさまじい変遷ぶりを目の当たりにしているんです。
僕が子供のころの海は非常に臭かった。アオサが沿岸に積もり、腐っていた。でも、その臭さが実は生命のにおいなんですね。あのころの東京湾は生き物の大供養というのかなあ。もう、素晴らしかった。
当時、幕張の沖合は潮が引くと、見渡す限りの大干潟です。カニがたくさん出てきて、動くと地面が揺れているようになる。目がクラクラする。アサリなんか地元の子はバカにして採らなかった。採ったのはもっぱらハマグリです。
海は僕らを育ててくれた。小学5、6年のガキンチョが毎日遠泳やってますから、我々の世代は体が頑丈だった。仲間で一番の出世頭は東京オリンピックのボクシング代表です。当時の海の記憶をみんなで共有している。一生の宝物です。
しかし今、その海はないんですね。思えば小学生のころ、もう埋め立てが始まっていました。あそこが幕張メッセになるとは思いもよらなかった。
千葉県は幕張の埋め立て地の突端に人工海岸を造りました。あるとき行きましたが、いやあ、悲しかった。アオサなんかない。きれいな海です。においもない。でも、においがないってことは生命がない。自然は人間があんまりいじっちゃいけない。一番素晴らしく、生命なり風景なりを保っていく。
三番瀬の問題は千葉県のインテリジェンスが試されているんです。住んでいる人がバカか利口かということが将来証明される。みんなの問題なんですよ。東京湾をもうだれかの好きなようにさせないっていうことを、いま私たちが考えなければいけないと思います。
●三番瀬を幕張の二の舞にしてはいけない
〜「毎日新聞」(千葉版)1996年9月25日付けより〜
(千葉市・幕張の海について)
・「当時、海はアオサが腐ったにおいがした。これは生命のにおい。決してマリンブルーではなかったが、人間も魚も貝も生き生きとしていた。今は、生き物の音も声も聞こえない。幕張の海は死んだ」
(現在の幕張について)
・「年々町が変化し知らない場所のよう。幕張メッセ周辺のビル群は巨大な墓標にみえる。幕張に対して古里(ふるさと)感はあるが、もはや帰って行く場所とは思わない」
(三番瀬の埋て立て計画について)
・「札束をビラビラちらつかせ漁師から海を奪い、海を殺す。推進派の意見は笑止千万。東京湾は、太平洋で結ばれる世界の財産、役人のものではない。日本の自然環境全体の問題だ。三番瀬を幕張の二の舞にしてはいけない。」
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