〜東京湾の干潟保全をめざすシンポジム〜
2002年6月23日、木更津市の中央公民館で「東京湾の干潟保全をめざすシンポジム」が開かれました。「小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会」が主催したもので、県内外から約100人が参加しました。
東京湾には干潟・浅瀬がわずかに残されています。このうち、千葉県側の三番瀬と盤洲干潟は、新たな開発の危機にさらされています。
三番瀬は、昨年9月に101ヘクタールの埋め立て計画が中止になり、新たな「再生計画」をつくるために今年1月、「三番瀬再生計画検討会議」(通称・三番瀬円卓会議)がスタートしました。しかし、円卓会議は、101ヘクタール埋め立て計画に賛成したり、埋め立てによる人工干潟造成を主張するメンバーが多数を占めているために、「円卓会議の論議を早くうち切って人工干潟を造成すべき」という意見が圧倒的優勢です。
一方、日本最大級の砂質干潟である小櫃川河口・盤洲干潟(木更津市)も、大規模温泉施設や高層ホテルがつくられ、さらに大型レジャーランド建設計画がもちあがっているなど、大ピンチを迎えています。
今回のシンポジムは、こうした危機的な状況のもとで開かれました。
●干潟を再生するためには、海の潮流・潮位の回復と
川と海のつながりの回復が必要
〜自然保護協会の吉田正人さん〜
まず最初に、日本自然保護協会常務理事の吉田正人さんが、「失われた干潟と河口域の再生をめざして」というテーマで、現在残っている干潟や浅瀬を残すことの大切さなどを話しました。
吉田さんは、戦争直後に8万ヘクタールあった干潟が約40%消失してしまったことや、河口堰建設と埋め立て・干拓が自然環境におよぼす悪影響のメカニズムはかなり似ていることなどを話しました。
また、「人工干潟は、形態再生(潮間帯の面積)と機能再生(底生生物と浄化能力)のどちらも自然の干潟におよぼない」と述べ、「干潟を再生するためには、海の潮流・潮位の回復と川と海のつながりの回復が必要」と強調しました。
そして、自然再生の条件として、次の7点を提起しました。
- 今ある自然を大切にする
- 特定の種だけでなく、生物のつながりや生態系全体を復元する
- よその土地の種ではなく、もとあった種を回復する
- 点の回復ではなく、空間的な生態系のネットワークを回復する
- 人間がつくりあげてしまうのではなく、自然の回復力を助ける
- 自然の変化をモニタリングしながら、順応的な管理を実施する
- 行政だけですすめず、計画段階から積極的に地域の市民参加を図る
●浅場の大切な役割を話し、人工干潟造成論を批判
〜千葉の干潟を守る会の大浜清さん〜
つぎに、千葉の干潟を守る会代表の大浜清さんが、「三番瀬保護運動から東京湾を見る」というテーマで、東京湾奥部に残る干潟・浅瀬「三番瀬」の保全のとりくみなどについて話しました。
大浜さんは、「干潟が大事だということはよく言われているが、干潟はそのまわりに浅場(浅瀬、浅海域)があることが非常に重要である。これを理解できないから“人工干潟をつくれ”という主張がでてくる。浅場を埋め立てて人工干潟をつくったら、生き物がいなくなったり大幅に減少する。また、砂が流されたり、地盤沈下が起こるので、維持に多額の金を費やさなければならなくなる」と述べ、三番瀬の浅場で人工干潟を造成すべきという主張をきびしく批判しました。
また、1970年代、環境保護運動や世論の高まりによって県が盤洲干潟の埋め立て計画を中止した際、地元漁協の組合長が「隣の袖ケ浦市まで海岸をすべて埋め立てたのに、なぜそこで埋め立てを中止にするのか。われわれをみはなすのか」と述べたことを紹介し、「これを聞いてガックリした。そういう漁協の姿勢が今の三番瀬にも大きな影響を与えていて、三番瀬円卓会議では漁協委員が埋め立てを盛んに主張している」と話しました。
また、三番瀬円卓会議については、「小委員会の新規委員を選出する際、長年にわたって三番瀬の自然環境保全にとりくんできた人たちはすべて排除された。吉田正人さん(日本自然保護協会)と私が三番瀬の干潟・浅場を守るために孤軍奮闘している状態だ。委員の多くは、昔の自然の状態にできるかぎり戻そうとするのではなく、人工干潟を造成しようとしている」などと述べました。
●危機に瀕している盤洲干潟を守るために
〜金田の海を守る会の桐谷新三さん〜
最後の講演は、地元「金田の海を守る会」の桐谷新三氏による「盤洲干潟保護運動から東京湾を見る」です。 “盤洲干潟の防人”とよばれている桐谷さんはまず、盤洲干潟の変遷を話してくれました。盤洲干潟を擁する金田地区は、二十数万年前は海底だったが、小櫃川の流砂によって陸地になったことなどです。たいへん豊かだった盤洲の海は、京葉臨海工業地帯が造成され、その工場群から水銀や重金属類が放流されつづけたために汚染がひどくなり、漁民が公害反対運動に立ち上がったことなども話しました。
また、盤洲干潟に生息している貝や植物の実物をみせながら、同干潟がたいへん豊かな自然であることを話しました。干潟のすぐれた作用として、たくさんの穴があり、それが酸素を補給し、魚を育てたり海の浄化にたいへん貢献していることや、ヨシとアシハラガニの共生のしくみなどもわかりやすく話してくれました。
桐谷さんはまた、「三角州の底生植物ハママツナが昨年から枯れはじめ、今年は絶滅した。シオクグも約3割が根腐れをおこし、完全に枯れ死したものもある。ハママツナは千葉県の指定記念植物であり、広大な群落は東京湾沿岸でも小櫃川河口干潟だけにしか見られない貴重な植物である」などと、温泉施設の開業以降、大きな環境変化が起こっていることを指摘しました。
桐谷さんは最後に、「盤洲干潟は環境がどんどん変化している。私たちは、大規模温泉施設の排水が干潟の水温上昇や底生動植物に影響を与えることを予測し、県知事に要望書を提出した。しかし、『温度に関しては現行の排水基準にうたわれていないため、規制はできない』という回答がきた。こうした状況のもとで盤洲干潟を守るのは、地元住民だけではなかなかむずかしい。みなさんの力をぜひお借りしたい」と訴えました。
質疑のあと、参加者全員で宣言を採択し、シンポを終えました。
シンポジウムには県内外から約100人が参加。講師の話などを聞き、現在残っている干潟・浅瀬のすぐれた役割や、それを残すことの大切さを改めて認識した。
日本自然保護協会の吉田正人常務理事。吉田さんは、「人工干潟は、形態(潮間帯の面積)の再生という点でも、機能(底生生物、浄化能力)の再生という点でも、自然の干潟にはおよぼない」と述べ、「干潟を再生するためには、海の潮流・潮位の回復と川と海のつながりの回復が必要」と強調した。
千葉の干潟を守る会の大浜清代表。大浜さんは、干潟と浅場が一体となった「干潟海域」の大切さを強調するとともに、浅場を保存するために三番瀬円卓会議などで奮闘したいと決意を述べた。
金田の海を守る会の桐谷新三さん。桐谷さんは、盤洲干潟の植物(ヨシ)などを見せながら、盤洲干潟のすばらしい自然や機能を紹介するとともに、温泉施設、ホテルの建設などで環境が大きく変化しつつあることを指摘。「こうした状況のもとで干潟を守るのは、地元住民だけではなかなかむずかしい。みなさんの力をぜひお借りしたい」と訴えた。
シンポジウム宣言 |
干潟を守る日2002
東京湾の干潟保全をめざすシンポジウム宣言
昨年6月23日に設立された「小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会」はちょうど本日、1周年を迎えました。
総会でも報告したとおり、この間、連絡会としては可能な限りの活動をしてまいりました。
私たちの活動は、時には行政や開発業者などと対峙することもありました。また、これからも避けて通れないと考えますが、それは、その中から新たな方策が見いだされ、自然が大切にされる方向に進むと信ずるからです。
現行法では、その運用によって自然はおろか命の水でさえ守れないのが実態です。したがって現状を広く市民に知らせ、市民の声を結集して、さらに、意を同じくする団体と協同してそれを行政や業者に訴えることから問題解決の糸口が見えてきます。
千葉県は現在、環境再生を声高に打ち出しています。失われた自然を再生するというものですが、再生の方法に充分な議論が必要であり、現在残されている貴重な自然を保全することが前提でなければなりません。破壊と再生のサイクルでは真の自然は残りません。
干潟を守る人々の連帯は確実に広がっています。7団体で出発した連絡会も、現在では県内の主な干潟・自然保護団体が結集する14団体までになり、大組織に発展しています。そして、本日実施のシンポジウムは、全国の干潟を守る仲間と連帯する「干潟を守る日2002」の行事の一環として計画されたものです。それは、30年来、三番瀬や金田の海など、東京湾を守ってきた先達のふたたびの出会いでもあります。
これを機会に、私たちは、さらに多くの市民・環境保護団体と情報を共有、協力しあって、地域での干潟保全を訴え、東京湾全体の環境保全をめざします。
以上、本シンポジウム参加者の宣言とします。
2002年6月23日
「東京湾の干潟保全をめざすシンポジウム」参加者一同
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