千葉の干潟を守る会30周年記念行事 Part2

講演会 「私たちの求めるアセスメントとは?」

〜 原科幸彦・東京工業大学教授が講演 〜




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 千葉の干潟を守る会は30周年記念行事の第2回目として、「私たちの求めるアセスメントとは?」と題した講演会を2001年6月9日に船橋市勤労市民センターで開きました。

 まず、千葉の干潟を守る会の大浜清代表が、環境アセスメント(影響評価)と市民運動との関わりを話しました。環境アセスの歴史で画期的だったのは1964年の沼津・三島石油化学コンビナート計画反対運動で、ここでは住民調査団が結成され、住民みずからが事前環境調査をおこなったこと。行政側のズサンな環境影響調査に対抗し、自分たちで環境評価の方法論をあみだしたり、さまざまな調査をおこなったこと。このとりくみがその後の公害反対運動などの礎(いしずえ)になったこと。結果として、このコンビナート計画はとりやめになったこと──などです。
 その後、千葉県内でも、「公害から銚子を守る会」が独自の環境アセスを行い、東京電力の火力発電所誘致計画を中止させたことや、「房総の自然を守る会」(現在の千葉県自然保護連合)が「房総スカイライン」の建設に反対し、房総半島に生息するニホンザルの調査をおこなったこと、県内の自然保護団体が「東京湾横断道路環境影響評価準備書」に反論する意見書を提出したことなどのとりくみを紹介しました。
 さらに、1973年、住民による全国干潟鳥類一斉調査がはじまり、これによって干潟を一つの生態系の場としてとらえるようになったことも話しました。

 つづいて、原科幸彦(はらしなさちひこ)・東京工業大学教授が「私たちの求めるアセスメントとは?」というテーマで講演しました。
 原科氏は、日本における環境アセスメント研究の第一人者です。最初に、「環境アセスメントの本質は、積極的な住民参加をおこなって意思決定過程の透明性を高めることにより、適切な環境配慮がなされるようにすることである」と強調し、環境アセスをめぐる現状の問題点や課題などを熱っぽく語ってくれました。以下は講演の一部です。


  • 土地収用法の改正案が国会で審議されているが、これは問題が多い。改正案は、公共事業に伴う土地収用の効率化や迅速化を図ろうとするものである。しかし、土地収用が効率的に進まなくなっている原因は、地域の合意がとれていないのに強引に進めようとしている公共事業があるからだ。合意があれば、効率化も進む。そのためには、公共事業の「入り口」、つまり計画段階で利害関係者の意見に対して事業者がきちんと答えることが不可欠だ。だが、現状は、この「入り口」部分がダメになっている。公聴会が開かれても、「意見を聞きました」だけで終わりになっている。
  • 今回の土地収用法改正案では、公聴会の義務づけや第三者機関の意見聴取などが盛り込まれており、これを根拠にして改正案を「一歩前進」と言う学者などがいるが、とんでもないことだ。「意見を聞き置く」だけの公聴会や、事業推進の立場にたつ人物だけで構成される「第三者機関」などを義務づけしても、一歩前進とはいえない。
  • いま強く求められていることは、環境アセスメントを見直すことだ。具体的には、計画段階で情報公開や住民参加をとりいれることである。たとえば、三番瀬埋め立て計画をめぐって住民参加が進まないのは、その法的裏付けがないからだ。行政手続法を改正して住民参加をきちんと法律で制度化することが必要だ。行政は、こんなことをやろうとしないで、相変わらず事業者の都合だけで公共事業をすすめようとしている。つまり、「入り口」がいいかげんだから、「出口」でつまづく事業が多い。「入り口」の部分をしっかりすれば、一坪地主運動のようなものはなくなるはずである。
  • 人間が生きつづけていくためには、持続可能な発展(sustainablue development)が必要である。それを実現するためには、環境を破壊し、たいへんなムダをうみだすような公共事業は見直すことが必要である。そのためには、きちんとした環境アセスメントが行われることが必要だ。
  • 日本は、あいかわらず公共事業に莫大な投資をつづけている。公共事業の対GNP比率をみると、他の先進国が2%なのに対し、日本は8%である。公共事業につかわれる金額は、他の先進国の合計よりも日本一国の方が多いというような状態がずっとつづいている。それほど、日本の公共事業偏重は異常だ。
  • 他方で、たとえば私が従事している大学教育への投資はどんどん削減されている。大学の教官も減らされる一方だ。こうした事態に、国民は怒らなければならないが、現状はそうなっていない。昨日、大阪府池田市で小学生殺傷事件が起きたが、その背景にはこうした問題が横たわっていると、私は考えている。なぜ、ムダな公共事業がどんどん続くかというと、環境アセスがいいかげんで、“アワスメント”になっているからだ。
  • 環境影響評価法(アセス法)が1997年に成立し、2年間の準備期間を経てようやく全面施行された。藤前干潟の保全は、このアセス法を活用したいい例である。藤前干潟は、名古屋市の港湾部に残された貴重な干潟である。名古屋市が、この干潟を埋めてごみ処分場をつくろうとした。だが、公有水面埋立法に基づく埋立申請を行った段階で環境庁長官が反対意見を述べたので、市の埋め立て計画にストップがかかった。自然干潟は底生生物が豊富に生息しているために、野鳥が採餌に飛来する。また、水質浄化に大きな役割を果たしている。しかし、そこを埋めて人工干潟にすれば、底生生物が生息できなくなり、野鳥の飛来や水質浄化力は格段に落ちる。だから、「ごみ埋め立てによる人工干潟の造成は問題がある」と、環境庁長官は埋め立てに反対意見を述べたのである。これはアセスの活用によって公共事業が中止になったはじめてのケースである。これを前例にし、問題のある公共事業の見直しをせまっていくことが必要である。
  • 環境アセスメントの本質は、積極的な住民参加をおこなって意思決定過程の透明性を高めることである。つまり、情報公開が重要ということだ。日本の行政は情報の公開を嫌う体質があるが、公開する方がメリットは大きい。公開にすれば、たとえば審議会などの委員や座長はしんどい。しかし、緊張感をもった真剣な議論ができるようになる。ときには言いまちがいなども出るだろうが、公開が当たり前になってくれば、揚げ足取りもなくなるはずだ。
  • いまは、行政の案が固まってから住民の意見を聞く、つまりそこではじめてアセスが始まるというのが一般的である。そうではなく、計画の熟度が低い段階から情報を公開し、住民などの意見を広く求めることが必要となっている。つまり、A案、B案、C案という複数の案を検討している段階から住民の意見を聞くということである。
  • アセスメントのプロセスは事業者と住民などとの間のコミュニケーションのプロセスでもある。そこでの問題は、どれだけていねいにフィードバックをおこなえるかということである。フィードバックの回数はできるだけ多くしたほうがよい。
  • 今日の都市環境問題を解決するためには、都市のあり方自体を根本から変えなければならない。つまり、環境負荷の小さい都市をつくるということである。そのためには、土地利用計画が基本である。たとえば石原都知事などは「建物の容積率を緩和すべき」と盛んに主張しているが、これは、防災や人の命などをまったく考えない思想である。日本の都市の市街地は、大都市も小都市も欧米の諸都市にくらべて著しく密度が高い。たとえば、東京の都心部23区の人口密度は1ヘクタールあたり130人で、これは同程度の範囲で見たニューヨーク(同88人)の1.5倍にもなる。ロンドンにくらべれば、さらに高く2倍以上になっている。まさに、東京は超過密都市なのである。地方都市の都心部も、東京23区の密度と大差ない。だから、日本の都市はどこに行っても、緑が少なく、ゆとりがない。これは、阪神淡路大震災の教訓からみても、問題である。
  • したがって、早急にとるべき対策は建物の容積率を半分以下に引き下げることである。ところが、容積率を緩和し、さらに高めよという主張がされている。これは大間違いで、環境負荷をますます大きくすることになる。
  • 堂本千葉県知事は、三番瀬の保全策を検討する場として「住民会議」の設置を表明しているとのことだが、保全策の検討は期間を十分にとってじっくり進めてほしい。1年以上は必要だし、場合によっては10年ぐらいかかってもよい。

 講演後の質疑討論では、環境アセスの活用や三番瀬問題での「住民会議」のあり方などについて、参加者から活発に意見が交わされました。
 最後に大浜清・千葉の干潟を守る会代表が閉会のあいさつをし、「私たちは堂本知事に“拙速は禁物”と要請している。時間をかけながら、そしてフィードバックをくりかえしながら住民などの意見を聞くべきとする原科さんの話は、そのことの大切さを確信させてくれた」と述べました。





講演会の概要


  千葉の干潟を守る会 創立30周年記念 Part2

  講演会「私たちの求めるアセスメントとは?」


●日 時:2001年6月9日(日)13時30分〜16時30分

●会 場:船橋市勤労市民センター

●講 師:原科幸彦氏(東京工業大学教授)

●主 催:千葉の干潟を守る会

●後 援:日本湿地ネットワーク(JAWAN)、千葉県自然保護連合









環境アセスにかんする住民団体のとりくみなどを報告した千葉の干潟を守る会の大浜清代表。








講師の原科幸彦・東京工業大学教授。原科氏は、「環境アセスメントの本質は、積極的な住民参加をおこなって意思決定過程の透明性を高めることにより、適切な環境配慮がなされるようにすること」と強調し、環境アセスの重要性や現状の問題点、課題などを熱っぽく語ってくれた。








講演会には50人が参加。講演後は、環境アセスの活用や三番瀬の保全などについて、質問や意見が活発にだされた。













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