脱埋め立て宣言! 三番瀬の保全をめざす集会
〜今ある干潟・浅瀬は残し、既存埋め立て地で湿地復元を〜
三番瀬の保全をめざして活動している千葉県内の環境7団体(千葉の干潟を守る会、三番瀬を守る会、市川三番瀬を守る会、市川緑の市民フォーラム、三番瀬を守る署名ネットワーク、千葉県野鳥の会、千葉県自然保護連合)は2002年3月10日、市川市内で「脱埋め立て宣言! 三番瀬の保全をめざす集会」をひらきました。参加者は約60人です。
●三番瀬の保全から、ゆたかな海・東京湾の復元へ
基調講演として、日本湿地ネットワーク(JAWAN)の辻淳夫代表が「干潟・浅海域の保全と復元〜三番瀬の保全から、ゆたかな海・東京湾の復元へ」というテーマで話しました。
辻さんはまず、昨年9月の三番瀬埋め立て計画の撤回にふれ、「渡り鳥にとって重要な東京湾の採餌地をぎりぎりのところで守っただけでなく、続けられてきた埋め立ての連鎖を断ち切り、干潟・浅海域の保全と復元へつながるものと歓迎する」と語りました。
そして、次のようなことを述べました。
「3年前の藤前干潟のゴミ埋め立て断念は、公共事業のあり方とゴミ行政に大きな転機をもたらしたが、三番瀬の保全は東京湾の失われた環境を取り戻してゆくための、さらに重要な契機になるだろう。ただそのためには、干潟・浅海域の生態系のつながりの輪にある鳥も人も、ノリや魚介類を獲って生活する漁民も、買って海の幸を享受する都市住民も、ともに力を合わせることが必要である。その意味で、漁民、都市住民、NGO、研究者、行政の代表が初めて集う三番瀬円卓会議は、その進め方によって画期的な意味をもっている」
「20世紀の自然破壊型の公共事業への反省から、“自然再生型の公共事業”が国の政策にもなった。しかし、諌早では、あれだけの有明海に大異変を起こしながら、干潟を復活させる見直しが行われていない。三番瀬では、干潟の価値を正しく理解し、失われた環境を取り戻す先駆けを円卓会議に期待したい」
「諫早干潟は“死んだ干潟”となってしまったので、これは生き返らせなければならない。つまり再生が必要ということだ。しかし、東京湾や三番瀬はまだ死んではいない。本日、三番瀬の猫実川河口域を実際に見たが、小魚がたくさんいた。それをカイツブリがもぐって食べていた」
「藤前干潟でも問題になったが、砂を投入して浅瀬を埋め立てれば新しい干潟ができるという主張は土木屋的発想であり、とんでもないことだ。生き物がたくさんいる浅瀬に砂を大量に投入すれば生き物は死滅してしまう。人工干潟にも新しい生き物が棲むようになるだろうが、たくさんの生き物が棲みつくまでにはかなり長い年月がかかる。しかも、人工の干潟や砂浜は浸食されやすいので、たえず砂を補給しなければならない。そうなれば、生き物の状態は安定しない。じっさいに、こうしたことから全国の人工干潟は成功例がない」
「“急いで手を加えなければ三番瀬はダメになる”という主張はまったく理解できない。今ある干潟や浅瀬をつぶせば、東京湾の環境がよりいっそう悪くなるのは目に見えている。急ぐべきは、青潮の発生源となっている深みをできるだけ少なくするなど、三番瀬の環境を悪くしている要素をとりのぞくことだ」
「今ある干潟・浅瀬を保存し、すでに埋め立てられたところをできるだけ自然にもどすという『市川緑の市民フォーラム』の市民提案はたいへんすばらしいものだ。提案を大きく広め、ぜひ実現できるようにしてほしい」
●猫実川河口域は“生き物の宝庫”
辻さんの提案のあとは、3月2日におこなわれた「市民による三番瀬(猫実川河口域)調査の結果報告」です。調査にかかわったメンバーが、たくさんの魚やカニ、底生生物、プランクトン、野鳥が発見されたことを、映像で見せながら報告してくれました。
海底の泥を採泥器で採取して質やにおいを調べる様子や、泥の中から発見されたヨコエビやゴカイ、ホトトギスガイ、アサリ、そして水中で撮影したたくさんの稚魚などを映像で見せ、猫実川河口域に無数の生き物が生息していることを明らかにしてくれました。
また、周辺住民から聞き取った結果を報告し、「34件の回答が得られたが、猫実川河口域が臭いと言う人はだれもいなかった」などと述べました。
●湿地復元計画で大切なこと
つづいて、千葉県自然保護連合の牛野くみ子代表が「ラムサール条約の提案する『湿地復元の原則と指針』〜ビル・ストリーバー氏来日講演から学んだもの」を報告しました。
去る2月24日、ラムサール条約科学技術検討委員会の湿地復元部会座長をしているビル・ストリーバー博士が和洋女子大学(市川市)で「湿地復元の原則と指針」の講演をおこないました。牛野さんの報告は、この講演から学んだことでした。
牛野さんは、博士が湿地復元の原則として、
- 立案は流域レベルで行われるべきである。
- 立案は水資源の配分原則を考慮しなければならない。
- 計画の作成には地域住民の参加がなければならない。
- 復原するという約束と価値の高い自然の湿地を引き替えにすることは回避されなければならない。
- 設計に際しては自然の課程を考慮すべきである。
- 慎重に計画することによって、好ましくない副次的な影響が現れる可能性を抑えることができる。
- 復原の成功不可欠なのは、湿地復原事業の目標、目的および成果基準が明確に理解されていることである
また、湿地復元事業の最も重要な一般化として、(1)良質の自然の湿地は、復元された湿地で置き換えることはできない。(2)いかなる湿地復原事業においても、最も重要なステップは、非常に明確かつ具体的な目標、目的および到達基準をつくることである──の2点を強調したことを述べました。
そして牛野さんは、「ストリーバーさんは“代替案を最初につくるのは間違いである”と強調された。この点からみて、市川市が猫実川河口域を埋め立てるという“修復イメージ図”を早々と提示したのは問題がある」と、市川市の姿勢を批判しました。
最後に、「ストリーバーさんが“目標、目的、到達基準を明確にすること”と何回も言われたのが印象的だった。三番瀬では現在、三番瀬円卓会議で計画の検討が進められている。目標、目的、到達基準を明確にしていったとき、私たちはもとより、子孫にも納得できる三番瀬になると確信している」と述べました。
●「三番瀬は第二ステージに入った」
最後の報告は、市川三番瀬を守る会の星野亘良事務局長による「三番瀬(市川側)をめぐる情況と私たちのとりくみ」です。
星野さんはまず、「局面は“再生をめぐって”、焦点は“猫実川河口域をどのように認識するか”になっている」とし、「三番瀬は第二ステージに入った」と語りました。そして、市川市長が、「市民の意見をとりいれながら、市独自の構想を提示したい」と表明し、その中間報告として、猫実川河口域を埋め立てて人工干潟などをつくるという“海域修復のイメージ図”を公表したことを話しました。このイメージ図について星野さんは、「人工干潟をつくるのだから埋め立てではない、と市は言っているが、消えたはずの埋め立て案と同じ」と批判しました。
こうした情況のもとで、「市川三番瀬を守る会」は、「埋め立て是か否か」というわかりやすいものでなく、「再生」をめぐる“第二ステージ”に見合った活動にとりくむことにしているとし、
- 六本柱の活動(学ぶ、楽しむ、立案する、広める、働きかける、協力する)のうち、当面は「学ぶ」を重点にする。
- 「市民による三番瀬調査」に全面協力する。
- 4月14日、バスによる「関連個所の見学勉強会」を実施する。
●活発に意見交換
講演と報告のあとは自由討論です。何人もの参加者から活発に意見や提案がだされました。「市民による調査によって猫実川河口域が死んでないことがが分かったからといって、それで安心してはダメだ。継続調査によって、猫実川の環境がどのように変化していることを明らかにする必要がある」「円卓会議では“再生”がキーワードとして使われているが、これは、猫実川河口域が死んでいるという認識にもとづくもの。この点で、円卓会議には心配している」「“埋め立て反対”や“再生反対”ではなく、どのような三番瀬にしていくのかを積極的に提案し、それを広げていくことが必要だ」「円卓会議の議論だけで再生計画がつくられてしまうのは間違い。傍聴者も発言できるのは、円卓会議の画期的な点だ。これを生かし、どんどん発言しよう」などです。
●「提起された課題を円卓会議で十分に話し合いたい」
閉会あいさつは、「千葉の干潟を守る会」の大浜清代表です。円卓会議の委員になっている大浜さんは、「本日の集会は、さまざまな問題が論議され、非常に内容の濃いものになった。提起された問題や課題をたいへん重たく感じた。これらについて円卓会議の場で十分に話し合えるよう努力したい」と述べました。
集会には約60人が参加
日本湿地ネットワークの辻淳夫代表
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