徹底した住民参加と情報公開を

〜第1回三番瀬円卓会議開催される〜

千葉の干潟を守る会 竹川未喜男



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■唐突に聞こえた知事発言
  〜再生事業を急ぐ堂本県知事〜

 (2002年)1月28日、堂本県知事の構想によって設立の準備が進められてきた「三番瀬再生計画検討会議」(通称:三番瀬円卓会議)の第1回会議が千葉市文化センターにおいて開催された。壇上には23人の委員(学識経験者8、地元住民3、公募3、漁業関係4、環境保護団体4、地元経済界1。学識経験者9人のうち1人は欠席)と、オブザーバー(国、県、3市)7人が並び、一般傍聴者、行政、議会、報道関係者など約250人がつめかけた。
 堂本知事のあいさつは、「立ちあげから徹底した住民参加と情報公開のもとで類ない検討会議が生まれた」「県のシンポジウムで漁民から一日も早くの声もあったし、世の中の情勢もあり、再生計画の作成を急ぐ必要がある。広く聞くが、他人まかせにせず、私が責任をもって進めたい」「統合、縮小された再生事業でも、徹底した情報公開で新しい政策提言型の事業の実績をつくりたい」「これまで、環境アセスはされてきたが、社会的、住民アセスはおこなわれてこなかった」──というものであった。
 これを受けて岡島会長(青森大学大学院教授)も、「各界から立派な方々が委員として参加され、三番瀬をよい形で残したい」「公共事業について計画段階から住民参加するという、創意的な千葉モデルをつくり、千葉の知性を全国に発信していきたい」とあいさつされた。


《コメント》

 「地元住民」の委員は、自治会連合会から3人が選ばれた。「漁業関係者」は地元漁協と県漁連から4人。そして「地元経済界」は商工会議所から1人(それも、盤洲干潟の隣接地で開発を計画している渦中の人物)。旧態依然たる方式で、いずれも埋め立て推進、容認派の委員となってしまった。それを横目に見ながら、埋め立てストップの主役を果たしたと自負する私たち環境団体は、3度も集まり、「そもそも円卓会議とは何か」からはじめて、決められた4人枠の中で、自分たち自身の委員を選んできた。そうしたちぐはぐな経過を考えるとき、「すばらしい」「日本で初めて」「夢でなく」などの言葉は格好よすぎた。また、「世の中の事情もある。再生事業は急ぐ必要がある」との一方的な知事発言も、いささか唐突であった。
 委員紹介の後、議事に入り、「検討会議のあり方」や「今後の進め方」が論議された。


■死んでいない三番瀬を「再生」とは?
  〜東京湾全体を視野に検討すべき〜

 論議は、会議の名称や目的に使われている「再生」の言葉を大浜委員(千葉の干潟を守る会)が問題にされたことからはじまった。「三番瀬は死んではいない。自然の摂理に属することであって、自然を人間が『再生』するとはおこがましいいことだ。自分のおこなった破壊の修復や復原にいそしむべきである」との意見に、歌代委員(南行徳自治会連合会)は「たんなる字句の問題ではないか」、滝口委員(船橋漁協)からは「環境悪化が進行し、4〜5年前に比べ底生生物、二枚貝も10分の1に減っている。人の手を加える再生でよい」との反論が出された。
 一方、大西委員(東京大学教授。都市計画)は、「議論の本質に関わる問題だ。私は埋め立て計画の撤回で三番瀬が再生したのだと理解している。目的の中にその経緯を書き、会議設置の意義づけをすべきだ」と発言された。
 吉田委員(日本自然保護協会)からは、「残された三番瀬、盤洲干潟に汚水流入やレクリェーションと、都市化のしわ寄せがきている。対策は東京湾全体を視野にいれ、東京都や神奈川県を含めた方向性を出しておくべきだ」。風呂田委員(底生生物)からは、「目的に書かれている『見届ける』が気になる。継続的に責任をとることが会議の大きな課題だ」。また、磯部委員(海岸工学)からも「計画、実行、モニタリング。計画の見直し、アフタケアーも会議のすべきことだ」の意見がだされた。


■科学的事実は利害関係とは別問題
  〜何よりまず、現状の共通認識から〜

 倉阪委員(千葉大学助教授。環境アセスメント)は、「会議の目的は3つ。円卓会議だから単に計画をつくるだけではない。関係者(漁業、港、企業など)すべての人に場を提供すること。客観的事実に基づき関係者が共通認識を持つこと。次が具体的な計画づくりだ」と発言された。
 落合委員(行徳漁協)は、「漁業関係者からみると、今、貝もノリもすべて瀕死の状況にある」、大野委員(ベイプランアソシエイターズ。元船橋漁協役員)は、「一つのテーブルにつくのだから、皆が共通の認識をもつことが重要。今の三番瀬、あれだけの浅海はかけがえのない天然資源である。漁場、リクリエーションを考える場合にしても、横道にそれない共通認識を持つことが大切だ」と、それぞれ発言された。
 望月委員(県立中央博物館副館長。水生生物)は、「三番瀬の現状について、“瀕死の状況だ”というのと、“生き物ががんばって生きている”という2つの認識があるようだ。しかし現実がどうなっているかはその人の利害とは無関係。まず、そうした現実を把握し、そのうえでどうするか、2段階で考えねばならない」。この発言に対し大浜委員は、「賛成だ。検討の対象については、海と陸を別々に分けてみることはできない。干潟は海から丘へダブッて移行していた。塩性湿地や内陸湿地を造ってやること。まちづくりも人間が住める場所として考えることだ」と発言した。
 以上の議論をふまえ、岡島会長は、「会議のあり方について次の3点がだされた。『対象を広げていく』(吉田、大浜委員)、『会議設置の経緯』(大西委員)、『共通認識』(倉阪、大野委員)をきちんと位置づけ、付帯として専門家会議、小委員会で詰めていくこと、計画案の尊重について知事の確約をとる。組織については、急ぐもの、議論が別れるものは小委員会で議論し、その要請で専門家が出かけるという2段階で進めていきたい。やりながら考えていく」と締めくくられた。


■計画は原案段階で公開を約束
  〜県は全資料を会議に出す義務あり〜

 会長私案をもとに、役員、諸会議、事務局などについて論議した。後背地の地権者や臨海部の企業、または、街づくりや漁業の専門家などの不在などの指摘について、会長より小委員会への積極的な参加や招致を求めていくとの説明があった。
 三番瀬問題における行政の役割との関連で、「会議に参加できる方式を入れる必要あり」(風呂田委員)、「計画の原案の段階で計画を公開し、行政機関に意見を聞くプロセスがあってよい」(倉阪委員)、「行政からは資料や情報を出してもらうことだ」(大西委員)などの意見が出された。これにたいして会長は、「オブザーバーで出ているが、金(予算)、その他の問題もあるし、行政として一貫性をウオッチする必要もあるだろう。風呂田、倉阪先生の話もそうした方向でいこう」と述べられた。
 事務局について「県庁のあらゆる場所から、調査資料や情報を出していただけるよう、県の責任をはっきりさせる規定が欲しい」(大西委員)との要望があった。環境団体からは事務局員推薦の強い要請が出された。まず吉田委員から事務局員について、「環境団体の18団体などから4人の委員がいるが、無条件で選ばれたのではなく、その過程で、佐野さん(市川緑の市民フォーラム)と江口さん(まちネット・ふなばし)には、円卓会議事務局に参加してもらおうということになった」。また、大浜委員からは「事務局へのNGO参加の趣旨は情報公開の徹底ということだ。県民に会議の情報が早く伝わり、提案や、意見が出され、会議が活性化される。そうした機能を強化するためである」と補足された。会長は、「知事にも部屋とか情報センター設置なども要請した。事務局は多くの課題をもっているから、ボランテイアでもアルバイトでもよい、できるるだけ多くの人に参加してもらう」との発言がされた。


■「1年ぐらいで計画のアウトラインを出したい」と会長発言

 会長から「異論なければ、委員の任期は1年。副会長は街づくり専門の大西委員を指名したい」と了承が求められ、承認された。任期について滝口委員が「1年とは、計画を1年で作ることなのか」と質問。会長は「それは目処として考えている。基本的には1年ぐらいで計画のアウトラインを出したい」と答えた。重ねて佐藤委員(地元経済界)から「一年でも早く決めていただくのが地元産業界の要望だ」との発言があった。
 「委員の立場、資格」について望月委員から、「所属組織の利害関係を代表するのでなく、委員個人としての資格で参加すべきだ」と提起され、会長も「基本的には一個人としての見識を示して欲しい」と同じ認識が示された。しかし、滝口委員は、「私はあくまで漁協代表で発言していく」と反論があった。さらに、「具体案をつめるときはその時々の判断がいる。知恵を出すのが委員ではないのか」(望月委員)、「東京湾の中での三番瀬を問題にするのだから、私利私欲だけでは発言できないと思う」(会長)、「会議の結論を組織に持ち帰ってもらえればよい」(倉阪委員)などの発言が続いた。
 つづいて、今後の進め方(スケジュール)について論議がうつった。
 会長私案をもとに、2月上旬に第1回専門家会議、3月上旬に第2回円卓会議、同下旬第1回小委員会開催のスケジュールを検討した。倉阪委員の、「急ぐのはよいが、どのような方向で再生の目標を定めるかなどは、専門家会議で『再生の概念』や『検討すべき範囲』などを詰めた後の円卓会議で論議した方がよいのではないか」の見解にたいして会長も同意。「そのため、専門家会議では共通認識を得られるよう、資料などを科学的見地から整理しておいてもらう」ということで私案を修正した。


■現状認識が大きな焦点に

 小埜尾委員(三番瀬フォーラム。三番瀬研究会)から、「ここ2、3年の環境悪化はひどい。今年起きる青潮の対策はここに入っていない。8月に青潮が出るが1年間放置していてよいのか。今年、来年の漁業者の予測はかなり悪い」という意見がだされた。これに対し会長は、「その問題は次回から円卓会議でやっていこうと思っている」と答えた。
 専門家の役割についても多くの意見が出された。「スピードを早くするため専門家の先生がどうされるか、お手並み拝見だ」(大野委員)、「専門家会議の役割は客観的事実を円卓会議に報告すること」(倉阪委員)、「現状認識にとって、環境会議の補足調査は重要なものだ。何とか一般の人にもっと広めて欲しい。これ以降の調査もあるのでは」(吉田委員)、「病気に例えれば、対症療法もあるが、なにが原因か、外からか内からなのか。その病理を突き止めるのが専門家の役割だ」(大浜委員)、「県に情報を求めても出てこない。道路、下水道、漁業、市川港、市川航路などをどうするのか。それを見てから専門家としての意見を出したい」(風呂田委員)などである。
 会長から、「準備会のときから県民への情報公開を言ってきた。これだけが会議でなく、ほかに国、県関係などもある。議論の多いもの、早くせねばならないものとがある。大まかな日程はこれで了解されたと思う」とまとめがあり、ついで、公募委員や地元住民の委員からあいさつがあった。
 米谷委員(主婦)──「谷津干潟の近くの住んでいる。谷津干潟はラムサール条約に登録され、地元の方にすごく利用されている。緑地、公園もある。三番瀬も陸地も含めスケールの大きい指定 地になるよう希望している」
 松岡(大学生)──「浦安から参加した。漁民の方が三番瀬は瀕死の状況だと言っている。すばやい対策が必要だと考えている」
 千葉委員(会社員)──「会社で船とか建築現場の経験もあるので、具体的な仕事を決めていただければ、と思っている」
 岡本委員(浦安市自治会連合会会長)──「あくまでも団体の代表として意見をしたい。小委員会の中で共通認識を持ち、すばらしいスピードで対策にとりくんでいきたい」
 鈴木委員(船橋市自治会連合協議会副会長)──「連合協議会の動きもあるが、私自身は勉強していない。ご指導ねがいたい」
 最後に、傍聴者から次のような意見が出された。
 「地震津波のことを考えれば、江東区のように、危険な埋立地は疎開させ、海に戻すべきだと思う」
 「知事や会長さんのあいさつは“きれいごと”に聞こえた。むつかしいことだが情報公開、 住民参加に徹し、住民からの要望、質問にはきめ細かく回答して欲しい」
 「共通認識の問題について今日は時間が足りなかった。会長が一人で司会、進行、意見に対するコメントまでやるのはたいへんだ」
 「円卓会議は今までにないやり方だった。みながフラットなのだから学識経験者のみを先生呼ばわりしないで欲しい」

◇          ◇

 以上で記念すべき第1回円卓会議の日程が終わった。傍聴者の感想はと問われれば、率直なところ、「埋め立て白紙撤回おめでとう」の明るい声に影さした感じ、とでも答えようか。  

(2002年2月)   






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