〜「国際湿地シンポジウム in 沖縄」に参加して〜
千葉の干潟を守る会 牛野くみ子
●明るくおおらかな集会
「国際湿地シンポジウム in 沖縄」が10月14、15日、沖縄市の農民研修センターで開かれました。実に、沖縄らしく明るいおおらかな集会でした。
しかし、中身は、“今ある干潟を守らずしてほかに何があるか”という講演や発言が相次ぎ、三番瀬を守る一人として心強いシンポジウムでした。
ちなみに、沖縄市にある泡瀬(あわせ)干潟は、年内着工をめざして埋め立て計画がすすめられています。
●泡瀬干潟は、次代への遺産として残さなくてはならない
2日目の冒頭、開催地・沖縄市を代表して仲宗根沖縄市長が「沖縄市は基地面積が市の37%を占めている。海に開発を求めざるをえない。環境に配慮し、自然と共有する観光文化都市をめざしたい」とあいさつしました。
JAWAN(日本湿地ネットワーク)代表の辻淳夫さん(藤前干潟を守る会)は、「泡瀬干潟は多くの人の共感を得られる干潟で、次代への遺産として残さなくてはならない。私たちは未来を愛する判断をする。この判断をぜひ市長も共有してもらいたい」と返礼しました。
次に、京都大学大学院人間・環境学研究科の加藤真教授は、「小さい頃、父親に連れられて美しい海や河原で貝拾いや魚釣りをしたことが、今もって忘れられない」と言いながら、全国の干潟の今昔などをスライドで見せてくれました。そして、海で遊ぶ伝統が残っている泡瀬干潟を近視眼的な開発計画によって埋めてしまうのでなく、そのかけがえのない自然を活かす道を探すことが、21世紀を迎える私たちの賢明な選択であると静かな口調ながらはっきりと話してくださいました。
●移植する前に守ることが重要
米国海洋気象局沿岸漁業・生息地研究センター生態研究員のマーク・フオンセカさんは、「米国における海草場の保全と環境影響緩和措置・再生の問題点」と題して、米国の沿岸開発のほとんどが移植実験が成功したとの理由で着工しているが、結果的には失敗していること、1ヘクタールあたり6260万円かかること、移植は十分とはいえないことを述べ、「だから移植する前に守ることが重要」とよびかけました。
東京工業大学の原科幸彦教授は、「事業計画段階で市民の声を反映させることが可能になったアセス法」について説明。泡瀬干潟については、「地域の活性化のため人工島造成というが、干潟を活かした活性化が図れないか」と訴えました。
琉球湿地研究グループであり、今回の実行委員会委員長の藤井晴彦さんは、「泡瀬干潟の問題点」について、渡り鳥最大の飛来地にもかかわらず鳥の調査が不足していることや、海草藻場移植先の影響調査がないこと、追加調査があまりにも多いこと、また縦覧では公開されていないデータが多いことなど、アセスの杜撰(ずさん)さを指摘しました。
日本湿地ネットワークの柏木実さんは、「みんなで調べるシギ・チドリ」と題して、鳥にフラッグをつけることにより、渡りの経路が分かり、湿地の保全につながることを分かりやすく説明しました。
●“環境庁もがんばっています”
最後に、環境庁自然保護局計画課審査官の堀上勝さんは、干潟や藻場(もば)の分布状況を把握して保全に努力していることや、現存する藻場は全国で20万ヘクタールあるが、消滅のほとんどは埋め立てによるものであること、磯焼けなどは農薬や下水処理など陸上の行為によるもの−−などを話し、「環境庁もがんばってます」と、力強く発言しました。
その後、質疑応答に入りました。泡瀬干潟の開発に関わっている事業者の課長さんが見えていて、「見直せとの意見が多いが、私どもも勝手にやっているわけでない。また、住民の意見を聞いた段階では反対はなかった。これからも意見は受けいれる。移動した藻場の定着率は70〜80%はあり、今の段階では大丈夫と思う。最善をつくしたい」と発言しました。これに対し、「誰が責任をとるのだ」という発言もありましたが、“泡瀬干潟守れ”の大合唱の中で勇気ある発言と多くの人は受け止めました。
今後、これを機会にいい話し合いの場がもてるといいです。なにしろ、泡瀬干潟を見たら、絶対埋め立てたらいけないと思う干潟です。
(2000年10月)
泡瀬干潟宣言 |
泡 瀬 宣 言
私たちは、2000年10月14日から15日にかけて、泡瀬干潟のある沖縄市に集い、国際湿地シンポジウムを開催した。そこで私たちは泡瀬干潟を通して、海草藻場の価値を再認識した。さらに国際的な視野から、日本の湿地の危機的現状を再認識し、これを打開する途を模索した。
干潟をはじめとした日本の湿地破壊の元凶は、いずれも大規模開発に偏重した過剰な公共事業である。日本の公共事業は、事業に対する責任の所在を欠いたまま、国家財政をも危機的な状況に追い込み、今ようやく見直しの機運が高まりつつある。しかしながら、政府が打ち出した公共事業の見直しは、中海干拓事業の中止や、吉野川可動堰計画の「白紙」化など、大きな意味のあるものもあるが、その多くは既に事実上停止している事業であり、真の見直しとは到底言えない。
環境影響評価(環境アセスメント)法の成立など、開発計画における環境保全の視点もようやく現れ始めた。しかしながらその一方で、地方分権一括法施行に伴う、国が直営で行う埋め立て事業に対する環境庁意見表明機会の喪失など、湿地保全の世界的動きに逆行した動きがみられ、泡瀬干潟の埋め立て計画はその制度の悪影響を受けた初めての事業である。
沖縄島で最大級の水鳥の渡来地である泡瀬干潟を一気に消滅させる沖縄県中城港湾公有水面埋立事業は、公共事業による乱開発の典型である。環境影響評価(環境アセスメント)法の成立にもかかわらず、環境影響評価は旧態依然としたずさんさを露呈している。さらに、埋め立ての目的についても合理性があるとは感じられない。代償措置として提案されている海草の移植は、移植先の選定や移植後の管理について科学的な見通しに乏しく、説得力を有しない。
私たちは、沖縄市、沖縄県、国に対し、中城港湾公有水面埋立事業に関する環境影響評価書のやり直しを求める。そして、泡瀬干潟の重要性を再認識し、保全対策を執ることを求める。さらに日本政府に対しては、土木中心の「環境破壊型」の公共事業のあり方を一刻も早く是正し、ラムサール条約締約国として、湿地の長期的保全策の導入を求める。そして、当面する緊急課題として、諫早湾の水門の開放措置を執ることを求める。
明日、10月16日から19日まで、那覇市で「国際水鳥ワークショップ」が開催される。私たちは2001年から5年間の、水鳥とその生息地の保全戦略を考えるこのワークショップを通して、政府・NGO・研究者団体・企業などあらゆるセクターの協力による東アジア・オーストラリア地域の全ての湿地保全と国際協力が大きく前進することを心から期待する。
私たちは、去る7月21日に亡くなったゴールドマン賞受賞者故山下弘文氏の意思を引き継ぎ、日本、韓国はじめ東アジア、そして世界の湿地の保全とそれぞれの地域における湿地の賢明な利用のあり方を追求するとともに、湿地保全のための継続的な国内及び国際交流のネットワークを構築することができるよう、全力を尽くす決意である。
2000年10月15日
「国際湿地シンポジウム in 沖縄」参加者一同
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