─過去、現在そして未来─
〜ピーター・ベイ博士の講演〜
牛野くみ子
三番瀬フェスタ2004「サンフランシスコ湾に学ぶ国際シンポジウム」を(2005)1月23日、和洋女子大学で開催しました。
ピーター・ベイ博士の来日は今回が2回目です。最初は1999年、日本湿地ネットワーク(JAWAN)の国際湿地シンポジウムに、サンフランシスコ湾保護開発委員会(BCDC)の魚類野生生物局の一員としてお見えになりました。今回は、コンサルタントの沿岸計画生態学者として来日されました。
●乱開発の埋め立てから湿地再生へ
お話を聞いて、“科学者の見地は世界共通”を実感し、感動しました。
最初に、サンフランシスコ湾の最近の動きとして、空港拡張計画があったが、工学上、コスト上、経済上の理由から撤回されたことや、NGOが新たな1万haの湿地復元計画をしていることなどから、話が始められました。
湿地再生としては、堰で仕切られたところをはずし、塩性湿地や干潟を呼び戻すことをしている。が、塩の層が厚くなっているところは難しい。また、民間が鉱業権を持っているところについては、NGOが買い上げる運動をしている。政府の許可も取らずに塩田にしているところもあるが、政府もいいじゃないかと見守っているようだ。そのようなことで、乱開発の埋め立てから湿地再生へと動いている。
1950〜60年代は、湿地の価値を多くの人が理解していなかったので、土地は安かった。だから埋め立ての対象となりやすかった。山の土を切り崩して市街地をつくるなどをしたので、湿地はやせ細っていった。湾に水が入るのは航路だけとなった。湿地の開発計画はあったが、湾全体を視野に入れた法律はなかった。
埋め立てが進んでいた60年代半ば、浚渫土を湿地帯に捨てる光景を見たフローレンスさんとフィル・ラリビエさんご夫妻は、土を捨てることで、そこに棲息する生物を死なせてはならないと運動を始めた。そういった草の根の市民の力が議員を動かし、議会も動かし、そして法律ができた。マッカティア上院議員と州議員のペトリス氏によるマッカティア・ペトリス法がカリフォルニア州議会を通り、BCDCが設立され、69年に「湾計画」が作られた。
●湾全体環境を守るために3つの連邦法が制定
しかし、BCDCの規制だけでは、湾全体の環境は守られず、水質浄化法(Clean Water Act)、国家環境政策法(National Envilomental Policy Act)、絶滅危惧種保護法(Endangered Species Act)など3つの連邦法ができた。
3つの法律がさまざまことに許可を出したり、復元したり、開発する際にはミチゲーション(代償措置)を求めるなどしている。こういった法律が、開発する側に立証責任を請け負わす結果になっている。
70年代から80年代には、埋め立て許可が出た場合はミチゲーションをしなければならなくなった。最初は多くの問題が起こった。湿地を再生するにはどうやったらいいのか、実験例はあるが前例がない。開発側は安くやりたい。だから最小限のものをつくる。が、小さければ小さいほど予測は困難になる。空手形に許可を与えるのでないかという懸念も生まれた。それで代償措置は大きな規模になった。
連邦政府と州政府は科学者100人を選び、意見の一致を得るのでなく、再生にとって最もベストなものを求めた。1つの政府、1つの団体がつくったのでは信頼性がないが、科学者が集まってつくったので信頼性が高い。これには5年間を要した。
91年には Goals Report Habitatが発表され、00年にはその続編 Species and Community Report が出され、魚類、鳥類、植物と全てを含んでいて、私は植物を担当した。Goals Report ができてからは何を目的とするかがはっきりしたので、衝突を見ることが少なくなった。
Goals Report から学んだこととしては、塩田の所に潮流をもどしたことにより、オニクイナが戻ってきた。また、地下水の湧出を見たことで淡水植物に変化が出てきた。こういったことには、長いスパンが大事で、状況に応じて接する大事さを学んだ。人為的に回復させても、それには限度がある。(帰化植物が入ったり、どんどん広がるなど)
まだまだ実験段階であるが、自然にできることを考えて、どこを復元するか、適切な用地を選べば、湿地の回復は工学的にも経済的にも大変なものではない。堆積を加速するためには、浚渫土を持ってくる場合もある。
●湿地を開発から守るために
湿地を開発の手から守るには
- 開発事業がムダと知ったら、ストップさせる行動が必要
- 湿地の重要性を啓蒙することが大事
- 湿地の保護が分かったら法律を作る
- 湾の全体のビジョンを自分達で作る
- 市民の支持をうるために信頼性のある科学的知見を
- ビジョンを実現するために土地の取得を正当化する
- 科学者たちは独立した科学的知見でやってほしい
- 社会構造は違うだろうが科学者の知見は違わない
- いろいろな例を参考にしたり、独自のプランでやって欲しい
●人間の利用だけでなく、生き物のことも考えなければならない
話のあとは質疑応答です。
【問】 昨日、三番瀬や東京湾をめぐられて見た状況をお聞かせ下さい。千葉県は、今まで鉄鋼を軸にした開発をしてきた。それにともなう輸送網を考えている。埋め立ては白紙撤回をしたが、第二湾岸道路の計画は存在している。三番瀬に巨大構築物をつくるのはどうでしょうか?
【答】 詳細は分からないが、具体的なコメントを申し上げます。
サンフランシスコ湾でも、埋め立てによって空港の拡張や道路が計画された。しかし、サンフランシスコ、オークランドの市民は、湾に潮の流れが来ることを重要視した。それで湾に面した所をいろいろなグループが買い上げて湿地にした。小さな規模の湿地の復元をした。だから、小さなところが大きな湿地を保全している。
大規模な再生はあり得ない。経済上も小さいところが大事。人間だけが利用するのでなく、シギ・チドリ類(鳥)のことも考えなくてはいけない。
公共事業には環境団体が反対しただけでなく、多くの人の意見も聞き入れた。廃止になって浮いた資金を再生に充てている。
●陸側に後退させて護岸をつくれば高くつくが、良い
【問】 船橋側の三番瀬と市川側の三番瀬のちがいをどう受け止められましたか
【答】 泥質、砂質とさまざまだった。人間はちょっと見ただけでは、砂の方がきれいという人もいるが、泥の方は棲息する種が違う。砂質と泥質は交換できない。それぞれの生態系の特徴を調べるのが最初である。潮流、堆積物など。
直立護岸は不自然である。サンフランシスコでも、60年代はコンクリートで堰をつくっていた。長い目で見ると、人工的構造物は腐食するのでメンテナンスが高くつく。後退させて護岸をつくれば、三番瀬にとって、最初は高くつくが、良い〈注〉。
市川側で見たとき、100ヶ以上もバッテリーが捨てられていた。アメリカでは、あのようなところは環境浄化地域になるべきで、浄化が終わるまでは開発できない。上流で区切ることなく、土砂を供給してくれると良い
〈注〉 ピーターさんは、「砂護岸」(石積み傾斜護岸+人工砂浜)について、パネルディスカッションでさらにくわしく述べています。
●復元に近道はない
【問】 漁民が関与したことは?
【答】 復元計画を対象としたとき、地域でどのような収穫があったとか、調査をするのが先決。干潟の回復が漁場再生になる。Goals Habitat には湾に棲息している魚について頁を割いている。ある特定の種を強調しない。復元に近道はない。
(2005年1月)
★関連ページ
- サンフランシスコ湾に学ぶ沿岸海域の保全〜ハービィ・シャピロ教授の話(2011/9/25)
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