「工業用地も高潮から守るべき」はおかしな主張

石井伸二



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●「工業用地も高潮から守るべき」

 三番瀬「専門家会議」(三番瀬円卓会議の下部組織)の第2回会合で、ある専門家委員は東京湾岸の工業用地の高潮対策について次のように述べた。
 「工業用地は高潮から防護されていない部分が多い。しかし、その土地を持っていて使っている人が被害を受け、そのときに『十分に防護をしなかったのではないか』と裁判を起こしたということになると、『工業用地だから守らなくてよかったです』という話にはならない。そういう意味で、工業用地であっても、全く守らなくていいという話にはならない」(議事録参照)
 東京湾岸を埋め立てて造成された工業用地の大部分は高潮対策が講じられていない。防潮堤は工業用地の背後に設置されている。住宅地域を守ればよいという考えからそうなっているのだ。
 しかし同委員は、これはおかしいと言っている。工業用地も守るべきだと盛んに主張している。そして、工業専用地域となっている市川塩浜地区の前面護岸を改修し、浅海域(三番瀬)の人工海浜化とセットになった高い堤防を築くべき、と主張している。


●「その論法でいったら、東京湾岸に万里の長城を築くことになる」

 この点について、千葉県庁で働く土木技術者の何人かに話を聞いた。そうしたら、一様に「そんなバカなこと、あるわけがない」とか「裁判を起こされるなどありえない」という答えだった。彼らの話はこうだ。
 「きちんとした土地利用計画があってはじめて埋め立てができる。東京湾岸の工業用地は、工業や流通など、産業活動を確保するために造成された。産業活動のための機能を第一と考えてあるので、その前面に防潮堤はつくられていない。もちろん、分譲にあたってはそのことを十分に説明してある。分譲価格についても、防潮堤で守られている住宅地域よりはかなり安い。したがって、土地所有者から『高潮から防護されていない』という理由で裁判を起こされることはありえない。提訴されても県が負けることはない。これは全国共通の話だ」

 「その論法でいったら、東京湾岸の工業用地はすべて前面に高い堤防をつくらなければならなくなる。万里の長城のように延々と高い堤防を築くことになる。東京湾だけでなく、伊勢湾や大阪湾などもそうだ。そんなことは絶対にありえない話だ」

 「千葉市中央港地区は、防潮堤の海側に、工場や各種事業所が数多く立地している。美術館や結婚式場、業界団体の事務所、それに警察や郵便局、港湾事務所などの官公庁もたくさん立地している。しかし、県は、防潮堤をその前面に移すことはまったく考えていない。そこで働いている人は、高潮や津波がやってくれば逃げればいい、となっている」

 「河川の治水対策は、高い堤防を築くという従来の考え方が変わり、ソフト重視になりつつある。危険度の高い地域を公表したり、避難体制を充実させるなどだ。川の周辺に遊水や保水機能をもたせることも進められている。海岸行政も、海岸線に高い堤防を築いたり、浅瀬をつぶして人工海浜にしたりするのではなく、こうした施策をとりいれる方向に変わりつつある」


●市川塩浜地区だけ高い堤防をつくるなどというのは許されない

 それではなぜ、三番瀬円卓会議で市川塩浜地区の前面に防潮堤を築くことが持ち上がっているのか、と聞いたら、ある技術者はこう答えてくれた。
 「三番瀬の市川塩浜地区については、特別な意図があってそういう話がでているようだ。ほかの地区ではそんな話はでてこない」

 「特別な意図」というのがどういうものかは話してくれなかった。あえて勘ぐれば、なんとしてでも猫実川河口域をつぶして人工海浜をつくろうとしていると思われる。
 市川塩浜地区も、工業用地(工業専用地域)の後背地に立派な防潮堤がつくられ、人命は守られている。東京湾の他地区との整合性からみても、工業用地の前面に人工海浜とセットになった高い堤防をつくるなどという必要性はまったくない。
 ましてや、猫実川河口域は、稚魚のえさになる生き物がたくさん生息しており、大切な「いのちのゆりかご」となっている。アナジャコも1平方メートルあたり60匹以上棲んでいて、東京湾の水質浄化に大きな役割を果たしている。そんな大切な浅瀬は、残すことを第一に考えるべきである。

(2002年11月)   










工業専用地域となっている市川塩浜地区の護岸。三番瀬円卓会議では、工業用地も高潮から守るため、この護岸を改修し、浅海域の人工海浜化とセットになった高い堤防を築くべき、ということを何人もの委員が主張している。








市川塩浜地区の工業地域の後背地には立派な防潮堤が設置されており、住宅地域は守られている。








千葉市中央港地区は、防潮堤の海側(写真の手前)に、工場や各種事業所が数多く立地している。美術館や結婚式場、業界団体の事務所、それに警察や郵便局、港湾事務所などの官公庁もたくさん立地している。しかし、県は、防潮堤をその前面に移すことはまったく考えていない。(千葉ポートタワーから撮影)








千葉市中央港地区の京葉線沿いに設置された防潮堤のゲート。このゲートは、高潮などの非常時に閉鎖される。
写真の向こう側(海側)に美術館や結婚式場、官公庁などが立地している。写真の高架は京葉線。








千葉市中央港地区に設置された防潮堤とゲート。









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