三番瀬埋め立ては必要ない

〜『ちば県民だより』での県の主張を批判する〜

千葉の干潟を守る会



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 千葉県企業庁は、東京湾に残る貴重な干潟・浅瀬「三番瀬」をシャニムニ埋め立てようとしています。今年(2000年)5月には、全戸配布の県広報紙『ちば県民だより』で、埋め立ての必要性を大々的に宣伝しました。
 この宣伝はインチキが多く、とうてい納得できるものではありません。すでに「三番瀬を守る署名ネットワーク」などが批判していますが、あらためて同紙での県の主張を批判します。

(2000年8月) 










●第二東京湾岸道路
《県の主張》
 市川・船橋湾岸部の交通渋滞を解決するために、第二湾岸道用地の確保が必要

《私たちの批判》
  • 環境庁が、高架式では渡り鳥に影響がでるとして地下化の検討を求めている。県は「地下化も検討したい」としているが、もし地下化にするのならば埋め立ては必要ない。なぜなら、三番瀬の前面部分に海底トンネルをつくればいいので、埋め立ては必要でなくなる。
  • 第二湾岸道の建設は「途中のパイプだけを太くするおきまりの途中改善策」であり、合流か所や市街地などの渋滞は解消できない。他方で、大気汚染に悩まされている船橋・市川・浦安地域の環境をいっそう悪化させるなど、必要性そのものについて疑問がある。


●下水道終末処理場
《県の主張》
  2008年(平成20年)ごろに満杯になる下水道終末処理場の用地確保が必要。

《私たちの批判》
  • 対象区域の人口の伸びは頭打ちになっている。また、現行の流域下水道計画は過大であり、これを見直すとともに、既設第二処理場の技術革新や節水対策などを講ずれば、大規模施設の新設は不要である。
  • 阪神・淡路大震災の際、埋め立て地に建設された神戸市の下水処理場は液状化で甚大な被害を受けた。こうした教訓がまったく生かされていない。処理場が被害を受ければ、8市1町のトイレは全部使えなくなる。
  • いま、流域下水道計画は根本的見直しがさけばれており、処理場の小規模分散と水循環の再生が今後の下水道計画に欠かせないコンセプトになろうとしている。8市1町におよぶ広大な区域の下水を集めて埋め立て地の処理場で処理し海に捨てるという方式は、時代遅れである。


●街づくり支援用地
《県の主張》
 住みよいまちづくりのために、立ち退いた事業所の受け皿が必要

《私たちの批判》
  • 県企業庁は、付近の埋め立て地に大量の遊休地(売れ残り)をかかえている。本当に受け皿が必要というのであれば、これを利用すればよい。
  • 「(街づくり支援用地は)市が優先的に要望したものでない」(市川市幹部の話)と毎日新聞(1999年6月13日)が書いているように、経過をみれば、この用地確保は、埋め立ての口実であることが明白である。
  • 快適で安全な街づくりは、自然を破壊しては実現不可能である。


●港湾施設
《県の主張》
 大型船が着岸できる港湾施設が必要

《私たちの批判》
  • 大型船が年間に0〜2隻しか入港しないのに、莫大な金を投入して施設をつくるのは税金のムダづかいである。
  • 埠頭は余っている。いまある企業専用埠頭をうまく使えばよい。


●人工海浜の造成
《県の主張》
 人工海浜を造成し、県民が自由に海とふれあえるようにする。

《私たちの批判》
  • 県企業庁がつくった人工海浜「幕張の浜」は、生き物があまり生息せず、他方で維持管理費は莫大である。いまある自然豊かな干潟や浅瀬をつぶして人工海浜をつくるのは、環境破壊であり、公費のムダづかいである。
  • 県は、「船橋海浜公園前は県が造成した人工海浜であり、十分な実績となっている」と言っているが、これはウソである。ここは、船橋航路と市川航路を結ぶ横引き航路として浚渫(しゅんせつ)し、その後埋め戻した場所である。その前面に天然の干潟が残っていたために、底生生物が生息し、シギやチドリなどの水鳥が飛来したり潮干狩りも楽しめるようになった。県が市川二期地区で計画しているのは、三番瀬を埋め立てて、その先に人工海浜を造ろうというもので、「幕張の浜」とおなじものである。
  • 人工海浜(干潟)は、生物の現存量・多様性、鳥類への餌生物供給能力、水質浄化能力、維持費など、すべての面で自然の干潟におよばず、成功例もない。
  • 海にふれあえるという点では、たとえば直立護岸の一部をけずって親水護岸にするなどの改善策を講じるべきである。


●埋め立ての規模
《県の主張》
  • 当初計画の740ヘクタールを101ヘクタールに縮小した
  • 三番瀬の主要な干潟はすべて残し、三番瀬の自然環境への影響が最も少ない海域を埋め立てる

《私たちの批判》
  • 縮小したといっても、101ヘクタールは、谷津干潟の2倍、埋め立てが中止になった藤前干潟の2.5倍であり、広大な面積である。
  • 市川二期地区(90ヘクタール)は、たくさんの底生生物が生息し、漁業資源からみても稚魚が育つ重要な生産の場である。ここを埋め立てれば、三番瀬や東京湾の環境に重大な影響がでることが予想される


●環境への影響
《県の主張》
 環境への影響は、許容される範囲のもの

《私たちの批判》
  • 当初計画より縮小するのだから、影響が小さくなるのは当たり前である。しかし、面積を7分の1に減らせば、影響が7分の1に減少するわけではない。101ヘクタールもの広大な面積をつぶすのであるから、その影響は依然として大きい。
  • 補足調査で明らかにされたように、三番瀬の自然環境は全体としてバランスが保たれている。市川二期地区(猫実川河口域)も三番瀬の自然環境保全にとって重要な海域となっており、ここをつぶすのであるから、多様性の低下など、甚大な影響をもたらす。
  • 県は「環境への影響は非常に小さい」としているが、その科学的根拠は明らかにしていない。


●財政負担
《県の主張》
 (埋め立て費用がいくらになるのか、また、財政負担はどうなるのかについては、いっさいふれない)

《私たちの批判》
 県財政は、一般会計の借金が1兆8000億円を超え(歳出総額よりも多い)、火の車状態にある。企業庁会計も同様にきびしい状況にある。こうした中で、2000億円はくだらないといわれる埋め立てを強行すれば、財政破たんは必至である。自然を破壊し、県民に多額のツケをまわす公共事業はやめるべきである。











ハゼ釣り客でにぎわう三番瀬の西側(市川二期地区)。この区域を埋め立てようとしている県と市川市は、ここを「きたない」「汚れている」などと宣伝している。しかし、そんなことはない。むしろ、県や市が投棄ゴミ除去などの管理をきちんとしていないことに問題がある。
 補足調査結果で明らかにされているように、ここは、広い静穏な浅瀬の一角をなし、泥質の底質に適応した多様な底生生物が生息している場所である。これら多様な生物の存在は多様な魚類の生息を支えている。なかでも稚魚にとっては重要な生育場であり、漁業資源にとって非常に大切な場所となっている。
 水質浄化の面においても、COD浄化量が大きく、三番瀬内の他の海域での脱窒に寄与している。
 したがって、ここを埋め立てることは、三番瀬の干潟・浅瀬の生態系及び物質循環を分断することであり、多様な環境と生物、アサリ漁業などの人間活動が微妙なバランスを保ちながら関係し合い成り立っている三番瀬全域の生態系に重大な影響を及ぼす恐れが強い。










県企業庁は、三番瀬埋め立て予定地近くの浦安市に
大量の遊休地(売れ残り)をかかえている。
「街づくり支援用地」などが本当に必要ならば、
ここを利用すべきである。






稼働中の江戸川左岸流域下水道第二終末処理場。現行の流域下水道計画は過大であり、これを見直すとともに、第二処理場の技術革新や節水対策などを講ずれば、大規模施設の新設は不要といわれている。








県企業庁がつくった人工海浜「幕張の浜」。生き物が少なく、文字どおり“作り物の浜”となっている。
この「幕張の浜」について、少年時代を幕張で過ごした作家の椎名誠氏はこう言っている。
「千葉県は幕張の埋め立て地の突端に人工海岸を造りました。あるとき行きましたが、いやあ、悲しかった。アオサなんかない。きれいな海です。においもない。でも、においがないってことは生命がない。自然は人間があんまりいじっちゃいけない」「(埋め立て前の幕張の浜は)アオサが腐ったにおいがした。これは生命のにおい。決してマリンブルーではなかったが、人間も魚も貝も生き生きとしていた。今は、生き物の音も声も聞こえない。幕張の海は死んだ」(椎名誠氏の発言を参照)。
他方で、「幕張の浜」の維持管理費は莫大である。企業庁は毎年、多額の金を投入して砂を補給していたが、財政状態がきびしくなったために、今年はとうとう砂の補給をやめ、海水浴も禁止にした。
企業庁は、三番瀬の西側を埋め立て、その先に「幕張の浜」と同じような人工海浜をつくろうとしている。今ある自然豊かな浅瀬をつぶしてこんなものをつくるのは、自然破壊であり、たいへんなムダである。








首都圏住民の大切なレクリェーション・憩いの場ともなっている船橋海浜公園前の三番瀬。県はここを「県が造成した人工海浜であり、十分な実績になっている」と宣伝しているが、それはウソである。
 県は1970年代、埋め立て地先(現在の船橋海浜公園前)の干潟を浚渫(しゅんせつ)し、船橋航路と市川航路を結ぶ「横引き航路」として利用した。ところが、深い航路に立つ波の力は激しく、前面の砂を流して航路を埋めてしまうため、航路をくり返し浚渫しなければならなった。また、1974年の台風で、埋め立て地側の垂直護岸がいたるところで倒壊した。自然の力にはかなわなかったのだ。そのため、1981年、県はついに「横引き航路」を廃止し、ここを埋めもどしてしまった。だから、ここは、「県が造成した人工海浜」ではなく、いちど航路として浚渫したところを埋めもどしたものである(くわしくは人工干潟は保険にもならないを参照)。
重要なのは、その前面に天然の干潟が残っていたために底生生物が生息し、シギやチドリなどの水鳥が飛来したり潮干狩りも楽しめるようになったことである。といっても、ここは、前面の天然の三番瀬と比べると、生物の種類数や生息量は貧弱である。
一方、県が三番瀬の市川側で計画しているのは、浅瀬を90ヘクタールも埋め立てて、その先に人工海浜を造ろうというもので、「幕張の浜」とおなじものである。だから、私たちは反対している。










1979(昭和54)年当時の船橋側の三番瀬。
船舶航行中の航路(埋め立て地先。写真の中央)は、
県が干潟(三番瀬)の一部を浚渫してつくった「横引き航路」である。
「横引き航路」はその後、市川航路の浚渫土砂で埋めもどされ、
「市民の浜辺」として利用されるようになった。
この浜辺は、前面(写真では右側)に天然の干潟が残っていたために、
底生生物が比較的多く生息するようになった。







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