〜県が「第1回 三番瀬シンポジウム」を開催〜
三番瀬の埋め立て問題で、千葉県主催の「三番瀬シンポジウム」が開かれ、公開抽選で選ばれた20人の住民が意見を発表しました。
参加者は約380人。堂本暁子県知事や県環境会議の林雄次郎会長らも出席し、20人の意見や会場からの発言を聞きました。
意見発表では、「三番瀬は東京湾に数少ない水鳥の生息地であり、渡り鳥の大切な中継地」「生物多様性豊かで、水質浄化に多大な貢献をしている」「これ以上埋め立てないでほしい」「子どもたちにそっくり残すべき」「知事は、白紙撤回ではなく、埋めないと断言してほしい」などの声が相次ぎ、“埋め立て反対”の意見が圧倒的多数を占めました。また、シンポジウムを2回開いただけで見直し計画案をつくるのはあまりにも拙速すぎる」などと、埋め立て計画案の作成過程に疑問をはさむ意見もだされました。
一方、埋め立て賛成の立場からは、漁業関係者が2人、「市川側の潮回りをよくするために、埋め立てて緩やかな水際線(海岸線)にすべき」「市川側は埋め立てて、『幕張の浜』や『稲毛の浜』のような人工海浜をつくるべき」とする意見を述べただけでした。
堂本知事は、9月7日に第2回のシンポジウムとして、学識経験者と地元代表によるパネルディスカッションをおこない、9月中にも新計画案の基本方針をまとめる予定です。
発表しているのは牛野くみ子さん
このシンポジウムの結果を千葉県がまとめ、次のホームページに掲載していますので、ご覧ください。
第1回三番瀬シンポジウムの開催結果〈概要〉
なお、20人の意見発表のうち、「千葉の干潟を守る会」の大浜清さんと大浜和子さんの意見を紹介します。
意見発表の内容(2人) |
今ある干潟をこれ以上こわさないで、
人間がこわした部分を直していこう
大浜 清
浦安に住む釣り人の前野勝美さんという方の本の中に、こういう場面があります。
毎年春、4月から5月になると、浦安埋め立て地の見明川をひしめきあいながら江戸川をめざして遡って行く魚たちがいる。何万何十万という稚魚の群である──と。
それはまちがいなく三番瀬で育ったアユたちです。
魚たちを育てるのは、波が静かで浅く、そして、エサになる小さな生きものたちが豊富な海です。小さな生きものたちを育てるのは、泥に含まれるさらに小さな微生物や有機物です。
アユは、地元の漁師さんには一文にもなりません。まして、魚を育てるドロクダムシなどは一文にもなりません。しかし、それはまちがいなく大切な資源です。
生き物たちは皆、つながりあい、支えあって生きています。それが生物多様性です。
そういった生物の多様性を支えているのは、環境の多様性です。海は不思議にみちています。私たちは自然の摂理を大切にしなければなりません。
泥場だからといって、猫実川河口域を埋めてしまおうという意見があります。しかし、泥場をバカにしてはいけません。昔の東京湾には、そうした変化がふんだんにありました。
谷津干潟では今、砂質化が進んで生物量が減少し、問題になっています。
砂もあれば泥もある、というのは、三番瀬の多様性です。
埋め立ては、海という入れ物をつぶし、生きものを皆殺しにしていまいました。東京湾に残った干潟はわずか1割で、環境は追いつめられています。
今ある干潟を大切にしよう。今ある干潟をこれ以上こわさないで、人間がこわした部分を直していこう、というのが私の立場です。
「再生」を唱えるなら、ラムサール条約が今とりくんでいる「湿地修復の原則と指針」をぜひ参考にしてください。その最初にこう書いてあります。
「今ある質の高い生物の生息地を保護・保存することが第一で、修復よりも優先すべきことである」
保全は修復して優先するのです。
では、三番瀬はどこを直すべきでしょうか。
第一は、埋め立ての砂をとるために浚渫した穴です。これが青潮の発生源であり、生きものの敵です。ですから、まずこれをふさぐことが必要です。不必要な澪筋(みおすじ)も平らにすべきです。一方、航路浚渫はきびしく制限することが必要になります。
次は、埋めてしまった土地をできるだけ元の自然にもどすことです。必要以上に埋めてしまった遊休埋め立て地や、ふりかえのきく埋め立て地は、干潟や塩性湿地や内陸湿地にしてもどすことが必要になっています。
行徳の原風景を思いだしましょう。埋め立て地の足の下には無数の生きもの、緑、水がありました。「行徳野鳥観察舎友の会」が湿地復原計画を提示していますが、これは理想的なたたき台だと思います。浦安でも参考になります。ぜひ耳を傾けてください。
ところで、「里海再生計画策定」のためというこのシンポジウムのあり方には疑問があります。
しかし、今は時間がありませんので、ひとつだけ言います。
堂本さんはまず、「脱埋め立て宣言」をしてください。原則を明示してください。埋め立ては残酷な“海の皆殺し”です。
海は公有水面です。この公有水面はだれのものでもありません。国のものでも、県のものでも、市のものでもありません。つまり、海は私たちみんなのものです。だから、大切にしましょう。
また、三番瀬は私たちだけのものではありません。ここにいない人たち、そして、まだ生まれていない子どもたち、物言わぬ生き物たち、すべのものです。
ですから、自分たちだけのために使い切ってしまってはいけません。自然はだれのものでもありません。だからこそ、大切にしましょう。こう考えたいと思います。いかがでしょうか。
微小生物によって、私たち人間も生かされている
大浜和子
東京湾の三番瀬は、有明海とは違って、大部分が砂質の干潟です。しかし、場所によっては「深んど」といわれているような泥っぽい所もあり、泥質から砂質までのいろいろな環境がお互いに影響しあって、全体として良好な生態系が保たれています。
私たちは干潟でアサリを掘り、魚をとって、いのちの糧として恩恵に浴しています。一方、このアサリや魚たちも、プランクトンやケイソウを食べ、小さな魚は大きい魚の餌となるという食物連鎖によってお互いに生かされています。
海で泥と水を壜(びん)にくんできて、しばらく放置しておき、水が透きとおってきたら実体顕微鏡でのぞいてみます。ゴカイの赤ちゃんがたくさんいて、絹糸より細く見えるヒゲをビュンビュン振り回しています。ヒゲの先端で上手に砂粒をたぐり寄せて丸のみにします。こうして砂粒の表面についている有機物や、バクテリアを食べています。ゴカイは、こんな肉眼で見えないような小さいときから、浄化作用の一翼をになっているのです。これは驚きです。
カニやゴカイは砂粒を口に入れ、有機物を自分の栄養として取り込み、食べかす、すなわちきれいになった砂を干潟にもどしています。
また、富栄養化のもとになっている窒素分についても、カニやゴカイの穴のまわりで、ミクロの脱窒菌の働きによって脱窒作用がおこなわれ、窒素ガスになって外界に出ていくといわれています。このように、三番瀬にすむ微生物や底生生物たちがおこなっている共同作業は、海水の浄化に役立っています。県の調査によれば、13万人分の下水処理施設に換算することができるそうです。
肉眼で見える5ミリくらいの大きさのドロクダムシも浄化作用に関与しています。このドロクダムシは、イシガレイの稚魚の好物だと聞いています。猫実川河口域に多く生息しており、ここは波が静かなので、多くの魚が稚魚の時代にここで育つと聞いています。
私たちは、今年6月の大潮のとき、猫実川河口で梯子(はしご)づたいに船に乗り、洲の出ている所へ上陸して観察しました。アオサが累々と重なっていたので、子供の頃を思い出しました。(ちなみに、昔は、アオサが帯状に累積したヌルヌルの所を通り抜けなければ、アサリのいる干潟には出られませんでした)
ヌルヌルした足の裏の感触は気持ちのよいものではありませんでした。アオサに覆われた洲は、かきわけるとかなり締(し)まった砂地でした。この日、いちばん感動したのは、抜けかわったばかりのワタリガニの殻を拾ったときです。8ミリくらいの甲羅をはすずと部品が揃っていて、透明感のある美しいものでした。
藤前干潟でアナジャコの調査をしておられた方も私たちといっしょに観察されたのですが、2.5センチくらいの個体を見つけたら、「これは今年の幼体だ」と言いました。この時期は深さ10センチくらいの所に生息しているので、私たちにも簡単に見ることができました。アナジャコはだんだん成長するにつれ、穴を掘り下げ、冬には1メートルくらいの深さになり、大きいのは10センチ近くまで育つそうです。しかも、2つ穴を持つY字形の巣穴をつくるので、干潟の表面積より好気的環境はかなり多くなるはずです。その方はアカニシを10数個持ち帰り、「サザエより味がよかった」と喜んでおられました。
生物多様性について造詣(ぞうけい)の深い堂本知事さん、三番瀬をこれ以上埋め立てないと明言してください。
★関連ページ
- 埋め立て論理を断ち切り、陸側での湿地復原計画を〜堂本知事への手紙〜(大浜 清)
- 三番瀬埋め立て計画の問題点と私たちの提言
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