〜全国自然保護連合がシンポ〜
全国自然保護連合は11月25日、「自然保護と干潟保全のあり方を問う〜三番瀬における自然再生の実態」と題するシンポジウムを船橋市内で開きました。
釧路湿原の自然再生が「新たな環境破壊ではないか」と危惧されているように、全国各地で進められている自然再生事業は大きな問題をかかえています。とくに三番瀬では、いったん白紙撤回された埋め立て計画を「自然再生」「漁場再生」の名で復活しようとする動きが進んでいます。
そんな中、再生事業の実態や問題点を明らかにし、保全のあり方を探るためにシンポが開かれました。
●自然を破壊することは人間を壊すこと
最初は、川村晃生・慶応大学教授が「人はなぜ自然を壊してはいけないか」というテーマで特別講演。川村教授は、日本人の生活に役立ってきた自然風景や歴史的景観が全国各地でズタズタに壊されていることを問題にし、理念なき環境行政のあり方に警鐘を鳴らしました。
たとえば、新潟砂丘は、信濃川と阿賀野川が運んでくる土砂が堆積したできあがった砂丘でした。すぐれた景観を誇り、北原白秋はこの砂丘を見て「砂山」の詩をつくりました。しかし、そんな砂丘が、築港やコンクリート護岸の建設によって見るも無惨な石とコンクリートずくめの海岸に変貌しました。
また、静岡県沼津市の海岸に広がっていた千本松原は、東海道を行き来する旅人や市民の心を癒(いや)してくれるような見事な景観を誇っていました。しかしこの松原も、築港やコンクリートの防潮堤建設によって半分以上が壊されました。
残り半分もコンビナート建設などで破壊されようとしたとき、沼津市民がたちあがって埋め立て反対運動と防潮堤カサ上げ反対運動を起こしました。市民は、千本松原の半分を失ったことを悔やみ、「沼津の誇りであり、市民の心のよりどころである千本浜の自然がこれ以上破壊されることは我慢できない」と訴えました。市民のねばり強い運動が勝利し、残りの千本浜と松林は保全されることになりました。
これらの事例をくわしく紹介しながら、教授はこんなことを述べました。
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「千本松原にある作家・井上靖の碑文に、〈少年の日 私は 毎日 それを一つずつ 食べて育った〉と書かれている。このように、自然風景は、日本人が成長するときの栄養になっていた。しかし、そんな風景や景観が近年の開発によってどんどん壊され、目を覆いたくなるような惨状になっている。これらをつぶさに見て、私は、“自然を破壊することは人間を壊すことだ”だということを確信した。こういうことで果たして子どもたちが健全に育つのだろうかと疑問に思う」
●人工干潟は失敗だらけ
つづいて全国自然保護連合の青木敬介代表が「干潟保全をめぐる諸問題」というテーマで講演。長年にわたり播磨灘(兵庫県)や瀬戸内海を守る運動をつづけている青木さんは、
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「国交省などが進めている自然再生事業は、再生ではなくて再び自然を壊すものとなっている」
「壊した自然を復元するのは無理なこと。全国のあちこちで人工干潟や養浜の工事がやられているが、どこも失敗している。たとえば兵庫県の須磨海岸では、広島県から砂を運んできて人工干潟をつくったが、砂の質が違っていたこともあり、もともと生息していた生物が全滅してしまった。しかも、砂が流されるため、莫大なカネを投じて毎年のように砂を補給しつづけている。いったん自然を壊すとこんなことになる」
●猫実川河口域は生き物豊かな砂泥質の干潟・浅瀬
「三番瀬を守る署名ネットワーク」の田久保晴孝代表は「三番瀬再生の実態と保全運動」と題して講演。第二湾岸道路を三番瀬に通す構想や、猫実川河口域(三番瀬の市川側海域)の浅瀬をつぶして人工干潟化にする動きなどを紹介し、「猫実川河口域は生き物豊かな砂泥質の干潟・浅瀬である。こんな大切な湿地は、ラムサール条約の精神に則って保全すべきである」と述べました。
●パネリストと参加者が活発に討論
講演のあとは、3人のほかに牛野くみ子(千葉県自然保護連合代表)、木村真介(内川と内川河口をよみがえらせる会代表)、伊藤昌尚(日本湿地ネットワーク運営委員)、竹川未喜男(三番瀬再生会議委員、千葉の干潟を守る会)、御簾納照雄(小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会事務局長)の各氏がパネリストとなり、討論です。
三番瀬で進められている再生事業や、人工干潟造成、第二湾岸道路、干潟の保全・再生のあり方などをめぐって意見が活発に交わされました。参加者からもさまざまな意見がだされました。
仙台市・蒲生(がもう)干潟の保全運動を進めている「蒲生を守る会」や、沖縄・白保のサンゴ礁を守る運動を続けている「八重山・白保の海を守る会」、石川県の自然保護運動をつづけているメンバーなども発言しました。
●カキ礁は魚礁や水質浄化で大切な役割
討論を締めくくった青木敬介代表はこう述べました。
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「瀬戸内海にも小規模なカキ礁があちこちにあり、魚礁や水質浄化で大切な役割を果たしている。カキ礁の中をのぞくと、思いもかけない生物を発見できる。三番瀬・猫実川河口域のカキ礁は広さが約5000平方メートルもあり、こんな大規模なものはめずらしいし、たいへん貴重である。このカキ礁を核とする猫実川河口域は、東京湾の漁業にとっても重要な役割を果たしている。そこに土砂に入れて人工干潟などをつくるのは愚かな行為である」
「私たちが三番瀬をうらやましく思うのは、環境の多様性である。砂場と泥場が両方あるのは稀有(けう)なことであり、めずらしい。しかも、貴重なカキ礁もある。幸いにして、三番瀬は環境NGOのおかげで守られている。今後も力をあわせて守りぬいてほしい」
●三番瀬の自然の豊かさを実感
〜現地見学会〜
なお、シンポの後は懇親会が開かれ、意見交換などをおこないました。
翌日(26日)は、田久保晴孝さんなどの案内で、三番瀬の船橋側や猫実川河口域を見学しました。数万羽のスズガモや100羽以上のミヤコドリなど、さまざまな野鳥をみてみんな感激です。
まるまる太ったダイゼンやハマシギなどを見て、こんな感想がだされました。
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「鳥が太っているということは、エサになる生き物が豊富ということを証明している。三番瀬が自然豊かな海であることを実感した」
以下は、そのアピール文です。
(2006年11月)
アピール |
東京湾三番瀬の保存とラムサール条約早期登録を求めるアピール
私たちは本日、千葉県が進めている「三番瀬再生」について討論した。
三番瀬は東京湾奥部に広がる干潟・浅瀬である。その一部は埋め立てられてしまったが、さらなる埋め立て計画(市川2期・京葉港2期地区計画)は白紙撤回になった。
その後、県は「三番瀬再生計画検討会議」(通称・円卓会議)や「三番瀬再生会議」を発足させ、三番瀬再生計画を策定中である。そこでは、猫実川河口域(市川側海域の一部)の扱いが最大の焦点となっている。そこを保存するのか、それとも人工干潟(人工海浜)にするのかということである。
この海域は、100種類以上の生き物が生息する重要な浅瀬(浅海域)である。大潮の干潮時には、約30ヘクタール以上の広大な泥干潟が現れる。ドロクダムシやニホンドロソコエビなど、三番瀬の他の環境条件には存在しない底生生物も発見されている。ウネナシトマヤガイ、エドハゼなど、県レッドデータブックに掲載されている希少種も10種類以上が県の調査で確認されている。まさに、猫実川河口域は、三番瀬の中でもっとも生物の多い海域であり、東京湾漁業にとっても大切な命のゆりかごとなっている。
また、この海域には、約5000平方メートルにおよぶカキ礁も存在する。カキ礁は、水質浄化機能が高いだけではなく、魚礁としての機能も高く、海外においてはその価値が高く評価されている。 国内でも、たとえば東京都が最近、“天然のフィルター”としてのカキの役割に注目し、東京港の水質浄化のために「カキいかだ」の設置を検討しはじめた(別紙新聞記事参照)。
そんな海域をつぶして人工干潟を造成することは、形を変えた埋め立てであり、自然破壊以外のなにものでもない。三番瀬全域の生態系にも重大な影響をおよぼす恐れが強いのでやめるべきである。 また、県が海に張り出す形で進めている護岸改修工事も、海をつぶさない方式に変更すべきである。
三番瀬保全で重要なことは、ラムサール条約の登録湿地にすることである。2008年の「ラムサール条約締約国会議」(韓国)に向けて登録手続きを急ぐべきである。
2006年11月25日
シンポジウム「自然保護と干潟保全のあり方を問う」参加者一同
★関連ページ
- 三番瀬を保全し、次世代へ引き継ごう!〜市民交流集会(2006/9/24)
- 三番瀬をめぐる対立点(県自然保護連合事務局、2006/9)
- 三番瀬をラムサールに〜署名ネットが集会(2006/7/17)
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