これでいいのか! 千葉県企業庁

〜金で操る三番瀬埋め立てを監査請求〜

千葉の干潟を守る会 代表 大 浜  清



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「行徳漁協への転業準備資金融資問題」とは?


 千葉県企業庁は、三番瀬埋め立て計画(市川二期地区・京葉二期地区計画)がちょうど凍結中の時期なのに、埋め立て推進の下心から、市川二期地区の漁業権事前補償にあたる金を「転業準備資金」としてばらまきました。1982年のことです。そして県が背負いこんだ利息負担は年々ふくれ上がりました。−−これが埋め立てにしがみつく企業庁の裏事情か?


● 経過はこうだ

(1)何はともあれ、まずお金

 1982年6月、企業庁、行徳漁協、金融機関(千葉県信用漁業協同組合連合会〈信漁連〉と千葉銀行)が次の合意を行った(いわゆる「三者合意」)。
 金融機関は行徳漁協に43億円を融資し、組合員中の転業希望者に転業準備資金として貸し付ける(組合員624人中518人となった)。返済は市川二期埋め立ての漁業権補償費で決済する(事実上、無期限となった)。利息は全額県企業庁が負担。また、協力預金として、県企業庁は金融機関に20億円を預け入れる。
 その後、91年に、危険を察知したか、千葉銀行は協力を断り、貸し付けは信漁連一本となった(「新三者合意」)。
 以上の「合意」は議会の議決を経ていない。


(2)計画が行きづまって

 1993年、市川二期計画と京葉二期計画はようやく基本計画発表にこぎつけたが、直ちに県環境会議にまわされ、埋め立て手続きには入れなくなった。そこで企業庁は、一部漁民の言動を借りて三番瀬埋め立ての推進を図った。
 まず、埋め立て推進陳情をさせた。つぎに、「三番瀬はもう死んだ」と言わせて、“干潟は大切だから、三番瀬は埋めて、新しい人工干潟・人工漁場を造ろう”という「新三番瀬計画」をふりまいた。その黒幕が企業庁であることは、蕨悦雄・企業庁長(当時)の「みんなで考えよう! −−京葉二期現場事務所からの“夢作戦“」という一通の宣伝文が明白に物語っている。「頭かくして尻かくさず」とはこのことだ。
 これらの一連の当事者である平野寅蔵・行徳漁協組合長は、三番瀬問題の補足調査委員会の調査委員に、さらには計画策定懇談会委員に登用された。
 計画縮小が必至になってくると、今度は、三番瀬全体ではなく、「猫実川河口域はヘドロで死んだ。三番瀬の他の海域に悪い影響を及ぼすから埋めてもらいたい」と言わせた。環境庁長官の前で海底の泥をすくって見せるパフォーマンスにも動員した。「そこが幼魚稚魚の重要な生育場所である」という補足調査結果には一言も触れずに。
 「環境保全のための埋め立て」というのは、ここからでてきた迷文句である。市川市長までその尻馬に乗せられて、埋め立てを唱えた。


(3)困った企業庁は

 県の財政も行きづまってしまった。
 1999年、市川二期・京葉港二期計画は縮小案が発表され、融資対象であった漁業権補償は望みを絶たれた。負債はふくらむ一方で、累積利息は56億円に達したが、企業庁はこの融資に関する正式な予算措置をとっていなかったため、処置に窮した。
 この事実が1999年11月10日付けの読売新聞で報道された。
 千葉県企業庁は、同年12月県議会で、利息負担は臨海開発事業の「継続費」として処理したかのように答弁したが、事実は何も予算化されておらず、議会も知らぬ間に負債ばかりが毎年3億もふくらみつづけていることが判明した。
 2000年2月議会で、企業庁は、これまでの累積債務だけはとりあえず予算化することとし、99年度補正予算と2000年度当初予算の両方に分けて予算を計上した。費用はまさか市川二期埋め立て事業費とするわけには行かないので、既設埋立地(浦安二期地区と京葉港地区)の事業費とした。
 つまり、これまでの埋め立て(とくに浦安二期)が潮の流れを悪くし、三番瀬の海洋環境・漁場環境を劣化させたことをはじめて公式に認め、その損害賠償としてこの融資を行った、ということにした。
 この認識は、これからの三番瀬問題を考える上で重要な一歩だ、ということは言っておこう。
 しかし、それだからといって、埋め立てによって東京湾を破壊しつづけてきた責任は消えない。今もなお埋め立てを捨てない以上、なおさらのことである。
 一方、18年前にばらまいた金とその利息は、つじつまが合わなくなってしまった。なぜなら、損害補償なら、損害額の算定がなくてはならず、その都度の補償で済み、利息は生じないはずだからである。しかも、融資本体(漁民の借金)と今後の利息は未解決のままである。


(4)私たちの対応 〜監査請求を行うまで〜

 1999年11月19日、三番瀬を守る署名ネットワークは、知事宛てに、「転業準備資金」の算出の根拠、利息の全額県負担の根拠、漁業権事前補償の根拠等の説明と、行徳漁協の平野寅蔵氏を補足調査委員と計画策定懇談会委員から更迭することを要求した。
 その根拠に関する説明は、今年(2000年)1月30日の私たちと企業庁との交渉でもあいまいをきわめ、「三者合意」「新三者合意」の公開は拒否された。
 平野委員の処遇については、12月末に計画策定懇談会を休止させたまま棚上げになっている。
 しかも、今年3月末には、県議会で利息負担の追認というべき予算支出が費目を変えて計上され、可決される運びとなった。
 ここにおいて、私たちは監査請求を行って、このようにルーズな形で県政を牛耳り、私たちの環境と県財政に損害を与えた知事と歴代企業庁長の責任を間うことにした。
 4月7日、私たちは千葉県監査委員会に監査請求(千葉県職員措置請求)を提出した。
 これに対して、4月12日付けで、「4月24日に証拠提出と請求人陳述を行う」旨の通知がきたが、それはなんと、代表監査委員として蕨悦雄氏の名による文書であった。かの元企業庁長であり、企画部長、総務部長を歴任した人物である。
 私たちの動きを知らなかったわけがない。それにもかかわらず、県は監査対象たる当人を代表監査委員(唯一の常勤監査委員)にこの4月に任命したのであった。県に対する監査とは県職員の行為に対する監査に決まりきっているではないか。私たちは直ちに蕨氏の「除斥申立書」を提出した。
 こうして4月24日、請求人陳述が行われた。監査結果の回答は、提出後60日以内に行われる。


● 結 び

 かつて、前田俊彦さんという方が、「論理」と「道理」をきびしく区別すべきことを説いておられた。
 私たちが願うことは、「埋め立ての論理」を断ち切ることによって、果てしない破壊から地球を守ることだ。また、権力によらず、利権によらず、「道理」によってこの国の政治、行政を導いてもらいたい、ということである。
 その実現は決して容易なことではあるまいと思う。しかし、かりに現実の妥協は世のならいであっても、理想の妥協を許してはならないと思う。
 監査請求の結果、法によって争うことになるかもしれない。
 同時に、県に向かって言いたい。埋め立ての泥沼から脱け出すには埋め立てをやめるしかない。環境も財政もそれを要求している−−と。
 私たちは埋め立てない対案を出している。水も施設も土地も使い捨てにするような、今の都市計画からまず改めるべきことを提案している。埋め立ての傷口をまず直すことを要求している。為政者が自然の摂理に耳を傾けることを望んでいる。自分の世代だけの利益よりも、いつまでも人類が地球に住み続けられるようにと願っている。
 三番瀬を大いなる転換への出発点とするために。

(2000年5月)      










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