なぜ危険な場所で住宅開発を行うのか

〜水害対策に逆行する市川塩浜地区のまちづくり〜

千葉県自然保護連合事務局


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■ハリケーン「カトリーナ」の教訓

 今年(2005年)8月末に米国南部を襲った大型ハリケーン「カトリーナ」は、甚大な被害を与た。
 この教訓について、専門家は次のようなことを指摘している。
     「超大型ハリケーン(台風)の襲来と満潮などの悪条件が重なると、堤防を高くしても洪水を防げない」
     「(堤防は)いったん破られると機能を失い、1ヵ所でも浸食されたらくずれはじめる」
     「堤防技術に頼ってはいけない」
 などである。


■地球はますます危険な場所になっている

 昨年(12月のスマトラ沖地震では、インド洋の広い範囲の沿岸を大津波が襲い、死者は推計18万人にのぼった。
 こんな警告がされている。

     「被災者の総数だけを見ても、地球がますます危険な場所になっていることは明白だ。今年1月に開かれた国連の防災会議の席上でも、1994年〜2003年の間に25億人以上の人が洪水、地震、ハリケーンなどの自然災害の被害にあっているとの報告があった。これは、その前の2度の10年間の数字を60%も上回っている。しかも、2003年までのこの統計値には、昨年12月のスマトラ沖地震による津波の被害者は含まれていない」
     「われわれは技術に頼り、人が被害に遭うことなど絶対にないと考えるようになってしまったが、実はそうではない。われわれはとても危険な星に暮らしているというのが真相だ」
     「米国では、土地の開発のあり方も被災の要因になっている」
     「(人々は)フロリダおよび大西洋やメキシコ湾岸、特に砂州でできた島や、カリフォルニアなど、自然災害の被害を受けやすい場所に移り住むようになった」
     「数十年前には、今のように海岸沿いに家が隙間なく立ち並んでいることはなかった」〈注〉


■「むやみに市街化区域を拡大させない」は水害対策の基本

 ここからいえることの一つは、「人がたくさん住むような街を危険な場所につくってはいけない」ということである。
 じっさいに、国土交通省中部技術事務所長の金木誠氏(元同省水害研究室長)は、『朝日新聞』(2005年9月20日)の「私の視点」欄で、水害対策についてこう述べている。
     「さらに、ハザードマップを活用して、建物に耐水扉の設置を促したり、むやみに市街化区域を拡大させないなどの開発規制を導入して水害に強い土地利用をはかることが重要である」
 このように、「むやみに市街化区域を拡大させない」というのは、水害対策の基本である。


■海沿いの危険な場所で再開発を推進
   〜千葉県と市川市〜

 しかし、千葉県は、これに反することをやろうとしている。市川市塩浜地区での「海岸保全区域移設」と「護岸改修」である。
 これは、人が住めないようになっている海沿いの工業専用地域を用途変更し、住宅地や商業地として再開発することを目的としている。再開発(市川市行徳臨海部まちづくり)を推進しているのは、地元の市川市などである。

 市川塩浜地区は、これまでは、海岸保全区域が工業専用地域や工業地域の後背地に設置されていた。したがって、伊勢湾台風級の高潮に備えた立派な防潮堤も、工業専用地域などの後背地につくられている。
 ようするに、工業専用地域などが“緩衝地帯”となっており、その後背地に防潮堤がつくられているため、市民は「二重の防御システム」で守られているのだ〈注〉。これは、なにも市川塩浜地区だけでなく、千葉市、習志野市、船橋市の東京湾岸も同じである。
   
 この点は、市川市も、市のホームページで次のように述べている。
     「構造上、高潮対策のなされた堤防が、塩浜体育館と塩浜団地の間を通って湾岸道路と行徳近郊緑地の間を千鳥橋まで一期埋め立ての時につくられており、塩浜団地や学校は守られています」
 それなのに、県は、三番瀬保全団体などの強い反対を無視し、海岸保全区域を水際線に移設した。これとあわせ、三番瀬海域の一部をつぶす形で石積み護岸改修をやろうとしている。
 その目的は、前述のように、いまは工業専用地域となっている海沿いの区域で再開発をおこなうことである。市街化区域を拡大して新しい街をつくり、たくさんの人が住めるようにするために、水際線に新たな堤防や石積み護岸をつくるというものである。
 しかし、これは、「むやみに市街化区域を拡大させない」とか「危険な場所にたくさんの人が住むような街をつくらない」という水害対策の基本に反するものである。


■水害対策への逆行と環境破壊

 こんなことをやろうとしている県や市などの姿勢を疑う。はっきりいって、人の命よりも開発を重視しているからである。
 しかも、多種多様な生き物が生息している三番瀬海域の一部をつぶすというのだから、水害対策に逆行というだけでなく、環境破壊でもある。これが「三番瀬再生事業」の最優先課題あるいは“目玉”として位置づけられているのだから、あきれてしまう。

 今後、塩浜地区ではたくさんの人が住めるような“まちづくり”がおこなわれる予定である。そのことによって、将来、大津波や巨大台風、異常高潮などによって大きな人的被害が出た場合、だれが責任をとるのだろうか。再開発を推進した県や市川市はきびしく批判されるべきである。
 さらには、それを推進したり容認した「三番瀬円卓会議」「三番瀬再生会議」「市川海岸塩浜地区護岸検討委員会」「東京湾沿岸海岸保全基本計画検討委員会」「市川市行徳臨海部まちづくり懇談会」などの委員も同じである。

(2005年9月)







市川塩浜地区(湾岸道路から海側の地区)は、市川塩浜駅の周辺が
一部近隣商業地域になっているほかは、大部分が工業専用地域である。
工業専用地域は、人が住めないようになっている。
これまでは工業専用区域などの後背地に海岸保全区域が設定され、
住宅地域や学校は高潮から守られていた。
しかし、県は昨年、海岸保全区域を塩浜2、3丁目の前面に移した。
その直接の目的は、工業専用地域を用途変更し、
住宅地や商業地として再開発することである。
これは、「むやみに市街化区域を拡大させない」とか
「危険な場所にたくさんの人が住むような街をつくらない」という
水害対策の基本に反するものである。
米国の大型ハリケーン「カトリーナ」などの教訓をまったく
無視するものでもある。







人の住めない工業専用地域の後背地に防潮堤が設置され、
住宅地域や学校は高潮から守られている。







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