〜第19回「三番瀬再生会議」〜
(2007年)6月8日の三番瀬再生会議(第19回)では、三番瀬に面する浦安市埋め立て地の新町(しんまち)地域の土地利用計画も議論になりました。
■湿地再生用地の確保は断念
浦安市は6月1日、この地域(日の出、明海、高洲地区)の土地利用計画の見直し案を発表しました。中高層集合住宅の多かった同地域を、戸建て住宅など低層の土地利用に変更するとともに、三番瀬の干潟観察舎用地(0.2ha=2000m2)も確保するというものです。
この土地利用計画変更(案)を県が報告しました。その際、「湿地再生用地を確保することは断念した」と話しました。そのため、委員から批判が相次ぎました。こんな批判です。
◇後藤隆委員(公募委員)
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「私たちはかなり前から、三番瀬に面する浦安市埋め立て地での湿地再生を何度も要望してきた。市が設置した会議でも、湿地再生用地の確保を求める意見がだされた。そういう住民の意見や要望などを無視して、一方的に、市、都市再生機構、企業庁(県)の協議だけで土地利用計画を決めるのはおかしい。湿地再生用地の確保は断念したというが、どういう議論がされたのか?」
◇三橋福雄委員(県不動産コンサルティング協会)
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「今回提示された土地利用計画は最終的な段階という説明がされたが、それはおかしい。都市再生機構が保有地を高く売るためのものではないかと思ってしまう。なぜ市民の意見を聞かないで決めたのか?」
◇倉阪秀史委員(千葉大学准教授)
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「(0.2haという三番瀬関係用地の確保は)私が思っていたよりもかなり小さいものだ。“決まったからこれで納得してください”は心外である」
◇吉田正人委員(江戸川大学教授)
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「三番瀬環境学習施設等検討委員会でも環境学習施設と環境学習の場の確保を議論し、要望してきた。行政側で一方的に決めたあとで“決めました”と出してくるのは納得できない。湿地再生について、県がもっとイニシアチブをとってほしい」
これらの意見に対し、県は、「財政状態が厳しいので湿地再生用地の確保は断念せざるをえなかった」。また、浦安市職員(オブザーバー)は、「市内の地価が高騰している中では、干潟観察舎用地0.2haの確保が精一杯」と答えました。
■「次から次へと期待が裏切られている」
今回の会合では、行徳湿地(行徳鳥獣保護区)と三番瀬を結ぶ開さく水路の設置についても、県が「断念した」と説明しました。
この開さく水路の設置と浦安埋め立て地での湿地再生は、三番瀬円卓会議が提案した「三番瀬再生計画案」に盛り込まれています。それが次々と「断念」となっているので、大西隆会長は最後に「次から次へと期待が裏切られている」と述べました。
そうです。埋め立て地の一部を湿地再生に利用するとか、行徳鳥獣保護区と三番瀬を結ぶ開さく水路をつくるなどは、実現の見込みがありません。というか、県などは最初からやる気がなかったのだと思われます。
県や市川市などが本当にやりたいのは、猫実川河口域に土砂を入れて人工干潟(人工海浜)をつくり、そこの第二湾岸道路を通すことです。だからこそ、三番瀬のラムサール条約早期登録はまったくやる気がありませんし、「三番瀬保全条例」の制定も消極的なのです。
■三番瀬円卓会議の提言で実現可能性が高いのは
猫実川河口域の人工干潟化だけ
ルポライターの永尾俊彦さんは、自著『公共事業は変われるか─千葉県三番瀬円卓・再生会議を追って』(岩波ブックレットNo.705) の中でこう書いています。
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《2004年1月22日、最後の円卓会議(第22回)が開かれ、岡島会長から堂本知事に238ページからなる「三番瀬再生計画案」(以下「計画案」)が手渡された。知事は「千葉モデルではなくて、これは十分ジャパンモデルとして耐えるのではないかと思っております」と胸を張った。「三番瀬の再生には、海域をこれ以上狭めないことを原則」とすることがうたわれ、具体策としては
@行徳湿地(鳥獣保護区)の大水深部の浅水化、湿地への三番瀬との連絡水路の開渠化
A猫実川の後背湿地・干潟化
B市川市塩浜2丁目の現護岸の一部撤去とその陸側区域の湿地化
C市川市塩浜2丁目の改修護岸前面における干出域の形成
D浦安市日出地区の現護岸陸域側区域の後背湿地・干潟化
Eふなばし三番瀬海浜公園周辺の海と陸の自然的連続性の確保
F江戸川から小河川や水路を通じた三番瀬への淡水導入
の7項目が提案された。また、これらに取り組むための制度的な保障として三番瀬保全条例の制定と国際的な湿地保全のためのラムサール条約への登録も提案された。
これらが本当に実施されれば画期的だ。何より「海域をこれ以上せばめないこと」が原則とされたことと猫実川河口も「貴重な泥干潟を保全するゾーン」とされたことは最大の成果だ。これは三番瀬を守る上での「証文」になるし、特に海域を狭めない原則は、わが国が「脱埋め立て」に向かう一里塚になり得る。
だが、前記7項目のうちほとんどは地権者や地元市などの抵抗で実現が困難視されている。唯一県が熱意を持ち、可能性が高いのがCの市川市塩浜2丁目の改修護岸前面における干出域の形成、つまり砂投入による人工干潟化だけだと言われる。》
的を射た指摘です。
以下は、浦安市新町地域の土地利用計画変更を報じた新聞記事です。
《『毎日新聞』千葉版、2007年6月2日より》
浦安市新町地域、低層住宅地に利用〜三番瀬の自然観察用地確保〜
◇新町地域土地計画見直し
浦安市は1日、新町地域(日の出、明海、高洲地区)の土地利用計画の見直しを発表した。中高層集合住宅の多かった同地域を、戸建て住宅など低層の土地利用をし、三番瀬の自然観察用地を確保する。市川二期埋立計画の中止などを受け、当初の計画を変更する。
同市によると、新町地域は現在、都市再生機構と県企業庁が都市整備を進めている。見直し案では、同地域を走る都市計画道路3・3・8号線(通称パークウェイ)沿道を、一般住宅地に変更。埋め立て計画中止の原因ともなった水辺環境保全の指摘を受け、三番瀬に自然観察舎の用地として約2000平方メートルを確保する。また、日の出公民館周辺、明海の一般住宅地、明海大学周辺の整備も行う。
見直しは、市川二期埋立計画の中止でパークウェイが二期地区と結ばれなくなったため。当初計画されていた施設誘致の必要性がなくなった。土地利用計画変更の説明会は、8日午後7時、9日と10日の午前10時と午後2時から明海小学校で開催。
★関連ページ
- 人工干潟化の試験をこっそり実施〜第19回「三番瀬再生会議」(2007/6/8)
- 三番瀬問題の深層をえぐった本〜永尾俊彦著『公共事業は変われるか』岩波ブックレット(「自然通信ちば」編集部、2007/7)
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