〜三番瀬は“東京湾の子宮”〜
鈴木良雄
ルポライターの永尾俊彦さんは、近刊の『ルポ 諫早の叫び』(岩波書店)で、諫早湾についてこう記しています。
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「諫早湾で生まれ育った稚魚が有明海に出ていくことから、昔から『有明海の子宮』とも言われてきた」
■三番瀬は“東京湾の子宮”
三番瀬も“東京湾の子宮”の役割を果たしています。稚魚の育成場となっているからです。船橋側の干潟や猫実川河口域に足を踏み入れた方はご存知のように、ハゼなどの稚魚がたくさん泳ぎまわっています。東京湾の漁業にとっても、三番瀬はなくてはならない大切な場所となっているのです。
たとえば、沖合漁業をつづけている大野一敏さん(船橋漁協の元組合長、現在は県内湾巻網組合の組合長)さんは、猫実川河口域の人工干潟化について、こう述べています。
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「海にいろいろな生き物がいないと漁業は成り立たない。あそこが埋まったら、ゲームオーバーだ」(『サンデー毎日』2005年7月24日号)
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「イシガレイは着底後の数カ月間をごく浅い砂質の海底に強く依存して生活するため、そのような場所が埋め立てによって失われると資源は大きなダメージを受けてしまう」
「船橋市地先に残された浅場である三番瀬は、東京湾としての固有性が高い浅海域魚類の存続に重要な役割を果たしている海域であり、魚類相研究の立場からもその保全が強く望まれる場所である」
そんな大切な浅海域(浅瀬、浅場)を土砂で埋めて人工海浜をつくるべきと提案している市川市はいったい何なのでしょうか。市川行徳漁協の幹部などもおなじです。
■自然海浜をわざわざ潰して人工海浜を造成する行為は愚挙
市川市長らは、横浜市金沢湾の人工海浜「海の公園」を高く評価し、それと同じようなものを、猫実川河口域を埋めてつくりたいと述べています。
しかし、これはとんでもないことです。「海の公園」にたいへんくわしい工藤孝浩さんは、前出書でこう述べています。
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「金沢湾の人工海浜は、造成後17年を経過した現在も浜の形状変化がなく、生物相の多様性も高まってきており、千葉県の幕張・稲毛の人工海浜などに比べれば一定の評価はできる。港湾・土木関係者の間では、全国的にみて最も優れた成功事例とされているようである。しかし、魚類相の速やかな回復は野島海岸〈注〉の存在によってなされたものと考えられ、ビオトープとしての質は未だ自然海浜時代や野島海岸に及ばない」
「人工海浜の造成は、埋め立てによって失われた浜辺を代償的に復元する措置であって、金沢湾のように自然海浜をわざわざ潰して人工海浜を造成する行為は愚挙であると言わざるを得ない。景観、ビオトープ、アメニティーと、どの機能をとっても自然海浜に勝る人工海浜は未だ実現していないことを肝に銘じたい」
〈注〉野島海岸は自然海岸です。
■かつては風呂田氏も人工海浜造成を批判
ちなみに、同書では、風呂田利夫氏(東邦大学教授)も、安易な人工海浜造成をきびしく批判しています。
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「人工的な海浜での生物生息現況を見ると、皮肉なことに稲毛幕張の人工海浜のように開放的な海岸に多額の費用を投じて造り、完成後も多額の管理維持費がかかる海岸ほど生物の復活が悪く、逆に谷津干潟で見られるように、閉鎖的な海域で放置された海岸ほど生物の生息は豊かである」
「現在、人工海浜はいわゆる浜的構造を目指し、湾に開いた埋立地の前面に造られることが多い。このような海浜は波当たりが強く、海岸部の水深が深いため砂浜海岸はできにくい。ここはすでに砂浜や干潟海岸とはならない地形である。したがって東京湾本来の海岸環境を取り戻すのは不可能に近く、無理に造成してもその構造を維持するために恒久的な管理努力と経費が必要となり、結果として将来の大きな『つけ』となる。それは自然回復の名のもとに行われる単なる土木事業であり、東京湾の生物にとっても、その費用と努力が要求されつづける住民にとっても不幸なことである」
猫実川河口域を人為的に改変し、人工海浜をつくることは、環境破壊であるばかりでなく、ムダな土木事業です。これは愚行であることをはっきり言いたいと思います。
(2005年7月)
★関連ページ
- 人工干潟造成論の批判
- 三番瀬問題の深層をえぐった本〜永尾俊彦著『公共事業は変われるか』岩波ブックレット(「自然通信ちば」編集部、2007/7)
- 風呂田利夫氏が三番瀬猫実川河口域の人工干潟化を主張〜第16回「市川市行徳臨海部まちづくり懇談会」(2005/3/9)
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