三番瀬鳥類調査報告書のズサンさを質す
〜県自然保護課の説明会〜
三番瀬保護団体(千葉の干潟を守る会、三番瀬を守る会、県自然保護連合など)は(2009年)6月1日、三番瀬鳥類調査報告書に関する自然保護課の説明会に出席し、同課の見解や姿勢をただしました。
◆事実と異なる記述や根拠のない推論が随所に
報告書の名称は「平成19年度三番瀬鳥類個体数経年調査報告書」です。県(自然保護課)が某NPO法人に約390万円で委託してまとめました。
この調査報告は、今後の三番瀬再生事業に反映されるとのことですので、その影響は大きいものがあります。また、「三番瀬をラムサール登録湿地に」という気運が高まっている中で、この調査報告書は、「三番瀬は環境が悪化傾向にあり、野鳥も大幅に減少している。だから、ラムサール登録は時期尚早」という根拠づけに利用される可能性もあります。
しかし、報告書の内容をみると、事実とまったく異なる記述や、根拠のない推論、作為的な引用などが随所にあり、問題だらけです。
たとえばこんな具合です。
- 底生生物(鳥の餌)の調査をせずに、しかも何の根拠も示さずに、三番瀬は餌資源が減少していると決めつけている。
- 根拠を示さずに三番瀬の環境は悪化傾向にあると結論づけている。
- 現地をみれば一目瞭然のとおり、アオサが堆積して干潟・浅海域の底泥が無酸素状態になっている箇所はほとんどみられない(時期により、一部の浅海域がアオサに覆われることはある)。県農林水産部水産局作成の「三番瀬漁場再生検討委員会の検討状況について」にも、「平成19、20年度はアオサの発生量が少なく、20年度には事業規模の(アオサ)回収は必要ありませんでした」と記されている。ところが、報告書は「アオサが堆積し、底泥が無酸素状態になっている」と決めつけている。
- 県水産総合研究センターによるアオサの調査データを用いるにあたり、アオサが異常に発生した年の一時期のデータだけを恣意的に採用し、しかも、同センターのデータは「アオサの推定発生量」となっているのに、意図的に誤用して「アオサの堆積」としている。
- 三番瀬に飛来する水鳥のうち断トツに多いスズガモについて、「三番瀬海域を、採餌場としてもよりも、休息の場として利用している」「最大の要因は、餌資源の減少であろう」と書いている。 しかし、スズガモは、主に夜間に採餌している。夜間の調査をしていないのでそんなことは書けるはずがないのに、平気で決めつけている。
- 「出現種数は減少傾向にある」とし、1987年8月〜1997年2月の10年間の種数(188種)と単年度(2007年度)の種数(127種)の比較表を掲載している。しかし、10年間と単年度の調査結果を単純に比較するのは大間違いである。希少種は、年によって飛来したり飛来しなかったりするからである。この比較は、野鳥を知らない人をあざむくものといえる。
◆「受託者が書いたものは、根拠のない推論でも訂正できない」
そこで、三番瀬保護団体が同報告書に関する勉強会の開催を要望したのですが、自然保護課は拒否しました。そこで、丸山慎一県議(共産党)と川本幸立県議(市民ネット)に依頼して説明会をセットしていただきました。
同課の説明や回答は、すべて自然環境企画室長がおこないました。それは、一言でいえばメチャクチャなものです。「受託者が書いたものは、たとえ根拠のない推論でも、あるいは事実と違っていても県は訂正できない。その責任は受託者が負う」という回答を繰り返しました。
「それならなぜ、千葉県の名を入れて県庁ホームページで公表したのか。また、三番瀬再生会議に報告し、今後の三番瀬再生事業に反映させることにしたのか」とただすと、「県の委託調査による報告書だからそのように扱った」との回答です。まさに、その場しのぎの詭弁としかいいようのない対応でした。
◆自然保護課はノーチェック?
説明会が終了した後、参加者(15人)は一様に、自然保護課の対応にあきれはてました。こんな感想がだされました。
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「自然保護課の話を聞いたのは今回が初めてだが、こんなにヒドいとは思わなかった。三番瀬を担当しているといいながら、三番瀬のことをあまり知らないようだ。自然保護課には自然に造詣(ぞうけい)の深い職員はいないと聞いていたが、そのとおりだった」
「受託者のNPO法人野鳥千葉がまとめた報告書を、監督者の自然保護課はまったくチェックしていない。というか、チェックできる能力をもった職員がいないということがわかった」
「根拠のない推測や事実と違うことが書かれていても、確定ではなく推論だから問題ないと回答していたが、行政にそんなことが許されるわけがない。390万円もの税金を使って何をやっているのか、と言いたくなる」
◆恣意的文言の訂正と専門家によるチェックを要請
以下は、やりとりのほんの一部です。
◇参加者
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報告書には、「アオサが堆積して干潟・浅海域の底泥が無酸素状態になっている」と書かれているが、現地はそんな箇所はほとんどない。どこの場所のことをいっているのか。
また、底泥が無酸素状態になっているかどうかは、酸化還元電位や強熱減量を測定しないと分からない。過去に県が実施した補足調査では、酸化還元電位などの測定結果にもとづき、三番瀬の底泥は大部分が無酸素状態ではないという結果が示されている。「三番瀬市民調査の会」が2003年から続けている猫実川河口域の酸化還元電位と強熱減量の測定でも、県の調査結果と同じ結果がでている。そんな調査をせずに、また現場を見ないで「無酸素状態になっている」と結論づけていいのか。
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それは、確定として書いたものではなく、あくまでも推論だ。受託者が書いたものを、県が訂正するのはまずい。
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根拠のない推論や事実と違う記述は訂正すべきだ。訂正しないのなら、県のホームページから削除し、また、三番瀬再生会議への報告を取り下げるべきだ。
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それはできない。
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県水産総合研究センターの調査データは「アオサの推定発生量」となっているのに、それを採用した報告書は「アオサの堆積」としている。アオサの発生と堆積はまったく違う。三番瀬は閉鎖海域ではないので、アオサが発生しても波などによって流されてしまう。「発生」を「堆積」と引用するのは作為的だ。
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そのことは、いまはじめて知った。それは校正ミスだ。
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「校正ミス」で済まされる問題ではない。このデータが「アオサが堆積し、底泥が無酸素状態になっている」の根拠づけに用いられている。
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「平成19年度三番瀬鳥類個体数経年調査業務委託仕様書」には、「乙(受託者)は本業務完了後といえども、誤測、失策、不備が発見された場合は速やかに図書の訂正をしなければならない。これに要する費用は乙の負担とする」と書かれている。校正ミスが発見されたのだから、この規定にもとづいて報告書の訂正を求めるべきだ。
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……。
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三番瀬にくわしいと思っている団体(受託者)がこんな大きな間違いをしてはならない。アオサが堆積していると思い込んでいるから、そんなふうに書いたはずだ。
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この団体は、三番瀬についてはあまりくわしくないと思う。鳥の計数(カウント)はよくやれる団体ということで委託した。
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業務委託契約書には、「甲(県)は前項の業務完了報告書を受理したときは、その日から10日以内に成果品について検査を行わなければならない」(第11条第2項)、「前項の検査の結果不合格となり、成果品について補正を命ぜられたときは乙は遅滞なく当該補正を行い甲に補正完了の届を提出して再検査を受けなければならない」(同条第3項)と書かれている。だから、県は検査をできるし、事実と違う箇所などがあれば補正を命じることができるはずだ。
また、前述の「仕様書」には、「乙(受託者)は、業務を施行するに当たり、当該契約に基づき、甲(県)が別に定める調査職員と常に密接な連絡を取り、その指示及び監督を受けなければならない」と書かれている。「甲が別に定める調査職員」というのは誰なのか。
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一般行政職(事務職)のYだ。
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事務職ということは、野鳥とか三番瀬の自然環境については、まったくの素人ということだ。それでは指示も監督もできない。ノーチェックになるのは当たり前だ。
◇ ◇
さまざまなやりとりのあと、最後に川本県議が次の2点の検討を自然保護課に求め、後日返事をもらうことになりました。
- 本日だされた問題点に関し、明確な根拠のない文言についてはもう一度検討する。
- 自然保護課の関係機関である生物多様性センターや県立中央博物館には専門家がいる。内部の問題として、その専門家にこの報告書の妥当性をチェックしてもらう。
報告書は、県水産総合研究センターによるアオサの調査データを用いるにあたり、アオサが異常に発生
した年(平成17年)の一時期のデータだけを恣意的に採用し、「アオサが堆積して干潟・浅海域の底泥
が無酸素状態になっている」と決めつけている。しかも、同センターのデータは「アオサの推定発生量」
となっているのに、意図的に誤用して「アオサの堆積」としている。こんなインチキが随所でみられる。
三番瀬鳥類調査報告書に関する説明会
★県庁の関連ホームページ
★関連ページ
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- 三番瀬鳥類調査報告書の再評価を再要望〜三番瀬評価委員会に提出(2009/6/25)
- 鳥類調査報告書で森田知事に質問書〜3団体(2009/6/22)
- 三番瀬鳥類調査報告書の再評価を要望〜三番瀬評価委員会に提出(2009/5/1)
- 三番瀬鳥類調査報告書の説明を求める〜県自然保護課長に要望書提出(2009/
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