★講演会「宇井純と語ろう−流域下水道と市川三番瀬」


質疑応答



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 1998年7月25日、千葉の干潟を守る会、市川緑の市民フォーラム、千葉県自然保護連合など6団体は、共同主催で講演会「宇井純と語ろう−流域下水道と市川三番瀬」を市川市文化会館で開きました。
 以下は、宇井純・沖縄大学教授の講演についての質疑応答です。


 

質疑応答





■自然を利用した下水処理の経費など

【質問】水田や休耕田を利用しての自然的な下水処理の話がありましたが、実際の下水処理の量とか、処理費用との関係で、それぞれにオーダーが違うのでしょうが、あるいは各々についての青図的なもの、プラン、あるい処理費ですね、それは試算を出されているのでしょうか。それとも技術的な、パイロットプラント的なものなのか、そのへんの具体的なものを教えてください。

【宇井】まず、ここで水田というよりも、浅い池で下水を処理するとき、どれくらいの時間や領域を用意すればいいかというのは、だいたい世界中で出ている結果です。温帯地方では、だいたい20日溜めればほぼ分解は完了します。ドイツの一番大きな規模をやっているのは、ミュンヘンです。ここでは、ほぼ半分くらいを魚を入れた浅い池で処理しています。そして、年間数百トンの鯉を収獲しています。
 それから、熱帯に行きますと、水温があがりますから、だいたい楽な方へいきます。カルカッタ、これは規模が大きいので魚の全量まではつかんでいませんが、漁民が数千人といっています。それで飯を食っているんですね。下水処理場で獲れた魚を街に持っていって、数千家族が食べています。さらに、処理した水には養分がありますからこれを畑に撒いて、野菜を作っては収獲するというようなことが、人口1千万人近い都市で現に行われている例があります。
 そういうわけで、浅い池で魚を飼うというのは、もう、かなり今世紀の初めくらいからやられてきた技術です。魚を飼っていいのです。ただ、人間のは建設省の許可がないからできないわけですけれども、醤油屋さんの排水処理にグッピーとうなぎをセットにして入れた例があります。そろそろウナギが食べごろだという報告で、楽しみにしているところです。魚で収獲ということは一つ考えてもいいだろう。
 下水処理でいちばん金がかかるのは、水と泥を分けた後の泥の処理です。今の流域下水道では、絞って、さらに石油をかけて燃やすことになっています。ですから、ものすごいエネルギーを食うわけですね。そこのところがもし、魚に化けて、尾ひれがついてどこかに泳いでいってくれるのなら、こんなありがたいことはありません。これは十分考える値打ちがあると思います。
 次に、20日も溜めるのは面積的に持たないけれど、それでは最低何日ぐらいで処理できるかということになると、1日か2日です。さきほど「1ヘクタールで1万トンは入るでしょう」と言ったのは、だいたい1日という計算になりますね。そのかわり、機械によるエアレーションを併用する必要があり、太陽光線だけでは無理だろう、ということになります。この場合でも、やりようによっては魚を入れることもできます。魚も入れることができるのなら、入れてもいいだろうと。しかし、主な処理は機械による曝気の方が主役になります。1日とか2日とかの規模になると、そんなものになるだろうと。ですから、この場合も1日より2日の方が楽です。私が教わった技術では、2日間をおよその目途にしています。
 そういうわけで、今ある水田を利用するとするなら、最初は、1ヘクタールの水田に対して20日入れて何もしない、ということになりますと、500トンぐらい、つまり1000人の下水を1ヘクタールの池に入れて何にもしないで処理できるんではないか。それから、どのくらいまで入れて水質が悪化しないかをやっていって、水質が悪くなったら、そこを機械で補うということで、上限が1日1万人程度というところでしょうか。これは、かなり工学的な答えです。設計の数字がこうなっています。



■浅い池を利用した場合の臭いなど

【質問】たいへん画期的なことをお聞きして、これは非常にいいことだ思いました。その中で、先ほど滝沢ハムの方で実施しているという話がありましたが、日本国内の自治体でやっているところがあったらご紹介ください。
 それと、私も、東南アジアで実際にやっているところをテレビで見て、非常に有効な方法だと思いました。実際にメタンガスを有機でやりますから、出た場合に還元する。その残りを魚の栄養とし、残ったのは畑に還元する。非常に素晴らしい方法だと思っていたのですが、日本では、実際の風土としてどうなのかということがあります。
 それと、たとえば市川市では、いま進捗率が55%ですが、その残りの部分を、もしその方法でやったとしたら、たとえば国分地区とか、そういったところは可能になってきますが、1ヘクタールといえば1町歩ですよね。そうした場合に、臭いとか、いま問題になっている環境ホルモン、ダイオキシンなどについて、これが生物濃縮型になっていますので、そのへんをどのように考えているのか、教えてください。

【宇井】まず、浅い池などを使って下水を処理している自治体は日本にはありません。ないということは、自治体がそういう必要な事業を補助金なしでやるという習慣がないからです。私が自治体の担当者から、全国いたるところで言われた台詞(せりふ)があります。
 「あなたが言うように、補助金のついているような下水道や屎尿処理場というのはたいへん金がかかって難しい。これは本当だろう。あなたが設計できればその10分の1でできるというのも本当だろう。しかし万一、私があなたの技術を採用して失敗したら、責任は私がかぶらなくてはならない。建設省や厚生省が補助をつけているやり方だったら、うまくいかなくても、これは官庁の責任で、私の責任ではない」
 −−これは、北海道から沖縄まで、私の行った先々で聞かされたせりふです。日本には、いいことを自分の責任でやろうという役人がいないのです。したがって、浅い池を使って下水を処理しているところは、自治体としてはありません。しかし、市川市の行徳野鳥観察舎の保護区がそれと同じことをやっています。ほとんど生の下水が入った水を原料にして、魚や水鳥が飼えるような環境にちゃんと浄化しているのです。これは現に進行している過程です。
 つぎに、環境ホルモンのことです。そこではじめて、下水道に工場排水を入れるということが問題になってきます。人間生活から出てくる下水でしたら、そんな変な物質が入らないように地域で働きかけることは可能です。合成洗剤などもその一つで、合成洗剤をやめて石鹸にしましょうということは、その地域でたとえば、共同の一つの池を使って処理するような処理区ができれば、そこの申し合わせとして、実現はできます。そうなったときには、環境ホルモンの問題などは生じてこないことになります。
 しかし、今のように、役所が住民の代わりに下水をつくってやり、そして何でも流してもいいとなると、当然、そんな危ないものは魚を育てるような用途には使えないということになるわけです。そこでもやはり、どういう仕組み(システム)で下水道をつくるか、とか、どういう水浄化の技術を手にするかによって、結果が違ってくると考えます。
 それから、臭いの問題です。これはやってみなければ分かりません。というのは、私がここで、私の経験から臭わなかったと話を申し上げても、皆さんは絶対に信用しないと思います。たとえば、畜舎の排水があります。豚舎の排水などは強烈な臭いがします。私は、これを栃木県の滝沢ハムの系列の農場で処理をしています。多少カビ臭いような臭いがします。しかし、はじめの豚舎の排水の臭いは全くないです。人を連れていってこれを見せます。というより、臭いを嗅がせます。そうしますと、10人のうち5、6人はこれはおかしいという人が出てきます。「臭わないのがおかしい」と言うのです。いくら説明しても分かりません。現に臭わなくても、「いや、臭ってるはずなんだけど、俺が感じないだけだ」と言います。そう言う人が2人に1人はいます。ですから、今ここで臭わないという話をしても、皆さんはたぶん信用しないと思います。
 ただ、原理的にはなぜ臭わないかということは分かります。というのは、大量の微生物が少量の餌を食うというようなシステムを設計しますと、入ってきた有機物はすぐに違う物質になってしまうのですから、臭う暇がないんです。それを、普通の下水処理場では少量の微生物にできるだけ大量の餌を処理させようというシステムになっていますから、食べ残した分は最後まで臭うのです。
 今の処理場でも、仕組みをちょっと変えれば、まったく臭わないようにすることはできます。ただ、そういうことをするよりも、むしろ脱臭設備をつけて予算をつけた方が役人としては手柄になります。ですから、今の技術では、金を節約するということは決してプラスにはなりません。いかに金を余計にかけたかということが、担当者の手柄になるシステムのもとでは、どんどん金が付け加えられていくというのが今の技術です。つまり足し算の技術です。
 もうこの歳になりますと、足し算の技術で儲けようという気にはなりません。横着をして、いらないものは外していくということになると、結果として臭わなくなるということが、浅い池なんかを造ったときの結論です。しかし、これは、やってみるまで皆さんは信用できないだろうというのが、いま言えることです。



■休耕田などの利用による下水処理の実現にむけて

【質問】実は、私は市議会議員をやっていて、なおかつ、下水道審議会の委員にもなっています。それで、ちょっと目のさめる思いをして話を聞いていました。今の計画では、外環道の地下に流域下水道の下水管を埋めることになっていますが、今後10年とか20年とか、もうそこに入らない地域というのが確定します。そうした場合、市川市の場合は、下水道の普及率が、ほぼ足踏み状態になりますので、先生の言われていることが本当に実効性があって、また地域の方が協力して、本当に日本ではじめてこの市川で実現するということになったら、これは素晴らしいことではないかと思います。
 ただ、そのためにはいろいろな人や行政など、みんなの力が必要になってきます。そのときにやはり、先ほど先生が話された、誰が責任をとるのかといった場合に、市川市役所はどうかなと思います。私は、本当にそう思っていますが、ぜひ実現させたいと思っています。協力する人、または地主さんなど、もしこの中にいらっしゃったら、その地域で一つやってみませんか。ということで、ぜひ宇井先生のご協力を願いたいと思います。よろしくお願いいたします。

【宇井】できるだけのことをしようと思います。それで、2010年くらいになりますと、“流域下水道に入らなくてよかった”という時期がくると思います。「自分たちの水源が持てた」、あるいは「自分たちの地域に自由に使える水があって幸せだった」という時期がくると思います。
 ただ、そうなっても、政治のある部分では、たとえば、いちばん下流、たとえば行徳に処理場があるんだったら、そこで処理した水を松戸まで送り返して事業にしようという話が必ず出てくると思います。これは、現に沖縄でていることです。米軍が返還した更地があり、そこで雨水を利用したり、合併浄化槽を使って建物の中で中水道を循環して、節水しようという提案をしたら、県と市の一部の土建部門の人たちが、いちばん低い所にある流域下水道の処理場からそこまで34億円をかけて処理水を逆送する計画を誇らかに発表しました。それで、「そういうことはやってはならない」と前々から言っていて、「なぜやるのか」と質問しました。しかし、彼らは、「私どもが苦労してこれを事業に取りあげた」と自慢するのです。34億円も使ったというのが手柄になる。そういう世界なのです。そういう人たちに、他人の税金を節約しなさいと、いくらいって聞かせても、それは“馬の耳に念仏”ということで、まるっきり理解しません。「われわれの生き甲斐をなぜあんたは邪魔するのか」という話なのです。建設省の役人もそのレベルの話です。



■重金属などの有害成分をどうするか

【質問】私は現在、三番瀬に流入する船橋市の海老川の復元を学生と一緒にやっています。汚染の発生源でできるだけ処理したいということで、上流部に洪水調整池というのがありますから、それに簡単な処理施設をつけ、処理したものを処理水槽に入れてメダカを飼っています。それで十分処理できるのです。将来的に、洪水調整池をうまく利用したら、コストは低くすることができると思います。
 先ほど、先生は、水田にそのまま生活排水を出すということを話されました。私がいま気にしているのは、現在の下水道には工場排水が入ることです。したがって、重金属類も水田に入ります。そうした場合に、農家の方にとっては、たいへんな問題になるのではないかと思います。それで、そのへんの問題を教えてください。

【宇井】重金属だけでなく、ほかに有害成分がありますので、水田のような人の土地で処理する時には、まずそういう種類のものが入らない下水に限られてきますね。もちろん、自治体が水田に近いような池で処理するようなときには、また違ってきますが。
 私が今、一つの極限状態として提案しているのは、水田のような地域住民の土地を順繰りに使うような形で処理する。地域の中で、養分・肥料分を他に逃がさないで、引き止めて使うという、そういう考え方です。
 その時には、当然ながら、そこには工場排水をいっさい入れないということになります。私たちは工場排水を入れたら損だということをずいぶん主張してきました。実際に、70年代以降、工場排水に出てくる汚れの分はだいぶ減りました。以前の10分の1以下に減っています。なぜ減ったんだろうということを調べてみたら、金がかかるということにみんな気がついて、排水を流さないで自分の工場の中で回収して再利用しようとする動きが出てきたのです。どうしても処理できないものを外に流す。ということになると、費用がずいぶん節約できます。水量が減りますから。そこで、工場排水の回収率は、今はだいたい80%になっています。下水道に入ってくる工場排水と、それに由来する有害物質というものが、ぐっと減ったのです。メッキ工業などどですと、有害物質や重金属をいっぱい使っていたんですが、それが高い薬品なものですから、回収するということをやった結果、生産がどんどんあがっても原料はほとんど増えないという、つまり、歩留まりがよくなったのです。

(文責・「三番瀬保全資料集」編集部)   





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