三番瀬と漁業

〜漁協の対応を憂う〜

鈴木良雄


トップページにもどります
「主張・報告」のページにもどります
「三番瀬再生会議」のページにもどります


 「三番瀬再生会議」では漁協の出席拒否が一つの問題になっています。再生会議の委員枠として、船橋市漁協、市川行徳、南行徳の3つの漁協と漁協連合会の代表分(計4人)が確保してありますが、出席を拒否しているのです。


■再生会議不参加の理由

 出席拒否の理由を2つあげるとこうです。

(1)円卓会議によって覆砂事業が中止になった


(2)猫実川河口域の人工干潟化が実現しない

     もうひとつは、猫実川河口域で大規模な人工干潟を造成し、「潮流を良くしたり、アサリを増殖する」という漁協の要望が、円卓会議ではストレートに受け入れられなかったことです。そのため、「漁業者の要望が受け入れられない会議にでても仕方がない」と言っています。
     他方で漁協代表は、県が再生会議と別個に発足させた「三番瀬漁場再生検討委員会」の方には参加しています。


■日本漁業の先行きを危惧

 こういう三番瀬関係の漁協を県の水産部は積極的に支援しているのです。これらをみると、日本の漁業の先行きがますます危ぶまれます。
 「アサリを増やすために人工干潟をつくるべき」と言いながら、アサリの天敵をわざわざ搬入するとはどういうことでしょうか。
 また、日本の漁業が衰退した最大の理由は、埋め立てや干拓によって、干潟や浅瀬(つまり優良な漁業資源)が片っ端からつぶされたことです。それなのに、東京湾奥部に奇跡的に残された浅瀬を自らつぶそうというのですから、首をかしげます。


■沿岸をつぶすことは二重の環境破壊

 こんな漁協の姿勢をみると、河井智康氏の言葉を思い出します。「21世紀の水産を考える会」の河井氏は、自著『日本の漁業』(岩波新書)でこんなことを書いています。
    《(沿岸埋立ては)国民的な視点から見ると、食料の国内生産を落とすことになり、時と場合によっては重大問題になりかねない。今でも年々輸入への依存度を高めている中で、安易に漁場を潰してよいのか。漁業の社会的役割という面も考える必要があろう。またさらに、国民的視点からみると環境問題もある。》

    《工場立地、貿易港立地のための埋立てはそれ自体、後の公害を生みだす元凶であったし、また干潟や渚を埋立てることによって、そこにすんでいた微生物による海の浄化作用を弱めるという、二重の環境破壊をもたらしていたのである。もうこれ以上日本沿岸を埋立てることは、全国的規模の環境破壊につながらざるをえないことに留意する必要がある。》

    《悲しいことに日本漁業は斜陽産業であるという見方が大勢を占めている中で、もう後継者の展望がなくなっている。きれいな海や豊富な資源、あるいはすぐれた技術を残し伝える相手がいないとすれば、漁業権を放棄することで補償金を手に入れた方が利巧だという考えも、それとして理解はできるであろう。日本中が拝金主義、儲け主義に走っている時に、漁業者のみに高潔な生き方を強いるわけにはいくまい。》

    《この問題はつまるところ、国民的な規模で漁業をどう位置づけるかにかかってくる。「日本に漁業はいらないのか」という問いにどう答えるかである。工業立国でもいい、技術立国でもいい。しかし、それが食糧産業の犠牲の上に打ち立てられるだけの価値を持っているかどうかである。ここに日本漁業が隘路を歩まされている根本原因があるのではなかろうか。》


■特定資源だけを増やすのは生態系を乱す

 ちなにみ、河井氏は、特定の資源だけを増やすのは生態系を乱すことになり、結局は漁業にとってマイナスになるとも言っています。
    《海の中の食物連鎖を通じて生態系が維持されているとすれば、特定の食性段階(食物によって生物をグループ分けした時の1グループ)の資源だけ増やすのは、生態系を乱すことになる。これが、量から見た議論だ。》
 これは、多種多様な生き物が生息している猫実川河口域をつぶして人工干潟をつくり、アサリを増殖するという一部漁協などの主張にそのままあてはまると思います。


■漁業発展には、国民からの支持や連携が必要

 最後に、河井氏は、漁業を発展させるためには国民から支持されることが必要と述べています。
    《漁業の発展という方針が国民全体から支持される必要がある。(中略)
     そのための努力がどうしても必要であろう。過去における日本漁業の場合も、根本的な問題は国の政策にあったとはいえ、漁業界の方にも反省すべき点がなかったわけではない。大きくは、矛盾の根元である国の政策にみずからも迎合して漁業の発展にブレーキをかけたことと、資源や環境の破壊への関心が十分とはいえなかったことがあげられよう。埋立てなどによる沿岸開発に美しい海を売り渡したり、資源の乱獲や自家汚染的養殖などが国民からの支持を遠ざけてきたことは否めないところである。》

    《日本漁業が今日のように衰退してきたおもな原因は、日本の産業政策のあり方とそれを決めた政治にある。したがって今日の状況をつくり出した第一義的責任は漁業者にないことは明らかである。しかし、これからそれを良くするのは誰かを考えれば、漁業者こそが先頭に立って、消費者の支持を得ながら解決しなければなるまい。》
 まったく同感です。
 こういうまっとうな主張や提案を、行政(千葉県など)や漁協はどうして受け入れないのでしょうか。
 生物多様性が非常に豊かで、東京湾の漁業に重要な役割を果たしている三番瀬はこれ以上つぶすべきではありません。三番瀬の核心部ともいえる猫実川河口域に土砂を入れて人工干潟(人工砂浜)にするなどは愚行以外のなにものでもありません。
 三番瀬をきちんと保全し、次世代に残すためにも、直ちにラムサール条約登録の手続きをおこなうべきです。

(2005年5月)






★関連ページ

このページの頭に戻ります
「主張・報告」のページにもどります
「三番瀬再生会議」のページにもどります

トップページ | 概 要 | ニュース | 主張・報告 | 行政訴訟 |
資 料 | 干潟を守る会 | 自然保護連合 | リンク集 |