水質汚濁・水循環悪化の元凶は行政

 〜一挙に下水道ができるような幻想を持たせて川や沼を汚してきた〜

公共事業と環境を考える会

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 レポート「海老川の水循環と生物多様性をめぐって」の関連です。
 会議における講演・報告の基調は、水循環や生物多様性を保全・再生するためには「汚れを川に流さないようにする」とか「各家庭で浸透枡(ます)を設置する」など、市民一人ひとりの努力がカギ、というものでした。

 しかし、行政や行政関係者からこんなことを言われると腹立たしくなります。というのは、川を汚している元凶は行政だからです。行政の責任に口をつぐみ、「市民一人ひとりが汚さない努力をしましょう」などというのは、かつての戦争責任をあいまいにする「国民総ザンゲ論」とおなじです。

 下水道整備の遅れや、河川の水質汚濁、水循環破壊の元凶は行政です。
 この点については、中西準子氏(元東大助手)が『ちばの水──水循環と個人下水道』(崙書房)のなかで見事に突いています。この本は1988年に発行されたものですが、けっして色あせていません。
 千葉や日本の行政がいかにヒドいかがわかると思いますので、一部を転載します。





中西準子著『ちばの水─水循環と個人下水道』より抜粋



    ●下水を東京湾に捨ててしまうという発想

     なぜ、こういう流域下水道ができるかというと二つの理由がある。一つは規模を大きくするとコストが安くなる。これが非常に大きな理由ですね。もう一つは、みなさんもこれなら流域下水道を作った方がいいんじゃないかなという理由なんですが、今、江戸川から3力所、飲み水(水道水)を取っている、こういう所に下水処理水が入ったら水を汚すと。だから、下水は全部東京湾に捨ててしまえと、これが流域下水道の一つの考え方なんです。

    ●なぜ欧米の下水道普及率は高く、逆に日本は低いのか

     実はヨーロッパやアメリカでは下水道の普及率が非常に高いです。日本の下水道の普及率は非常に低いです。殊に千葉県は日本の平均にも、いっていないわけです。下水道の日本の平均は34%ですが、千葉県は28%です。日本の平均にもいっていないぐらい非常に低いわけです。
     ヨーロッパでは、イギリスなんか97%と言ってますから非常に高い。そういうイギリスやなんかが97%で、日本が34%と非常に違いがあるように見えるわけですが、実際にはイギリスの場合には下水道と言いましても、一軒一軒で処理をしているのも下水道というかたちで統計が取られているわけです。実際に下水道の管理が行われています。(中略)
     けれども、建設省は自分達が作ったものが下水道であるという考え方です。外国の場合には自分の所に一軒一軒につけている下水処理施設、10軒、20軒まとまったこういう小さな下水処理施設も下水道と考えて下水道を整備してきたわけです。日本ではそういうものは下水道でないという考え方できたんです。

    ●合併式浄化槽をとりいれたほうが費用が安く、整備の期間も短い

     外国では、浄化槽というものは台所排水なんかも含めて全部処理する浄化槽というものが、一軒一軒の家についたり、あるいは一区画についたりして下水道と同じ機能をして、したがって下水道の普及率が高いという風になるわけです。日本ではこれを「合併式」浄化槽といいます。合併式というのは何かというとお風呂やトイレの水も含めて処理するから合併式浄化槽と。トイレだけのを単独浄化槽と呼んできたわけです。そして街によっては合併式浄化槽というのを、必ず家を建てたときに義務づけてきたという所があるわけです。
     私共が調べたケースでは、大阪の河内長野市という所は全く下水道がない、いわゆる建設省のいう下水道はないんですけれども、人口の4割が合併式浄化槽ですでに処理が行われている。一戸一戸の家につけたり、あそこの場合は1000戸ぐらいまとめてつけてるんですけれども、事実上、4割の下水処理を数年で仕上げてしまったんですね。
     それから滋買県の近江八幡市、そこも公共下水道は全くないんですけれども、合併式浄化槽で人口の3割を整理してしまった。下水道といってもいろんな処理の仕方がある。
     そういうものを簡単にコミ・プラとか、私共は個人下水道という風に呼んでいるんですが、コミ・プラというのはコミュニティ・プラントというグループにつけるものを言うんです。一戸一戸につけるのを個人下水道と呼んでいるんですが、こういうようなものをつけながら下水道というのは世界的にも普及してきた。街の中心に管きょを引いてそれからこぽれた部分は、こういうようなもので整理することによって、下水道というのは隅々まで下水処理というのは行われるようになってきた。

    ●いろんな所で処理したほうが合理的でずっと早いのに…

     要するに、そんなにわがまま勝手にすべて東京湾へ東京湾へと持っていっても、水が無くなっちゃう。どっかでやっぱり水を戻さなきゃなんない。
     そんなことならもっともっときれいに処理して、いろんな所で水を使いながら少しずつ処理していく下水道計画を作る方が合理的じゃないか。そして、その方がずっと早いんです。まず早い。
     下水道をはじめて十数年も全然松戸の水が処理できない、そして流山の水、野田の水が全然処理できずに水源に入れているんです。
     そういうことを放っておいて、何十年後に下水処理水が全然入らないようにしますというような下水道の作り方をしてきた。

    ●欧米では、街の中心に管渠を引き、それからこぼれた部分は個人下水道で
      整理することによって、隅々まで下水処理が行われるようになった

     そういうものを簡単にコミ・プラとか、私共は個人下水道という風に呼んでいるんですが、コミ・プラというのはコミュニティ・プラントというグループにつけるものを言うんです。一戸一戸につけるのを個人下水道と呼んでいるんですが、こういうようなものをつけながら下水道というのは世界的にも普及してきた。街の中心に管きょを引いてそれからこぼれた部分は、こういうようなもので整理することによって、下水道というのは隅々まで下水処理というのは行われるようになってきた。

    ●合併式浄化槽を禁止したことが、日本の汚水処理を遅らせた原因となった

     日本ではつい最近まで、この合併式浄化槽を法律で禁止した。みなさんが家を建てる時に水洗トイレにしたいと思ったら、浄化槽をつけなければいけませんというのが今の法律です。その時に自分の所では雑排水を一緒に処理しようと思っても、法的に禁止されてきたんです。
     500人以下のものについては禁止するという、501人以上は認められてきたんですけれども、500人以下の場合には禁止するという措置がずっととられてきた。つい最近になって51人以上はいいけれども、50人以下はまた禁止するという、今こういう法律になってるわ けです。ただし、50人以下のときも特別の許可があればいいというかたちに、ようやくとなった。特別の許可があればいいと。法的には今でも禁止されているんです。

     こういうことが実は日本の汚水処理を非常に遅らせた原因なんですね。河内長野市や近江八幡市が新しく入ってきた人に川を汚してもらいたくないから、こういう合併式浄化槽をやろうと雑排水を含めて処理をしなさいという条例を作ったわけです。宅地開発要綱という形でやった時は、最初は滋賀県が反対してやれない状態だったんです。法律に違反するからと。その時に、近江八幡市はとにかく琵琶湖の真ん前ですから、このままでは大変だということで滋賀県が黙認するという格好で条例を作って、そこだけやらせたわけです。
     したがって、こういうことをやるには自治体にものすごい努力・勇気が必要です。今考えてみると千葉では新しく入ってきた家について、合併式の処理を義務づけなかったことが決定的に現在の川を汚す原因になっているということが、かなりはっきりしているわけです。

    ●合併浄化槽が普及すると下水道が不要になるので、それを禁止した

     ではなぜ単独の浄化槽はよくて合併式浄化槽は駄目なのか。そもそも合併式浄化槽は台所の水もトイレの水もより良く処理するんだから、なぜそれが駄目なんていう法律を作ったのか? それはこういうようなものを作ってしまうと下水道はいらなくなり、下水道ができなくなってしまうからなんです。ともかく町中に下水道を引くのだから、二重投資になると禁止したわけですね。
    (1987年度から国が合併槽、個人下水道に補助金を付けることになった)

    ●下水道の面整備に全面的に頼れば下水道はいつまでも来ない

     下水道の面整備というようなものに全面的に頼っていたんでは下水道はいつまでも来ない。いつまでも来ないから、したがって江戸川は汚れ、手賀沼が汚れ、そして印旛沼が汚れと、汚ない水をずうっと飲まざるを得ないということになるわけです。
     それでは、どういうようにしたらいいのかということですが、町の中心部は下水道というものを、下水管を綱の目の如く入れて下水処理場を作るということで考えざるを得ない。確かにそういう部分はあるわけですね、町のまん中やなんかはこれはこれでそうせざるを得ない。しかし、これで整備できるのはどんなに頑張っても1年間に人口の2%。20年かかっても40%しかいかない。それ以外の所は少なくとも20年間経っても何も良くはならない。
     そういう所に対して、もう少し違った手を打つということをわれわれ自身が要求していくべきなんじゃないか。こうやって管きょを引いてきて、こつこつ引いていくようなことでない別の方法を、われわれは要求していくことが大事なんじゃないか。

    ●合併浄化槽禁止をほおかむりし、行政は「みなさんの責任です」と言っている

     今みなさんの住んでいる所で公共下水道のない所はトイレが水洗になったりしていながら、今でも法的に合併式浄化槽が禁止されているんです。非常に馬鹿気ている。それをほおかむりして、自治体は家庭雑排水を「みなさんが出します」、「みなさんが出します」、「みなさんの責任です」と言っているんですね。

    ●行政は、一挙に下水道ができるような幻想を持たせて川や沼を汚してきた

     下水道というのは簡単に整備できるかというと、お金のことから考えても、10年や20年で下水道が整備できるということは絶対にない。イギリスでもどこの国でも50年の仕事です。50年、60年かかって下水道というのは少しずつ少しずつ面整備を伸ばしてきた。その間どういう風にしてきたかというと、個人でやったり、簡易処理というのもあり沈澱だけでやったり、そういうものを含めてあらゆるものを一個ずつやりながら、全体をきれいにしてきた。

     下水処理というのはそういうことをしなければ整備できないのです。みなさん分るでしょう? 千葉県はなにせ28%、十数年やって28%。全国的にいって1年に1%か、1.2%しか普及率は上らないんです。下水道の整備というのは、東京でさえ年に2%しか上らないんだから。で、千葉に来れば来るほどますます人口密度は低くなるから効率が悪くなる。

     ですから、「下水道で何でもやります」という前提で、水質汚濁のことを考えているということが非常に大きな問題を引き起したわけですね。例えば、柏だとか松戸だとか千葉だとか、戦後、人口が急増した区域で、こういう合併式浄化槽というものをもし付けるようにしていたら、こんな水質汚濁は絶対に無かった。

     その点行政が非常に弱かったし、国の法律がそうなっていた。そして国の法律に逆らってまでやるという意識が、千葉県下の市町村に全然なかった。

     それは意外と関西があるんですね。関西の方が非常に強い。それは、なぜかというと多分開発が遅れたからですね。河内長野市とか近江八幡市を見てると、その前に周辺の都市が開発されていってるんです。それで川が汚れていっているのを見て、市の方が非常にあせった。それがよく分った。それは地理的に見るとよく分る。河内長野市というのは大阪と和歌山の県境というか、府境です。だからずうっと遅れて開発の波が押し寄せてきます。最後の開発が河内長野市なんです。近江八幡市も京都に通う、その限界なんです。ずうっと上っていって琵琶湖のすぐそばなんですね。だから他の所が開発されているのを見てて、あんなことやったら農業用水は駄目になっちゃう、琵琶湖が駄目になっちゃうと、一生懸命市の職員が頑張って県とケンカしながら条例や要綱を作って無理矢理守らせるわけです。そういうかたちで下水処理をやった。

     残念ながら千葉県の場合にはそれが行われていない。私たちは、まず、行政が悪いから自分たちは何もしなくっていいという意味じゃなくて、基本的に現在の雑排水による汚染をもたらしたのは国の政策である。国の下水道に対する考え方がおかしくて、一挙に下水道ができるような幻想を持たせて、明日にでも下水道ができるからこういうものは作ってはいけない、ああいう規制してはいけないという形でいまだにきているということです。そういうことが現在の問題を引き起しているわけです。






 以上です。
  • 合併浄化槽をとりいれたほうが費用が安く、整備の期間も短いのに、行政は合併浄化槽を禁止した。

  • 行政は、一挙に下水道ができるような幻想を持たせて川や沼を汚してきた

  • そんな責任をおかむりして、行政は「みなさんの責任です」と言っている
 ──こんな事実を知らないと、だまされてしまいます。


■土建業者・政治家は、下水道工事が延々と続くことを
  望んでいる

 ちなみに、不合理な流域下水道方式が相変わらず主流となっていることについては、宇井純氏(故人。沖縄大学名誉教授)がこんな指摘をしています。
    《巨大化した流域下水道の非合理性を説いて来た私のところを訪れたある町議が、帰りぎわに言ったのは次のようなことだった。
     「なるほどお話はわかりました。だが私たち田舎で政治をやっている者にとっては、大規模な下水道の計画が来れば、地主は水洗便所がつけられるので地価が上がり、票になる。土建業者は土の中の工事なので手抜きができて、その金の一部はこちらへ廻って来る。そして何十年もかかる事業だから、選挙のたびにあれは俺が取って来た工事だと宣伝できる。これがもし合併浄化槽などで計画されると、せいぜい4〜5年で全部普及してしまうから、選挙で使えるのは1〜2度しかないのですよ。」
     なるほど、納税者から見て欠点と思われるところが、ある種の立場の人間にとっては全部利点になる、そういう世界に我々は住んでいるのである。
     このごろはあまり流行らないが、階級社会というものが厳として存在し、その中に我々が生きているのだと思い知らされるような一言であった。
     科学技術にもはっきりとした階級性、立場性があるのだということは、日本ではなるべく語られないように仕向けられているが、動かしがたい事実である。》
    ( 宇井純「ある化学技術者の足取り」、『公開自主講座「宇井純を学ぶ」』所収)


 まさにそのとおりです。現在、千葉県予算でいちばん額が大きいのは流域下水道整備費です。“金食い虫”となっており、そこにゼネコンや政治家などがむらがっています。
 工事や下水処理場管理などは県が下水道公社に委託し、談合が常態化しているということも聞きます。

 千葉県の下水道整備が全国平均を下回り、また、海老川などの水質浄化が進まないことのウラにはこうした“政財官の癒着”があるのです。「水質浄化、水循環、生物多様性回復は、市民一人ひとりの努力がなければできない」という言葉にだまされてはいけません。
 政財官の癒着を絶つなど根本的な改革をしないかぎり、市民一人ひとりの努力は“焼け石に水”です。





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