人工渚づくりは説得力がない

〜本間義人著『地域再生の条件』を読んで〜

千葉県自然保護連合事務局


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 人工渚(なぎさ)はあくまで「人工」のものであって、自然の渚ではない──。本間義人氏(法政大学名誉教授)が自著『地域再生の条件』(岩波新書)でこう書いています。
 本間氏は、国土・都市・地域政策に関する専門家です。同書は、これまでの日本の国土・地域政策について検証を試みたものです。全国20カ所でつくられている人工渚(人工海浜)についてもふれています。


■どうしたら人工渚に海の生物が完全に戻ってくるのか、
  まだ十分に解明されていない

 氏は、こんなことを書いています。
    《人工なぎさはあくまで「人工」のもので、自然のなぎさではないということです。砂浜で鳥や貝の生息に適した条件をつくるには、自然干潟の生態学的研究が不可欠です。しかし、どうしたら海の生物が完全に戻ってくるのか、まだ十分に解明されたとはいえません。
     また人工なぎさをつくるには、他の海岸から採取した砂を運んでくるわけですから、砂を採ったところでの干潟の自然破壊を招き、そこで水質などの二次汚染が発生する恐れも十分あります。このように他の地域の犠牲に頼って行う人工なぎさづくりには、十分な説得力があるとはいえません。》
 まったくそのとおりです。人工渚は疑似自然です。自然の渚とはまったく違います。


■人工渚「幕張の浜」の生物はわずか

 それは千葉県の事例が端的に示しています。

 全国20カ所のうち、3カ所は千葉県にあります。「いなげの浜」「検見川の浜」「幕張の浜」です。

 たとえば、「幕張の浜」は底生生物がわずかしかいません。さがすのに苦労するほどです。エサがないので、野鳥もやってきません。
 自然の渚(自然干潟)との違いは、三番瀬と比べれば一目瞭然です。一目で見てわかります。


■永遠に不毛の作業を繰り返さざるを得ない

 しかも、「幕張の浜」は砂をいくら補給してもすぐに流失です。
 13年前の『朝日新聞』(千葉版、1995.1.12)はこう記しています。
    《全知全能の神ゼウスは悪事を働いたシシュフォスに、山頂まで巨大な岩を運ぶ刑を科した。しかし、岩は頂が近づくと決まって転がり落ちる。シシュフォスは永遠に不毛の作業を繰り返さざるを得ない。ギリシャ神話のこの一節は、幕張に築かれた人工海浜の姿と重なる。毎年、この浜から1万立方メートルの砂が流失している。絶えず砂の補給を余儀なくされているのだ。
     長さ1170メートル、幅250メートルほどの幕張の浜は毎夏、10万人余りの海水浴客でにぎわう。しかし、海水浴シーズンの前になると、砂を満載したダンプカーが砂浜に現れる。「養浜工事」の始まりだ。
     波打ち際の1〜1.5メートルほどの段差に新しい砂を運び入れ、ブルドーザーで地ならしする。波に持ち去られにくいとされる粗めの砂を選んでいる。  しかし砂の流失は止まらない。消波施設もなく、強い波の浸食に直接さらされている。埋め立てられ護岸堤ができたために、自然が果たしていた砂の供給もなくなった。さらにすぐ沖には埋め立て用の海砂を採ってできた深い穴があり、砂が流れ落ちる。
     昨年(1994年)は、約9400立方メートルの山砂が約40キロ離れた大栄町から運び込まれた。毎日ダンプカー20〜30台でピストン輸送し、半月かかった。浜の維持管理費は年間約8000万円に上るという》
 全長2695メートルの「幕張の浜」は、浸食がはげしいために約6割が立ち入り禁止になっています。
 残る4割の部分(1170メートル)は、1999年まで海水浴場として一般開放されていました。

 浜を管理する県企業庁は、1987年から1999年まで9万9300トンの砂を補給しつづけました。その間の整地費は6億8900万円です。そして、ついに2000年に補給をやめてしまいました。これに伴い、海水浴も禁止です。

 浜の管理に手を焼いた県(企業庁)は、「幕張の浜」を千葉市に譲渡しようとしました。しかし市は、「永遠に不毛の作業を繰り返さざるを得ない」のを嫌がり、引き取りを拒否しました。


■三番瀬で愚行を繰り返すのか

 これが人工渚の実態です。

 それなのに、県と市川市は、三番瀬の猫実川河口域(市川側海域の一部)を埋め立てて人工渚(人工干潟)をつくろうとしています。
 なんどもお知らせしているように、この海域は多種多様な生き物が生息しています。広大な泥質干潟が存在し、三番瀬の中でも生物相が最も豊かな海域です。

 そんな貴重な浅海域を埋め立てて人工渚をつくろうというのです。「三番瀬再生」の美名を掲げて、です。

 それを審議中の「三番瀬再生会議」も、全国の人工渚はおろか、「幕張の浜」の実態などがまったく議論されていません。現地を見ることもしないのです。
 本間氏が指摘するように、「砂浜で鳥や貝の生息に適した条件をつくるには、自然干潟の生態学的研究が不可欠」ですが、それも検討しません。

 そんな三番瀬再生事業や再生会議を、堂本知事や一部の学者委員たちは「全国に類を見ないやり方」とか「新しい時代にあった公共事業の進め方のモデル」として、高らかに自慢しています。情けなくてタメ息すら出ません。

(2008年1月)











「幕張の浜」は砂が流失しつづけ、高い段差ができている。




生き物はほとんど見つからない




「幕張の浜」はただの砂場という感じがする




空から見た「幕張の浜」(企業庁のパンフレットより)。
「幕張の浜」の全長は2695メートル(写真のAは875メートル、BとCは1820メートル)。
このうち、Bの部分(約1170メートル)は、1999年まで海水浴場として一般開放していたが、
ついに翌年、海水浴を禁止にしてしまった。
一方、AとCの部分は、浸食がはげしいため、立ち入り禁止になっている。




浸食がはげしいため、浜の約6割は立ち入り禁止になっている。




87年から99年まで9万9300トンの砂を補給。
整地費は6億8900万円。








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