県が造った人工海浜は惨たんたる状態

〜「幕張の浜」はついに海水浴禁止〜

千葉の干潟を守る会



トップページにもどります
「主張・報告」にもどります
「人工干潟」にもどります


★はじめに

 三番瀬をシャニムニ埋め立てようとしている千葉県は、市川側埋め立ての理由として、(1)県民が海にふれあえるようにするためには人工海浜の造成が必要。(2)県が造成した船橋海浜公園前の三番瀬は県が造成した人工海浜であり、鳥類や底生生物の環境として十分な実績となっている−−と盛んに宣伝している。
 しかし、これはウソッパチである。県は1970年代、埋め立て地先(現在の船橋海浜公園前)の干潟を浚渫(しゅんせつ)し、船橋航路と市川航路を結ぶ「横引き航路」として利用した。ところが、深い航路に立つ波の力は激しく、前面の砂を流して航路を埋めてしまうため、航路をくり返し浚渫しなければならなった。また、1974年の台風で、埋め立て地側の垂直護岸がいたるところで倒壊した。自然の力にはかなわなかったのだ。そのため、1981年、県はついに「横引き航路」を廃止し、ここを埋めもどしてしまった。だから、ここは、「県が造成した人工海浜」ではなく、いちど航路として浚渫したところを埋めもどしたものである(くわしくは人工干潟は保険にもならないを参照)。
 重要なのは、その前面に天然の干潟が残っていたために底生生物が生息し、シギやチドリなどの水鳥が飛来したり潮干狩りも楽しめるようになったことである。といっても、ここは、前面の天然の三番瀬と比べると、生物の種類数や生息量は貧弱である。
 一方、県が三番瀬の市川側で計画しているのは、干潟や浅瀬を90ヘクタールも埋め立てて、その先に人工海浜を造ろうというもので、「幕張の浜」とおなじものである。
 そこで、県企業庁がつくった人工海浜「幕張の浜」がいまどうなっているかをみてみる。
 

★維持管理に莫大な県費を投入

 「幕張の浜」は、県企業庁が「埋め立ての代償」として、千葉市美浜区の幕張新都心地区の地先に造った人工海浜である。約32億円をかけ、238万立方メートルの砂で造成し、1979年2月に完成した。夏の海水浴シーズンには10万人近い人出でにぎわった。
 ところが、砂浜は、完成直後から風や波の影響で浸食されつづけた。毎年1万立方メートルもの砂が流失するため、企業庁は砂の補給に大金を投入し続けることになった。朝日新聞(1995年1月12日)はこう記している。
 「全知全能の神ゼウスは悪事を働いたシシュフォスに、山頂まで巨大な岩を運ぶ刑を科した。しかし、岩は頂が近づくと決まって転がり落ちる。シシュフォスは永遠に不毛の作業を繰り返さざるを得ない。ギリシャ神話のこの一節は、幕張に築かれた人工海浜の姿と重なる。毎年、この浜から1万立方メートルの砂が流失している。絶えず砂の補給を余儀なくされているのだ。
 長さ1170メートル、幅250メートルほどの幕張の浜は毎夏、10万人余りの海水浴客でにぎわう。しかし、海水浴シーズンの前になると、砂を満載したダンプカーが砂浜に現れる。『養浜工事』の始まりだ。
 波打ち際の1〜1.5メートルほどの段差に新しい砂を運び入れ、ブルドーザーで地ならしする。波に持ち去られにくいとされる粗めの砂を選んでいる。
 しかし砂の流失は止まらない。消波施設もなく、強い波の浸食に直接さらされている。埋め立てられ護岸堤ができたために、自然が果たしていた砂の供給もなくなった。さらにすぐ沖には埋め立て用の海砂を採ってできた深い穴があり、砂が流れ落ちる。
 昨年(1994年)は、約9400立方メートルの山砂が約40キロ離れた大栄町から運び込まれた。毎日ダンプカー20〜30台でピストン輸送し、半月かかった。浜の維持管理費は年間約8000万円に上るという。」
 企業庁はこの「幕張の浜」を千葉市などに渡そうとしているが、「永遠に不毛の作業を繰り返さざるを得ない」のを嫌がり、どこも引き取りを拒み続けている。千葉市についていえば、同じ人工海浜の「いなげの浜」を保有しており、ここも維持管理のために毎年、多額の市費を投入している。1999年度は、2億9000万円を投じて市原市の「ちはら台団地」から10万立方メートルの砂を補給した。そういう事情だから、千葉市が「幕張の浜」を引き取ることは絶対にないといわれている。
 そして今年は、企業庁の財政状態がピンチになったため、企業庁はとうとう「幕張の浜」の砂補給をやめ、海水浴も禁止にした。
 ちなみに、「幕張の浜」の全長は2695メートルである。このうち、約6割は、浸食がはげしいため、立ち入り禁止になっている。残る4割の部分を昨年まで海水浴場として一般開放していたが、今年はついに海水浴を禁止にしてしまった。このままでは、ここも立ち入り禁止になってしまうだろうといわれている。


★生き物が少ない“作り物の浜”

 幕張の浜はまた、自然の干潟とくらべると生き物が少ない。いるにはいるが、生息量や多様性、安定性は、三番瀬などに比べればかなり見劣りがする。つまり、文字どおり“作り物の浜”となっているのだ。これは、現地を実際にみれば一目瞭然である。花にたとえれば、三番瀬や盤洲干潟は「生きた花」、幕張の浜は「造花」である。この点は、少年時代を幕張で過ごした作家の椎名誠氏も、こう述べている。
 「千葉県は幕張の埋め立て地の突端に人工海岸を造りました。あるとき行きましたが、いやあ、悲しかった。アオサなんかない。きれいな海です。においもない。でも、においがないってことは生命がない。自然は人間があんまりいじっちゃいけない」(朝日新聞、1996年2月21日夕刊)
「(埋め立て前の幕張の浜は)アオサが腐ったにおいがした。これは生命のにおい。決してマリンブルーではなかったが、人間も魚も貝も生き生きとしていた。今は、生き物の音も声も聞こえない。幕張の海は死んだ」(毎日新聞、1996年9月25日)。






★水質浄化能力も非常に低い
  〜千葉県環境生活部の調査結果〜

 幕張の浜は、水質浄化で重要な役割を果たしている底生生物(ベントス)の生息量が少なく、生息状態も不安定である。したがって、水質浄化能力が非常に低い。
 これは、千葉県環境生活部が1996年度に実施した水質浄化能力の比較調査でもはっきり示されている。下のグラフは、底生生物のうち、マクロベントス(アサリ、ホトトギスガイ、アシナガゴカイなどの大型底生生物)の窒素浄化量を比較したものである。天然の干潟・浅瀬(谷津干潟、盤洲干潟、富津洲、三番瀬)と人工海浜(幕張の浜、検見川の浜、いなげの浜)の各海域について、マクロベントスの単位面積あたりの窒素浄化量に面積を掛け合わせて窒素浄化量を計算した。これをみれば、マクロベントスの現存量が多く面積も広い盤洲干潟と三番瀬が、他の海域と比較して飛び抜けて大きい浄化能力をもっていることがわかる。逆にいえば、人工海浜の浄化能力は比べものにならないぐらい低いのである。








★自然干潟をつぶしての人工干潟造成実験は許されない

 企業庁は、三番瀬の市川側90ヘクタールを埋め立て、その先に「幕張の浜」と同じような人工海浜をつくろうとしている。つまり、貴重な自然環境を破壊し、それに代わるものとして莫大な公費を使って疑似自然を造成し、「自然と人との共生をめざす」としているのである(県企業庁の宣伝を参照)。
 その際、「幕張の浜」のことはいっさいふれようとしない。また、船橋海浜公園前の三番瀬を県がつくった人工海浜であると言い、人工海浜の造成で環境問題が解決するかのように宣伝している。ようするに、県民をだまそうとしているのである。
 埋め立ての推進に躍起となっている市川市の田草川信慈・都市政策室長は、ある市民団体のシンポジウム(1999年12月18日開催)で、こう語った。
「人工干潟の成功例はないという意見もあるが、三番瀬における人工干潟の造成を日本の中で最先端の事例にしたい。それを実現できる技術者は今のところいないが、そうした技術者を育てることも重要だ」
 すでに自然が失われた場所で人工干潟の造成を試みることはけっこうだが、今ある自然豊かな干潟・浅瀬をつぶして人工干潟の実験をすることは許されない。自然破壊であり、たいへんなムダである。「最先端の事例にしたい」というのであれば、まず、「幕張の浜」などの既存の人工海浜をなんとかすべきである。

(2000年8月) 












県企業庁がつくった人工海浜「幕張の浜」。
生き物は少なく、文字どおり“作り物の浜”となっている。
右の方に見えるのは、千葉マリンスタジアム。










「幕張の浜」の維持管理費は莫大である。
企業庁は毎年、多額の金を投じて砂を補給していたが、
財政状態がきびしくなったために、
今年はとうとう砂の補給をやめ、海水浴も禁止にした。
県企業庁は、自然豊かな三番瀬の市川側を埋め立て、
その先にこんな人工海浜をつくろうとしているのだ。








 空から見た「幕張の浜」(企業庁のパンフレットより)。
 「幕張の浜」の全長は2695メートルである(写真のAは875メートル、BとCは1820メートル)。
 このうち、Bの部分(約1170メートル)は昨年まで海水浴場として一般開放していたが、
今年はついに海水浴を禁止にしてしまった。
 一方、AとCの部分は、砂補給をまったくしないために、
潮流にぶつかる側(写真の右側)が浸食されつづけ、みすぼらしい浜になった。
造成当初はBと同じ幅があったのだ。写真でみると、ずいぶんと浸食されたことがわかる。
浸食がはげしいため、県企業庁はAとCを立ち入り禁止にしている。








浸食がはげしいため、浜の約6割は立ち入り禁止になっている。







★関連ページ

このページの頭に戻ります
「主張・報告」にもどります
「人工干潟」にもどります

トップページ | 概 要 | ニュース | 主張・報告 | 行政訴訟 |
資 料 | 房総の自然と環境 | リンク集 |