講演会「すばらしき泥! 泥干潟」(2)

泥質干潟の人工干潟化は本末転倒

〜質疑討論より〜




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 講演会「すばらしき泥! 泥干潟」(2007年12月8日)では質疑討論が活発におこなわれました。以下はその一部です。



質疑討論(抜粋)



■人工干潟をつくっても泥干潟の生き物は戻ってこない

<大阪南港のWさん>
 私は、大阪湾の人工干潟で観察会や調査を続けている。本日の報告で、三番瀬にはアナジャコがたくさん生息し、カキ礁も存在するという話がされたが、大阪湾にはアナジャコがそんなにいるような場所はまったくない。
 かつて大阪湾にあった干潟はほとんど失われ、いまは小さな干潟しか残っていない。東京湾には、こんなにアナジャコがたくさんいる干潟が残っているということで、たいへん羨ましく感じた。
 そんなところを埋めて人工干潟にする動きがあるとのことだが、それは絶対にしてほしくない。なぜかというと、大阪南港の人工干潟は、つくってから20年くらいたつが、アナジャコやヤマトオサガニなどはまだ見られないからだ。
 もちろん人工干潟の形とか造り方にもよるのだろうが、泥干潟を埋めて人工干潟をつくっても泥干潟の生き物は戻ってこないのではないか、というのが私の印象である。だから、自然の泥干潟とカキ礁がある猫実川河口域はいまのままぜひ守ってほしいと思う。


■干潟を埋めて木を植えることが温暖化対策?

<Tさん>
 2009年春に千葉県知事選挙が予定されていて、先日、ある自民党県議が知事選に立候補を表明した。新聞でも報道されたが、彼は「三番瀬埋め立て計画白紙撤回の撤回」を最大のスローガン(公約)にすることを表明している。
 12月5日の県議会で、彼は次のようなことを主張した。三番瀬・猫実川河口域の泥干潟を埋め立てて木を植え、「三番瀬県民の森と渚公園」をつくる、これが温暖化対策だ──と。こういうことが県議会で堂々と主張されていることを重視すべきだと思う。
 そこで、泥干潟を埋めて木を植えることが果たして温暖化対策になるのかどうかをお聞きしたい。

<加藤真教授>
 泥干潟を埋め立ててそこに木を植えることが本当に温暖化対策になるのかということだが、これは誰が見てもおかしいことだ。また、それにかかる工事やコストを考えたら、はずかしいこととしか言いようがない。
 それよりも、東京湾の中にあれだけのアナジャコの群生地があるということ自体がすごく意味のあることだ。先ほど大阪湾の方が言われたが、アナジャコが高い密度で生息できているということはビックリすることだ。
 まさに、三番瀬・猫実川河口域は、東京湾の肺の役割を果たしている。そのことを千葉の人たちがわかるようになれば、考えることが違ってくるのではないか。


■人工干潟造成でハマグリを復活させた所はない

<Iさん>
 三番瀬再生会議で三番瀬の再生が議論されているが、いよいよ干出域形成(=人工干潟造成)の実験をやることが決まった。しかし、委員の中でそれに反対する人は(一人しか)しかいない。
 人工干潟にする目的として、ハマグリやアオギスなどの失われた生物を戻すということがあげられているが、人工干潟をつくれば本当にそんなものが戻るのかどうかをお聞きしたい。あわせて、全国的に見て成功例があるのかどうかも教えてほしい。

<加藤教授>
 ハマグリやアオギスなどを戻すことを東京湾再生の目標に掲げること自体はいいことだと思う。しかし、どうすればそれを実現できるのかは、まだ分かっていない。
 かなりいい状態の広大な浅海域をもつ干潟がないと、それは困難だ。たとえばハマグリはかなり広い範囲で移動するので、いろいろなハビタット(生物の生息場所)が連続していないとダメだと思う。
 それから、ハマグリなどを復活させた所はまだないと思う。


■アナジャコの群生地に砂を入れのは本末転倒

<Hさん>
 さきほどのIさんと同じような質問だが、「東京湾の生物にたいへんくわしい」とか「底生生物研究の第一人者」とかいわれている学者が、猫実川河口域などに砂を入れて人工干潟をつくれば東京湾にハマグリなどが復活するという論文を書いている。これについてはどうか。

<加藤教授>
 私もハマグリやアオギスが東京湾に復活してほしいと思う。しかし、アナジャコの群生地に砂を入れるというのは本末転倒だ。

<辻淳夫さん>
「三番瀬再生実現化試験計画等検討会」(知事の諮問機関)の委員の大部分は、市民調査の結果を見ていないと聞く。そのようにデータを見ないで、言葉だけで「ハマグリだ」「アオギスだ」などと言うのはムチャな議論だ。



■ハマグリ絶滅の原因は埋め立て

<大浜清さん>
 加藤さんや辻さんが言われるように、話は簡単ではない。このことは人工干潟を主張している人たちにぜひ聞いてほしいと思う。東京湾ではいつごろハマグリがいなくなりだしたかということをきちんと捉えないでハマグリを戻そうと言うことはおこがましいことだ。
 実は、ハマグリが急激に採れなくなりだしたのは昭和33年(1958)だ。つまり、千葉県が埋め立てをはじめた年だ。
 県が最初に埋めたのは市原市の養老川河口である。ここを埋めたため、内湾のハマグリの量は3分の1に減ってしまった。そして年々減り続け、昭和40年の初めには1割以下になってしまった。そして、私たちが昭和46年(1971)に千葉の干潟を守る会を結成し、埋め立て反対運動をはじめたときは、すでにハマグリは絶滅したと言 われていた。
 そういうことをまったく無視し、ちょっと人工干潟をつくればハマグリが戻ってくるだろうというのはたいへんおこがましいことだ。

(文責・千葉県自然保護連合事務局) 








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