講演会「すばらしき泥! 泥干潟」(3)

三番瀬の生物多様性を支える

猫実川河口域の泥質干潟

〜市民調査報告〜



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 以下は、講演会「すばらしき泥! 泥干潟」(2007年12月8日)で三番瀬市民調査の会がおこなった報告(要旨)です。



市民調査報告






1.猫実川河口域は自然の宝庫

  • 猫実川河口域は多種多様な生き物が生息する重要な浅瀬であり、三番瀬の多様性を支えている。
  • 猫実川河口域では、大潮の干潮時に約30ha以上の広大な泥干潟が現れる。
  • 県の生物調査では、動物196種、植物15種が確認されている。そのなかには、県レッドデータブックに掲載されている希少種も、ウネナシトマヤガイ、エドハゼなど11種が含まれている。市民調査でも動物130種、植物11種を確認している。
  • 猫実川河口域には、アナジャコもたくさん生息している。市民調査では、1m2あたり100〜600もの巣穴を確認している。アナジャコは干潟の泥の中にYの字型をした巣穴を掘るので、1m2 あたり50〜300匹生息していることになる。
  • また、この海域には、約5000m2 のカキ礁も存在する。カキ礁は、水質浄化機能が高いだけではなく、魚礁としての機能も高く、海外においてはその価値が高く評価されている。
  • まさに、この海域は、三番瀬の中でもっとも生物相豊かな海域であり、東京湾漁業にとっても大切な“いのちのゆりかご”となっている。
  • 強熱減量の値も数パーセント以下である。
     (強熱減量は、値が大きいほど有機物量が多いことを示す。通常の底質は13%以下といわれている)
  • 酸化還元電位は、一部の箇所がマイナスの値になるが、大半の箇所はプラスである。
     (酸化還元電位は底泥に酸素がたくさんあるかどうかを表すモノサシ。電位の値がプラスを示せば酸素が多いということを、マイナスは酸素が少ないということを表す。数地点を継続調査しているが、大部分の地点がプラスの値であり、猫実川河口域は全体的に酸素が豊富で、生き物が生息しやすい環境であることが実証されている)


2.猫実川河口域に関する専門家などの指摘

 猫実川河口域の生物相がたいへん豊かで、三番瀬全体の環境の中で重要な役割を果たしていることについては、専門家などが次のように指摘している。

◇猫実川河口域は三番瀬の生物多様性を支えている
     「三番瀬の生物多様性は、(船橋市側の)砂干潟だけでなく、(市川市側の)泥干潟が残り、カキ礁まであることで支えられています。泥干潟はハゼなどの産卵の場でもあり東京湾の一大産業になっているハゼ釣りなどの遊漁を考えてもここを残すことは大切だと思います」(小倉久子氏。永尾俊彦著『公共事業は変われるか』岩波ブックレットより)

◇三番瀬の生物生産において大きな役割を果たしている
     「(猫実川河口域は)汽水性泥質干潟生物や泥質域に適応したアナジャコなどの生物が、高い密度で生息している唯一の場所です。『平成14年度三番瀬海生生物現況調査(底生生物及び海域環境)報告書』でもウミゴマツボ、カワグチツボなどがこの海域のみに見られることが明らかにされており、三番瀬の生物多様性の保全において特に重要な場所と考えられます。また、その周辺域に生息する生物が、魚類を中心とする食物連鎖において重要な役割を果たし、三番瀬の生物生産においても大きな役割を果たしている可能性が考えられます。」
     「多様性を失って均一な砂質の底質環境となりつつある現三番瀬において、泥質であり汽水域の生物が多数生息している猫実川河口域、そして市川航路市川側・船橋航路跡周辺の貝殻質干潟、さらには三番瀬中央部の砂質の底質環境はまず保全すべきです。」(三番瀬円卓会議『三番瀬再生計画案』)

◇三番瀬全体の環境の中で重要な役割を果たしている
     「猫実川河口域には、ドロクダムシ、ホトトギスガイ、エドガワミズゴマツボ、ニホンドロソコエビなど、三番瀬の他の環境条件には存在しない底生生物が多く発見されており、生物多様性の観点からはこれらも失われていいということにはならない」
     「この区域も浄化機能を果たしており、特に単位面積あたりのCOD浄化量は前記補足調査で明らかにされたように、他の環境条件での値と比較しても遜色がない。これは、この区域が都市部から流れ込む汚染物質の受け皿となり、前に示したような多様な底生生物の存在により、活発な浄化作用が行われていることを示している。猫実川河口域の環境条件も三番瀬全体の環境の中で重要な役割を果たしているのである。」(日本弁護士連合会「三番瀬埋立事業計画に対する意見書」)

◇猫実川河口域の生物相は藤前干潟よりも豊か
     「私は、かつて藤前干潟の底生生物調査に協力しておりましたが、(このような言い方も変ですが)現在ラムサール登録地となっている藤前干潟の生物相よりも、猫実川河口域の生物相ははるかに豊かなものです。何故、その環境にわざわざ手を入れる提言をされるのでありましょうか。市民調査に同行し観察したところ、現在の猫実川河口域は生物の多様性の面からも、浅海域としての役割の面からも、改変の必要を感じない状態でありました。むしろ、人間が手を加えることで、現在の状態を悪くする可能性の方が大きいと思えます。」(小嶌健仁氏「三番瀬再生計画素案に対する意見」)

◇三番瀬水生生物の最後の生き残り部分
     「猫実川河口域はつねに議論されるが、ここは、底泥データでみると平成に入ったあたりからほぼ安定している。この部分は三番瀬の水生生物の最後の生き残りの部分になっている。こういう点では、非常に貴重な部分である。」(第7回「三番瀬専門家会議」での望月賢二委員の発言)

◇干潟特有の生き物の生き残り場所になる可能性が高い
     「(三番瀬は)水循環系の仕組みが失われたため、放置した場合、大部分が中長期的には砂浜海岸化するとともに、それに対応した生態系に移行する可能性が高い。ただし、猫実川周辺は、波や流れの点での静穏性が高いことから、泥質域として維持され、干潟特有の生き物の生き残り場所になる可能性が高い。」(第7回「三番瀬専門家会議」での望月賢二委員の提出資料)

◇猫実川河口域が埋まったらゲームオーバー
     「海にいろいろな生き物がいないと漁業は成り立たない。あそこが埋まったら、ゲームオーバーだ」 (大野一敏・船橋市漁協組合長。『サンデー毎日』2005年7月24日号)

◇生物多様性の観点からみれば重要な区域
     「干出域カニ類等生息状況調査では、猫実川河口周辺のみにヤマオオサガニや、高密度のアナジャコ属の生息孔が観察されているなど、三番瀬内では唯一泥質浅場に適した生物相がある場所といえる。本調査海域において、泥質の浅場環境を有する区域は他になく、生物多様性の観点からみれば重要な区域である。」(千葉県「平成18年度三番瀬自然環境調査結果」)

      ※県が三番瀬再生会議に提示し、またホームページに掲載した概要版には、この部分がカットされている。


3.猫実川河口域をめぐる動き

  • 「三番瀬再生」という名で猫実川河口域を人工干潟(人工海浜)にする動きが強まっている。
  • 地元の市川市や漁協、一部の環境団体などは、この海域を「ヘドロの海」「たいした生き物はいない」などとし、埋め立てて人工干潟にすることを提唱している。
  • 県も、「ハマグリ、アオギス、シラウオ等の失われた生物を戻す」ためなどととし、「三番瀬再生」の名で猫実川河口域の人工干潟化をめざしている。
  • 県が設置した「三番瀬再生会議」は、首をかしげる議論や運営が続いている。
    • 現場(猫実川河口域)を一度も見ないで議論。市民調査も無視である。
    • 猫実川河口域の評価や扱いに対する議論はいつも先送り。なのに、人工干潟化の動きがどんどん進んでいる。
    • 「(猫実川河口域に)泥干潟は存在しない」という意見も堂々と出される状態で、泥干潟の存在自体が共通認識になっていな い。
    • 県は、護岸改修後、ツバサゴガイの棲管(せいかん)数が1m2あたり20本(つまり10個体)に増えたという。信じられないことなので、写真の提示を求めた。しかし、県が提示した写真には、ツバサゴカイの棲管が1本も映っていない。


4.日米カキ礁シンポジウムで明らかになったこと

  • 今年4月8日、三番瀬保護団体は日本初のカキ礁シンポを市川市で開催した。カキやカキ礁に関する国内外のすぐれた専門家が参加し、カキ礁の大切な役割などを明らかにしてくれた。
  • マーク・ルーケンバーク氏(バージニア海洋科学研究所臨海実験所所長)は、「カキ礁は平坦な泥干潟など他の生息地と比べて表面積が非常に大きいため、非常に豊かな生態系を支えている」、「窒素循環においてカキが果たす役割を理解することが重要である。カキは組織内に取り込む2倍の窒素を水中に放出する。バクテリアの作用によって窒素ガスに変換され大気中に放出される」、「アメリカ東海岸では病害や乱獲により、在来種のカキの個体数が大幅に減少した。カキ礁が失われるとその重要な生態系の恩恵も失われるとの認識が広まった」と述べた。
  • ジェニファー・ルエシンク氏(ワシントン大学助教授)は、「カキが生態系から窒素を除去する微生物活性を促進している可能性があると考えられる。これは特に富栄養化など人間の活動によってもたらされる余剰窒素を考える上で非常に重要なこと」と、カキ礁の脱窒機能と底質の変化を述べた。
  • アラン・トリンブル氏(ワシントン大学助教授)は、「三番瀬にカキ礁があることは、カキ礁の役割を研究するため膨大なお金や時間や労力を使ってカキ礁を復元に費やさなくてよいので、とても幸運である」と述べた。
  • 日米カキ礁シンポジウムは、日本におけるカキ礁研究の前進とカキ礁生態系の位置づけを固めるきっかけとなった。







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