「再生の目標」5項目などを決定
〜護岸改修時の海岸形状などで意見相違〜
第5回「三番瀬円卓会議」が、(2002年)7月19日の午後1時30分から翌日の午後0時すぎまで約11時間かけて開かれました。
今回の会議の目標は、「再生の目標」や「緊急・中期的・長期的に対応すべき事項」などを討議し、緊急的対策として国の来年度予算編成に向けて要望する事項などを決めることです。
●再生の目標として5つの骨子を決定
正味10時間におよぶ討議の結果、「再生の目標」として次の5つの骨子が合意になりました。
- 生物種や環境の多様性
- 海と陸との連続性
- 環境の持続性と回復力
- 漁場の生産力を確保する
- 市民と自然の触れ合い(市民が親しめ、利用できる環境)
今後、この骨子を盛り込んだものをわかりやすく文章化し、再生計画の前文とすることになりました。
●緊急的対策として6項目を決定
国の来年度予算編成に向けて要望する事項として、次の6項目が決まりました。
- 腐朽化した市川塩浜護岸を改修する。堤防の形状・構造や海岸の形状などをどうするかは専門家会議で検討し、小委員会に報告する。
- 青潮対策を講じる。具体的には、エアレーション(人工的酸素供給)などを検討する。
- 水循環の推進を検討する。具体的には、市川市行徳の内陸湿地(御料場、行徳鳥獣保護区)と三番瀬との水の行き来や、江戸川河川水の導入などを検討する。
- アオサの除去と、アオサの有効活用化を検討する。
- 海域の地盤沈下対策を検討する。
- 海岸に投棄されるゴミ対策を実施する。
●中身の濃い議論が展開された
これまでの円卓会議や小委員会、専門家会議での論議結果をふまえ、生態系、干潟・浅海域、漁場環境、景観、鳥類、護岸、流入河川、水質、青潮、後背地の土地利用・まちづくり、地形変化、維持管理などの項目について、さまざまな意見が交わされました。
特徴的だったのは、2つの小委員会(海域、護岸・陸域)の論議とまったくちがい、現況や問題点、課題などについて中身の濃い論議がおこなわれたことです。埋め立て推進派が多数を占める小委員会は、専門家がオブザーバーになっていることもあり、「早く論議を打ち切って早急に人工砂浜(干潟)を造成すべき」の大合唱です。これに比べると、専門家が何人も加わっている円卓会議(親会議)は、論議の内容や質がずいぶんと違います。
また、今回は、検討項目ごとに会場からの発言時間がかなり確保され、多くの傍聴者が発言しました。
●最大の対立点は、今の海域を減らすかどうか
最大の対立点は、やはり、今の海域を減らさないで再生計画をつくるのか、それとも、海域の一部をつぶして人工砂浜(干潟)を造るかどうか、です。具体的には、三番瀬市川側(猫実川河口域)を埋め立てて人工干潟をつくるのかどうか、ということです。
再生計画の前文をつくるということになり、大浜清委員(千葉の干潟を守る会代表)が、「“今ある自然は大切にし、現状よりは悪くしない”ということを前文にぜひ盛り込んでほしい」と発言しました。
この発言をめぐって、埋め立て(人工砂浜造成)推進派と自然環境保全派のやりとりがつづきました。
◇オブザーバーの尾藤勇氏(市川市の助役)
「“現状の保全”を前文に書かれては困る。どれかを守れば、他方が悪くなる」
◇落合一郎委員(市川市行徳漁協組合長)
「“現状の保全”では悪くなる一方だ。これを文章化されては困る」
◇吉田正人委員(日本自然保護協会常務理事)
「今ある自然を大切にするというのは、例えていえば、虫歯にやられて歯が何本も抜けてしまっているときに、残りの歯もすべて抜いてしまうか、それとも、残っている歯は大事にし、抜けた個所をどうかにかするのか──という問題だと思う」
◇牛野くみ子氏(傍聴者、千葉県自然保護連合代表)
「私たちは、海域はこれ以上つぶすべきではないと考えている。東京湾の干潟や浅瀬は9割も埋め立てられた。わずかに残った海域はすべて残すことを基本にして計画をつくってほしい」
◇竹内壮一氏(傍聴者、三番瀬を守る署名ネットワーク代表)
「人間からの視点だけで海をみるべきではない。海からの視点が必要だ。モノの発想法を転換してほしい」
この点についての議論は今回はこれで終わり、先送りになりました。
●護岸改修時の海岸形状が当面の焦点に
緊急的対策の一つとして、市川塩浜の直立護岸を早急に改修することが決まりました。問題は、その護岸のあり方です。
磯部雅彦委員(東京大学大学院教授)や県(事務局)は、伊勢湾台風並みの高潮被害を避けるためには高さ8メートル(AP 8.0m。現在は AP 5.0m)の堤防が必要とし、こう主張しています。
「8メートルの堤防をつくったら、海は見えなくなる。しかし、護岸前面の海域を人工砂浜にして勾配をつければ波浪を抑えることができる。もし沖合方向に300メートル(1:50の勾配)の人工砂浜を造れば、堤防の高さは6メートルですむ。そうすれば、海も見える」
(注)1.APというのは、大潮時の干潮面を0(ゼロ)とした高さです。
2.県が提出した資料「高潮時に必要な堤防の高さ」は、このページの最後に
掲載してあります。資料の中で、「検討ケース」の「ケース1」は、堤防
の形状を直立護岸とした場合は高さが8m必要。「ケース2」は、堤防の
前面に300m(勾配1:50)の人工砂浜をつくれば堤防の高さは6mですむ
──というものです。
3.それぞれのケースを図にした県作成の模式図もあわせてご覧ください。
当然ながら、埋め立て(人工砂浜造成)を強く主張している委員などはこの主張に大賛成です。今回の円卓会議でも、落合一郎委員(市川市行徳漁協組合長)、歌代素克委員(市川市南行徳地区自治会連合会会長)、佐藤フジエ氏(市川商工会議所会頭)が、「護岸はなるべく低い方がよい」「300メートルの人工砂浜と一体となった護岸を早急につくってほしい」などと主張しました。これに対し、吉田正人委員や大浜清委員などが次のように発言しました。
◇吉田正人委員
「300メートル先まで埋め立てて人工砂浜を造るというのでは、なんのために埋め立てを中止したのか、となる。とりあえずの応急的なものとして、環境保全、安全性、親水性のすべてに配慮した形状や構造のものを検討したらどうか」
◇大浜清委員
「伊勢湾台風並みの高潮に対応できる堤防をつくるというが、そんな大規模な護岸は短い期間ではつくれないはずだ。また、一つの堤防で大型台風時の高潮をすべて受けとめるのではなく、前面は低い護岸をつくり、後背地に高い堤防をつくるという方法もあるはずだ。護岸改修のために、三番瀬を埋め立ててそこに生息しているたくさんの生き物を埋め殺しにするようなことは避けるべきだ」
◇竹内壮一氏(傍聴者)
「三番瀬の海域をこれ以上つぶさないようにしてほしい。高潮対策で必要だからといって、海域を簡単に埋めてしまうのは20世紀の思想だ」
◇傍聴者(氏名は不明)
「伊勢湾台風の話をしても仕方がない。これまで三番瀬周辺でどのような高潮被害が生じたのかというデータを県から出してもらい、そういうものをふまえたうえで検討すべきだ」
こうした討議の結果、さまざまなデータや事例などを踏まえながら護岸の形状や構造などを専門家会議で検討することになりました。
「高潮時に必要な堤防の高さ」(県作成) |
高潮時に必要な堤防の高さ
必要堤防高さ = 設計高潮位 + 波の打上げ高 + 余裕高さ
= AP 5.10 + R + 0.50m
堤防高さの算定結果表
検討条件(浦安海岸高洲地区に準じる)
沖波波高 周 期
H = 3.71 m To = 6.28 sec
※ 注1:今回の計算はあくまで概算であり、浅い海が続くことによる海底面との
摩擦等は考慮していない。
注2:用語の解説
(1)設計高潮位
堤防を設計する時に用いる潮位。
AP 5.10 = 朔望平均満潮位(AP 2.10)+ 異常気象によって
生じる海水面の上昇(3.00)
(2)朔望(さくぼう)平均満潮位
大潮の時の満潮位の平均。(AP 2.10)
(3)波の打上げ高
波が堤防にぶつかった時に打ち上がる波の最大の高さをいう。
(沖で発生した波は岸に向かう途中で地形や水深の影響を受けること
から、その影響を考慮した波の高さをもとに算定。)
(4)余裕高さ
堤防の高さの設定において、沈下などの不確実性を考慮した高さ。
(5)沖波(おきなみ)波高
沖における波の谷から波の峰までの高さ。
(6)周期
波の峰が通過してから次の波の峰が通過するまでの時間。
(7)AP
高さを表す基準の一つで、一般に使われている標高(TP)に対し、
約 1.1m低い地点を0とした高さ。なお、AP ±0.0はこの海域の
大潮の時の干潮面にあたる。
作成元:三番瀬再生計画検討会議事務局
添付資料:堤防高さ算定の模式図
★関連ページ
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- 三番瀬再生計画の作成は急ぐべきでない(田久保晴孝)
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