「三番瀬と盤洲干潟をラムサール条約湿地に」
〜8団体が環境省に要請〜
東京湾の干潟保全にとりくんでいる自然保護団体は7月19日に環境省と交渉し、三番瀬(船橋市、市川市)と盤洲干潟(木更津市)のラムサール条約登録について同省がもっと力を入れるよう要望しました。
要望したのは、三番瀬を守る連絡会、千葉の干潟を守る会、三番瀬を守る会、市川三番瀬を守る会、三番瀬を守る署名ネットワーク、小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会、千葉県自然保護連合、日本湿地ネットワーク(JAWAN)の8団体です。
湿地減少の有効対策を示せない
最初に、日本の湿地が激減していることにたいする環境省の対策をただしました。
日本の湿地は減少が著しく進んでいます。日本に存在する湿地は明治・大正時代の40%足らずになってしまいました。湿地激減の主因は埋め立てなどの開発工事です。とくに干潟は惨たんたる状況です。
また、環境省自然環境計画課が今年4月に発表した調査・分析結果によれば、「日本の重要湿地」を生物分類群ごとの視点でみた961湿地のうち823湿地について情報を得られ、そのうち524湿地は「悪化傾向」にあるとしています。悪化の主な要因は開発工事です。
湿地の激減・悪化の対策について、同省の担当者は「それらの分析結果を鳥獣保護区の設定や環境アセスメントの基礎資料として活用していきたい」と答えました。これでは開発による湿地破壊の進行を食い止めることは不可能です。有効な対策は示せませんでした。
ラムサール条約締約国の責務を果たしていない
8団体は、政府がラムサール条約締約国としての責務を果たすよう求めました。
ラムサール条約の主な目的は、急速に失われつつある重要湿地を将来の世代に残すことです。ところが日本では「地元自治体などの賛意」が登録条件のひとつとなっています。開発工事によって湿地を消失・悪化させているのは大半が自治体です。日本の自治体の多くは湿地保全よりも開発を重視しています。したがって、自治体などの賛意を登録条件とするかぎり、開発にさらされている重要湿地のラムサール条約登録は進みません。本来登録されるべき湿地、あるいは優先度の高い湿地が登録されないというしくみになっているのです。
この点について同省は、「地元自治体などの賛意が得られなければラムサール条約湿地には登録できない」と答えました。紋切り型の回答です。これでは、重要湿地はあいかわらず消失・悪化が進むことになります。ラムサール条約締約国としての責務を果たせません。
「自治体は開発志向ではない」
三番瀬と盤洲干潟は、環境省が「ラムサール条約湿地の潜在候補地」にあげています。しかし、千葉県などの関係自治体は、干潟保全よりも開発を重視しています。地元の漁協も反対しているため、登録が進みません。ラムサール条約湿地などに指定されていないため、三番瀬と盤洲干潟は開発の危機にさらされています。
この点について環境省は、「千葉県と定期的に話をしているなかで、当省としては、自治体が開発志向とはとらえていない。自治体が開発を重視しているためにラムサール条約登録が進まないとは認識していない」とのべました。これには驚きました。環境省の担当者は、日本の湿地が激減している理由や、重要湿地のラムサール条約登録が進まない理由をきちんと把握していないのです。
たとえば東京湾の干潟が9割も減少したのはすべて埋め立て開発によるものです。埋め立てたのは千葉県などの自治体です。三番瀬と盤洲干潟も埋め立て開発で消滅の危機にありました。消滅を食い止めているのは市民運動です。運動が弱まれば埋め立て計画が再浮上する可能性もあります。
さらに、環境省による前述の調査・分析結果によれば、「日本の重要湿地」のうち524湿地は「悪化傾向」にあるとし、悪化の主な要因は開発工事と分析しています。自治体は、これらの開発工事に深くかかわっています。
環境省の担当課はそのような事実をしらないようです。「自治体が開発志向とはとらえていない」──。そのような認識では、日本の湿地は今後も減少・悪化が進みます。
第二湾岸道構想の存在を知らない
8団体は、同省の認識が誤りであることを具体的事例をあげて指摘しました。
千葉県は第二東京湾岸道路構想を県政の重要課題に位置づけています。この道路は三番瀬を通ることになっています。県が三番瀬のラムサール条約登録に消極的なのは、この道路を重要施策としているからです。県は国にたいし、第二湾岸道路の具体化を毎年要望しています。「平成29年度国の施策に対する重点提案・要望事項一覧」にも「第二東京湾岸道路の早期具体化」が明記されています。環境省の担当課はそれをしりませんでした。
次回締約国会議での登録を要請
最後に、2018年開催の次回ラムサール条約締約国会議(COP13)で三番瀬と盤洲干潟が登録されるよう強く求めました。また、「ぜひ一度、三番瀬と盤洲干潟を見に来てほしい」と要請しました。
以下は、8団体が環境大臣あてに提出した質問・要望書です。
質問・要望書 |
2016年7月19日
環境大臣 丸川珠代 様
三番瀬を守る連絡会 代表世話人 中山敏則
三番瀬を守る会 会長 田久保晴孝
市川三番瀬を守る会 会長 星野亘良
三番瀬を守る署名ネットワーク 代表 田久保晴孝
小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会 代表 小関公平
千葉の干潟を守る会 代表 近藤 弘
千葉県自然保護連合 代表 牛野くみ子
日本湿地ネットワーク 共同代表 辻淳夫・牛野くみ子
三番瀬と盤洲干潟(小櫃川河口干潟)のラムサール条約登録
についての質問と要望
私たちは、東京湾に残された貴重な干潟・浅瀬の三番瀬と盤洲干潟を後世に残すために活動している団体です。
三番瀬と盤洲干潟は「日本の重要湿地」と「ラムサール条約湿地潜在候補地」にあげられているものの、ラムサール条約登録が進みません。そのため、依然として開発の危機にさらされています。
そこで、三番瀬と盤洲干潟のラムサール条約登録などについて、下記のとおり質問と要望をさせていただきます。
記
- 日本の湿地は減少が著しく進んでいます。日本に存在する湿地は明治・大正時代の40%足らずでしかないとされています。湿地激減の主因は埋め立てなどの開発工事です。とくに干潟は惨たんたる状況になっています。
また環境省が平成28年4月に発表した資料によれば、「日本の重要湿地500」で生物分類群ごとの視点でみた961湿地のうち823湿地について情報を得られ、そのうち524湿地は「悪化傾向」にあるとされています。
このように湿地の減少や悪化が続いていることについて、環境省はどのような対策を講じようとされているのでしょうか。
- 前記の環境省発表資料によれば、「悪化傾向」とされる524湿地のうち、劣化要因の情報があった368湿地について主たる要因を分類したところ、「開発など人間活動による危機」(埋め立てなど)が54%を占めています。
この点について環境省の見解と対策をお聞かせください。
- ラムサール条約の主な目的は、急速に失われつつある重要湿地を将来の世代に残すことです。ところが日本では「地元自治体などの賛意」が登録条件のひとつとなっています。
開発工事によって湿地を消失・悪化させているのは大部分が自治体です。日本の自治体の多くは湿地保全よりも開発を重視しています。したがって、地元自治体などの賛意を登録条件とするかぎり、開発の危機にさらされている重要湿地のラムサール条約登録は進みません。本来登録されるべき湿地、あるいは優先度の高い湿地が登録されないというしくみになっているのです。そのため、ラムサール条約湿地が増えても重要湿地は相変わらず消失・悪化が進むという状況になっています。これではラムサール条約締約国としての責務を果たしていないことになります。この点についてどのようにお考えでしょうか。
- 世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)にもとづく自然遺産の場合は、環境省や林野庁が自らの意志(戦略)によって主導的に世界遺産委員会へ登録を推薦します。関係自治体などの賛意は登録条件となっていません。
一方、ラムサール条約湿地に登録する場合は関係自治体などの賛意が条件とされ、環境省は主導的な役割を果たしていません。それはなぜでしょうか。
- 三番瀬は東京湾の奥部に残された貴重な干潟・浅瀬です。ラムサール条約の国際的登録基準を十分に満たしています。盤洲干潟も同じです。盤洲干潟は日本最大級の砂質干潟です。干潮時は2キロ沖まで干潟が現れます。干潟の後背地には43ヘクタールの広大な塩性湿地がひろがっています。そこにはヨシが生い茂っています。東京湾でただ一カ所、原風景(自然の海岸線)が残されているのです。
ところが、ラムサール条約登録に関係自治体が消極的だったり、地元の漁協が反対したりしているため、三番瀬と盤洲干潟は登録が進みません。ラムサール条約湿地や自然環境保全地域などに指定されていないため、三番瀬と盤洲干潟は開発の危機にさらされています。
この点について環境省はどのように認識されているのでしょうか。また、どのような対策を考えておられるのでしょうか。
- シギ・チドリ類はアジア全体で減っています。その主因は開発といわれています。
そういうなかで、三番瀬はシギ・チドリ類の重要な中継地となっています。環境省「モニタリングサイト1000」のシギ・チドリ類渡来数では、三番瀬は毎回、上位10位以内に入っています。たとえば2014年度冬期をみると、佐賀県の大授搦、熊本県の白川河口に次いで三番瀬は3番目となっています。三番瀬はまた、スズガモが毎年数万羽飛来します。
ラムサール条約は、国際的に重要な湿地の保全を締約国に義務づけています。したがって、日本政府が三番瀬をラムサール条約湿地に登録することは当然の責務と考えます。この点について見解をお聞かせください。
- 三番瀬のラムサール条約登録について、千葉県は消極的な姿勢を続けています。その理由として、地元漁協が「漁場再生が先」と主張していることをあげています。
しかし、漁場再生とラムサール条約登録は矛盾しないはずです。千葉県も、私たちとの話し合いで次のように述べました。ラムサール条約登録の前提となる国指定鳥獣保護区特別保護地区についてです。
「国指定鳥獣保護区特別保護地区になると、たとえば覆砂する場合は海面から土砂が出ると埋め立てと同じになるので許可が必要になる。しかし、三番瀬漁場再生事業でやっている覆砂は土砂が海面から出ないので、特別保護地区になっても規制の対象外になる。県がおこなっている漁場再生事業はすべて規制の対象外になる」
それでも漁協が「漁場再生が先」と主張しているので登録は困難、と県は述べています。この点についてどのようにお考えでしょうか。
- 日本の漁業衰退は、漁業資源の基礎生産力を支えている干潟・浅瀬が埋め立てによって激減したことと密接にかかわっています。
船橋市漁業協同組合は三番瀬関係漁協のなかで最大の組合員と漁獲高を誇っています。同漁協は2008年3月15日、三番瀬のラムサール条約登録賛成決議をあげました。理由は、「漁業者は海がなければ生きられない」「漁場を次世代に残すため、ラムサール条約に登録して埋め立ての歯止めにする」でした。ところが2012年6月に組合長が交代し、同年12月22日に開かれた臨時総会でラムサール条約登録賛成決議を撤回(否認)しました。
漁協がラムサール条約登録に反対することについて、前組合長の大野一敏さんはこう述べました。「ラムサール登録は生物多様性の確保・拡大につながる。漁業の対象である生物相にも良好な影響が期待される。だから漁業のためにも登録すべきだ。漁師がラムサール登録に反対するのは自分のクビを絞めるのと同じだ」。
このように、ラムサール条約登録に対する漁業者の意見や対応は、漁業の振興や将来に対する漁業者の考え方と深くかかわっています。日本の漁業のためにも、環境省が干潟・浅瀬の保全に積極的にかかわり、ラムサール条約登録を推進していくことが求められていると考えます。この点について環境省の考えを教えてください。
- 三番瀬のラムサール条約登録の機運が高まった2002年度、環境省は国指定鳥獣保護区の指定を前提として千葉県に補助金(交付金)を交付しました。ところが、環境省はこの「三番瀬交付金」を2008年度に打ち切りました。そのいきさつを教えてくださるようにお願いします。
- 次回のラムサール条約締約国会議(COP13)で三番瀬と盤洲干潟がラムサール条約湿地に登録されるよう、ご尽力をよろしくお願いいたします。
三番瀬と盤洲干潟のラムサール条約登録を求める要望書を環境省に提出
★関連ページ
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