三番瀬のラムサール条約登録をめぐって

〜なぜ登録が進まないのか〜


牛野くみ子・中山敏則


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 わが国におけるラムサール条約登録の最大の問題点は、地元自治体などの同意が登録条件となっていることである。したがって、自治体が開発を意図している湿地は、どんなに重要であっても絶対に登録されない。自治体が開発を断念しないかぎり登録は不可能となっているのである。

 ラムサール条約の目的は、開発の危機にさらされている重要湿地を国際的に保護することだ。日本政府は条約締約国に課せられた責務を果たしていない。その典型例は三番瀬である。


登録が進まない理由

 三番瀬は東京湾最奥部に残る唯一の自然干潟・浅瀬だ。日本屈指の野鳥飛来地となっている。冬は10万羽近くのスズガモが飛来する。

 千葉県が1993年に策定した新たな埋め立て計画は、反対運動の高まりにより2001年9月に白紙撤回となった。埋め立て中止を求める署名は30万を超えた。白紙撤回したのは堂本暁子知事(当時)である。だが、この「白紙撤回」は「完全撤回」ではなかった。いったん白紙にもどし、新たな開発計画を策定するというものであった。

 堂本知事は埋め立て計画の白紙撤回を表明したさい、第二東京湾岸道路を三番瀬に通すことを明言した。この道路は埋め立て計画の主目的となっていた。県議会で圧倒的多数の議席を占めている自民党はこの方針を受け入れ、埋め立て計画の白紙撤回を容認した。三番瀬をめぐるその後の動きはこれが原点になっている。

 県は第二湾岸道路を三番瀬に通すことに躍起となっている。この道路は、埋め立て地はすべて8車線の用地が確保されている。だが、三番瀬で中ぶらりんになっている。三番瀬保全団体が反対しているからである。三番瀬を通るルートが決まらないので、第二湾岸道路はなかなか具体化できない。財界は早期具体化を県に強く要請している。

 県の意図は、浦安寄りの猫実川(ねこざねがわ)河口域(市川市塩浜2、3丁目地先)を「三番瀬再生」や「干潟的環境形成」の名で人工干潟(人工砂浜)にすることである。人工干潟造成工事のさいに沈埋(ちんまい)方式(ボックスカルバート方式)で第二湾岸道路を通すというものだ。 三番瀬のラムサール条約登録が進まない根本原因はここにある。三番瀬のラムサール登録は、国指定鳥獣保護区の特別保護地区に指定されることが前提条件である。特別保護地区に指定されると、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」により道路建設や人工干潟造成は規制される。当然である。

 しかし県は、「第二湾岸道路を通したいからラムサール条約登録はできない」とは言わない。「漁協など関係者の合意が得られない」「すべての関係者が同意しなければ登録できない」を言い訳にしている。その一方で、平成21(2009)年6月定例県議会の予算委員会では、「三番瀬のラムサール条約登録はなぜできないのか」の丸山慎一県議の質問に対し、自然保護課長が「(登録されると)水面の埋め立てとか、建物等の建設など、一定の行為は環境大臣の許可が必要になる」と答えた。これは、思わず本音をもらしたものである。

攻防がつづく

 埋め立て計画が2001年に白紙撤回になったあと、三番瀬は人工干潟造成とラムサール条約登録をめぐる攻防がずっとつづいている。

 白紙撤回のあと、三番瀬を恒久保全するためラムサール条約登録の気運が高まった。こんな具合にである。
  • 環境省は2002年度から「三番瀬交付金」を千葉県に交付した。この交付金は、ラムサール条約登録の前提となる国指定鳥獣保護区をめざすことを条件に例外的に認めたものであった。交付金の額は、2007年度までの6年間で計2億2000万円である。

  • 知事の諮問機関「三番瀬円卓会議」が2004年1月に知事に提出した提言には、三番瀬のラムサール登録推進も含まれている。後継組織の「三番瀬再生会議」もラムサール条約への早期登録を求める意見書を知事に提出した。

  • 地元の船橋市議会も2004年3月、「三番瀬のラムサール登録湿地指定促進に関する決議」をあげた。「本市議会は、第9回ラムサール締約国会議において三番瀬が登録湿地に指定されるよう、市において最善の努力を尽くすことを強く求める」としている。

  • 2008年には、三番瀬を漁場とする3漁協のうち最大規模の船橋市漁協が臨時総会でラムサール登録に賛成する決議をあげた。同漁協の大野一敏組合長(当時)は、「漁師がラムサール条約登録に反対するのは自分のクビを絞めるのと同じ」と訴えた。

  • 船橋、市川、浦安3市で構成する京葉広域行政連絡協議会も2010年、三番瀬のラムサール登録推進を求める要望書を県知事に提出した。同協議会事務局の船橋市は「利害関係者の調整など、県にリーダーシップをとってもらいたい」と要請した。

  • 「三番瀬を守る署名ネットワーク」(約70団体で構成)がとりくんだラムサール登録署名は14万集まった。
 ところが県は、市川市行徳・南行徳の2漁協が「登録は時期尚早」「漁場再生が先」と主張していることを口実にし、ラムサール条約登録を否定しつづけた。

 国指定鳥獣保護区をめざした県の計画がいっこうに具体化しないため、環境省はしびれを切らして「三番瀬交付金」を打ち切った。2008年度のことである。

 そうこうするうちに、埋め立て推進勢力の巻き返しも強まった。2012年6月、船橋市漁協の総会が開かれ、ラムサール登録推進派の大野一敏組合長が退任となった。同漁協は同年12月に臨時総会を開き、ラムサール条約登録賛成決議を撤回した。

 一部の環境団体も三番瀬のラムサール登録に反対する意見書を知事に提出した。「三番瀬フォーラムグループ」と「日本野鳥の会千葉県」(「千葉県野鳥の会」とは別団体)である。両団体は三番瀬の人工干潟造成を主張している。ラムサール条約登録に反対している野鳥団体は、世界で「日本野鳥の会千葉県」だけであろう。奇々怪々である。

 こうした中、三番瀬保全団体は、2015年にウルグアイで開かれるラムサール条約第12回締約国会議(COP12)での登録をめざし、署名活動などを進めている。また、人工干潟造成と第二湾岸道路建設を断念させるための運動もつづけている。
(2014年11月)
















野外集会「三番瀬をラムサール登録に」



14万人署名を提出する「三番瀬を守る署名ネットワーク」の田久保晴孝代表



JR船橋駅前で署名集め






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