人工干潟計画中止を要請

〜市川市長へ 三番瀬7団体〜




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 「市川三番瀬を守る会」など7団体は(2024年)8月19日、人工干潟造成計画の中止を求める要望書を市川市長あてに提出しました。



市川市長あての要望書



2024年8月19日 

 市川市長 田中 甲 様


市川三番瀬を守る会 会長 谷藤利子
三番瀬を守る連絡会 代表世話人 中山敏則
三番瀬を守る会 会長 田久保晴孝
千葉の干潟を守る会 代表代行 吉川雄作
千葉県野鳥の会 会長 富谷健三
三番瀬を守る署名ネットワーク 代表 田久保晴孝
千葉県自然保護連合 代表 牛野くみ子



  塩浜2丁目地先の三番瀬海域における人工干潟整備計画
  について(要望)

 市川市におかれましては、日頃から環境保全にご尽力いただき感謝申し上げます。
 私たちは三番瀬の保全にとりくんでいる団体です。市が塩浜2丁目地先の三番瀬海域で進めている人工干潟整備計画を中止してくださるよう要望します。中止を求める理由は下記のとおりです。


  1. 干潟の維持と生き物の定着を両立させることは困難であり、維持管理費は莫大になると予想されます

       三番瀬はこれまで半分以上が埋め立てられました。市川市も埋め立てを推進してきました。しかしそれでも、三番瀬は大部分が漁場として利用されています。豊かな自然環境が残り、多種多様な生き物が生息しています。日本有数の渡り鳥の飛来地ともなっています。そのような三番瀬のなかで、市川市塩浜の2丁目と3丁目の前面に広がる海域(猫実川河口域)は重要な役割を果たしています。生物相が他の場所と異なるなど、特異な生態系を形成しているのです。

       千葉県は猫実川河口域で計画していた干潟的環境形成事業(人工干潟造成事業)を中止しました。中止の理由は次の二つです。@人工干潟の整備には多額の整備費や維持管理費を要する。A対象地の猫実川河口域には底生生物が多く生息しており、この区域は東京湾に残された貴重な干潟、浅海域である。

       この点について、諸橋省明副知事(当時)は2016(平成28)年2月の定例県議会でこう述べました。
        「県では、干潟的環境の形成の実現性や方法等について検討するため、干潟の構造や自然環境への影響及び整備費用等の観点から、昨年度、複数案の比較検討を行いました。その結果、干潟について、人が海と触れあえる親水性は一定の効果が認められるが、三番瀬全体の自然環境再生への効果は限定的であり、また、多額の整備費や管理費を要することなどが明らかになりました」

        「カキ礁を含む猫実川河口域には底生生物が多く生息しており、この区域は東京湾に残された貴重な干潟、浅海域である三番瀬の一部と考えているところでございます」

       県が複数案の比較検討を行った区域は、市川市が人工干潟造成を計画している場所と同じ塩浜2丁目の階段護岸前です。面積も、市川市の計画と同じ幅100メートル、奥行き50メートルです。県が2015(平成27)年に発表した「三番瀬干潟的環境形成検討業務委託報告書」は、複数案の比較検討結果について次のように記しています。

        「砂泥の流出が多いと想定されるA案、C案、C−1案については、多くの生物の定着が見込めるものであるが、継続的な砂泥の補充が必要であり、このために一定期間毎に生息している生物が死滅することになると考えられる。一方で、砂泥の流出がほとんどないB案は、生物の加入が阻害されることから、阻害要因の除去が必要となる。しかし、阻害要因の除去は、砂泥の流出を招くことになるので注意を要する」

       ようするに、干潟を維持することと生き物の定着を両立させることは困難ということです。こうした検討の結果、県は人工干潟造成計画を中止しました。市川市も中止されるよう要望します。


  2. いま残っている湿地を保護することのほうが大事です

       田中市長は市議会などにおいて、人工干潟造成の目的として「手を加えることによって自然を再生していく」を強調しています。

       しかし、自然の生態系は人智を超えた複雑な営みです。人間の思いどおりにはなりません。干潟は、多種多様な生き物が生息するとともに、海水の浄化に大きな役割を果たしています。そのような干潟を人工的につくるのは不可能です。実際に人工干潟の成功例はないとされています。

       私たちは環境省を訪れ、人工干潟に関する同省の見解を伺いました。自然環境局野生生物課はこう述べました。
        「人工干潟の成功例は把握していない」
        「貴重な湿地(干潟や浅瀬)をつぶして人工干潟をつくることの必要性は理解できない。人工干潟をつくることよりも、いま残っている湿地を保護することのほうが大事だと考えている」

       市川市も、多額の市税をつぎ込んで人工干潟を造るのではなく、いま残っている貴重な湿地(三番瀬)を保護することに力を注がれるようお願いします。


  3. 「市民が海に触れられる場」という点では、既にある江戸川放水路の干潟を活用してください

       人工干潟造成の目的として、市は「市民が海に触れられる場の創出」をあげています。しかし、市川市内にある江戸川放水路には立派な自然の干潟が存在します。

       江戸川放水路の河口域では、干潮時に広大な干潟が現れます。その広さは、市が計画している人工干潟の10倍以上です。しかも自然が生み出した天然の干潟です。

       江戸川放水路の河口域は、環境や生き物が海(三番瀬)とほとんど同じです。天気のいい休日は多くの市民や都民が訪れ、潮干狩りなどを楽しんでいます。

       今年6月19日放送のNHKテレビ「首都圏ナビ:てくてく散歩」は、江戸川放水路に広がる泥干潟をとりあげました。タイトルは「千葉県市川市 江戸川放水路 干潟の自然観察」です。希少種のトビハゼやヤマトオサガニ、チゴガニ、ウミニナなどの生態を映し出し、こう紹介しました。
        「環境省の準絶滅危惧種に指定されている貴重な魚がここには山ほどいます」
        「この干潟は生き物の宝庫となっていて、地域で親しまれている自然観察のスポットとなっています」

       このように、江戸川放水路には立派な干潟が広がっています。貴重な三番瀬の一部をつぶして人工干潟を造るのではなく、駐車場やトイレなどを整備し、江戸川放水路の干潟を市民が遊んだり生き物と触れあったりする場所として活用してくださるようお願いします。

       なお、江戸川放水路では数年に一度の大雨の際、水害を防ぐために放水しています。しかし、放水によって大量の淡水が干潟に流れ込んだとしても、やがて干潟の生態系は再生します。現に、江戸川放水路の干潟もいろいろな生き物が復活しています。それが自然の営みであり、自然の力です。


  4. 人身事故の危険性も危惧されます

       兵庫県明石市の大蔵海岸では、人工砂浜が突然陥没し、4歳の女児が生き埋めになって死亡しました。この人工砂浜には、砂の流出を防ぐため強固なケーソンが設置されています。それでも陥没しました。この人身事故では、人工砂浜の管理を担当していた国土交通省と明石市の職員4人が禁錮1年の有罪となりました。そのため、4人とも失職です。

       市川市塩浜2丁目の護岸前で人工干潟を造成したら、同じような陥没事故が危惧されます。人身事故が起きたら、たまたまそのときに管理を担当していた市職員が有罪になり失職です。そのような悲惨な事故を防ぐためにも、人工干潟造成計画は中止されるよう要望します。


  5. 専門家が加わる外部委員会を活用してください

       千葉県の人工干潟造成計画については、専門家などで構成する三番瀬専門家会議や三番瀬再生実現化試験計画等検討委員会、三番瀬評価委員会において何回も検討しました。市川市も、モニタリング調査の評価にあたっては、専門家が加わる外部委員会を活用してくださるよう要望します。


  6. 市長選の公約を守ってください

       2022年3月におこなわれた市川市長選挙の際、「市川三番瀬を守る会」は候補者に対する公開アンケートを実施しました。候補者の一人だった田中市長は、人工干潟造成についてこう回答しました
        「『三番瀬』の豊かな自然を体験している者として、人工干潟ではなく、自然環境を大切にした『三番瀬』の環境整備に努めたいと考えています」

       この回答は、誰が見ても人工干潟造成を否定するものです。この回答内容を見て田中市長に投票した市民もいます。
       選挙で公約したことを反古にせず、人工干潟造成計画を中止してくださるようお願いします。



      抽象的答弁に終始



       6項目について行徳支所が回答したあと、やりとりした。
       支所の姿勢は、何がなんでも人工干潟をつくるというものだった。人工干潟の成功例はない。環境省もこう述べている。「人工干潟の成功例は把握していない」「人工干潟をつくることよりも、いま残っている干潟や浅瀬を保護することのほうが大事だ」と。
       しかし支所は、「われわれは人工干潟をつくる自信がある」「三番瀬の自然環境・漁場環境を改善することや、市民の方の環境意識の醸成が目的である」「市長は人工干潟造成に政治生命をかけている」など、抽象的であいまいな答弁に終始した。
      「0.5haの人工干潟をつくれば本当に三番瀬の自然環境や漁場環境は今より良くなるのか」「失敗したらどうするのか」と聞いても、具体的なことはなにも話せない。

       終了後、参加者はこう批判した。
        「子供たちや市民の環境意識は高い。環境意識の醸成が必要なのは、自然の干潟や浅瀬をつぶして人工干潟をつくろうとしている市長や担当者たちだ」










      市川市長あての要望書を秋本賢一・行徳支所長(左)に手渡す
      市川三番瀬を守る会の谷藤利子会長=8月19日、行徳公民館




      要望書提出後、市川市行徳支所と交渉する三番瀬7団体のメンバー=同上




      市川市塩浜2丁目の階段護岸。市川市はこの護岸前で人工干潟の造成を計画している


      市川市が計画した人工干潟造成のイメージ

      市川市が2023年8月に発表した人工干潟造成計画の規模は幅100m×奥行き50m(0.5ha)。
      総事業費は3億5000万円〜7億5000万円。市は、三番瀬の一部をじゃかごで囲み、
      そこに航路の浚渫土砂を搬入することによって人工干潟をつくるとしている。




      江戸川放水路の河口域に広がる干潟。環境や生き物は三番瀬とほとんど同じだ。
      天気のいい休日は多くの市民や都民が訪れ、潮干狩りなどを楽しんでいる。



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