カキが支える多様な生態系
〜カキ礁の役割〜
三番瀬市民調査の会 倉谷うらら(高島 麗)
三番瀬の猫実川河口域には、約5000平方メートルのカキ礁があります。
かつては、死んだカキの殻(から)が積もってできた“カキガラ島”だと思われていました。しかし2004年の市民調査によって、この島は、一番下の層を除いた大部分が「生きたカキ」で構成されている“カキ礁”だということがわかりました。
残念ながら、日本では「カキ礁」という言葉があまり人々に知られておらず、研究もほとんどおこなわれていません。米国では、カキ礁(oyster-reef=オイスター・リーフ)が支える生態系の研究がとても進んでおり、カキ礁が生態系におよぼす重要な役割が明らかになっています。
そんなカキ礁の役割を紹介します。
約5000平方メートルの広さをもつ猫実川河口域のカキ礁
普通の干潟も泥の中で生き物がたくさん暮らしているのですが、カキ礁は干潟の上に広い居住空間があります。カキ礁の表面積は普通の干潟に比べると50倍もあるという試算があります。
一見コンパクトに見えて、実はただならぬ広さを持つのが「カキ礁」なのです。普通の干潟が平屋建てだとすると、カキ礁は高層マンションのようなものです。この凸凹の多い立体構造が多くの生き物に棲みかを提供します。
カニやエビなどは、カキの裏側にも棲み着くことができるので、おびただしい数の生き物が生息可能です。隠れたりくっついたりする硬い面の少ない河口域では、とってもアリガタイ棲みかとなります。
複雑に入り組んだカキ礁は、直射日光をさえぎるので、体のやわらかい生き物も「夏は涼しく・冬は暖かいカキ礁」に守られています。
このため、普通の干潟には少ないウミウシ、ホヤ、イソギンチャクのような、“乾燥に弱い生き物たち”にもカキ礁は快適な“すみか”を提供できるのです。
海水面まで達した大きなカキ礁は、波の力を分散させ、海岸の侵食も防ぐ効果もあります。
波の影響を抑えるので、泳ぐ力の弱い魚の稚魚が「流れのゆるやかなカキ礁の裏側」に集まることが知られています。また、カキ礁には、潮が引いても海水の残る“潮溜まり”もあり、嵐で波が高い時も、潮溜まりの中は比較的安定した環境を保ちます。
潮溜まりの中には、エビ、ハゼや大きなアナゴまで、さまざま生き物が暮らしています。
カキ礁のすぐれた特徴で忘れてならないのが「水の浄化」です。
カキは、河口域で有機物を濾しとって食べ、海水中の沈降物を取り除き、海水をろ過します。それによって、透明度が上がり、光合成が不可欠なアマモの生育に適した環境が整うという報告もあります。
無数のカキで構成された「カキ礁」の浄化能力は甚大で、植物プランクトンの異常発生による赤潮なども防ぐと考えられています。カキ礁のすき間には、付着性の二枚貝も多く生息し、ろ過しています。“カキ礁生態系”としての総合的な水質浄化能力は、たいへん興味深いものです。
カキ礁には漁礁の役割もあります。大きな魚が泳いで近づける満潮時には、魚の稚魚やエビが大型の魚から逃れるために、「緊急避難所」としてカキ礁に逃げ込むのです。
安全なカキ礁に産卵のために訪れる魚や貝類も多く存在します。猫実川河口のカキ礁の中には、アカニシとイボニシという巻貝が卵を産みに来ます。
カキは大量の“ギフン”というものを出します。
カキは、濾(こ)しとったプランクトンなどをすべて消化するわけではなく、食べる物の大きさをエラでより分けていて、海水から捕らえた物の多くを粘液とともに排出します。これはまだ「未消化」の状態であり、フンではないので、偽のフン=“偽糞”(ぎふん)と呼ばれます。
栄養たっぷりのカキの“ギフン”は、カニ、ヤドカリ、イソギンチャク、アミの群れなどの貴重な栄養源となって、多くの生き物の命を支えています。アミは、ヒラメなどの高級魚のエサとなり、ヒラメの稚魚の成長にはアミは不可欠なのだそうです。
まさに、カキが多様な生物を支える「カキ礁生態系」です。
“カキ”が支える、素晴らしく多様な“生態系”。
地味で目立たない「猫実川河口に広がるカキの島」は、
“何の役にも立たない場所”どころか、
豊かな生態系を支える
“かなめの石一Key stone”だったのです。
(2005年6月)
★関連ページ
- 三番瀬・猫実川河口域に広がるカキ礁(倉谷うらら)
- 三番瀬のカキ礁は全国最大級の規模〜市民調査(2005/4/10)
- 三番瀬・猫実川河口域は“豊かな海”〜市民調査報告会(2004/11/28)
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