三番瀬・猫実川河口域に広がるカキ礁

三番瀬市民調査の会 倉谷うらら(高島 麗)



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1.はじめに

 猫実川河口域は、三番瀬再生計画検討会議(円卓会議)では、「ヘドロの海」として積極的な再生が必要とされている海域である。
 三番瀬市民調査の会は、「ヘドロの海」との評価に疑問をもち、2002年より三番瀬猫実川河口域の調査を開始した。調査は、河口域の底質調査(強熱減量、酸化還元電位の測定)、コアサンプラーによるアナジャコ類の採取・巣穴観測、泥中のマクロベントスのコドラート調査など、多岐にわたった。
 調査の数を重ねるごとに、猫実川河口には、一般的な干潟とは異なる生物群集が存在することが明らかになり、その多くが市川塩浜護岸より沖合500メートルほどの海域に広がるマガキ(Crassostea gigas)の群集(カキ礁)周辺に出現することから、カキ礁の調査を2004年6月より開始した。


2.実験方法

(1)カキ礁面積の推算
 市川市と浦安市の境界にあたる猫実川河口干潟に点在するカキ礁の幅と長さを計測し、推算した。また、1m2のコドラートを設定し、生息しているマガキの個体数をカウントした。

(2)カキ礁生物相調査
 ランダムサンプリングにより、出現した生物を同定、カキ礁内における出現位置を記録、試料採取を行った。


3.実験結果

(1)カキ礁面積の推算
 カキ礁のうち最大のものは、最大幅約48m、最大長約120m、周辺に点在する礁も換算すると約5000平方メートルのカキ礁が広がっていると推算される。高密度な部分には、マガキ約1000個体/m2の生息数が確認された。

(2)カキ礁生物相調査
 カキ礁内とその周辺で確認した生物は、97種。現在確認した種の中には、千葉県レッドデータ記載の希少種が5種類含まれる。それらは、
  • ウネナシトマヤガイ【ランクB】
  • ヤマトオサガニ【ランクD】
  • マメコブシガニ【ランクD】
  • エドガワミズゴマツボ【ランクD】
  • カワグチツボ【ランクD】
 の5種である。
 非常に危機的といえる保護ランクBに指定されているウネナシトマヤカイ(二枚貝)がカキ礁の隙間(すきま)1m2に300個体を超す高密度で生息していることは特筆に価する。


4.考察

 カキ礁は柔らかい泥干潟の上に立体構造を形成し、通常ならば泥の中にしかない生息域を干潟の上にまで広げている。カキ礁には、隙間が多い。この隙間の多い立体構造が、多くの種に生息域を提供し、凄む生物の多様性に貢献する。猫実川河口には、一般的な干潟には比較的少ない乾燥に弱い種類が多数生息している。
 また、多くの生物が産卵湯として利用していることが確認された。干潟面の泥中に巣穴を掘ることができないケフサイソガニもカキの隙間に高密度に生息する。
 カキ類(Crassostrea)は集合着生をすることによって“礁”をつくる。カキ礁が独特の生態系を形成し、そこに依存する多数の生物を支えていることは明らかである。米国では、カキの高い水質浄化能力の観点からも、カキ礁研究が盛んに行われており、カキ礁が生態系に及ぼす役割(稚魚が避難所として利用する漁礁としての役割、波消し効果等)総合的な生態系機能が認められている。


5.結論

 現在の環境アセスメントは水産有用種に偏りがちな傾向がある。見逃されやすい、プランクトンや小型の無脊椎動物は、食物連鎖の始まりとなり、海の生態系全体を支える上で重要な役割を担っている。
 多様性が極めて高いカキ礁生態系の生物相把握は、船の上からの観察だけでは不十分と言える。複雑に入り組んだ構造を待ったカキ礁での生物相把握には、干潮時における地道な基礎調査が不可欠である。
 今後の調査で魚類の稚魚やカキ礁内の甲穀類の詳細な調査を行えば、生息種はさらに増えると予想される。それには、市民と学識経験者との連帯を築いた上で、市民が継続的な調査を行い、それによって得られた試料とデータを専門家が同定・分析し、生物相の詳細なデータベースの作成・蓄積が進めば望ましい。
 貴重な海の生態系を次世代に残すうえでも、再生の対象となる海域か否かをしっかりと見極めるうえでも、今後、市民と専門家の連帯による細やかなデータ集積が必要なのではないだろうか。

(2005年6月) 












約5000平方メートルの広さをもつカキ礁








このカキ礁は大潮の干潮時に現れる








カキ礁の大部分は生きたカキである








ウネナシトマヤガイ。千葉県のレッドデータブックに掲載されているが、ここのカキ礁にはゴロゴロいる。








カキの浄化能力はものすごい。カキと海水を入れた瓶に砥の粉(とのこ)を入れて海水を汚し、30分経過すると、海水がすっかり透明になる。(写真の左はカキが入っていない海水、右はカキを入れた海水)








猫実川河口域の生き物写真集






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