第二東京湾岸道路と三番瀬

〜ルポライターの高杉晋吾さんが講演〜




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 三番瀬保全にとりくんでいる8団体(三番瀬を守る会、千葉の干潟を守る会、三番瀬を守る署名ネットワーク、市川緑の市民フォーラム、市川三番瀬を守る会、千葉県野鳥の会、千葉県自然保護連合、自然と文化研究会)は12月11日、「第二湾岸道路と三番瀬」というテーマで講演会をひらきました。
 以下は高杉晋吾さん(ルポライター)の講演要旨です。




講演要旨



第二東京湾岸道路と三番瀬



ルポライター 高杉晋吾




●奇妙なレトリック(詭弁術)が横行
  〜「環境を破壊しないように環境を破壊する」〜

 最近の状況をみると、ずいぶんひどいという感じを受けている。何がひどいかといえば、千葉県に妙なレトリック(というか詭弁術)が横行していることである。
 簡単にいうと、「私は環境を破壊しない」と言う人が、同じときに「私は環境を破壊する」と言っている。これをどういう形でとりまとめるのかというと、「環境を破壊しないように環境を破壊する」と言う。このような奇妙なレトリックがはびこっている。

 堂本知事は、「三番瀬の埋め立ては白紙撤回する」と言った。つまり、“環境は破壊しない”ということである。ところが、「第二湾岸道路は推進する」と言っている。第二湾岸道路は三番瀬を横切る計画になっているので、どう考えても三番瀬を破壊しない第二湾岸道路はありえないのに、そういうことを平気で言うのである。


●三番瀬円卓会議の報告書
  〜ありえないことを知事に要望〜

 これは、三番瀬の関係各市(浦安、市川、船橋、習志野)の市長も同じだ。「三番瀬のラムサール条約登録は推進するが、第二湾岸道路も推進する」と言っている。
 また、三番瀬円卓会議(三番瀬再生計画検討会議)がまとめた報告書「三番瀬再生計画案」も同じ論理にたっている。報告書にはこう書かれている。
 「第二東京湾岸道路計画については、三番瀬再生計画に影響のない形とする必要があり、三番瀬の再生・保全の理念に反する形で第二東京湾岸道路の計画を行わないよう要望します」と書かれている。
 どうしてそんな論理がなりたつのか。第二湾岸道路が三番瀬の再生計画に影響がないということは絶対にありえないのに、そんなことを県に要望している。


●堂本知事は、生物多様性保全の大切さを訴えていた

 堂本知事は『生物多様性』(岩波書店)という本を書いている。知事は、こんなことを述べている。「人間の利便性で、自然と生き物と人間の多様な共存性を破壊してはならない」と。これを何度も強調している。これを読めば、堂本さんが大好きになるのではないか。私もそうである。
 堂本知事は、すばらしい国際政治家や環境活動家に会って生物多様性を保全することの大切さを学び、国際環境政治家として育ってきたのだと思う。かつての堂本さんはそういう人だった。
 そのような堂本さんに多くの人が期待している。いまだに堂本知事を信じ、再選出馬を支持する勝手連もたくさんできている。


●第二湾岸道路推進を言い出した堂本知事

 ところが、堂本さんは、千葉県知事になって第二湾岸道路の推進を言い出した。これは、まったく別の堂本さんがあらわれたのだと思わざるをえない。
 これは、「人間の利便性のほうが大事だから、三番瀬のもつ生物多様性や、人間と自然の共存性を破壊するのはやむをえない」と言っているのと同じだ。そんなことを言っている政治家はいくらでもいる。まったくグロテスクで顔のない政治家がいっぱいいるが、堂本知事もそんな政治家になってしまった。
 正直いって、私はこれを信じたくない。ところが、そういうものの考え方をする人がどんどん広がっている。また、「環境派のあの人がこういうことを言いはじめた」ということで、それに群がる人も増えている。だから、困るのだ。


●“環境破壊なしの第二湾岸道路建設”は支離滅裂

 先に述べたように、三番瀬円卓会議の報告書には、「三番瀬の再生・保全の理念に反する形で第二東京湾岸道路の計画を行わないよう要望します」と書かれている。これは、環境破壊なしに第二湾岸道路をつくるという前提がなければありえない話だ。
 円卓会議はこれを知事に要望した。しかし、知事や国などは、「三番瀬の環境を破壊しない形で第二東京湾岸道路を推進する」と答えるだろう。そんな答えがかえってきたら、「ああ、よかった」 となるのだろうか。
 そんな論理がなりたたないことは赤ん坊でもわかることだ。しかし、そういう支離滅裂な論理が平気で広がっている。これが日本の現状でもある。


●「ラムサール条約は推進するが、第二湾岸道路も推進する」

 三番瀬沿岸の各市の市長も「ラムサール条約は推進するが、第二湾岸道路も推進する」と言っている。両方なりたたないことを平然と言ってのけるのである。
 たとえば、船橋市の市長はラムサール条約の推進を選挙公約に掲げていた。その選挙対策委員長は、船橋漁協の組合長をしていた滝口嘉一氏(故人)である。その滝口氏は、漁協の全組合員にたいして、ラムサール条約登録に賛成か反対かの意思表示を求めた。ラムサール条約に登録されると漁業はたいへんになるという組合長の見解文書を付けてである。これはまったくの踏み絵である。これに対し、船橋市長はだまっていた。そして、市長は、第二湾岸道路の推進を言うのである。


●第二湾岸道路建設がどんどん進行

 第二湾岸道路は、陸上部分はほぼ完成しているといってもよい。国や県・市は、「第二湾岸道路の計画はまだできていない」と言っている。しかし現地をみると、第二湾岸道路がすでにでていることが誰でもわかる。
 たとえば、東京側の城南島(大田区)である。ここには、第二湾岸道路のパンフレットなどに描かれているイメージ図どおりの立派な道路がつくられており、車が走っている。この道路を第二湾岸道路と呼んでいる人も多い。行政は「これはただのイメージ図でしかない」と言っているが、それがどんどん現実の姿に変わっている。
 また、浦安市でも、8車線の道路用地が確保されている。いまは「都市計画道路」とされているが、その一部は車が走っている。
 それから、船橋市から千葉市幕張にかけて埋め立て地にも、8車線の道路用地が確保されている。


●「二湾隠し」に終始する行政

 このようにどんどん進行しているが、私たちの目にはそれが見えない。それはなぜかというと、「二湾隠し」がおこなわれているからだ。
 行政は、それぞれの市の道路用地について「都市計画道路」と言っている。しかし、それぞれの市の道路は、8車線の同じ規格であり、一本でつながっている。ただの都市計画道路だったら、そんなふうにはならないはずだ。
 じっさいにそれらの道路をよく調べると第二湾岸道路という証拠がたくさんでてくる。
 たとえば浦安市の資料をみると、「第二湾岸道路沿岸ゾーン」という名称が使われている。都市計画のなかに第二湾岸道路がきちんと位置づけられているのである。
 市域の半分以上が埋め立て地である浦安市では、埋め立て段階から第二湾岸道路が位置づけれていた。埋め立ての最初から、道路用地が確保されていたのである。これは、船橋市も習志野市も千葉市もおなじである。


●埋め立て計画と第二湾岸道路計画は最初から一体

 埋め立ての歴史をみると、千葉県では、1958(昭和30)年代に京葉臨海工業地帯造成計画(埋め立て計画)がつくられ、そのなかに第二湾岸道路計画が盛り込まれていた。これは、首都圏の道路網計画と整合性をもたせてあった。
 この造成計画によって、埋め立て地には工場や倉庫などがどんどんつくられた。第二湾岸道路は、そういう事業所の輸送網の重要なひとつとして位置づけられていたのである。
 だから、「道路が渋滞しているから第二湾岸道路は必要」と言うのは、まったくバカげた理屈である。道路が渋滞するずっと前から、この道路は計画されていたからである。埋め立て計画と第二湾岸道路などの道路網計画は最初から一体のものだった。


●三番瀬海域に巨大ジャンクションが計画されている

 第二湾岸道路の最大のハイライトは、三番瀬海域に計画されている巨大なジャンクションである。これは、第二湾岸道路と東京外郭環状道路(外環道)を接続するものである。そのイメージ図もつくられているが、これをみればわかるように、このジャンクションはとてつもなく巨大なものである。
 1999年12月、「市川2期地区・京葉港2期地区計画(通称・三番瀬埋め立て計画)策定懇談会」の第4回会合が開かれた。そこに、このジャンクションの計画資料が県側から提出された。
 会合の議事録が千葉県庁のホームページに載っているので、あとでご覧いただきたい。
 この会合では、ジャンクションについてこんなやりとりがされている。

◇大西隆委員(東京大学先端科学技術研究センター教授)
 「(第二湾岸道路と)東京外郭環状道路とのジャンクションは絶対に必要なものなのか。また、設計速度を落とすことはできないのか」

◇事務局(千葉県企業庁)
 「ジャンクションは、首都圏の3環状9放射線のネットワークにより、交通を分散させるためにも必要であり、ジャンクションがない場合は、ボトルネック(隘路)となっている現湾岸道路の拡幅改築が必要となる。また、環境上の問題も生じる。設計速度を仮に時速80キロに落とした場合、縦断勾配がきつくなる。大型車輌の登坂能力などの問題もあり、県は時速100キロが望ましいと考えている」


●ジャンクションの面積は21万m2以上

 時速が速ければ速いほどジャンクションの規模は大きくなる。時速100キロで走れるジャンクションというのはとてつもない規模である。
 たとえば、群馬県藤岡市に、関越道と上信越道が交差する藤岡ジャンクション(藤岡JCT)がある。このジャンクションは、三番瀬につくられる予定のジャンクションと同じT型であるが、その面積は14万3000平方メートルである。藤岡JCTは4車線の道路が交差しているが、三番瀬の場合は8車線(第二湾岸道路)と4車線(外環道)が交差する。だから、大ざっぱに計算すると、最低でも21万4000平方メートルという巨大なジャンクションになる。


●第二湾岸道の具体的イメージを知事につきつけてほしい

 みなさんにお願いしたいのは、専門家の協力を得ながら、こういう計画をもっと具体的に把握してもらいたいということだ。そして、第二湾岸道路がつくられれば三番瀬はどうなるかというイメージ図をつくってほしい。
 そして、「埋め立てはしないが、第二湾岸道路はつくる」と言っている堂本知事にたいして、それをつきつけてほしい。「第二湾岸道路をつくると三番瀬はこんなふうになる」「それを、知事はどう考えるのか」「それでも第二湾岸道路をつくるのか」とせまってほしい。


●希望的観測は禁物
  〜覚悟してかかることが必要〜

 最後に、第二湾岸道路は簡単には中止にならないということを言いたい。それは、たとえば東京都も政策の目玉として第二湾岸道路の推進に力を入れているからだ。
 それにしても、千葉県を見れば、さまざまな勢力がよってたかって堂本知事にいろいろなことをせまっている。だから、簡単に話が終わるはずはない。それで話が終わるものであればけっこうだが、そんな希望的観測のもとに話を進めるべきではないということだ。
 一方においては、第二湾岸道路ができれば具体的にこんなふうになるという相当きびしい話をしながら、「それでも第二湾岸道路を進めるのか」と追及すべきである。
 私たちもそうとう覚悟してかかる必要がある。

(文責・千葉県自然保護連合事務局)







第二湾岸道の予定ルート













千葉市美浜区の幕張メッセ(写真右の建物)と千葉マリンスタジアム(左の建物)の間に確保された第二湾岸道用地。ここはすでに「通称・第二湾岸道」とよばれている。4車線の道路のほかに、4車線の拡幅用地(写真左。マリンスタジアム側)が確保されている。








幕張新都心から習志野側の方向に撮った第二湾岸道用地。左側は4車線の拡幅用地。








第二湾岸道の4車線拡幅用地








浦安市の埋め立て地にも50メートル以上の幅をもつ第二湾岸道の用地が確保されている。








浦安市の第二湾岸道用地は猫実川河口域の護岸につきあたる。








猫実川河口域の護岸からみた第二湾岸道用地。








第二湾岸道用地がつきあたる護岸からみた猫実川河口域。第二湾岸道が建設されればここを通ることになる。









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