〜第13回三番瀬円卓会議の議論〜
石井伸二
(2003年)5月29日に開かれた第13回三番瀬円卓会議で大西委員が、市川ワーキンググループによる「3点セットの合意事項」について的確な指摘した。
「3点セットの合意事項」というのは市川塩浜地区の護岸にかんするもので、内容は次のとおりである。
- 海岸保全区域を現在の水際線(海岸線)の位置に移し、幅をもった形で設定する。
- 護岸の高さは海に親しめるような高さ(6mくらいか)とすることを要望する。
- 自然再生の実験の場とする。
◇大西委員
「市川ワーキンググループの合意事項のうち、3点セットは理解しにくい。現在の海岸保全区域は工業専用地域の背後にある。これは、千葉県の共通のやり方となっている。工業地域は住宅地域ではないのでそうなっているのだが、これは不自然なことではない。それをなぜ、市川では『再生』ということで海岸保全区域を前面に移そうとするのか、理解しにくい。それはどうしてかと考えると、土地利用を大幅に変更する考えが背後にあるからではないと思われる。そうであれば、それ(土地利用)を表にだして議論すべである。そうでないと、将来なにがおこるかわからない状態になるというように、場合によっては三番瀬の再生につながらない土地利用になる可能性がある。したがって、海岸保全区域をなぜ前に移す必要があるのか、とか、それがどういうことを前提にして提案されたのかということを示してほしい」
●なぜ、海岸保全区域を移そうとするのか
まさに二人が指摘するとおりである。倉阪秀史委員などが躍起になって海岸保全区域を海岸線に移そうとするのは、工業専用地域を用途変更して住宅やマンションなどが建てられるようにしたいという強い意図があるからである。
倉阪委員は、“まちづくり”によって公共用地を海岸側に捻出し、そこに公共用地(緑地など)を確保したい、と述べている。これは、明らかに区画整理事業や再開発事業を念頭においている。倉阪委員などが言っている“まちづくり”というのは、住宅やマンションなどを建てるための開発事業を指しているわけである。
しかし、それを前面にだすと、「金儲けのことしか考えていないのではないか」とか「三番瀬の再生とはまったく関係ないではないか」などと批判される。だから、まず、海岸保全区域の移動を円卓会議で決めてもらおうというのである。
●市川塩浜地区は、住工混在を避けるために工業専用地域になっている
そのへんの事情を説明するとこうである。
市川塩浜地区は、大部分が工業専用地域となっている。したがって、建築基準法により、住宅、学校、病院、ホテルなどは建てられない。この地区は、人が住むことは考えられていないのである。だから、この地区では、海岸保全区域は工業地域の後背地(海岸線から約1キロ)に設定されている。
この地区の埋め立ては、もともと、市川市における過密化の排除や環境悪化の防止、つまり住工混在の解消を目的におこなわれた。したがって、立地しているのは内陸部から移転してきた企業が多いといわれている。
たとえば、千葉県企業庁が発行した『千葉県企業庁のあゆみ』(1987年刊)は、市川地区(196ha)の埋め立て事業について、こう記している。
「この地区の造成計画は、(中略)市川市における過密化の排除および環境悪化の防止など都市問題解決のための要請に基づく地域開発用地の造成を目途として、昭和42年度に計画したものである」また、塩浜地区(8.5ha)についてはこう記している。
「この地区は、日本鉄道建設公団から国鉄京葉線用地の確保および地元市川市から住工混在解消のための工場移転用地の確保の要請を受け、約8.5ヘクタールの土地造成を行うこととして、昭和57年6月に工事着手し、昭和59年度に造成を終了した」こうした経過から、この地区は、住工混在を避けるために工業専用地域に設定されている。立地企業の産業活動を守るために、住宅などは建てられないことになっているのである。つまり、工業専用地域の指定は立地企業を守る役割を果たしているともいえる。
それなのに、一部の企業(地権者)は、「まちづくり委員会」を立ち上げ、工業専用地域から商業地域などへの用途変更を盛んに要望している。
そのねらいは、用途変更して高層マンションなどを建てられるようにしたいということである。そうすれば、地価があがって、所有地の売却や賃貸で多額のカネを手にすることができるというわけである。これは推測ではなくて、関係者自身がはっきり述べていることでもある。
●工業専用地域が用途変更されると工業活動は困難になる
しかし、そうなると困るのは、工業活動を今のまま続けたいと考えている企業である。ある企業の方はこんなことを述べている。
「移転前は内陸部に立地していた。まわりに住宅がどんどん建ち、ずいぶんと苦情を言われ、“公害企業”としての扱いも受けた。塩浜地区は工業専用地域だから、そんな苦情を言われることもなく安心して仕事ができている。それなのに用途が変更されて周りに住宅などが建つと、再び企業活動ができにくくなる。だから、用途変更には反対だ」この点については、『朝日新聞』(2003年12月23日)も、次のように書いている。
「構想を実現するには工業専用地域から商業目的などに利用できるような土地利用転換が必要だが、企業間に温度差があり簡単にはいかない」
●用途変更は簡単には許されない
こんな経過がある地区なので、都市計画(街づくり)にかかわる行政担当は、用途変更に否定的である。
たとえば、県都市部のある関係職員はこう話してくれた。
「原則としては、用途変更は認められない。たとえば川崎製鉄千葉工場跡地(千葉市)のようにかなり広い区画で再開発事業や区画整理事業などが実施されれば別だが。それだってあくまで例外的措置である」市川市の担当者も、次のように述べている。
「企業の求めるがままに用途を変更し、無秩序な土地売買が進んでマンションが立ち並ぶ状態になったら、地域全体の評価が下がる。明確な将来像がないと用途変更はできない」(『朝日新聞』2001年10月9日)こうしたことから、用途変更を強く希望している人たちは、円卓会議でなんとしてでも海岸保全区域の移動を決めてもらいたいと考えているようだ。
しかし、これは順序が逆である。大西委員は、「海岸保全区域をなぜ前に移す必要があるのか、とか、それがどういうことを前提にして提案されたのかということを示してほしい」と注文しているが、まったくそのとおりである。
ちなみに、5月22日に開かれた第12回三番瀬「護岸・陸域小委員会」では、三橋福雄委員(NPO法人不動産コンサルティング協会理事長)が次のように疑問を呈した。
「後背地の土地利用をどうするかわからないのに、前面護岸の形を決めるのはおかしい。市川ワーキンググループの議論内容をみると、市川市塩浜協議会まちづくり委員会(地権者)から、工業専用地域を用途変更して高さ100メートルの建物を建てるなどのイメージが出されている。高さ100メートルの建物といえば、住居(マンション)しか考えられない。結局、海岸保全区域を前面に移すというのは、そうしないと住居系の地域に用途変更できないからではないのか。そういうことを3点セットなどとしてまとめるのは、円卓会議にふさわしくないと思う」倉阪秀史委員などはこうした疑問にきちんと答えるべきと思うが、どうであろうか。
(2003年6月)
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