三番瀬漁業補償問題に寄せて

〜千葉県政の病根を露呈〜

公共事業と環境を考える会

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 三番瀬事前漁業補償問題は、地方自治や民主主義にとって重大な問題をはらんでいると考えています。また、千葉県政の病根を端的に示すものだと思っています。
 私たちは、次のような問題があると考えています。
  1. 責任追及も反省もないまま、多額の公金を支出し、県民にツケを回そうとするもの。
  2. 算定根拠がまったくあいまい。
  3. 非公開の民事調停によって莫大な公金支出を決定づけるものであり、議会を軽視するもの。
  4. すでに自民党の了承が得られているから議会でもすんなり認められるということだが、これは“自民党の了承さえ得ればなんでもOK”という千葉県政の悪弊をくりかえすものである。
  5. 堂本知事の3選対策と密接にからんでいる。
  6. 三番瀬の恒久保全を宣言するのならばまだしも、「三番瀬再生事業」(=三番瀬つぶし)は今後も推進するというのだから、今回の「解決」策はまったく不当なものである。

◇           ◇

 以下は、概要とあわせて問題点をよりくわしく書いたものです。






三番瀬事前補償問題の概要と問題点



■概要

 三番瀬事前補償問題というのは、三番瀬の埋め立て計画(市川二期地区)を前提として、1982年に市川市行徳漁協に融資(43億円)された、いわゆる「転業準備資金」(ヤミ補償)が解決されないまま宙に浮いているものです。

 県(企業庁)はこの問題を解決するため、東京地裁の民事調停にかけました。そして8月5日、県は同地裁の調停委員会の提案にしたがって、60億円を行徳漁協に支払う意向を明らかにしました。

 このままだと、「ヤミ補償」の後始末で計116億円もの莫大な公金(県費)が支出されることになります。

 《行徳漁協に対する116億円支出の内訳》

  ◇支出済みの利息…………………… 56億円
   (82年7月〜98年10月分の利息)

  ◇今後の支出………………………… 60億円
   ・転業準備資金融資(元金)…… 43億円
   ・未払い利息………………………  2億円
    (98年11月以降発生の利息)
   ・漁協への追加賠償分…………… 15億円

 この116億円は、本来は1円も支払うべきでないものです。というのは、埋め立ては行わなかったからです。

 県(企業庁)は1982年(昭和57)、具体的な埋め立て計画がまったく存在しなかったにもかかわらず、市川市行徳漁協、金融機関の間で「三者合意」をかわし、同漁協の組合員に対し43億円もの「転業準備資金」を融資しました。その利息(年5%)は県が支払うというものでした。

 この融資は違法な事前漁業補償であり、「ヤミ補償」です。

 県が埋め立て計画(市川2期計画)を発表したのは、その11年後の1993年です。しかし、埋め立て計画は、反対運動により2001年9月に白紙撤回されました。そのため、「転業準備資金」は解決されないまま宙に浮いています。

 しかし、融資を受けた組合員は、多くが転業してしまいました。いまさら返せといわれても、返しようがありません。そもそも43億円の配分内訳も明らかにされていません。

 一方、利息は膨らむばかりです。かなり高い利息(5%)で「合意」されていますから、1882年から現在までの利息は58億円にのぼります。元金(43億円)を大幅に上回る金額です。
 そのうち56億円は、すでに1999年度と2000年度の2回に分けて支出されました。

 この56億円の支出については、三番瀬保護団体のメンバーなど(三番瀬公金違法支出訴訟原告団)が、違法として提訴しました。
 千葉地裁は2005年10月、「三者合意」について「瑕疵(かし)があり、違法性を帯びるといわなければならない」と指摘しましたが、利子の肩代わりは「企業庁長の裁量内」として訴えを退けました。


■問題点

 この件について、私たちは次のような問題があるととらえています。

  1. 責任追及も反省もないまま、多額の公金を支出し、県民にツケを回そうとするものです

       この点については、共産党県議団の声明文が端的に突いています。

        《この問題の要因が、県と企業庁が法制度に反して行った漁協への「事前補償」にあるにもかかわらず、その原因究明や責任の追及はまったく行われていない。これでは「誤りの原因も明らかにしないまま、金で決着させるようなやり方は納得できない」との県民の批判は避けられない。》

        《日本共産党はこの予算審議の過程で、「今回の転業準備資金の問題は、企業庁がやってはならない事前補償をしてしまったことに原因がある。従って問題の正しい解決のためには、原因と責任を明らかにして、同じ問題が二度と起こらないようきちんと総括することが不可欠であり、それを抜きにした利息払いは到底認められない」と強く批判した。

         利息の支払いは不当だとして市民が起こした訴訟でも、「三者合意には瑕疵がある」との判決が確定しており(2005年10月25日・千葉地裁)、ここに今回の問題の最大の原因があることは、いっそう明らかとなっている。
         こうした経緯にもかかわらず、またしても県が真剣な総括を怠り、新たな巨額の支払いを重ねることは、決して県民の納得を得られるものではない。なぜ、埋め立て計画が決定されることが前提になったのか、だれが事前補償を決めたのか、三者合意に加わった金融機関や漁協には責任はないのか、などの調査と解明をさけたままでいることは、許されない。》

       まったくそのとおりだと思います。
       県は、企業庁のずさんなやり方や責任を棚上げし、多額の公金支出で解決しようとしています。要するに、県民へのツケ回しで問題解決を図るという旧態依然の手法です。


  2. 算定根拠がまったくあいまいです

       県が8月5日に公表した「調停委員会の所見要旨」では、こんなことが書かれています。

        《本問題の解決のためには、漁協の約30年の長期間にわたる労苦と様々な負担等を考慮して、総額60億円を賠償金とすることが相当であると判断し、調停委員会の一致した意見として提案する。》

       これはすごくあいまいです。「長期間にわたる労苦と様々な負担等の考慮」という非常に抽象的なことを根拠とするのなら、たとえば県の公共事業で苦しんでいる県民がたくさんいますので、そういう人にも多額の賠償金を払うのか、となります。


  3. 議会を軽視するものです

       事前補償問題をどう解決するかは、議会にはかり、そこで審議すべきです。
       しかし県は、そうせずに民事調停で解決する道を選びました。
       裁判ではなく民事調停ですから、やりとりの内容は完全に非公開です。調停委員のメンバーも明らかにされていません。しかも、千葉地裁ではなく、県外の東京地裁です。

       県はこれまで、調停の場でどんなやりとりがされているのか、とか、県の考えなどをいっさい議会に報告しませんでした。市民団体が県企業庁長にただしても、ノーコメントを貫きました。

       県は、今月(8月)26日に調停が成立したあと、9月県議会(9月18日開催)の県議会に提案し、議会で承認されれば今年11月末までに60億円を行徳漁協に支払うとしています。

       要するに、調停で成立したことだから、議会はそれを承認してほしいということです。これは、議会に事後承諾を求めるものであり、議会審議を無視するものです。
       こんなやり方が許されるのなら、当局にとって都合の悪い問題は民事調停にかければよいとなります。


  4. 自民党の了承さえ得ればなんでもOK

       県が、「調停結果を9月県議会に提案し、11月末までに60億円を支払って解決」という“短期決着”を発表したのは、すでに自民党の了承を得ているからです。

       県議会の圧倒的多数を占める自民党の了承を得ておけば、ほかの政党がどんなに反対しようが提案どおりに採択されるという自信を県はもっています。

       残念ながら、千葉県議会はそのとおりになっています。
       しかし、そんなことでいいのでしょうか。

       そもそも、堂本県政の与党は民主、公明、市民ネット、社民の4党であり、自民党は野党のはずです。マスコミもそのように報じてきました。しかし実際は、自民党が「実質与党」となっているのではないでしょうか。漁業補償問題をめぐる9月県議会のやりとりは、このこともはっきり示してくれると思います。


  5. 堂本知事の3選対策

       三番瀬事前漁業補償問題を11月末までに「解決」するという県の方針は、堂本知事の3選対策の一環であるとにらんでいます。

       堂本知事は、来年春の知事選で3選出馬の意向を固めています。そして、自民党に対し、対立候補を擁立しないで欲しいということを暗に要請していると聞きます。

       今回の「解決策」はそういう選挙対策のひとつではないでしょうか。転業準備資金の元金(43億円)と未払い利息(2億円)のほか、15億円を上乗せして行徳漁協に支払うという、“出血サービス”ともいうべき解決策は、自民党などの意向に配慮したものではないでしょうか。この点も、いずれ明らかになると思います。

       しかしこれは、「三者合意には瑕疵がある」とした千葉地裁判決を無視するものです。また、「千葉県のこれまでのあやまった姿勢を正していきたい」との思いで住民訴訟を起こした県民らの思いをふみにじるものです。


  6. “三番瀬つぶし”を続行し、恒久保全の願いに背を向ける

       三番瀬公金違法支出訴訟のもう一つの提訴理由は三番瀬の恒久保全でした。

        「自然を食いつぶして借金だけを子孫に残すことにならないように。そんなことが、裁判に踏み切った二つめの理由です」(牛野くみ子・訴訟原告団長)

       しかし、県は、事前補償問題を「解決」したあとも、三番瀬の「再生事業」を進めるとしています。

        「再生」の意味は、「死にかかったものが生きかえること」(広辞苑)です。その名のとおり、県は三番瀬を“死滅しつつある海”としてとらえ、猫実川河口域(三番瀬の市川側海域)に土砂を入れて人工干潟(人工砂浜)をつくろうとしています。

       これは埋め立てと同じです。三番瀬で最も生き物が多い猫実川河口域をつぶして疑似自然をつくれば、高い生産力と水質浄化力を誇っている三番瀬は大打撃を受けます。

       そうした「再生事業」(=埋め立て)を中止し、三番瀬の恒久保全を宣言するのならばまだしも、そうでないのですから、今回の60億円支出による「解決」はまったく不当なものです。

◇           ◇

 以上です。

 調停が成立する8月28日には、「三番瀬公金違法支出判決を活かす会」(三番瀬公金違法支出訴訟の原告団・弁護団・支援する会が結成)が堂本知事と企業庁長に申入書を提出する予定です。
 今後の動きに注目です。

(2008年8月)








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