葛西臨海公園の人工渚は造成費90億円

〜投入された砂は60万〜70万m3〜

千葉県自然保護連合事務局


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 国土交通省広報誌『国土交通』の最新号(2007年6月号)は、葛西臨海公園の人工渚(人工干潟)をとりあげています。6枚のカラー写真を掲載し、こう記しています。


●人工渚をつくるのに90億円かかった

    《海の幸の豊富さと裏腹に、埋め立ての連続だった東京港。砂浜や干潟などが次々に消える中で、ここも例外ではなかった。》

    《「昭和30年代に埋め立てが始まる一方で、生活排水や工業排水で東京湾が汚れ、大量の地下水くみ揚げによる地盤の沈下が問題になった」と松本さんは時代背景を語る。歴史的な好景気。経済効果最優先の社会情勢では、自然環境は二の次にされた。
     が、そうした流れの一方、40年代半ば、自然を守れという運動が盛り上がる。行政も環境の大切さを見直した。47年、都が発行した「東京港史」は言う。
    「大規模な海面埋め立て(中略)臨海工場の進出と港の拡張(中略)。失われたものをとりもどすのはきわめて困難な仕事であるが(中略)都民の生活を人間らしく快適にまた豊かに保つために最善をつくす必要がある」
     こうして、なぎさの造成が決まった。砂は周辺の海から吸い上げ、茨城の鹿島からも運んだ。50年代初めに1回、58、62年ごろには、周りで水路を掘った時の砂を入れた。
     合わせて3.1キロの砂浜を作るのに投入された砂は60〜70万立方メートル。東京ドームを升にして半分ほどの量に当たる。》

    《生き物がいる砂浜では、子供たちの歓声が絶えない。なぎさを作るのに90億円かかった。「自然をなくした償い。作らざるをえなかった」と松本さん。それが「安かったのか、高かったのか」。結論を出すのは、しばらく先になるかもしれない。》


●自然の干潟・浅瀬をつぶして人工砂浜をつくる動き
  〜三番瀬の猫実川河口域〜

 葛西臨海公園のように、すでに埋め立てられたところで人工干潟をつくるのは意味があるでしょう。
 しかし問題は、東京湾奥部に奇跡的に残った貴重な干潟・浅瀬である三番瀬(さんばんぜ)の一部(猫実川河口域)を人工干潟(人工砂浜)にする動きが強まっていることです。
 その目的は、「葛西臨海公園の人工渚と同じものをつくりたい」です。これはとんでもないことです。
 猫実川河口域は、生物相が非常に豊かで浄化能力が非常に高い浅瀬です。これは県の調査でも明らかにされています。そんな浅瀬をつぶして人工物をつくるために何十億円という税金をつぎこむのです。しかも、人工干潟は維持費も莫大です。“壮大なムダづかい”というほかありません。


●環境省は、現存浅瀬の人工干潟化を否定

 現存する干潟・浅瀬を人工干潟にすることは、藤前干潟埋め立て計画に対する環境庁(現環境省)の見解でも否定されています。
    《現状で豊かな生物相を持ち、大潮時には多くのシギ・チドリ類等が集中するような良好な干潟を形成している干潟自体の嵩(かさ)上げを行えば底生動物の量、多様性は、減少することはあっても増加することはなく、かえって貴重な干潟生態系の機能を損なうことになる。》

    《仮に環境の質の低いところで実験を行うにしても、人工干潟が定常状態に達するまでに少なくとも5〜10年あるいはそれ以上の期間が必要であり、実験の評価にもこの程度の年月を要すると考えられる。また、一時的に底生動物が豊富になったように見えたり、一過的な底質の変化により特定の種が短期的に大量発生したりすることが過去の例においても見られるが、このような現象も一時的なものであり、いずれ底質環境が定まってくるに従い元の生態系以下の貧相な生態系となっていることにも留意する必要がある。仮に実験を何らかの形で実施する場合であっても、実験規模、期間、場所は、実験のコンセプトを良く検討した上で科学的に決定すべきであり、周辺浅場や干潟の生態学的評価もせずに貴重な干潟・浅場を大規模に使用して実験を行うことは、非常識の誹りを免れない。》(環境庁「藤前干潟における干潟改変に対する見解について〈中間とりまとめ概要〉」)


●形ばかりの環境復元は本質的に生態系破壊である

 こんな指摘もされています。
    《干潟そのものは造られても、そこの生物を元のように回復させることは不可能である。あくまでも今ある干潟をなくさず、そしてそこにいる生物への悪影響を与える要因をつくらないようにすることが最重視されるべき保全の方途であろう。》(和田恵次『干潟の自然史』京都大学学術出版会)

    《現在、さかんに行なわれている人工渚の造成は、砂の搬入によって渚の土着の生物を生き埋めにし、砂の浚渫によって砂地の生態系を破壊する行為にほかならない。
     砂が搬入される場所にも、砂が浚渫される場所にも、大きな爪痕が残る。自然の砂浜と造成された人工渚との本質的な違いは、渚に生息する生物の種多様性だ。渚に打ち上げられる貝の種数を比べれば、人工渚のその貧困さは歴然としている。
     形ばかりの環境復元は、本質的に生態系破壊であるが、そのことに気づいている人は残念ながら多くない。》(加藤真『日本の渚』岩波新書)


●日本は環境面でも逆回転が強まっている

 こういうことをまったく無視し、市川市や一部環境団体などは、三番瀬の人工砂浜化(=埋め立て)を盛んに主張しています。底生生物研究の権威者とされている風呂田利夫・東邦大教授も、その旗振り役を務めています。千葉県も人工砂浜化をめざしています。  まさに寄ってたかって「人工砂浜にすべき」の大合唱です。こういう状況を見ると、日本は環境面でも逆回転が強まっていることをひしひしと感じます。

(2007年6月)





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