〜 皆の力で「根本的見直し、白紙撤回、恒久保全」を! 〜
千葉の干潟を守る会 大 浜 清
今、三番瀬の運命が変わりつつある。時代の歯車が音を立てて廻る。
もう、「開発」という楽天的な破壊の論理は適用しない。だが、同じ「見直し」という言葉を使っても、20世紀の開発の論理にしがみついたまま、その崩壊をくいとめようとする人々がいる。いさぎよくこれをすてて、21世紀のために環境の保全と再生(ルネッサンス)の新しい出発点に立とうと呼びかける私たちがいる。
今こそ、国民がはっきりとした目覚めを示そう。声と力を出そう。
「開発」政策にしがみつく人たちよ、かつての臨海開発、すなわち埋め立ては、干潟のみなごろしだったではないか。10万人殺す兵器の使用を何万人規模の兵器に減らそうかと相談するのはやめなさい。武器をすてよう。21世紀を目の前にして、いま必要なのは「干潟の平和」「いのちのよろこび」を東京湾三番瀬に保証することなのです。
1998年(去年)を簡単にふり返ってみよう。
去年3月春の大集会、4月の三番瀬埋め立て計画白紙撤回を求める12万署名提出のあと、5月に知事は三番瀬埋め立て計画見直し、縮小の意向をはじめて示した。9月、三番瀬補足調査の現況編は、水質、海生動物、鳥類、青潮の4項目について、東京湾の環境を維持するために、三番瀬がいかにかけがえのない価値を持っているかを実証した。10月、千葉県の計画策定懇談会の発足に向けて、私たちは第2次署名提出を行った。署名は、累計14万5000に達した。「埋め立てはやめろ」のシュプレヒコールが11月の三番瀬の海辺にひびきわたった。
私たち署名ネットワークだけではなかった。三番瀬Do会議その他の人々も行動をおこした。
12月、藤前国際干潟シンポは画期的な転換点となった。全国から、いや、世界各地から結集した人々の前で、環境庁はついに、貴重な干潟はあくまでも守ることが前提だ、これは公式見解だ、と断定し、同時に、埋め立てと人工干潟の組み合わせは干潟とそれを支える浅瀬の二重の破壊をひきおこす、と明快に指摘した。環境庁が腹を決めたことで、運輸大臣も政府全体も動いた。愛知県、名古屋市も藤前干潟保全を決めた。
前年の諫早湾閉め切りが国民に与えた大きな苦痛が、藤前の土俵際逆転の力の源となった。そしてもう一つ、世界の仲間たち、とりわけ韓国の市民たちと日本の市民との干潟を守る連帯行動を私たちは強く実感したのである。
今年1月、補足調査の予測編は、三番瀬が単に鳥類だけを見ても、ラムサール湿地谷津干潟にまさるとも劣らぬ価値をもち、その破壊は三番瀬に住むシギ・チドリ類や9万のスズガモを壊滅させるだけでなく、谷津干潟の鳥類の生存をも危うくすると明言した。そのことだけでも、次に来るべきは、三番瀬を保全し、ラムサール条約登録湿地にしようという結論でなければならない。まして、三番瀬破壊が漁業基盤の崩壊をまねくことは明らかであり、ラムサール条約は、漁業基盤、ひいては人類の生存基盤を保全するために、湿地とその生態系の保全を求めているからである。
2月8日、午後1時から第2回計画策定懇談会が開かれ、「見直し」の方向が論議される。県は、3月6日にシンポジウムを開いて市民の参加を求めるという。そして、3月中に計画案提示にこぎつけたいとしている。しかし、ここに見える県の姿勢は、環境に配慮という言葉を付け加えることによって、最小限の(実は最大限の)埋め立てを確保したいという論法である。
戦中派少年だった私には、「××は日本の生命線」というスローガンをくり返しながらアジアを侵略し、同じ論理で日本を悲劇的敗戦に追いつめた「大日本帝国」陸海軍の姿が思い出される。
2月4日、日本自然保護協会(会長・沼田 真)は、千葉県知事、運輸省・建設省・環境庁各大臣あてに次のような意見書を出した。すなわち、補足調査の計画アセスとしての画期的な意義を認め、評価するとともに、県は策定懇の論議を待たずに埋め立ての必要性をとなえているが、その論拠は著しく薄いこと、県は埋め立てが環境に与える影響を率直に認め、計画を根本的に見直すべきこと、計画の必要性や代替地案の検討から始めること、ラムサール条約推進、保全のために市民・専門家の力を集めるべきこと、国もまた、港湾区域内の自然環境保全を事業目的の一つとし、流域下水道や湾岸道計画を根本的に見直し、三番瀬埋め立て計画を根本的に変更して干潟と浅海域の保全、ラムサール条約指定の実現に努力するよう要請した。
翌2月5日、さらに、日本自然保護協会、世界自然保護基金日本委員会、日本野鳥の会の3団体がいっしょに県をたずね、
- 三番瀬埋め立て計画は、単なる縮小ではなく、根本的な見直しと代替案の徹底的な調査研究を行うべきこと
- 三番瀬の国際的な重要性を認め、その保全策を策定し、ラムサール条約登録を推進すること
- 三番瀬・小櫃川河口干潟を含む干潟・浅海域の総合的保全策を検討すること
この三団体連合は、日本の自然保護運動の中でも大きな出来事であり、諫早・藤前・三番瀬と続く干潟を守る運動が、いま、歴史の重い歯車を廻し始めたことを実感させる。そしてそれを起動しているのは、内から外から背後から「干潟を守れ」の一心で力をくだいている草の根の民衆のエネルギーなのである。
流域下水道も、第二湾岸道も、港湾拡張も、みんなひっくるめて考え直そうではないか。その需要の減り方はどうか、と小出しの議論をしている時ではない。それがなくては生きて行けないのか、そんなものをつくることで環境も経済もがんじがらめになってしまうのではないか。いっそすっぱりやめることにしたら別の方法があるのではないか、そこから県も国も真剣に考えてもらいたい。
私たちの生活や町の姿も考え直そう。21世紀の展望はそこから生まれる。
三番瀬はもう傷つけるな。三番瀬を子孫の手に。
かつて傷めつけた東京湾の失われた干潟はもうもどっては来ない。残された東京湾の・身体を大切にし、生命のいとなみを守ってやろう。せめてできることは、残された傷口をふさいで直してやることである。東京湾の治療と回復である。
やがて干潟に春がやってくる。砂の上に水と光がゆらめく。海と地がまじわるところ−−それが干潟である。そして太陽が讃歌をかなでる、いのちの生まれる季節がくる。
干潟は美しい。水の上におだやかな潮騒がきこえる。砂の中に無数の生きものたちのつぷやきがきこえる。空では水辺では鳥たちが呼びかけ合う。干潟は、地球がまことに水の惑星であることを、その上に私たち人間が生きているのだということを実感させてくれる。
私たちが子どもたちにゆずり渡したいのは、そういう地球である。
(1999年2月)
カワウ
★関連ページ
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